吉田謙太郎
宅建士・不動産投資家・ライター|筑波大学卒業後、大手不動産会社にて投資用不動産の売買および賃貸営業・投資家へのコンサルティング・自社メディアでの記事執筆などを行う。自身でも社会人1年目(22歳)から不動産投資をしており、横浜市・大阪市・神戸市に区分マンションを4戸運用中(2021年11月現在)。保有資格は宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者。(I列)

「卵は一つのカゴに盛るな」という相場格言があるように投資において分散投資は鉄則の一つです。広く分散投資を行うためには、株式や債券、不動産をはじめとする投資対象物の分散とあわせて国内と海外など投資対象エリアを分散させることも有効な選択肢の一つといえるでしょう。海外への投資は、大きく分けると新興国と先進国です。

海外資産を上手にポートフォリオへ組み入れることで分散の幅を広げることが期待できます。海外資産への投資は、保有資産の分散化が見込めますが具体的にどのような恩恵を受けられるのでしょうか。本記事では、海外資産に投資することで享受できるメリットや注意点について解説します。

海外資産に投資する3つのメリット

日本国内のみの資産でも十分にバランスの取れたポートフォリオを組むことは可能です。しかし海外資産も組み入れることでポートフォリオのバランスと堅実さのさらなる向上が見込めるでしょう。なぜなら海外資産には、日本国内の資産で得られないようなメリットがあるからです。海外資産に投資する主なメリットは、以下の3つです。

* 高利回りを狙える
* 保有通貨および資産の分散ができる
* 新興国市場の成長に乗れる

高利回りを狙える

東南アジアや南アフリカ、南米をはじめとする新興国では、債券や定期預金、スワップポイントが高い傾向のため、高利回りが狙いやすくなります。新興国では、中央銀行の設定する政策金利が日本や米国といった先進国よりも高いことが特徴です。新興国の政策金利が高い理由は、以下のような内容が考えられます。

* 一般的に新興国の通貨は先進国の通貨よりも信用性が低いため高金利にしなければ海外からの資金を自国に流入させにくい
* 新興国には高いインフレ率が続いている国もあるため政策金利を高くして景気の過熱を抑制する狙いがある

預金金利や債券利率は政策金利の影響を受けやすいため、政策金利が高い国では高利回りの商品が多くなりやすいのです。例えば政策金利が24%まで上昇したこともあるトルコリラ建てで発行される債券には、年間利率が20%になるものもあります。トルコのほかにも南アフリカランドやメキシコペソ、ブラジルレアルなどの通貨建てで発行される債券は、先進国通貨建の債券よりも高利回りです。

保有通貨および資産の分散ができる

海外資産を保有する際は、同国の通貨建てで保有することになる場合が多い傾向です。例えば米国の株式を保有する際は米ドル、ユーロ圏の債券を保有する際はユーロ、タイの不動産を保有する際はバーツなど対象通貨を介して当該資産を保有することになります。一般的にリスクオンの局面ではハイリスク・ハイリターンな新興国に資金が流れる傾向です。

一方でリスクオフの局面では、ローリスク・ローリターンな先進国に資金が流れやすくなります。資金が国外に流出すると同国の通貨価値は下落しやすいため、先進国の通貨の場合でも一つの通貨のみに資産を集中させることは「資産の分散化」という観点からはハイリスクといえるかもしれません。他にも新興国の株式は、ハイリスク・ハイリターンになりやすい資産です。

一方先進国の国債のようにローリスク・ローリターンになりやすい資産もあるため、「どの国(新興国、先進国)のどの資産(株式、債券、不動産)を保有するか」という点も通貨の分散とあわせて重要といえるでしょう。リスクレベルが異なる資産を分散してバランス良く保有することで経済ショックが起きたときや地政学的リスクが顕在化したときの保有資産へのダメージを和らげることが期待できます。

リスクオフの局面でハイリスクな新興国の資産が暴落してもローリスクな先進国の資産をあわせて保有していればリスクヘッジとなるでしょう。新興国から流出した資金が先進国に流れることで先進国の資産が値上がりし「ポートフォリオ全体で見れば大きな損失にはならない」「利益が出る」というケースも想定できます。

