新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFPR、一級FP技能士(資産運用)、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン住宅購入のアドバイス)の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

2020年の世界株式市場は、新型コロナウイルス感染拡大と主要国政府と中央銀行の大規模な景気対策の実行を受け、急落後に急速に回復するなど類を見ない歴史的な乱高下の展開となりました。またその後の展開についても今なお予測のつかない状況が続いています。そのため、この機会に株式投資を行う際の尺度について改めて整理しておくことは、今後の株式投資を進めていくうえでも重要です。

投資指標について

株式投資における伝統的な指標投資が「PER」「PBR」です。この指標の内容を理解しておくことは、株式投資における基本ともいえます。

PER(株価収益率)

PER(株価収益率)とは「株価がその企業の1株あたり当期純利益の何倍に当たるか」を示したものです。「株価が妥当な水準であるか」を企業の収益力から判断する指標となります。一般的にPERの値が大きいほどその企業の株価は収益力から見て割高とされ、逆に値が小さいほど割安とされる傾向です。「割高株」や「割安株」という言葉をよく耳にする人も多いのではないでしょうか。

これらは、この指標に基づいた言葉として使われています。ただPERの水準については、業種ごとに大きく異なることが多いため、数値だけを見るのではなく「同業種内で比較する」「企業ごとに過去の株価や業績、PERの流れを見る」ということも行い、現在の株価を最終的に判断することが重要です。PERは、以下の計算式によって求めることができます。

・PER(株価収益率)=株価÷EPS(1株あたり純利益)

PBR(株価純資産倍率)

PBR(株価純資産倍率)とは、「株価がその企業の1株あたり純資産の何倍になっているか」を示したものです。株価の妥当な水準を企業の簿価ベースの純資産から判断する指標となります。一般的には、株価の下値を判断する際に用いられることが多くPBRが1.0倍、つまり株価が1株あたりの純資産と同額まで下落した状態が下値の目安です。PBRを求める際の計算式は、以下の通りです。

・PBR(株価純資産倍率)=株価÷(BPS)1株あたり純資産

PERおよびPBRの推移と国際比較

日本においては、1980年代に長期的な株価上昇を迎えました。その後、1985年9月の「プラザ合意」に伴い為替市場におけるドル安(円高)が急速に進み、不況が懸念されたことにより日本銀行が低金利政策を打ち出したのです。

その結果、株式や不動産などで資産価格が高騰し国内の株式におけるPERおよびPBRは国際的に比較しても相当な割高水準まで上昇する結果となりました。これがバブル景気といわれるものです。また株価は、1989年末における日経平均株価の市場最高値をピークに下落に転じ、その後バブル景気は崩壊することとなりました。

その後、株価については長期低落傾向をたどり国内株式のPERおよびPBRについては徐々に低下しています。2020年11月のPERを見ると日本は先進国そして全世界の水準と比べても低い値です。またPBRについても同様な状況ということが分かります。このことは、日本の企業が先進国に比べて自己資本を有効的に活用できていない状況が続いていることの表れともいえるでしょう。

ROE(自己資本利益率)とは?

バブル景気崩壊後、投資指標として注目を集めているものがROEです。ROE(自己資本利益率)とは、PERやPBRなどの株価に基づく指標とは異なり、その企業の自己資本に対する収益力を見ることで投資対象としての適否を判断する指標となっています。また自己資本利益率が高いほど自己資本を効率よく使って利益を上げている企業といえるため、投資対象として魅力的といえるでしょう。

なおここで用いる自己資本については、期中の変動を考慮し期首と期末の平均値を使用するのが一般的です。ROEは以下の計算式で求めることができます。

・ROE(自己資本利益率)=(当期純利益÷自己資本)×100

ROEは、バブル景気が崩壊した後の1990年代半ばから注目されるようになりました。さらに2012年12月に発足した第2次安部政権の成長戦略における一環として2014年8月に最終報告書が発表された「『持続的成長における競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」(伊藤レポート)でも目標が掲げられています。

「グローバル水準のROEの達成」が目標として掲げられたことで、多くの国内企業が重要視する経営指標としてROEを掲げ、「ROE8%以上」を目標値として設定することとなりました。

ROEの現状とその向上策

2019年11月に経済産業政策局産業資金課が発表した「事務局説明資料」を見ると、2018年における日本の主要企業のROE については9.4%と目標を達成しています。しかし米国(18.4%)、ヨーロッパ(11.9%)の水準を下回っていることが分かるでしょう。またROEを「売上高純利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ(自己資本比率の逆数)」の3つの構成要素に分解することも必要です。

国内主要企業のROEが米国やヨーロッパ諸国と比べて低い主な要因として、「売上高純利益率」の低さを挙げることができます。売上高純利益率や総資産回転率、財務レバレッジを求めるには以下の計算式を用います。

* 売上高純利益率=当期純利益÷売上高
* 総資産回転率=売上高÷総資産
* 財務レバレッジ=総資産÷自己資本

またROEの分解については以下の式で求めることができます。

・ROE=売上高純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ

つまりROEを高めるためには「コストの削減」や企業の合併、買収「M&A」、「有効な設備投資」を行うことにより上述した分解式の中の分子にある当期純利益を高めることが必要です。さらに「配当金の増額」「自社株買いの実施」などにより分解式の分母にある自己資本を減少させることができ、それによる株主還元の強化も有効策ということができます。

長期的視点における企業価値評価向上の重要性

ここまで述べてきたPERやPBR、ROEの計算式を見ることで、それぞれの関係については以下の式で表すことができます。

・PBR(株価÷1株あたり純資産)=PER(株価÷1株当たり純利益)×ROE(1株当たり純利益÷1株当たり純資産

日本企業においては、米国やドイツの企業と比較するとPERについてはさほど遜色はないものの、PBRとROEを見ると特に米国の企業と大きな差があることが分かります。またPBRの水準が低い主な理由としてROEの水準が低いことも挙げられるでしょう。この状態を改善するには、売上高純利益率を向上させることが必要で、そのためには「稼ぐ力」を高める努力が必須です。

例えば、配当の増加や自社株買いなどにより自己資本を減少させるなどの施策を取ることでROEを向上させることができれば、その結果としてPBRが向上します。最終的な株価の上昇につなげることができるでしょう。今後の株式投資における企業判断については、「その株価がすでに高いROEを織り込んでいる可能性」をまず考えることが必要です。

さらに今回の新型コロナウイルス感染拡大において、企業が「高水準のROEを安定的かつ長期間維持するのは難しい」という現実も考慮しておかなければなりません。また長期的な観点から「企業が継続的にROEの向上に取り組んでいるか」についても注意し最終的な評価を行うことが有効策といえるでしょう。