武岡太朗
T.S.MarketingLAB

不動産ポータルサイト運営企業でマーケティングを担当していた経験を活かし、不動産市況・業界動向・エンドユーザーのトレンドについて、各種メディアでライターとして情報発信を行うほか、不動産会社のコンサル・業務課題ソリューションなども手掛ける。

不動産業界はかねてから生産性が低いことが問題視されていました。しかし近年は少子高齢化に伴う人口減少が重なり非効率な業務運営だけでなく中小企業を中心に事業承継問題も取り沙汰されるようになっています。諸問題の突破口としてテクノロジーの力を活用した問題解決のアプローチを探る「Real Estate(不動産)× Technology(テクノロジー)=不動産テック」の動きが活発化しています。

近年テクノロジー領域では「Finance(金融)× Technology(テクノロジー)=FinTech(フィンテック)」「Human Resource(人事)×Technology(テクノロジー)=HRTech(エイチアールテック)などが話題です。ITリテラシーがあまり高くない不動産業界にもテックの波が到来しこれまでになかった新しいサービスの提供や技術革新が起こってきています。

この記事では、不動産テックの中から不動産投資と関連性の高い分野・サービスを紹介しつつ2020年12月2日(水)~4日(金)に開催された「第1回不動産テックEXPO」の様子についても解説します。

テクノロジーによって変わりゆく不動産業界

一般社団法人不動産テック協会の定義によると不動産テックとは「テクノロジーの力によって不動産に関わる業界の課題や商習慣を変える価値や仕組み」のことです。テクノロジーの進境が著しい背景には、データを処理する能力が格段に向上したことでビッグデータの処理能力が飛躍的に向上したことがあります。

人工知能(AI)がチェスや将棋、囲碁などでプロを負かしたことが大きなニュースとなりました。AIを活用した機械学習によるビッグデータの分析技術の向上がさまざまな業界における変革の機運を高めています。

不動産テックが活性化する背景

不動産業界は、もともとイノベーションが起こりにくい業界と考えられていたこともありテクノロジーの目覚ましい進歩があっても変革の機運はなかなか高まりませんでした。しかし近年活況だった不動産市況がより深刻な人手不足を引き起こしているところにコロナ禍が直撃し不動産業界にもテクノロジーの力を活用した商習慣を見直す機運が徐々に高まってきています。

不動産業界は、依然として「紙」「印鑑」「対面での接客」「契約行為」が主流です。また物件価格や成約状況などの物件情報が偏在していることも業界の課題として残っています。こういった不動産業界の諸問題に対してITやテクノロジーを活用して解決していくが不動産テックが活性化している主な要因です。

不動テック関連サービスの数と増加率

一般社団法人不動産テック協会が公表している「不動産テックカオスマップ」によると不動産の業態ごとに分けた不動産テックサービスの業態数は以下のようになっています。

不動産テック関連サービス内訳(2020年6月現在)

分野 2019年8月 2020年6月 増加率
管理業務支援 50 60 +20%
仲介業務支援 36 47 +30.5%
物件情報・メディア 34 43 +26.4%
マッチング 32 39 +21.8%
IoT 33 32 -3.0%
スペースシェアリング 26 26 ±0%
リフォーム・リノベーション 22 24 +9.1%
VR・AR 20 20 ±0%
価格可視化・査定 18 20 +11.1%
クラウドファンディング 16 19 +18.7%
ローン・保証 9 10 +11.1%
不動産情報 9 10 +11.1%
合計 305 352 +15.4%

出典:一般社団法人不動産テック協会

2020年6月15日現在で同協会が把握している不動産テックのサービス数は352で、不動産流通の実務関連サービス(管理・仲介系)が上位を占めています。2020年12月2日(水)~4日(金)に開催された「第1回不動産テックEXPO」においてもコロナ禍の影響もあったでしょうが一時期急激にサービス数が増加していたIoTやVR・ARのサービスが少ない傾向でした。

競合サービスが一通り出そろったことで市場が飽和状態になったものと考えられます。一方で仲介・管理業務支援系のサービスで中でも「RPA(Robotic Process Automation)」を活用した不動産売買業務の効率化および成約支援、管理業務における請求対象者リストの作成・仕訳の自動化によって業務効率化・生産の向上を図るサービスの出展が目立ちました。

不動産投資に関連のある不動産テックサービス

データに基づいた客観的な不動産価格査定

物件の適正価格の判断は、不動産の購入や売却にあたって最も判断が難しいことの一つです。しかし昨今では、不動産ビッグデータをAIに取り込んだ価格査定サービスが増加しています。流通している不動産の価格は、不動産会社の査定結果に基づいて決められていくことが大半です。不動産業者の経験や勘が判断の根拠となることに加えて不動産会社にしか知り得ない情報などもあります。

そのため不動産会社と生活者間の情報の非対称性がたびたび問題になっているのです。過去の不動産取引のビッグデータをAIに読み込ませて不動産価格を査定するサービスでは、住所や物件名などを入力するだけでリアルタイムの物件価格を査定ができます。また以下のような情報など市況や消費者動向なども踏まえた実勢価格を提示することで業界全体の透明性の向上につながることが期待されています。

・ 当該物件の間取り・専有面積・新築分譲時の価格情報
・ 不動産投資によるキャッシュフローや想定賃料などの情報

クラウドファンディングによる不動産投資機会の拡大

個人投資家を中心にWeb上のプラットフォームで広く薄く資金を集めて投資を行うクラウドファンディングを活用して不動産事業への投融資を行ったり事業主と投資家をマッチングさせたりするサービスが増加しています。不動産クラウドファンディングのサービスをのぞいてみるとプロジェクトの内容はさまざまです。

古民家の再生や空き家のコワーキングスペース化など社会問題の解決につながるようなプロジェクトから海外不動産への投資など幅広い案件が掲載されており利回りも比較的高く設定される傾向です。プレイヤーは、不動産に特化する形でサービスを提供する企業から東証1部上場企業まで多岐にわたります。

クラウドファンディングの活用で新たな投資機会を生み出し資金調達手段の多様化によるビジネスチャンスの拡大などにもつながっています。不動産のクラウドファンディングは、不動産投資が身近なものになっていくための起爆剤として大きな可能性を秘めているといえそうです。

シェアリングサービス空室リスクの低減

短期・中期で空きスペースを貸し出すマッチングサービスを提供する不動産テック企業も増加を続けています。有名なところでは「民泊」「会議室」「イベントスペース」「駐車場」などの時間貸しが代表的です。中には、不動産会社自らサービスを展開し空き物件を短期的に貸し会議室やイベントスペースとして時間貸しするようなサービスも見受けられます。

このようなシェアリングサービスの拡大は、インターネット(特にスマートフォン)の普及によってCtoCの取引コストが低減されたことが大きいでしょう。貸主(オーナー)にとっては、遊休資産の有効活用によって空室リスクの低減や収入が得られるなどのメリットが大きいことが要因となっていると考えられます。

まとめ

ここまで不動産テックの中から不動産投資と関連性の高い分野・サービスを紹介しました。不動産テックにより「不動産業界が変わりつつある」「不動産投資環境にも変化が起きている」といったことが理解できたのではないでしょうか。テクノロジーは日進月歩で新しい技術やアイデアが不動産業界に今後もイノベーションが起こることが期待されます。

しかし不動産投資においては、イノベーションによって開けたビジネスチャンスの扉を確実につかむことが重要です。そのためには、常日ごろからさまざまな情報収集のチャネルを持ちアンテナを高く伸ばして「今起きていること」をしっかりと把握することがポイントとなるでしょう。