八木チエ
株式会社エワルエージェント 代表取締役|宅地建物取引士・ファイナンシャルプランナーなどの資格を持ち、中立的な立場で不動産投資に関連する情報をお届けします。書籍、メディアなどに記事掲載の実績多数。

不動産投資では「利回り」を用いて物件の収益性を判断するケースが多い傾向です。しかし利回りとは一体どのように計算するのでしょうか?不動産会社が紹介してくれた利回りが高い物件を購入したからといって想定通りに利益が出せるとは限りません。不動産投資の利回りは、投資としての収益性を表し一定の数値を超えると収益性は高いと判断されます。

しかし利回りだけで物件の優劣を判断することは危険な方法です。この記事では、利回りの計算方法やシミュレーション、注意点について紹介していきます。

1.不動産投資の利回りとは

一般的に投資における利回りとは、利子を含めた年単位での収益のことです。不動産投資における利回りとは、物件価格における家賃収入の割合を指す「表面利回り」と、家賃収入から年間の維持管理にかかわる経費を差し引いた後に物件価格で割る「実質利回り」があります。表面利回りと実質利回りの計算式は以下の通りです。

表面利回り:(年間の家賃収入÷物件価格)×100
実質利回り:(年間の家賃収入-年間の維持管理にかかわる経費)÷物件価格×100

※実質利回りは購入に関わる諸経費を分母に加算して計算するケースもあります。

年間の維持管理にかかわる経費とは、固定資産税・都市計画税などの税金や修繕費、不動産会社への管理費など物件を維持するためにかかった費用のことです。なお物件の購入前の段階では、年間の家賃収入は想定される金額で算出します。不動産を購入する前には、必ず想定される実質利回りを計算しておきましょう。年間の維持にかかわる経費は「不動産会社に目安を尋ねる」「ネットや書籍で調べる」など工夫をして確認することが必要です。

表面利回りよりも実質利回りのほうが年間の維持経費を算入しているため、より実際の値に近い利回りとなります。

1-1.投資家がよく見る広告に記載されている利回りとは

投資家が良く見る広告に記載されている利回りは、前述した「表面利回り」「想定利回り」「現行利回り」などです。これらは実際の利回りとは大きく異なるケースもあるため、注意する必要があります。

そのためには、それぞれどのようなものを指すのかを熟知することが重要です。

1-2.想定利回り・現行利回りとは

「想定利回り」とは、想定の年間家賃収入の合計を物件価格で割ったものになります。これだけ聞くと表面利回りと非常に似ていますが、年間の家賃収入は想定された額で計算されるため、現在空室になっている部屋を満室と想定して計算している場合や、家賃を相場家賃と同じであると想定して計算している場合がほとんどです。

ちなみに、想定利回りは利回りをよりよく見せるために周辺の家賃相場より高い家賃を設定している場合もあるため、注意する必要があります。

一方で、「現行利回り」とは、現在の家賃収入に基づいた年間の家賃収入の合計を物件価格で割ったものです。想定利回りとは違い、空室の家賃収入を含めずに計算しているため、購入後に満室になると現行利回りを上回る可能性もあります。

このように、比較すると「現行利回り」のほうが空室リスクを考慮しているため現実的ですが、どちらの利回りも経費を含めずに計算をする利回りのため、不動産を購入する前には必ず実質利回りを計算することがおすすめです。

1-3.家賃収入にも種類がある

家賃収入にも「現況家賃収入」と「満室想定家賃収入」の2種類があり、物件の広告で目にすることがあると思います。その中で、特に広告で記載されることが多いのは「満室想定家賃収入」です。

満室想定家賃収入とは、空室がすべて満室になった場合の家賃収入のことで、前述した「想定利回り」と同様に入居募集している家賃で空室が埋まった場合を想定した家賃収入になります。この表記の場合は、家賃収入を多く見せているケースがあるので、満室想定家賃収入が良いからといって「好条件の物件」と判断するのは危険です。

ちなみに、「現況家賃収入」とは現在得られる家賃収入になります。つまり、空室がある場合には、空室の家賃収入を含んでいない収入のことです。

このように家賃にも種類があるため、「現況家賃収入」と「満室想定家賃収入」の違いをよく理解するようにしてください。

1-4.何が年間経費になるのか?

