吉田謙太郎
宅建士・不動産投資家・ライター|筑波大学卒業後、大手不動産会社にて投資用不動産の売買および賃貸営業・投資家へのコンサルティング・自社メディアでの記事執筆などを行う。自身でも社会人1年目(22歳)から不動産投資をしており、横浜市・大阪市・神戸市に区分マンションを4戸運用中(2021年11月現在)。保有資格は宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者。(I列)

不動産投資において投資判断をする材料としては、立地や間取り、利回りなど多くの情報を複合的に勘案することが必要です。投資判断に必要な情報の多くは、「マイソク」と呼ばれる1枚の紙面にまとめて記載されています。投資物件の判断はマイソクを見ることから始まるといえるでしょう。

本記事では、物件の投資判断を迅速にできるようにするための「マイソクチェックポイント」を5つの観点から解説します。

マイソクとは?

マイソクとは、物件の外観および室内の写真や所在地、間取り図といった情報を1枚にまとめた紙面で、物件のプロフィールとなる情報がコンパクトにまとめられています。不動産業者からの物件紹介やネットへの掲載には、マイソクを多く用いています。そのため不動産業界における重要な共通言語ともいえるでしょう。

物件を即断するためにはマイソクを読みこむことが必要

物件情報を得てから実際に現地を訪問し購入の検討に入るまでの一般的なステップは以下の通りです。

* 数十枚ないし数百枚以上のマイソクを見て投資検討の余地がある物件を絞り込む
* 絞り込んだ物件のマイソクおよび補足資料を詳細に熟慮する
* 詳細検討の結果、現地訪問する物件を絞り込む
* 現地訪問の結果を踏まえて買い付けを入れるか検討する

投資物件を検討するに当たって最初に目にするのは、物件の実物よりも同物件のマイソクである場合が圧倒的に多い傾向です。不動産投資で優良な物件を購入するためには、1件の購入に対して数百件以上のマイソクを読むこともあります。その中で実際に現地訪問に至るのは1割以下であることも。

不動産投資は、早い者勝ちの情報戦となる側面が非常に強いため、判断が遅れると他の投資家に先を越されてしまいます。優良な物件に出会ったときに即断できる投資家になれるよう、マイソクのチェックポイントをつかんでおくことが得策です。

物件を即断するためのマイソクチェックポイント5選

マイソクには、物件の核となる重要な情報から投資判断に大きな影響を与えないささいな情報まで幅広く散りばめられています。数多ある情報の中で、物件を即断するために必要といえる主なチェックポイントは以下の5つです。

■ 物件所在地
■ 築年数
■ 入居状況
■ 固定費
■ 現状利回り

物件所在地

物件所在地を見る際は、物件の住所のみならず最寄り駅および主要駅までの所要時間や周辺の住環境まで視野を広げるようにしましょう。物件所在地を見て以下3つのいずれかに該当する場合は、他の情報を見るまでもなく投資候補から除外することもあり得ます。

・ 人口が少なく今後も縮小していくと考えられる
・ 最寄り駅までのアクセスが著しく悪い
・ 周辺が住環境に適していない

不動産投資は、借り手や買い手がいなければ成立しない投資のため、「賃貸需要が少なく貸し出すことが困難」「売却する際に買い手が見つけにくいことが予測されるエリアにある」といった物件は、投資を即断で見送るのが得策です。

築年数

築年数は、以下3つの要素を判断するのに役立つ指標です。

・ 耐震性の基準
・ 住戸内および共用部の設備状況
・ 修繕積立金の値上がり(区分マンションの場合)

耐震性とは「建物がどの程度の規模の地震に耐えられるか」を表す指標です。旧耐震基準(1981年5月31日以前の耐震基準)と新耐震基準(1981年6月1日以降の耐震基準)に分かれます。旧耐震基準の物件は、大規模な地震がいつ発生してもおかしくない日本においては十分な耐震性を備えているとは言い難いでしょう。

築年数が経過しているほど、住戸内および共用部の設備には古いものが使われていたり劣化が進んでいたりする傾向があるため、購入後に大規模な設備交換や修繕が必要になる可能性が高くなります。区分マンションにおいては、築年数とともに修繕積立金が値上がりを続け築年数が経過している物件ほど修繕積立金が高額となるのが一般的です。