新興国市場の成長に乗れる

新興国の市場は、未成熟な場合が多く成長が見込める国に投資できれば市場の成長の波に乗ることが期待でき大きな利益を上げることも可能です。BRICSの一角を占めるインドでは、1980年代~2020年までの間に株価指数(BSE SENSEX)が100倍以上となっています。また中国では1990年代~2007年までの間に株価指数(上海総合指数)が50倍以上に成長しました。

新興国の中には、急成長のポテンシャルを秘めた国もあり適切なタイミングで先行投資ができれば中国やインドのように数十倍、100倍以上といったリターンが得られる可能性があります。

海外資産投資の4つの注意点

「高利回り」「ポートフォリオの分散」「市場の高い成長」といったメリットが見込める海外資産ですが海外資産を外貨建てで保有する注意点もあります。具体的な注意点は、以下の4つです。リスクを避け上手にメリットを享受できるような投資をしましょう。

* 為替レート
* 政策金利の推移
* インフレ率の推移
* GDPの推移

為替レート

為替レートとは、2種類の通貨を両替する際の交換比率のことです。海外資産を購入したり売却したりするときは、為替レートに基づいて円と外貨を相互に両替する必要があります。両替時の為替レートによって「外貨をいくらで買うか」「いくらで売るか」が決まるのです。為替レートで特に注意が必要になるのが一部の新興国のように通貨価値が不安定な国の資産に投資をするときでしょう。

なぜなら一部の新興国では、通貨の信用性の低さから通貨価値が下落し続けている国があるからです。通貨価値が下落を続けている国は、同国の通貨基準で利益が出せたとしても最終的に手仕舞いをする際に外貨を円に両替すると為替差損によって損失が出ることもあります。価値の下落が続いている通貨の一つがトルコリラです。

トルコリラは2001~2020年までの20年間で対円での価値が約93%も下落しました。(1トルコリラ170円から12円前後まで下落)。例えばトルコリラを1トルコリラ170円で購入しトルコリラ建ての資産を20年間にわたって運用した後に1トルコリラ12円で売却した投資を想定すると運用期間中に高利回りを維持できたとしても為替差損によって損失を出す結果になるでしょう。

1トルコリラ170円のときに10万トルコリラ(1,700万円)分のトルコリラ建て資産を購入し20年間にわたって毎年10%の年利で運用したと仮定します。毎年1万トルコリラをインカムゲインとして得られるため、資産自体の値動きを度外視すると20年後には元本も合わせて30万トルコリラに増えます。手元のトルコリラは3倍に増えました。

しかし手仕舞いをするときに1トルコリラ12円でトルコリラから円に両替すると360万円(30万トルコリラ×12円)しか返ってきません。トルコリラの大幅下落により円ベースではトータルで80%近くも資産価値が減ってしまうのです。(1,700万円から360万円まで資産価値が減少)海外資産に投資するときは、保有する通貨の信用性や対円での長期的な為替レートに注意を払うべきといえるでしょう。

政策金利の推移

政策金利は、同国における預金金利や国債の利率、スワップポイントなどに影響を及ぼす可能性のある重要な指標の一つです。一般的に政策金利の高い国は、高い利率を求めて海外からの資金が流入しやすくなり通貨価値上昇の一因になり得ます。一方で政策金利が高いということは、金融機関が企業や個人へ融資をする際の金利も高くなりやすい傾向です。

そのため企業が新しく事業を展開・拡大したり個人が家や車を購入したりするための資金を調達するハードルが高くなります。企業の経済活動や個人の消費活動が停滞して株価の下落を引き起こすことも考えられるでしょう。政策金利の利下げが行われると利上げ時と逆の動きが起こり得るため、通貨価値の下落や株価の上昇につながる可能性もあります。

