丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

富裕層の資産運用に特化したプライベートバンクが日本にも広がりを見せています。海外と日本のプライベートバンクには、どのような違いがあるのでしょうか。そこで今回は、プライベートバンクのメリット・デメリットとともにプライベートバンクを持つ方法について紹介します。

1.プライベートバンクとは何か

プライベートバンクとは、富裕層に対して資産管理や資産運用、保全、資産の承継などを包括的に支援してくれる金融サービスのことです。プライベートバンク発祥の地はスイスといわれており、代表的な金融機関としては、「UBSグループ」「クレディ・スイス」などが知られています。顧客は、数億円以上の資産を持つ経営者などが多く、資産運用のほかにも事業承継や相続対策などの相談内容はさまざまです。

どちらかというとコンサルティング的な役割を果たすこともプライベートバンクの特徴といえるでしょう。富裕層に特化したサービスのため、海外・国内ともに審査は厳しい傾向です。

1-1.銀行とプライベートバンクの違い

プライベートバンクは、銀行という言葉が付いていますが、普通の銀行とどのような違いがあるのでしょうか。銀行は、資産額に関係なく口座を持つことが可能です。しかしプライベートバンクは上述したように富裕層を相手にする金融サービスのため、最低預入資産の金額が金融機関ごとに決まっています。そのため誰でも利用できるサービスではないことが最も大きな違いです。

また銀行の営業員は、多くの顧客を担当しますがプライベートバンクは1人の顧客に十分なカウンセリングを行うため「担当する顧客の数が少ない」という特徴があります。そのため手数料の水準もかなり高めに設定されています。さらにサービス内容が異なる点も特徴の一つです。マスリテール(大衆への小売り)を目的とした金融機関では、市場に流通している株や債券、投資信託などを売買します。

しかしプライベートバンクは、私募仕組債や優先出資証券など発行数が限定されている商品に加え、顧客ごとにカスタマイズ(好みのものに作り変えること)した資産運用を行う点が違いです。加えて一般的な銀行員は、定期的な異動が多く担当者が変わる可能性が高いですが、プライベートバンクは顧客の人生設計に関するサービス提供のため、希望すれば同じ担当者と長期的な付き合いになる傾向があります。

プライベートバンク 銀行
預入資産額 ・金融機関ごとに最低預入資産額が決められている ・特になし
担当者 ・1人が限られた顧客を担当・希望すれば長期間同じ担当者に ・1人が多くの顧客を担当・異動で変更になる可能性が高い
内容 ・私募仕組債や優先出資証券など ・株、債券、投資信託など

2.海外プライベートバンクの現状

海外プライベートバンクは、歴史のある欧州が中心です。なかでもスイスやリヒテンシュタイン、ルクセンブルグなどが高い評価を受けています。世界の個人資産の3分の1が金融大国のスイスに集中している現実を考えると、プライベートバンクでもスイスがトップランナーになるのはうなずけるのではないでしょうか。預入資産は、米国、欧州、新興国と地域によってかなり開きがあるため、「どの国でプライベートバンクを持つか」によって用意するお金が異なってきます。

運用方針は、日本のプライベートバンクが「守り」を重視するのに対し、海外のプライベートバンクは運用ノウハウに優れているため、「増やすこと」を重視する傾向です。そのあたりが富裕層の人気を集める理由と考えられます。

3.国内プライベートバンクの現状

国内で初めてプライベートバンクの業務を行ったのは、1986年にシティバンクが事業を立ち上げたときです。しかしシティバンクは、2004年にマネーロンダリング(資金洗浄)などの不祥事が相次ぎ、金融庁から行政処分を受け日本から撤退します。その顧客をスイスのUBSが拾う形で日本に定着し、2009年にはクレディ・スイスが一度撤退したあとの再参入を果たしました。

日本でもスイス系のプライベートバンクが存在感を示しています。日本の銀行では、2005年に日本で初めての本格的プライベートバンク会社となる「株式会社みずほプライベートウェルスマネジメント」が設立されました。2020年現在、国内でプライベートバンキング事業を行っている主な金融機関は、以下の通りです。

・ みずほ銀行
・ 野村證券
・ 大和証券
・ 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
・ 三井住友銀行
・ 三菱UFJ銀行など

国内プライベートバンクの必要預入資産は、海外と同様に最低でも1億円以上ともいわれており、なかには5億~10億円以上などの金融機関もあるため、差があるのが現状です。

4.海外プライベートバンクのメリット・デメリット

日本の富裕層は、なぜ海外プライベートバンクを利用するのでしょうか。スイス系など歴史と実績が多いプライベートバンクが多く、地政学的なリスク分散を図る富裕層もいるようです。海外プライベートバンクのメリット・デメリットを確認しておきましょう。