購入した不動産の維持管理にかかわる年間経費として、主に以下のものが挙げられます。

名称 内容
固定資産税 不動産を所有している人が固定資産の価格に基づいて算出された税額を市区町村に納める税金
都市計画税 市街化区域内に不動産が所有している人が納める税金
消耗品費 賃貸業務に必要なコピー代や文房具代
通信費 入居者や取引先などと連絡を取るためにかかるインターネット代や電話代
交際費 オーナー同士の交流会の会費や取引先との会食代
水道光熱費 共用部分における電気代や水道代(共用廊下の電灯にかかる電気代など)
修繕費 設備の修繕や大規模修繕のための費用
火災保険や地震保険 火災保険や地震保険の保険料
税理士への報酬 担当税理士への顧問料や確定申告などの依頼料
借入金の利子 不動産投資ローンなどを利用している場合の利子
管理委託料 管理会社へ入居者募集や家賃収入などの大家業務を委託するための費用

これらの経費はあくまで代表的なものになります。購入した物件や個人によって、物件の維持管理にかかわる経費は異なるため注意が必要です。

2.不動産投資の目安となる利回りはどのくらい?

不動産投資における利回りの相場はどのぐらいでしょうか? 2021年4月に一般社団法人日本不動産研究所が行った「第44回不動産投資家調査(2021年4月現在)」によると、投資家の期待利回りは以下のようになっています。

東京都の城南地区で4.2%、城東地区で4.4%となっており、札幌や仙台などの主要な政令指定都市では5%台が大半を占めています。東京や大阪といった大きな都市は地価が高いため利回りは他の都市圏より低めとなっており横浜もベッドタウンで人気エリアのため利回りは低めです。地区だけではなく物件の築年数や躯体によっても利回りは異なります。

例えば新築・築年数が浅い物件は資産としての価値が高い傾向です。しかし購入価格も高くなるため利回りは低めとなります。一方で築古の物件は建物としての資産価値が低く購入金額も安いため利回りは高めの傾向です。ただし築古の物件には修繕費が思った以上にかかったり家賃が下がる可能性があったりするなどのリスクがあります。

上記の調査結果を参考にすると賃貸住宅1棟の利回りは東京では4%前後、地方都市では5%前後が2021年時点での「現実ライン」といえるでしょう。

2-1.地方の利回り

地方の利回りについて以下の2つに分けて解説していきます。以下の中古区分については「不動産投資と収益物件の情報サイト健美家(けんびや)」の「収益物件市場四半期レポート(2021年1月~3月)」を参考にしており、新築区分については「一般財団法人 日本不動産研究所 第44回不動産投資家調査」のデータを参考にしています。

中古区分
地方では、築年数10年以上の中古区分マンションの利回りが次のようになっています。北海道や東北、関西、東海、九州・沖縄などで築年数が10年を超える物件は「5.50%~6.10%」となっており、築年数が20年超える物件は「9.19%~13.70%」です。

築年数10年超の物件では、北海道の「5.50%」の利回りが最も低く、築年数20年超の利回りは関西の「9.19%」が最も低い数字です。

新築区分
地方の築5年未満の区分マンションは、利回りが札幌や仙台、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡で平均「5.2%」になっており、新築物件の価格が高いことを踏まえるともう少し低くなることが想定されます。

2-2.首都圏の利回り

首都圏の利回りも地方の利回りと同様に、中古物件は健美家の「収益物件市場四半期レポート(2021年1月~3月)」、新築物件は一般財団法人 日本不動産研究所 「第44回不動産投資家調査のデータ」を参考にしています。

中古区分
首都圏の築年数10年超の中古区分マンションの利回りは「5.03%」で、築年数20年を超えると利回りは「7.93%」になります。このように首都圏の利回りは地方と比較しても低いです。

