不動産投資をするにあたり火災保険のことを意識したことはあるでしょうか。「あまり意識していないけど加入している」「必要ないと切り捨てて加入しない」など人それぞれです。加入するか否かにかかわらずきちんと理解してから判断することが大切といえるでしょう。

火災保険の概要

そもそも火災保険とは、どのようなものなのかご存じでしょうか。「火災保険」という名称から「火災に対する保険」といったイメージを持っている人は多いかもしれません。しかし火災保険は火災以外での被害でも補償が期待できる保険商品です。火災保険は、「主契約」と「特約」で構成されています。主契約とは基本契約のことで火災保険に加入する場合には必ず契約するものです。

特約とは個々の事情に合わせて追加していくオプションで、要不要を選択できます。ただし特約は単独で契約することはできません。主契約とセットで契約する必要があります。以下では「主契約で補償される範囲」と「保険料の決まり方」について解説します。

主契約で補償される範囲

主契約で補償される範囲は、以下の通りです。

1. 火災、落雷、破裂・爆発
2. 風災、雹(ひょう)災、雪災

・火災

火事による災害のことです。一番イメージしやすいものではないでしょうか。

・落雷

落雷により被害を受けた場合を指します。例えば落雷によりインターネット回線に被害を受けた場合などが該当します。

・破裂・爆発

ガス管が破裂した場合などがこれに該当します。

・風災

台風による被害などがこれに該当します。

・雹(ひょう)災

雹(ひょう)による被害のことです。

・雪災

雪による被害のことです。

このように火災保険の主契約だけでも火災以外の災害についても補償されることが分かります。注目したい点は、1は地域に関係なくどこでも発生する可能性があるのに対し、2は地域により発生確率が違うということです。地域によっては全く必要ないように思われる補償まで主契約(基本補償)に入っている可能性があります。

保険料の決まり方

費用となる保険料は「所在地」「構造」「用途」などによって決まります。

・所在地

物件のある場所(住所とほぼ同じです)のことです。上述したように主契約で補償されている範囲は、地域によって発生確率が異なります。例えば「九州では台風の被害を受けやすく風災リスクが高い」「北海道や日本海側では雪が多く雪災のリスクが高い」などが特徴です。また自然災害のリスクが高くなくても例えば東京などの都心部では住宅が密集しているため、火災(もらい火を含む)リスクが高いといえます。

・構造

保険の対象となる建物の柱が何でできているかというものです。木造や鉄骨造、鉄筋コンクリート造などがあります。火災保険の場合「H構造(非耐火構造)」「T構造(耐熱構造)」「M構造(マンション構造)」に分けられます。例えば一般的な木造はH構造に分類されますが、準耐火建築物に分類できる木造はT構造です。

同じ構造(素材)であっても仕様によって分類が変わる場合もあります。

・用途

保険の対象となる建物がどのように利用されているかということです。用途の分類は「住居物件」「一般物件」の2つに分かれます。住居物件とは住居専用の共同住宅や戸建住宅のことです。一般物件とは、住居物件以外の店舗のみの建物や店舗併用住宅を指します。

以上のような形でリスクの大きさを分類し保険料が決められます。当然のことながらリスクが高いほうが保険料は高くなる傾向です。

押さえておきたい特約とは?

主契約だけで欲しい補償を手に入れられるなら特約を付帯する必要はありません。「費用を抑えるために特約を付けない」という人もいるかもしれませんが、万が一の際を考えると特約を付けておいたほうが良いこともあります。以下では、押さえておきたい特約について解説します。

家賃収入補償特約

火災保険の主契約(基本補償)に該当する災害によって建物を修繕する必要が出た場合、当該建物に掛かる修繕の費用は主契約で補償されます。修繕の間、家賃収入に損失が生じた場合、その家賃収入を補償してくれる特約です。

