阿部栄一郎
弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所 弁護士|賃料未払いや明渡し、敷金返還など賃貸借契約の問題から騒音、悪臭の問題まで、幅広く相談や問題解決にあたっています。また、マンション管理組合からの管理費滞納やペットの問題なども対応しております。 相談や問題解決では「なぜそのようになるのか」「なぜそのように解決した方がいいのか」を丁寧に説明をするよう心がけております。

2020年12月15日に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(以下「サブリース新法」)のうちサブリース業者と不動産オーナーとの間の賃貸借契約の適正化に関する部分が施行されたのはご存じでしょうか。本コラムでは、サブリース新法のうちすでに施行された部分の概要を解説します。

サブリース新法の概要

サブリースの仕組み

賃貸借契約では「不動産オーナー(賃貸人)が賃借人との間で賃貸借契約を締結し定期的に賃借人が賃貸人に対して賃料を支払う」「賃貸人は賃借人に対して修繕義務等を負う」ということが一般的です。通常の賃貸借契約では、賃貸人もしくは管理会社などを入れて、賃貸借契約から発生する諸々の事項を管理して賃貸経営をしていきます。

しかし賃貸経営に割ける時間的余裕がなかったり、知識や経験がなかったりする場合もあるでしょう。そのような場合の選択肢の一つがサブリースです。典型的なサブリース事業は、不動産オーナーが所有しているマンション一棟について不動産オーナーとサブリース事業者が一括で賃貸借契約を行います。(マスターリース契約)

「サブリース業者が賃借人との間で賃貸借契約を締結する」という形態です。またサブリース業者は、マスターリース契約において30年や35年といった長期間にわたって賃料を保証するかのような広告や説明などをすることがあります。不動産オーナーからすれば長期間、安定して賃料が入ってくる点に魅力を感じてマスターリース契約を締結するわけです。

サブリース新法立法の背景

サブリース事業では、以下のようなさまざまなトラブルが生じていました。

* 「30年や35年といった長期間にわたって賃料が保証される」と思っていたにもかかわらず突然サブリース業者から賃貸借契約の解除や賃料の減額を請求された

* 不動産オーナーが知識や経験を得たうえで賃貸経営をしたり収益の改善のために自主管理したりしようと思い、サブリース業者に対して賃貸借契約を解除することを望んでもサブリース業者が賃貸借契約の解除に応じなかった

サブリース業者が解除に応じたとしても違約金の支払いを請求されて損害が発生する可能性もあります。上記のようなトラブルの原因の一つとして挙げられているのが、サブリース業者の説明不足や強引な勧誘にあるといわれていました。こういった背景があったことから、サブリース業者の説明が適切なものとなるようにサブリース新法が成立したのです。主な変更点は以下のような内容になります。

* 誇大広告を禁じる
* 説明義務を課す
* 強引な勧誘をなくすために不当な勧誘行為を禁止する

サブリース新法における規制

サブリース新法ですでに施行されているマスターリース契約の適正化に関する部分は、マスターリース契約に際してのサブリース業者および勧誘者に対する規制に重点を置いています。サブリース業者に対する主な規制は、以下の3つです。

■ 誇大広告等の禁止(サブリース新法第28条)
■ 不当な勧誘行為等の禁止(サブリース新法第29条)
■ 重要事項説明(サブリース新法30条及び31条)

サブリース新法によってサブリース業者が負う義務

誇大広告等の禁止

サブリース新法第28条においてマスターリース契約に関する誇大広告等が禁止されました。まず誇大広告等をしてはならない主体は、サブリース業者はもちろん勧誘者も加えられています。勧誘者は、「サブリース業者がマスターリース契約の締結について勧誘を行わせる者」です。特定のサブリース業者におけるマスターリース契約の締結に向けた勧誘を行う者のことをいいます。

2020年10月16日に国土交通省が発表した「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」では、具体例として以下の者が挙げられています。

* 特定のサブリース業者からマスターリース契約の勧誘を行うことについて委託を受けている者
* 親会社、子会社、関連会社のサブリース業者のマスターリース契約について勧誘を行う者
* 特定のサブリース業者が顧客を勧誘する目的で作成した資料を用いてマスターリース契約の内容や条件等を説明し、当該契約の勧誘を行っている者
* 特定のサブリース業者から、勧誘の謝礼として紹介料等の利益を得ている者
* 特定のサブリース業者が、自社のマスターリース契約の勧誘の際に渡すことができるよう、自社名の入った名刺の利用を認めている者

出典:国土交通省「サブリース事業に係る適正な業務のための ガイドライン」

つまり実際にサブリース事業を行っている業者だけでなくその周辺にいる業者や関連の者も勧誘者として網をかけて不動産オーナーを保護しようというわけです。具体例としては、建設会社や不動産業者、金融機関などの関係者が勧誘者に当たると考えられます。では、具体的に誇大広告として禁止される広告にはどのようなものがあるのでしょうか。