これは、すでに説明したとおり、土地の価格が地方よりも首都圏のほうが高いため、利回りが低めになっています。

新築区分
首都圏の築年数5年未満の区分マンションの利回りは、東京(城南・城東地区)と千葉、さいたま、横浜の利回り平均が「4.8%」と地方と比較すると低い水準です。新築物件の価格が高騰していることから、利回りがもっと低くなると言えます。

2-3.東京23区の利回り

東京23区の利回りも、他のエリアと同様の資料を参考にしています。

中古区分
東京23区の、築年数10年超の中古区分マンションの利回りは「4.88%」で、築年数20年を超えると、利回りは「6.76%」になります。このように首都圏の利回りは地方と比較しても低いです。

全国の中でも東京23区の地価が高い傾向にあるため、利回りが低くなっています。

新築区分
東京23区の築年数5年未満の区分マンションの利回りは、城南地区(目黒区・世田谷区)で4.2%、城東地区(墨田区・江東区)で4.4%になっており、この平均が4.3%になります。

この城東地区と城南地区の利回りも他の新築区分の利回りと同様に、新築物件の場合は物件価格が高いため、利回りが低くなる可能性が高いです。

なお、地方と首都圏、東京23区の利回りを比較した表が以下になります。

築年数 利回り
地方 築年数5年未満 5.20%
築年数10~20未満 5.50%~6.10%
築年数20以上 9.19%~13.70%
首都圏 築年数5年未満 4.80%
築年数10~20未満 5.03%
築年数20以上 7.93%
東京23区 築年数5年未満 4.30%
築年数10~20未満 4.88%
築年数20以上 6.76%

出典:「不動産投資と収益物件の情報サイト健美家(けんびや)の「収益物件市場四半期レポート(2021年1月?3月)」から筆者作成
https://www.kenbiya.com/img/press/pre2021-04-13.pdf
「一般財団法人 日本不動産研究所 第44回不動産投資家調査」
https://www.reinet.or.jp/wp-content/uploads/2010/10/20210525-report.pdf

3.不動産投資の利回りシミュレーション

不動産投資で利回りを参考にする機会は多いですがどのように活用していけばよいのでしょうか?都内の中古区分マンションを参考にシミュレーションを行っていきましょう。

<都内の中古区分マンション>

項目 金額
購入金額 3,000万円
頭金 300万円
年間維持管理費などの経費 30万円
家賃収入 月10万円(年間120万円)

上記の条件を元に表面利回りと実質利回りを計算します。

表面利回り
年間の家賃収入120万円÷物件価格3,000万円=4%
実質利回り
(年間の家賃収入120万円-年間経費30万円)÷物件価格3,000万円=約3%

表面利回りは4%、実質利回りは3%という結果となりました。なお利回りの計算の分母を購入金額ではなく、「投資した資本」である頭金に変更すると不動産投資のレバレッジ効果を実感することができます。

不動産投資のレバレッジ効果
(年間の家賃収入120万円-年間経費30万円)÷頭金300万円=約30%

実際に手出しで投資した資金300万円に対する利回りは30%という非常に高い数値となりました。実は上の式は「ROI(Return on Investment)」という投資の指標の一つで「投資利益率」を表しています。投資に対する効率を表しており、ROIが高ければ高いほど投資の効率が良いことになるのです。利回りと共に参考となる指標の一つとして覚えておきましょう。

4.不動産投資の利回りにおける3つの注意点

不動産投資の利回りにおける注意点を見ていきましょう。ROIのように不動産投資で参考にすべき指標は利回りだけではありません。また不動産会社が提示してくる利回りは多くのケースで「表面利回り」です。なかには、物件概要書の利回り計算がいい加減な不動産会社もあるため、十分に注意が必要です。

また利回りが高く魅力的に見える物件は「立地が悪い」「近隣に火葬場のような避けられやすい施設がある」「購入後に多額の修繕費が必要」「家賃設定が高い」といった「落とし穴」がある可能性があります。ここでは、不動産投資の利回りで注意しておきたい3つのポイントについて解説します。

