中村伸一
(株)マネーデザイン代表取締役

学習院大学卒業後、外資系会計事務所、銀行、証券会社を経て、2014年FP会社である株式会社マネーデザインを立ち上げ、代表取締役に就任。
フランスの経済学者、トマ・ピケティが「21世紀の資本」で述べている通り、金融リテラシーの向上が日本の経済発展につながるという信念のもと、お金に関する情報発信や講演活動を行う。特に50歳以上の層に対し、その人の持つ「人的資源」とファイナンシャル・プランニングを合わせた「リ・ライフデザイン」を提唱し、個人の住宅購入、生命保険、資産運用アドバイス、相続・事業承継、中小企業の財務相談、企業研修などを行っている。保有資格:ファイナンシャルプランナー(AFP)、宅地建物取引士、高齢者住まいアドバイザー、証券外務員1種、生命保険シニアライフコンサルタント、変額保険販売資格、海外ロングステイアドバイザー、日商簿記検定2級

50歳を超えてくると定年退職後のセカンドライフが頭をよぎります。セカンドライフにおけるお金のマネジメントは、いわゆる終(つい)の戦略です。中でも特有な資産運用の代表的なものが、

* リバースモーゲージ
* 終身年金保険(アニュイティ)

の2つです。今回は、リバースモーゲージに焦点を当てて深堀していきましょう。

リバースモーゲージとは

リバースモーゲージは、通常の住宅ローンの逆で、自分の住んでいる一戸建て、マンションなど不動産を担保に融資を受けます。

通常は、それぞれの金融機関が、所有している不動産の担保評価額を計算し、その枠内の金額を貸し付けるという方法を取ります。

従って、1回100万円、2回目200万円という形で融資をうけることもできます。

満期に借りた金額を一括返済することになりますが、リバースモーゲージは、不動産を金融機関に渡すことになります。具体的には、元金は死亡時に相続人から一括返済するか、担保物件を売却することで金融機関に返済します。

利払いは、定期的に返済、もしくは最後に一括返済することもできます。リバースモーゲージを借りた場合、本人は最後まで自分の住み慣れた自宅で過ごすことができます。

リバースモーゲージは、3大メガバンク、りそな銀行、各地銀、そしてリバースモーゲージのパイオニアとも言える東京スター銀行などが取り扱っています。

さらに、住宅金融支援機構も「リ・バース60」のブランド名で取扱いしており、年々充実しています。

「リ・バース60」の様々な活用方法

では、「リ・バース60」を例にとり、どのようなケースでリバースモーゲージが有効なのか、見ていきましょう。「リ・バース60」はフラット35と同じく、機構が直接貸出すものではなく、自社でリバースモーゲージの取り扱う商品がない、モーゲージバンクなどが取り扱います。

満60歳以降(場合によっては50歳以上の方も使用可能「リ・バース50」)の方が対象で、商品内容は銀行のリバースモーゲージとほぼ同じです。この商品の資金使途として、以下のケースが想定されています。

1.住宅建設、建替え、マンション、戸建て住宅購入(住替え)リフォーム、住宅ローンの借換、セカンドハウスの建設、購入に使えます。融資が可能なのは、担保評価額50~60%、長期優良住宅で55~65%です。融資の上限は5000万円で、取得住宅を担保とします。高金利時代に借り入れた住宅ローンの返済が厳しい、頭金はある程度用意でき、地方へ移住して自宅を購入するなどの例が考えられます。
2.住宅の増築や改築、模様替えがリフォーム資金として、3年以内の定期借家契約で第三者に賃貸する場合も使えます。上限額は1,500万円です。もう使わなくなった自宅を改装して、テレワーク用の賃貸物件に改装する、自分以外の高齢者のシェアハウスに改装する、といったアイデアにも使えます。
3.サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の入居一時金も融資がおります。月払いの家賃、使用料、日常生活費、サービス費用はその対象とはなりません。住替える前の住宅の利用方法は、①空き家とする②3年以内の定期借家契約として第三者に賃貸する③親族に使用貸借するに適用されます。融資の上限額は1,500万円です。
4.高齢者世帯が、新たなライフスタイルの一つとしてサ高住に住み替える場合も、融資が使えます。住宅ローンの借換資金も対象となります。ただし、一部借換は対象外です。既存の住宅ローンの対象が建設資金または購入資金の場合は5,000万円、リフォーム資金の場合は1,500万円までが上限です。相続しないと決断した自宅を高い住宅ローン金利で借りていた場合、これを一括返済し、現在の「リ・バース60」に借換えることもできます。
5.子世帯等が居住する住宅の取得資金を借り入れるための資金として融資ができます。子世帯等とは直系卑属(子、孫、ひ孫等)で、融資上限額は5,000万円となります。子供、孫世帯が別の自宅を購入する場合、親世代の自宅を担保に「リ・バース60」で借入を行い、別の家を購入するといった資産移転ができます。また、自宅を担保に手元に現金化することができるので、相続発生時に速やかに分割することができます。さらに住宅資金贈与制度を使うことで、相続税対策にもなります。

リバースモーゲージのデメリット

リバースモーゲージには以下のようなデメリットもあります。

① 不動産価格の下落により、融資額が想定していたものより低くなる可能性がある
② ローンは変動金利が大部分で、金利が住宅ローンより高い。ただし、支払が金利部分だけにすると、毎月の返済額が大幅に減る
③ 長生きすればするほど金利支払いが上昇し、実質使える金額が減る
④ リバースモーゲージとして使える地域が限られている。特にマンションを取り扱える地域は絞られる

我が国においては、金融老年学(ファイナンシャル・ジェントロジー)という概念がまだ定着していません。少子高齢化がますます進むと予想される中、2000万円問題で世間をにぎわせた政府の金融審議会で、退職世代の保有する資産の2/3が不動産であると指摘されました。

特に単身高齢者が増える日本では、リバースモーゲージを有効に使うことで、充実したセカンドライフを送ることができます。

リバースモーゲージをもっと身近にすることができれば、セカンドライフをより充実したものにできるはずです。政府と金融機関が一体となって、商品内容の充実を図ることで、高齢者のお金に関する不安を少しでも和らげる手法となることを期待しています。