吉田謙太郎
宅建士・不動産投資家・ライター|筑波大学卒業後、大手不動産会社にて投資用不動産の売買および賃貸営業・投資家へのコンサルティング・自社メディアでの記事執筆などを行う。自身でも社会人1年目(22歳)から不動産投資をしており、横浜市・大阪市・神戸市に区分マンションを4戸運用中(2021年11月現在)。保有資格は宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者。(I列)

株式や不動産、外貨をはじめ値動きがある資産には、保有中に価格が下落したり時には暴落したりする可能性があります。投資活動においては価格上昇による利益が期待できる一方で、価格下落による損失のリスクが常にあることを忘れてはいけません。投資家として保有資産の価格暴落に対してどのようなマインドを持っておけばよいのでしょうか。

本記事では、実際に保有資産の価格が暴落したとき具体的にどのように対処するのが得策なのかについて解説します。

投資に下落・暴落はつきもの

長期間にわたって投資をしていると大きな価格の下落相場や歴史的な暴落ともいわれるような相場に見舞われることも少なくありません。例えば2009年の「リーマンショック」や2020年の「コロナショック」といった歴史的な暴落相場が実際に訪れています。リーマンショック時には、NYダウが54.4%、日経平均株価が61.8%、個別銘柄では米国有数の金融系企業であるシティグループの株価が98%以上もの暴落に見舞われました。(いずれも暴落前高値と暴落後安値ベース)。

相場には、上昇相場と下落相場が入れ替わり波を打つように訪れ不定期に暴落相場があるのが一般的です。そのため投資家にとっては、下落・暴落相場に直面した際の適切な立ち振る舞いが求められるでしょう。歴史的にみても下落・暴落相場は、数年に1度程度は訪れる可能性が十分にあります。そのため下落・暴落相場を避けるより自分の保有資産の価格が下落・暴落した場合の立ち振る舞いが重要です。

具体的には、各資産についてシミュレーションしておくことが賢明といえるでしょう。

資産価格の暴落時に持つべき2つのマインド

資産価格が暴落した場合のシミュレーションをしていた場合でも実際に暴落相場に見舞われ自分の資産が目減りしていくことは心理的な面で非常につらいでしょう。実際の相場では、頭で数字をシミュレーションするだけでなく心の準備もしておくことが非常に重要です。投資において人間は、心理的な影響を受けやすい側面があることを理解しておきましょう。

具体的に資産の暴落時に持つべきマインドは以下の2つです。

* 資産を安く買い増せるチャンス
* 焦って最安値で狼狽売りするのが最も危険

資産を安く買い増せるチャンス

資産価格が暴落しているということは、当該資産を安く買い増せる良いチャンスとなる場合もあります。一度暴落したとしてもその後価格の回復が期待できる場合、暴落したタイミングでの追加購入は非常に合理的な投資タイミングです。安値で買い増すことで「通常時より多くの資産を買い増せる」「価格回復時の売却益の最大化を狙える」というメリットがあります。

一般的に暴落相場においては、多くの投資家がリスクを回避するために保有資産の売却を急ぐ傾向です。そのため暴落相場にこそ投資対象をよく分析したうえで適切なリスクを背負って買い増すマインドを持つことが重要といえるでしょう。米国有数の証券会社「ゴールドマンサックスグループ」の株価は、リーマンショックの発生時に同社の2000年以降の最安値を記録するまでの暴落となりました。

暴落後、同社の株価は回復を続け2018年には2000年以降の最高値を更新する水準まで回復した事実があります。一時的に価格が暴落した資産であっても市場が過敏に反応して売られ過ぎるたり価格を回復させられる実力・実体価値があったりする資産は暴落後に大きく値を戻す可能性もあるのです。そのため暴落時にこそ買い増すべきチャンスを迎える資産といえるでしょう。

焦って最安値で狼狽売りするのが最も危険

資産価格が暴落すると一般的に多くの投資家が資産を売却したがります。売りが売りを呼んで価格が下落を続け最安値でも手放したい投資家も現れるでしょう。最安値で売却することは、損失額が最大となるため、最も避けるべき行為であり手仕舞いとして最も危険といえます。当初から価格が下落したら手放す予定で購入した資産であれば最安値を付ける前にすぐに損切りをすることも選択肢の一つです。

価格が最安値を付けたとしても保有し続けたい資産の場合、最安値で狼狽売りするのではなく市場の動向を静観して適切なタイミングで買い増したり価格の回復を待ったりするのが得策です。資産価格の暴落時には「購入時にどのような目的で当該資産に投資をしたのか」という原点回帰して投資判断をするように心がけましょう。

