丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

富裕層向けの資産運用として知られているのが「ファンドラップ」です。ファンドラップは、顧客とともに作り上げるオーダーメイドの投資商品として富裕層が利用しています。しかし具体的に「どのような仕組みで運用され、どの程度の顧客が収益を得ているのか」について理解している人は少ないのではないでしょうか。そこで本記事では、ファンドラップの概要やメリット・デメリットを紹介します。

ファンドラップとは何か

ファンドラップとは、顧客に資産運用に関するヒアリングを行い顧客にあった資産運用のスタイルを提案しプロが運用するサービスのことです。一般的に投資一任契約を締結し、契約に基づいて運用が行われ、定期的に運用報告がなされ、必要に応じて契約内容の見直しも行われます。最低預入金額は、大手証券の場合、大和証券の「ダイワファンドラップ」とSMBC日興証券の「日興ファンドラップ」が300万円です。

また野村證券の「野村ファンドラップ」が500万円となっています。ファンドラップの中には「スタンダードコース」と「プレミアムコース」を設定している金融機関もあり、両者の違いは最低預入金額の差と運用方法です。スタンダードコースは「インデックスファンド」で市場指数に連動した運用成果を目指します。

一方で、プレミアムコースは「アクティブファンド」で市場指数を上回る運用成果を目指すのが特徴です。またプレミアムコースに、相場の上昇局面だけでなく下落局面で売ることによって利益があげられる「ヘッジファンド」を入れる金融機関もあります。ヘッジファンドを入れることによって、より収益をあげる機会が多くなるでしょう。

ファンドラップは、近年急速に契約数を伸ばしており2019年末時点、業界全体で約9兆6,818億円の契約資産残高に拡大しています。

ファンドラップの基本は国際分散投資

ファンドラップの基本的な資産運用方法は「国内株式」「国内債券」「外国株式」「外国債券」「REIT(不動産投資信託)」などに投資する国際分散投資です。国内株式、国内債券、外国株式、外国債券に分けて保有するのは分散投資の基本で、年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のポートフォリオも分散投資の基本に沿っています。

2020年9月末のポートフォリオの比率は、国内債券26.61%、外国株式25.88%、国内株式24.06%、外国債券23.46%の順です。このポートフォリオによる2020年度第2四半期の期間収益率は+3.05%で4兆9,237億円の収益をあげています。国際分散投資の有効性が証明された形です。ファンドラップの運用期間は、長期投資が基本で運用期間が長いほどリスクが小さくなります。

りそな銀行が長期運用の効果(2003年3月末~2020年7月末)を調査したところによると、1年間の運用では変動幅が-41%~+45%と大きい傾向です。しかし5年間の運用では-7%~+16%と変動幅が小さくなっています。さらに10年間運用すると+3~+11%のプラス運用に転じ「マイナスになることはない」という注目すべき結果でした。

ファンドラップのメリット

ファンドラップのメリットは、通常の個別株投資や投資信託のように自分で銘柄を選んで買付する手間がかからないことです。通常投資する場合は、個別株なら投資したい会社の決算書を読み込むことや投資信託なら目論見書を分析して「どのような銘柄が組み込まれているか」についてチェックする必要があります。

会社員など忙しい人にとってファンドラップは、調査や発注の手間がない分時間を節約することが期待できるでしょう。またプロに資産運用を一任できることも大きなメリットの一つです。最初に行われるヒアリングで自分の投資や資産運用に対する方針や希望を伝えればそれにふさわしいポートフォリオをプロが組み立てて運用してくれます。

まったくの一任ではなく自分の投資方針に沿ってくれる点がファンドラップの魅力です。資金は、豊富にあるが投資の経験がない人に向いている商品といえるでしょう。

ファンドラップのデメリット

ファンドラップのデメリットは、手数料が高いことです。ファンドラップ手数料のほかにも以下に紹介するようにさまざまな費用が発生します。仮に合計の手数料が年率2%の場合、5%の運用益をあげても手取り収益は3%に下落。運用益が3%の場合では、「手取り収益よりも手数料のほうが多い」という逆転現象が起こります。

また先述したように最低預入金額が300万円以上の金融機関が多い傾向のため、富裕層以外の利用は難しい点もデメリットの一つです。さらにより一層高い利益をあげるプレミアムコースなどに申し込むには、最低預入金額が500万円以上必要になります。

ファンドラップの手数料ってどれくらい?

ファンドラップの手数料は、金融機関が独自に設定しているため、水準に幅があります。SMBC日興証券の「日興ファンドラップ」の例では、以下の表のように定められています。(年率・税込)

計算対象資産額 ファンドラップ手数料 投資一任報酬 合計
5,000万円以下の部分 0.9900% 0.3300% 1.3200%
5,000万円超1億円以下の部分 0.7700% 0.2750% 1.0450%
1億円超3億円以下の部分 0.5500% 0.2200% 0.7700%
3億円超5億円以下の部分 0.3300% 0.1650% 0.4950%
5億円超10億円以下の部分 0.2200% 0.1375% 0.3575%
10億円超の部分 0.1100% 0.1100% 0.2200%

このほかに組み入れた投資対象ファンドごとに管理報酬(信託報酬)やその他費用が発生します。合計するとかなり高い手数料になる点は押さえておきましょう。ただしファンドラップ手数料は、資産評価額によって計算されるため、運用における個々の売買手数料はかからないのが一般的です。

ファンドラップで利益が出ている人の割合は?

では、高い手数料を払ってファンドラップで運用した結果、利益が出ている人はどれくらいいるのでしょうか。金融庁が発表した「販売会社における比較可能な共通KPIの傾向分析」によると社名があがっている13社の利益が出ている人と損失が出ている人の割合は以下の表の通りです。(2018年3月末現在)

順位 金融機関名 利益が出ている割合 損失が出ている割合
1 三菱UFJ信託銀行 80% 20%
1 大和証券 80% 20%
3 GAIA 73% 27%
4 SMBC日興証券 70% 30%
5 埼玉りそな銀行 67% 33%
6 りそな銀行 64% 36%
7 近畿大阪銀行 55% 45%
8 楽天証券 54% 46%
9 東海東京証券 53% 47%
9 水戸証券 53% 47%
11 ほくほくTT証券 52% 48%
12 みずほ証券 48% 52%
13 三井住友信託銀行 43% 57%
平均 60.92% 39.08%

参考:金融庁「販売会社における比較可能な共通KPIの傾向分析」

高い手数料を取るだけあり「11社まで利益を得ている顧客のほうが多い」という結果になっています。平均すると利益を得ている顧客の割合は約60%なので利益を得られる確率が高いのは事実のようです。富裕層向けの資産運用商品として利用者が増えているファンドラップですが、上表のようにすべての顧客に運用益が出ているわけではない点は押さえておきましょう。

それでも相場の流れに左右されないのはファンドラップによる一任契約の強みです。もし自分で運用していると相場が急落しているときに不安になって投げ売りすれば損失が確定してしまいます。2020年に起きたコロナショックの暴落相場ではファンドラップの運用成績も一時的に悪化しました。しかしその後の急反騰により株価の上昇とともに運用成績も改善したものと推測できます。

このようにファンドラップは、自分の判断で見切り売りしないことで損失を回避できるメリットがあるのです。運用期間が長くなるほどリスクも小さくなっていきます。長期投資で落ち着いて投資したい富裕層には検討の余地がある商品といえるのではないでしょうか。