家主費用特約

建物内で孤独死や自殺などがあった場合、原状回復費用や遺品整理費用などが発生します。また次の入居者が決まらない間は、その分は家主が負担することが必要です。入居者が決まった場合でも家賃を減額しなければならない場合は、その費用を家主が負担することになります。家主費用特約は、このような家主が負担しなければならない費用について補償してくれる特約です。

施設賠償責任特約

建物の管理不備が原因で人にケガを負わせたり物を壊したりした場合、(損害)賠償責任が発生します。例えば以下のようなケースが該当しその際に損害賠償金や争訟費用などを補償してくれる特約です。

* 建物のメンテナンスを怠ったために外壁や瓦などが崩落して通行人にケガを負わせてしまった
* 給排水管のメンテナンスを怠ったために水漏れが発生し入居者の家財などに被害を与えたなど

建物電気的・機械的事故補償特約

建物に取り付けられた機械設備が故障した場合に修理費用や交換費用を補償してくれる特約です。故障といっても耐用年数(寿命)を超えたことによる故障ではなく、過電流などを原因とした故障をいいます。エレベーターや大型給水ポンプが設置されているような場合には、故障時の費用も多額になるため、付帯しておいたほうが良いでしょう。太陽光発電設備も補償の対象となります。

火災保険の注意点

火災保険の重要性はしっかりと理解できたでしょうか。火災保険には、以下のような注意点もあります。

* 補償されそうでされないものがある
* 補償内容と保険料のバランスを取る

補償されそうでされないものがある

火災保険に加入していれば火災(主契約)や水災(特約)については心配ないと感じるかもしれません。しかし火災や水災でも発生原因が地震による場合は補償されないため注意が必要です。例えば火災が発生したとします。一般的に、これは火災保険の補償範囲です。しかし火災の発生原因が地震だった場合、被害を受けても火災保険の補償範囲ではなく、地震保険の補償範囲となります。

もう一つ例を挙げてみましょう。火災保険には水災を補償する特約があります。水災とは、例えば台風や大雨による土砂災害のことです。水災の特約を追加しておけば台風による土砂崩れによって被害を受けたとしても火災保険で補償してもらうことができます。しかし同じ土砂崩れでも発生原因が地震だった場合、火災保険では補償されません。この場合も地震保険の補償範囲となるのです。

補償内容と保険料のバランスを取る

不動産投資の中で火災保険を単なる“費用”として捉えている人もいるのではないでしょうか。そのような人は、費用はできるだけ抑えたほうが良いと考え補償内容が薄くなっている可能性があります。しかし万が一の場合、収益に大きく影響を与えてしまうことも覚悟しておくことが必要です。この点で火災保険には加入しておいたほうが賢明といえます。

一方、万が一に備えすぎてあれもこれも保険に加入している人もいるかもしれません。しかし入ったら入った分だけ補償が受けられるわけではありません。火災保険の場合、保険金額の算出は「再調達価格」が基準となります。再調達価格とは、もう一度同じ建物を建てたらいくら掛かるかというものです。そのため2社の保険に加入したからといって2倍の保険金を受け取れるわけではありません。

つまり補償範囲が重複している場合は、保険料の払い過ぎとなるため、保険内容を見直す必要があります。

まとめ

火災保険は、保険の中でもあまり注目されていない商品ですが、非常に重要な役割を担っています。特に不動産投資においては、特約を追加することによってさまざまなリスクに対応することが可能です。もちろん補償されないものもありますが、補償されない内容が理解できていれば別の対応策を講じることができます。例えば地震保険に加入しておくことは、対応策の一つです。

「保険の不足」「過剰な加入」には注意が必要です。万が一の場合に補償が受けられなかったら収支が一気に悪化してしまう恐れがあります。反対に保険に多く入りすぎていた場合、保険金額は変わらないのに保険料だけ多く支払っていることになり、こちらも収支の悪化の原因となりかねません。「抜け」「漏れ」「重複」がないように加入することが肝要です。

以上の点を参考に火災保険について一度見直してみてはいかがでしょうか。