保有資産の価格が暴落したときの3つの対処法

保有資産の価格が暴落したときは「資産を安く買い増せるチャンス」「焦って最安値で狼狽売りするのが最も危険」という2つのマインドを持ったうえでどのように対処するのが得策なのでしょうか。具体的な対処法は、当該資産の保有目的によって異なりますが主に以下の3つに分けられます。

* 買い増し
* 損切り
* 何もしない

買い増し

価格下落時の資産の買い増しは「ナンピン(難平)買い」とも呼ばれており長期保有を目的とした投資の場合に最も効果が現れやすい対処法の一つです。長期保有が目的の場合は、価格が暴落したタイミングで買い増しをすると取得価格を下げることができます。300万円を元手に取得時期を3回に分けて100万円ずつ株式に投資した場合の例を確認してみましょう。

1株1万円のときに100万円分(100株)取得した場合、平均取得価格は1万円です。初回の取得後に株価が1株5,000円まで下落したタイミングで2回目に100万円分(200株)追加取得すると平均取得価格は1株約6,667円{(1万円×100株+5,000円×200株)÷300株}まで下がります。さらに3回目の取得時に株価が2,000円まで株価が下落した場合はどうなるでしょうか。

100万円で500株(100万円÷2,000円)を追加取得することができるため、平均取得価格は1株3,750円{(1万円×100株+5,000円×200株+2,000円×500株)÷800株}になります。当初は1株1万円だった平均取得価格がナンピン買いにより3,750円まで下がったため、暴落後に価格が回復したときの利益は当初よりも大きくなります。

価格が暴落したとしても回復する見込みがある資産の場合、暴落時に買い増し(ナンピン)を検討することも長期的な視点では有効な選択肢の一つです。

損切り

短期的な値上がりによる売却益を目的とした投資で保有資産の価格が暴落したときは、損失許容額を超えたタイミングですぐに損切りをするのが得策です。短期的な売買例としては以下のようなケースがあります。

* 好決算の期待に基づく決算発表直後の価格高騰が見込まれる株式銘柄
* IPO(新規公開株)銘柄に投資をする場合
* FXや上場株のトレードでテクニカル分析(チャートリーディング)をもとに短期的な値上がりを狙う場合

短期的な値上がりを狙う投資で自分が狙った方向とは逆の方向に価格が大きく進んだ場合は、あらかじめ想定していた損切りラインを超えたタイミングですぐに損切りをするのがよいでしょう。なぜなら短期投資では、短期的な時間軸での値動きのみを想定して取引を行う場合が多くなるため「長期的な時間軸で値上がりするか否か」という要素は考慮しないのが一般的だからです。

短期投資のように短期的な時間軸でしか値動きのシナリオを描いていない場合、「価格の暴落」というメインシナリオから外れた事態が発生した際には、損失額が膨れ上がらないうちに撤退するのが得策といえるでしょう。

何もしない

「何もしない」というのは、価格が暴落したときに買い増しも損切りもせず資産を保有し続けることを指します。暴落してもあえて何もしない対処法は、インカムゲイン(配当や利息、賃料など)を目的とした投資において有効な対処法の一つです。インカムゲインは、資産を保有しているだけで定期的に得られる収入のため、資産価格が暴落したとしても投資目的の達成に大きな影響を及ぼしにくいでしょう。

例えば米国株のAT&T<T>は1980年代から30年以上にわたって増配を続けてきた企業で高配当銘柄として配当金を求める投資家から人気の銘柄の一つです。同社の株価は、リーマンショック時に半値以下にまで暴落しましたが株価が暴落した苦境の中でも増配を維持しました。配当金を目的として同社の株を保有する投資家にとって株価が暴落したとしても増配が維持された以上、損切りをする必要性は必ずしもなかったといえそうです。

こういった銘柄の場合でインカムゲインを目的とする投資であれば保有中に株価が暴落したとしても保有を続ける選択肢も有効といえます。

暴落時の対処法は投資目的によって異なる

暴落局面における対処法は、当該資産の保有目的によって異なるため、資産を取得する際に目的をはっきりと意識することで暴落が起きたときでも落ち着いて対処がしやすくなるでしょう。「投資に暴落はつきもの」という意識を持ちつつ実際の暴落局面においては焦って狼狽売りするのではなく保有目的に立ち返って冷静に対処法を考えましょう。