政策金利は、当該国内のインフレ率や景気の動向といった複合的な要素を勘案して中央銀行が政策決定会合の場で決定するのが一般的です。中央銀行は、政策決定会合後に声明を発表し「インフレや景気に関する見通し」「今後の政策金利についての方針」など投資家にとって重要な情報を開示することが多くあります。

政策金利の動向について予測を立てる際は、政策決定会合後の中央銀行の声明を注視すると有益な情報が得られるかもしれません。

インフレ率の推移

インフレ(インフレーション)とは、物やサービスの価格(物価)が上昇することを指し物価の上昇率をインフレ率といいます。インフレ率が高い国においては、一般的に景気が良い状態と判断することができるでしょう。なぜなら景気が良い国では、多くの企業や個人が高い利益や給与を得たり企業の経済活動や個人の消費活動が活発になり物価が上昇したりする傾向があるからです。

日本のインフレ率は、1981年からの約40年にわたって5%にも満たない低水準で推移しています。しかし海外においてはアフリカや南米、東南アジアの諸国を中心に高いインフレ率が続いている国もあるのです。インフレが進んでいるエリアの資産に投資をすれば物価上昇の波に乗ってキャピタルゲインやインカムゲインの上昇を狙える可能性があります。

不動産投資を例に説明すると、年間のインフレ率が10%の国においては不動産価格や賃料相場が理論上、年間10%の割合で上昇するということです。物価の上昇とともに賃料相場が上昇し賃料収入が毎年増えていくだけでなく不動産価格の上昇によって購入後の含み益も毎年膨張することが期待できるかもしれません。

高いインフレには、利益機会というメリットがある一方で注意点として認識しておくべき点もあります。なぜならインフレによって物価が上がるということは、同国の通貨価値が下がっているともいえるからです。物価が10%上昇する(100円で買えていたものが110円になる)ということは、通貨価値が約9.1%下落したと解釈することもできます。

通貨価値の下落が進むと為替レートにもマイナスの影響が出る可能性が高いため、手仕舞いをする際に外貨を円に両替すると損をしていることもあり得るでしょう。海外資産に投資するときは、インフレ率と通貨価値の関連性に注意し資産価値の上昇を狙いながら通貨価値の下落を回避できる国を見極めることが重要といえそうです。

GDPの推移

GDP(Gross Domestic Product)とは、国内総生産のことです。一定期間において同国内で新たに創出されたものやサービスの付加価値を指します。GDPは、同国の経済力を測る指標として用いられる場合が多くGDPの増減によって同国の景気動向や経済成長率が推測することが可能です。一般的にGDPの増加率が高い国は景気が良く経済成長率が高いことが示唆されます。

そのため国の経済成長に合わせて株価や不動産価格も上昇している可能性があります。インドでは1980年代から2020年までの間にGDPが最大で10倍以上に成長(実質GDPベース)し同国の株価指数(BSE SENSEX)は同期間に100倍以上も上昇しました。日本のGDPは、同期間で2倍程度にしか成長していない(実質GDPベース)点と比べると1980年代以降のインドは目覚ましく経済成長していると評価することができます。

GDPの推移を観察し同国の今後の成長性を見通す視点もあわせ持っておくと適切な投資判断ができる可能性を高めることができるでしょう。

海外資産の組み入れで分散の利いたポートフォリオを

株式や債券、不動産といった各資産には、メリットとデメリットがあります。そのためそれぞれを分散してバランスよくポートフォリオに組み入れることが大切です。メリットとデメリットを補完し合うことでポートフォリオ全体のバランスが取りやすくなります。組み入れる資産の分散と同様に日本国内と海外、海外の中でも先進国と新興国などエリアの面でも分散投資をすることが重要です。

これを意識することで日本資産と海外資産のメリットとデメリットを補完しやすくなるでしょう。投資期間が長くなればなるほど思わぬ暴落や急騰の相場を目の当たりにする可能性は高くなります。「暴落相場でも大きな痛手を被らないようにする」「急騰相場でも大きな利益を得られるようにする」など各国の各資産をバランス良く分散して保有するのが得策でしょう。