■ 利回りだけを参考にしない
■ 利回りが高すぎる物件も要注意
■ 物件概要書をよく確認する

4-1.利回りだけを参考にしない

不動産会社から物件を紹介される際、「利回りは〇%」と言われる機会が多いですが不動産会社が示す利回りの大半は「表面利回り」です。そのため不動産会社が言った利回りだけを鵜呑みにして「利回りが良い」と判断しないようにしましょう。なぜなら物件を購入した結果、思ったより手元にお金が残らないというケースがあるからです。

ROIも含め不動産投資の指標は利回りだけではありません。不動産には資産としての価値という側面や節税効果もあるため、利回りだけで物件を判断するのは危険です。不動産は購入金額が高いため、さまざまな要素を考慮し投資対象として収支のシミュレーションを行ってから購入を検討しましょう。自分で分からない部分は詳細を不動産会社に納得がいくまで尋ねることも重要です。

4-2.利回りが高すぎる物件も要注意

一見、利回りが高く魅力的な物件でも実際に現地に内覧に行くと思いがけない発見をすることがあります。例えば「近隣に嫌悪施設(パチンコ店や火葬場など)がある」「建ぺい率や容積率をオーバーした違法物件」「立地が悪い」などです。近隣に嫌悪施設がある物件は需要が低く治安が悪い地域はファミリー層に避けられる傾向があります。

また建ぺい率や容積率をオーバーした違法物件は、資産としての価値が低く、金融機関からの融資が伸びにくい傾向があり、売却価格が安くなりがちです。立地が悪い場合も需要が見込めず空室率が高くなる可能性があります。このような「いわく付き物件」を購入しないためには、現地に足を運び物件をじっくりと見学してから購入することが重要です。

4-3.物件概要書をよく確認する

不動産会社が提示する物件の収支などが書かれた「物件概要書」をよく確認しておくことも大切です。物件概要書には利回りが記載されています。しかしいい加減な不動産会社では「支出項目が適切な数値でない」「収入を多めに見積もっている」などの理由で利回りが高めに書かれているケースも少なくありません。

多くの物件概要書や物件の利回りを見ることで大体の相場を把握することが期待できるため、いい加減な不動産会社の書類にだまされる可能性は少なくなるでしょう。利回りにかかわらず多くの情報に触れることで利益の出る物件を得られる可能性が高まります。

5.利回りだけでなく現地の内覧も忘れずに

不動産投資における主な利回りは、表面利回り「年間の家賃収入÷物件価格×100」、実質利回り「年間の家賃収入-年間の維持費用÷物件価格×100」の2つです。利回りを参考にする場合は、できるだけ精度の高い実質利回りのほうを参考にしましょう。またROIを利回りと同時にシミュレーションすることも重要です。

また物件を購入する際は利回りだけで判断せず現地を内覧することをおすすめします。不動産投資は節税効果や資産価値としての側面も考慮し信頼できる不動産会社と相談しながら購入を検討しましょう。

6.不動産投資の利回りに関するQ&A

ここまで不動産投資の利回りについて解説してきました。最後によくある以下の2つの質問について解説していきます。

Q1:利回りと似た言葉の「利率」とは何が違うのか?

ここまで説明してきた利回りとは、投資金額に対する利子を含めた年単位での収益のことです。

一方で、利率とは債券などの額面金額に対して毎年得られる利子のことを指します。例えば、額面金額が100万円で、1年後に5万円の利子を受けとる場合は、利率は「5%」です。

なお、100万円で購入した債券を5年後に105万円で売却した場合は、

・利益:105万円-100万円=5万円
・5年間の受取利子:100万円×5%(利率)×5年=25万円
・1年あたりの収益:(5万円+25万円)÷5年÷100万円×100=6%

利回りは「6%」になります。

Q2:不動産投資の利回りをシミュレーションしてくれるサイトはあるか?

不動産投資の利回りを簡単にシミュレーションしてくれるサイトは、無料で利用できる以下のようなサイトがあります。

なお、基本的に不動産投資会社でもシミュレーションを出してくれますので、より詳しく正確なシミュレーションを出したい場合は、不動産投資会社に依頼してみましょう。