修繕積立金が値上がりした分だけ毎月の固定費が増大しキャッシュフローの悪化につながる可能性が高くなります。「築年数が経過している」という理由のみで投資の見送りを即断することはありませんが、「耐震性の問題や修繕リスクに関係している」という認識は持っておきましょう。

入居状況

入居状況とは、売り出されているタイミングで賃借人がいるか否かです。賃借人がいない場合は、マイソクに「空室」という記載があることが多いため、容易に確認できます。賃借人がいる状態で物件を購入すれば購入直後から賃料収入が得られますが、空室の状態だと賃料収入が得られないため、固定費のみがかかり最初から赤字スタートというケースもあり得るでしょう。

さらに、入居付けのための費用を負担しなければならなくないケースもあります。入居付けのための費用として仲介会社への広告費(成約賃料の1~2ヵ月分)および管理会社への契約事務手数料(成約賃料の0.5~1ヵ月分)があり、賃借人が決まったタイミングで高いケースでは成約賃料の3ヵ月分を支払う可能性があるのです。

検討している物件が空室の状態で売りに出されている場合、売主側が売り急いで弱気になっていることもあり、価格交渉をして安く購入できる可能性があります。そのため空室の状態の場合でも投資の見送りを即断せず、空室期間中の逸失賃料および入居付けのための費用を試算して価格交渉の材料にすることも選択肢の一つでしょう。

固定費

不動産賃貸業における固定費には、以下のような費用が挙げられます。

・ 税金(固定資産税および都市計画税)
・ 町内会費
・ 賃貸管理会社への管理委託料
・ 共用部の水道光熱費(一棟物件の場合)
・ 管理費および修繕積立金(区分マンションの場合)

固定費の多くは、マイソクに記載があるのが通例ですが、細かいものについては記載がないこともあるため、売主側に事前確認しておくと安心です。固定費は、いずれも賃料収入から賄わなければキャッシュフローが赤字になってしまうおそれがあります。そのため金額が小さい場合でも購入前の資金計画に発生頻度と発生金額をシミュレーションしておく必要があるでしょう。

固定費の中でも区分マンションにおける管理費および修繕積立金は、賃料収入に占める割合が高くなる傾向があります。割高になると毎月のキャッシュフローを圧迫する可能性が高いため、投資の見送りを即断するのも一つの手です。

現状利回り

投資物件のマイソクには多くの場合、現状利回りの記載があります。物件を即断するうえで現状利回りを確認する意義として以下の2つが挙げられます。

・ 投資としてのパフォーマンスをはかる
・ 周辺の利回り相場から乖離していないかをチェックする

利回りとは「投資した資金に対して毎年どの程度の割合でリターンが得られるか」を示す数値のこと。不動産投資に限らず当該投資商品のパフォーマンスを判断する際の最も重要な基準の一つです。不動産投資における現状利回りとは「年間賃料収入を売出価格で割ったパーセンテージで物件価格を年間賃料収入の何年分で回収できるか」を表します。

マイソクに記載されている現状利回りは、表面利回りとなっているケースが多い傾向です。そのため利回りの高さを判断する際は、固定費を加味した実質利回りを基準にするほうが得策でしょう。実質利回りとは、賃料収入から固定費を差し引いた利回りのことです。表面利回りよりも投資の実情に即した数値といえるでしょう。

不動産投資の利回りは、エリアによって一定の相場があり周辺相場から大きく乖離している物件には注意が必要です。現状利回りが相場よりも高く乖離している場合は、現行賃料が高すぎる可能性があります。また同賃料水準で資金計画を組むと後々賃料が相場通りになった際、資金ショートするリスクもあるのです。

現状利回りが相場よりも低く乖離している場合は、物件の売出価格が高すぎる可能性があり提示通りの価格で購入すると売却時に大きな売却損が出るリスクがあります。利回りは、投資において最も重要な判断基準の一つのため、現状利回りを精査する際は「周辺相場との乖離がないか」について入念に確認しましょう。

投資物件選びはマイソクから

物件購入までに数百枚のマイソクを見て投資に値する物件を厳選する場合があります。マイソクから瞬時に必要な情報を抽出できる能力は、迅速かつ適切な投資判断をすることに大きく寄与する能力のため、マイソクでチェックすべきポイントを把握しておくことが重要といえるでしょう。