4-1.海外プライベートバンクのメリット

日本プライベートバンク協会の見解によると、海外プライベートバンクには以下の4つのメリットがあります。

・ 日本が持つリスクから逃れて地政学的な分散を図れる。日本で管理監督されている金融機関とは別の国で管理監督されている金融機関を利用できる
・ 歴史ある海外プライベートバンクは、国内プライベートバンクよりも高い水準のサービスを提供している
・ 国内の金融機関が国内当局の情報開示要求で無条件に情報が提供されるのに対し海外ではいくつかの手続きを経なければならないため、守秘性に優れている
・ 世界の富裕層が受けているサービスと同水準のサービスを受けることができる

4-2.海外プライベートバンクのデメリット

一方で海外プライベートバンクには、言葉の壁があることがデメリットです。現地の言語に加え他国語は英語がある程度のため、日本語は副次的に利用されるにとどまっています。法的拘束力があるのは、現地の公用語である点に注意が必要です。そのため言語に不安がある場合は、日本語が話せる担当者がいるプライベートバンクを探すのもよいでしょう。

例えば「UBS」「クレディ・スイス」「バンク・オブ・シンガポール」は、日本人向けのデスクを用意しています。また海外のプライベートバンクはスイス、米国以外のプライベートバンクに関する情報が少ないこともデメリットです。国内プライベートバンクのように手軽に問い合わせることが難しいため、海外に口座を持っている知人がいれば相談してみるとよいでしょう。

国内プライベートバンクのメリット・デメリット

国内プライベートバンクで口座開設を検討している場合は、国内プライベートバンクならではのメリット・デメリットを事前にチェックすることが必要です。海外プライベートバンクのサービス内容や運用方針と比較し自分に適していると判断できれば国内プライベートバンクに口座を持つのもよいでしょう。

5-1.国内プライベートバンクのメリット

富裕層向けのサービスが充実していることは大きなメリットです。資産状況の整理やポートフォリオの作成だけでなく相続対策、事業承継、M&Aから不動産売買まで多岐にわたる資産運用サービスを行っています。また日本の複雑な法務や税務に対応できることも強みです。税制に関する相談に応じられるのは、日本人の税理士に限られるため、海外のプライベートバンカーに相談することはできません。

そのため相続対策など法的な対応が必要な場合は、国内プライベートバンクに依頼したほうが無難です。

5-2.国内プライベートバンクのデメリット

海外のプライベートバンクに比べて利便性が低い点はデメリットです。日本では、銀行が証券会社の機能を持っておらず株式などを取引する場合は、系列の証券会社を通す必要があります。証券取引がワンストップ・サービスではない点で見劣りすることは否めません。日本国内では、ファイアーウォール規制によって銀行・証券・信託の顧客情報を共有できないため、外資系のプライベートバンクが行う場合も同規制を受けます。

6.プライベートバンクの手数料体系

プライベートバンクの手数料の種類は、主に以下の4つです。それぞれにメリット・デメリットがあるため、口座開設を検討している金融機関がどの手数料を採用しているのかを面談時に確認する必要があります。

預かり資産基準手数料
預かり資産(口座残高)に応じて年間一定の料率で手数料が差し引かれるタイプです。メリットは、年間いくら売買しても手数料がほとんど変わらないこと。証券保管料や売買手数料、アドバイザリー費用などが手数料込みとなるため、コスト計算がシンプルで分かりやすいでしょう。半面、資産が多ければその分、手数料も増えます。例えば手数料1%程度でも預かり資産が10億円あると1,000万円負担することになります。

ただし預かり資産が増えると料率が低くなる仕組みを採用しているプライベートバンクもあるため、契約時に確認することが大事です。

固定報酬型
預かり資産額にかかわらず一定の報酬を支払うタイプです。何かあっても固定報酬のなかで賄ってもらえる点はメリットです。半面、事業者は報酬が顧客の資産の増減に影響されないため、運用結果を気にしなくなるデメリットがあります。

売買手数料型
金融商品の一定の売買で手数料を支払うオーソドックスな手数料体系です。通常の証券会社のように売買の都度手数料が発生するため、「資産保全よりもいかに多く売買させるか」という運用方針になるリスクがあります。

成功報酬型
利益が出た場合にインセンティブを支払うタイプです。利益が出なかった場合に支払う必要がないことから合理的な手数料体系ともいえるでしょう。

6-1.国内プライベートバンクの利回り・手数料

国内プライベートバンクの目標利回りは、銀行や証券会社ともに5~10%程度といわれています。証券会社は、選択できる運用商品が豊富にあるのが特徴です。一方銀行は、証券会社よりも運用商品の数は少ないものの相続や事業承継、融資など運用以外のサービスが充実しています。そのため一概に利回りだけですべてを判断できないため、自分の運用目的に合わせ総合的に判断することが必要です。

手数料は「預かり資産基準手数料」ではAMGグループの例で最大1%ですが国内プライベートバンクの手数料は現在も「売買手数料型」が主流といわれています。ただ売買手数料型は、インセンティブを狙うあまり顧客の適合性を考えずに販売する弊害があり一任勘定と売買手数料型の組み合わせは特に顧客にとってリスクが高くなる傾向です。