2020年10月16日に国土交通省が発表した「『サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン』のポイント」では、誇大広告に当たる具体例として以下の事項が挙げられています。

「家賃保証」「空室保証」などの文言に隣接する箇所に、定期的な家賃の見直しがある場合にその旨及び借地借家法32条の規定により減額されることが表示されていない

出典:国土交通省「『サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン』のポイント」

もちろんこの具体例のみが誇大広告として禁止されるわけではありません。しかしマスターリース契約において最も重要かつ契約当事者も関心を抱いているのは賃料です。そのため賃料に関する将来的な変動について誤解を招いたり実際よりもメリットがあるかのような広告をしていたりする場合は、誇大広告といえるでしょう。

不当な勧誘等の禁止

サブリース新法第29条においてマスターリース契約に関する不当な勧誘等が禁止されています。まず不当な勧誘行為等をしてはならない主体は、誇大広告等の禁止と同様、サブリース業者および勧誘者です。では、不当な勧誘等の禁止として禁止される行為にはどのようなものがあるのでしょうか。同ガイドラインのポイントによると誇大広告に当たる具体例として以下の事項が挙げられています。

家賃減額リスクや、契約期間中のサブリース業者からの契約解除の可能性、借地借家法28条の規定によりオーナーからの解約には正当事由が必要であることについて伝えず、サブリース事業のメリットのみを伝える

出典:国土交通省「『サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン』のポイント」

サブリース業者もサブリースを事業として行っているため、当然利益を得る必要があります。不動産オーナーのために損害を出してでもマスターリース契約を継続する義務があるわけではありません。自社の利益を追求すること自体は問題ありません。しかし不動産オーナーにとって不利益となる情報を伝えずにマスターリース契約を締結することを禁じているわけです。

もちろんこちらは一例のため不当な勧誘行為等は、この類型以外にもあります。

重要事項の説明等

サブリース新法第30条においてマスターリース契約締結前の重要事項の説明および同説明書面の交付が定められており、サブリース新法第31条では、マスターリース契約の締結時における書面交付の義務が定められています。まずサブリース新法第30条に定められている重要事項の説明等から確認していきましょう。

重要事項の説明等の主体は、「サブリース業者が従業員等に説明等をさせる」という建前となっており具体的に重要事項等を行う者の資格は定められていません。しかし「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」では、以下の者によって行われることが望ましいとされています。

* 一定の実務経験を有する者
* 賃貸不動産経営管理士など

重要事項の説明のタイミングは、不動産オーナーとなろうとする者が契約内容とリスク事項を十分に理解し契約意思が安定した状態で契約を締結できるようマスターリース契約の内容を十分に理解するための熟慮期間を与えてからがよいでしょう。そのためマスターリース契約締結の1週間程度前には、重要事項の説明等を行うことが望ましいです。

重要事項の説明等の内容ですが、次の1~14の事項を書面に記載して説明をしなければなりません。なお「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」には、別添として「重要事項説明書記載例」が挙げられています。

1. マスターリース契約を締結するサブリース業者の商号、名称又は氏名及び住所
2. マスターリース契約の対象となる賃貸住宅
3. 契約期間に関する事項
4. マスターリース契約の相手方に支払う家賃の額、支払期日、支払方法等の条件並びにその変更に関する事項
5. サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全の実施方法
6. サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全に要する費用の分担に関する事項
7. マスターリース契約の相手方に対する維持保全の実施状況の報告に関する事項
8. 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
9. 責任及び免責に関する事項
10. 転借人の資格その他の転貸の条件に関する事項
11. 転借人に対する5の内容の周知に関する事項
12. マスターリース契約の更新及び解除に関する事項
13. マスターリース契約が終了した場合におけるサブリース業者の権利義務の承継に関する事項
14. 借地借家法その他マスターリース契約に係る法令に関する事項の概要

出典:国土交通省「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」

今まで誇大広告等の禁止や不当な勧誘行為等の禁止でも見てきた内容についても重要事項の説明の対象です。次にサブリース新法第31条に定められているマスターリース契約の締結時における書面交付の義務について説明します。なお同条で「遅滞なく」との文言が使用されていることから同条の書面交付の義務は、契約締結後、事情の許す限り早めに書面を交付することが必要です。

契約締結時における書面交付の義務の対象は、サブリース新法第31条に列挙されており以下のようになっています。なお特定賃貸借とはマスターリース契約、特定転貸事業者はサブリース業者のことです。

