不動産投資では、入居者が退去する際にクリーニング費用や修繕費用が発生します。次の入居者を見つけるためには宣伝費用がかかることも踏まえると、入居者が短期で退去すると赤字になってしまいかねません。そのようなトラブルを避けるため、賃貸契約に特約としてつけられるのが「短期解約違約金」です。

本記事では、短期解約違約金の概要やトラブル回避のために知っておくべき事柄を解説します。

短期解約違約金とは?

短期解約違約金とは賃貸契約につけ加えられる特約です。短期解約違約金を契約に盛り込めば入居者が1~2年未満の短期間で退出した際に違約金を請求できます。短期解約違約金は、賃貸借契約書の重要項目説明書の欄に記載が必要です。違約金の額や違約金が発生する入居から退去までの期間については、オーナー側で設定することができます。

前述したように、賃貸経営で入居者を獲得するには費用がかかるため、短期解約違約金は多くの賃貸契約で設定されている傾向です。近年は、敷金礼金が無料の物件も増えてきましたが、オーナー側で負担していることもあります。一定期間は家賃が無料となる「フリーレント物件」も無料期間に退去されてしまっては、オーナー側の負担が大きくなってしまいます。

そういった物件では大損をしないためにも特に短期解約違約金が重要です。

短期解約違約金の相場はいくら?

短期解約違約金の相場は、およそ家賃の1~2ヵ月分の金額が設定されているケースが多くあります。なぜなら賃貸物件で新規の入居者を募るための期間として1ヵ月ほどが妥当と考えられているからです。ただし、必ずしも違約金の設定が家賃1ヵ月分になるわけではなく、借主が短期間で契約の終了を申し出てきた場合は、それ以上の額を請求することもできます。

短期解約違約金の相場については「1年以内の退去であれば家賃2ヵ月分」「1年以上2年以内の退去であれば家賃1ヵ月分」程度であると認識しておきましょう。

オーナーから見た短期解約違約金

不動産投資で利益を出すためには、家賃収入から経費を差し引いた「実質利回り」が重要です。空室を生まないことも大切ですが、違約金なしに短期間で入退去を繰り返されてしまうとキャッシュフローが悪化し利益率も下がりかねません。そのため物件オーナーにとって短期解約違約金は、利益率を維持しキャッシュフローを健全な状態で保つために必要なのです。

借主から見た短期解約違約金

実際に違約金を支払う可能性のある借主側にとっても「短期解約違約金の特約があるかどうか」の事前確認は重要です。賃貸借契約は借地借家法のもとに行われますので、一度契約を結んだ賃貸契約書に書き記されていた短期解約違約金についても法的な拘束力を持ちます。基本的に契約を結んだ証として賃貸契約書に捺印をすることになるため、契約主本人が知らなくても支払いの義務が生じます。

物件オーナーとしても借主が違約金の支払いを拒否した場合、保証会社や裁判所を通して違約金を回収する必要が出てくるため、契約時にしっかり借主との間で認識を共有しておきましょう。

短期解約違約金が無効になるケースはある?

法的拘束力のある契約書で定められた短期解約違約金は、一般的に無効になるケースはあまりありません。短期解約違約金が無効になるケースとしては、以下の2通りが考えられます。

<短期解約違約金が無効になるケース>

・オーナー都合で賃貸借契約を解約した場合
・設定金額に妥当性がなかった場合

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

オーナー都合で賃貸借契約を解約した場合

賃貸借契約は、借主側からは比較的自由に解約できます。しかしオーナー側からの解約は簡単にはできません。賃貸借契約のベースとなっている借地借家法は、基本的に借主を守るための法律で他の民法に優先されます。オーナー都合で契約解除を行うためには、契約解除の6ヵ月前までには借主に通知を行い、解約にあたって妥当と判断されるだけの理由が必要になります。

オーナー側から賃貸借契約の解約を行った場合、短期解約違約金は受け取れません。それどころかオーナー側から借主に対して立退料を支払わなければならないケースもあるため注意しましょう。

設定金額に妥当性がなかった場合

短期解約違約金は、一度正式に契約が結ばれたとしても請求の段階になって無効になってしまう可能性があります。消費者契約法第9条では、違約金として設定可能な金額について以下のように定められています。

<消費者契約法第9条>

『一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分』
引用:e-Gov

これはつまり「相場以上の違約金については無効になる」という意味です。短期解約違約金の相場は家賃の1~2ヵ月分程度のため、それ以上の金額は最初から設定しないようにしましょう。ただし3ヵ月以上のフリーレント契約などで短期解約違約金を家賃1~2ヵ月分で設定してしまっている場合などは、その限りではありません。

このケースでは、3ヵ月以上の無料期間中に退去されてしまうと違約金を受け取ったとしても大きな損害が出てしまいます。そのため短期解約違約金を家賃3ヵ月分以上に設定しても法的な妥当性が認められる可能性があるでしょう。

短期解約違約金に関するトラブル

短期解約違約金をめぐるトラブルは、主に入居者側の認識不足で起こるケースが多くなっています。仕事の都合上、短期間で引っ越しを繰り返さなければならない事情を抱えた人などは、短期解約違約金についてよく知らずに入居してしまい後から「知らなかった」ともめる可能性もあるでしょう。こういったケースでは、借主側の認識不足もあります。

しかし不動産会社やオーナー側が「違約金については当然知っているもの」との認識で説明を怠ったことが原因である場合も少なくありません。他には、連帯保証人を設定して短期解約違約金が設けられている物件に入居した借主が、短期間で退去し違約金を支払わなかった場合もトラブルに発展しやすくなっています。

この場合、借主の連帯保証人に対し違約金の請求を行いますが、連帯保証人が賃貸借契約の特約について全く承知していない場合があるのです。法的には、借主が支払わない限り連帯保証人に違約金の支払い義務が生じると認識しても問題ないでしょう。

まとめ

不動産投資のオーナー側からすれば損害が発生する可能性を軽減できる短期解約違約金の特約は、賃貸借契約に盛り込んでいたほうが安心なのではないでしょうか。特にフリーレントの物件や敷金礼金がゼロの物件などオーナー側のリスクが大きい賃貸では短期解約違約金が設定されるケースが多くなっています。

「違約金の設定金額は家賃の1~2ヵ月分に設定する」「オーナー都合で賃貸借契約を解約しない」といった2点を押さえておけば、基本的に短期間で退去した借主に違約金の支払い義務が生じます。短期解約違約金だけでなく賃貸借契約の締結の際には、オーナー側・借主の双方で契約内容をしっかりと共有するようにしましょう。