6-2.海外プライベートバンクの利回り・手数料

海外プライベートバンクの利回りは、スイス系の銀行で2~10%程度といわれています。国内プライベート銀行よりもやや低い水準です。積極運用の金融機関が多いシンガポールでは、スイス系よりも高い利回りをあげているプライベートバンクがあります。手数料は、プライベートバンクに運用をすべて任せる「一任勘定口座」で1%が目安。

プライベートバンクからの助言に基づいて顧客が売買を判断する「助言口座」も同じく1%程度です。また第三者の運用助言会社からの助言に基づいて顧客が売買を判断する「執行口座」で0.2~0.5%が目安となります。そのため残高に対してかかる合計手数料率は、最大で1%程度と考えればよいでしょう(日本プライベートバンク協会の見解)。

7.プライベートバンクを持つには

では、プライベートバンクを持つにはどうしたらよいのでしょうか。プライベートバンクは、一般的な銀行口座と異なり誰でも開設できるわけではありません。公に条件や内容を告知しているところは少ないため、プライベートバンクの担当者と直接コンタクトをとる必要があります。海外のプライベートバンキングの場合、コンタクトをとるにはすでに口座を開設している知人や関係者を介するのが一般的です。

プライベートバンカーが来日した際に行うセミナーに参加して知り合うことで口座開設するケースもあります。口座開設には、事前審査があり審査にあたっては資産状況だけでなく、資産が形成された過程も問われることも少なくありません。なぜなら海外では、マネーロンダリングの問題を特に気にするからです。審査と並行して面談も行われ、銀行の経営哲学を聞いたり基本的な運用方針が確認されたりします。

多くの書類に個人情報などを記入かつ宣誓書にサインして書類の作成作業が終わると口座番号が与えられる仕組みです。また「自分の口座に資金を振り込む」というのが一般的な手順になっています。国内のプライベートバンクでは、「UBS SuMi TRUST ウェルス・アドバイザリー」のようにWebサイトで以下のように詳細を公開している会社もあります。

【対象になる顧客】(三井住友信託銀行ウェルス・マネジメント部よりサービスの提供)
・ 金融資産1億円以上の預入
・ 投資用不動産・ローンなどの相談をする顧客

【対象になる顧客】(UBSウェルス・マネジメントよりサービスの提供)
・ 金融資産2億円以上の預入

同社の「ウェルスマネジメントサービス」では、以下のような順番でサービスを進めることが特徴です。

1.理解&課題分析
2.検討&提案
3.合意&実行
4.検証&フォロー

それぞれの段階で専門家集団が顧客ごとに最善の資産運用を行います。

8.プライベートバンクQ&A

最後にプライベートバンクに関する基本的な疑問を確認しておきましょう。

Q.「プライベートバンク」と「プライベートバンキング」にはどのような違いがあるのでしょうか。

A.本来の「プライベートバンク」は、経営に無限責任を負うプライベートバンカーが経営する銀行のことをいいますが、現在では銀行の1部門をプライベートバンクと呼ぶのが一般的です。一方「プライベートバンキング」は、金融機関が富裕層を対象に提供する資産管理のための総合金融サービスのことをいいます。

スイスでは「プライベートバンク」を専業で行っている会社も多く日本におけるプライベートバンクの認識とは異なる傾向です。

Q.海外のプライベートバンクは国によって運用方法は違うのですか?

A.伝統のあるスイスのプライベートバンクは、顧客の資産を守ることに重視しています。リスクの高いレバレッジ投資を避け長期で安全な資産運用を心掛けている会社が多い傾向です。反対にシンガポールのプライベートバンクは、レバレッジ投資も積極的に行うといわれています。また国ごとに金融ルールも異なる点も押さえておきましょう。

同じスイスのプライベートバンクでもアジアにある拠点では、運用方針が多少異なる可能性があります。このように海外のプライベートバンクを利用したい場合は、各国の特徴や金融ルールを知ったうえで口座を持つことが大事です。

Q.プライベートバンクは資産運用以外にどのようなサービスを行っているのですか?

A.個人向けでは「子女教育支援」を行っており、海外留学のあっせんや国内有名校への入学サポート、優秀な家庭教師の紹介など子どもや孫のための教育支援が充実しています。富裕層経営者向けでは「高級人間ドック」を利用し定期的に健康状態をチェックすることが可能です。法人向けでは「ビジネスマッチング」を行っておりビジネスマッチングを介して業務提携に至る可能性もあります。

ほかにも「事業承継コンサルティング」「不動産コンサルティング」を行っている会社もあるなどサービスの領域は多岐にわたる傾向です。

富裕層の資産運用に特化したプライベートバンクは、普通の金融機関にはない高度なサービスを受けられることで今後も富裕層の注目を集めそうです。

※本記事はプライベートバンクの一例を紹介しており、コストや運用成績は金融機関によって異なります。