1. 特定賃貸借の対象となる賃貸住宅
2. 特定賃貸借契約の相手方に支払う家賃その他賃貸の条件に関する事項
3. 特定転貸事業者が行う賃貸住宅の維持保全の実施方法
4. 契約期間に関する事項
5. 転借人の資格その他の転貸の条件に関する事項
6. 契約の更新又は解除に関する定めがあるときは、その内容
7. その他国土交通省令で定める事項

出典:e-Gov

重要事項の説明の対象と重複する事項もありますが重要事項のため、重複したとしても不動産オーナーの理解に資するのであれば良いと考えたものといえるでしょう。また上記1~7の事項については、契約書にその内容が盛り込まれていれば同契約書の交付によってサブリース新法第31条の義務を果たしたとものとされています。

なお上記1~7は、国土交通省が別途定めている特定賃貸借標準契約書にも網羅されている事項です。

サブリースで投資する際の注意点は?

そもそもサブリースで投資すべきか検討する(視点1)

上述してきた通り過去には、サブリース契約でさまざまなトラブルが発生しています。サブリース新法が成立した背景としては、サブリース業者の説明不足や強引な勧誘を是正することが大きい傾向です。しかし根本的な面としてサブリース事業は「不動産オーナーとサブリース業者が利益を分け合う事業」ということがいえます。

例えばサブリース事業の対象となっている物件が生み出す利益が毎月100万円ある場合、サブリース業者がそのうち50万円を受け取り不動産オーナーが残りの50万円を受け取るという事業です。サブリース業者も経費がかかりますし不動産オーナーにも経費その他の費用がかかります。それぞれに損益分岐点は異なるのが一般的です。

上記の例では、利益をサブリース業者と不動産オーナーが折半する形としました。しかしサブリース業者が設定している損益分岐点を基準とした場合、利益の取得の割合が80%:20%となることもあるかもしれません。この場合、不動産オーナーはサブリース業者の利益のために損害を被っている可能性も十分にあり得るわけです。

このようにサブリース事業を行うことは、サブリース業者との間で利益の奪い合いをしなければならない可能性があることを十分に認識しておいたほうが良いでしょう。

そもそもサブリースで投資すべきか検討する(視点2)

賃貸経営をするにあたってマスターリース契約ありきの投資は極めて危険です。サブリース事業は、賃貸経営に割く時間的余裕や知識・経験がない不動産オーナーに向いています。しかし言い換えればもしサブリース業者がいなくなった場合は、賃貸経営が立ち行かなくなる可能性がある状態です。サブリースで投資をする際には、サブリース業者がサブリース事業から撤退したとしても賃貸経営が立ち行くように準備をしておいたほうが良いでしょう。

マスターリース契約の契約内容をきちんと確認する

今回のコラムでは「誇大広告等の禁止」「不当な勧誘行為等の禁止」「重要事項の説明等」について解説しました。これらは、過去のトラブルをもとにして「どのような行為類型を禁止すれば良いか」「どのような事項を説明させるべきか」ということが検討されたうえで法律となったものです。その中でも以下の事項等については、しっかりと目を配らせておいたほうが良いでしょう。

* 家賃に関する事項(将来の変動の有無)
* 契約の解除に関する事項
* 契約期間に関する事項
* 損害賠償の予定や違約金に関する事項
* 維持保全に関する事項

家賃、損害賠償の予定や違約金に関する事項は、金銭に関する事項のため、言わずもがなです。契約の解除や契約期間に関する事項については、「どのような場合にサブリース業者がサブリース事業から撤退する可能性があるのか」ということは十分に認識しておきましょう。最後は、マスターリース契約における対象物件の維持管理の部分です。

サブリース事業において物件や価値を維持することは非常に重要な事項となります。劣悪な環境にある物件と清潔で適切に管理された物件とでは、当然後者のほうが競争力は高くなるでしょう。さらに物件の維持管理には費用がかかります。不動産オーナーが物件の維持管理のための費用の負担を考慮に入れずにサブリース事業を行った場合に予期せぬ赤字となる可能性もあります。

まとめ

今回のコラムでは、サブリース新法の概要やサブリース投資の際の注意点を解説しました。サブリース新法では、サブリース業者等に対し以下のような規制が設けられているため、しっかりと押さえておいたほうがよいでしょう。

1.誇大広告等の禁止(サブリース新法第28条)
2.不当な勧誘行為等の禁止(サブリース新法第29条)
3.重要事項説明(サブリース新法第30条および第31条)

またサブリース投資を行う際には「そもそもサブリースとして投資すべきなのか」といった点を十分に検討しましょう。サブリースとして投資すべき物件と判断した場合には、サブリース新法における規制内容などを熟知し契約内容を把握したうえで契約を締結に進みましょう。