武井利明
住宅メーカーに約20年営業職で勤務。現在は住宅専門ライターとして住まいの選び方、土地の選び方、ローンを含めた資金計画、プラン、メーカー比較、リフォームなど、幅広いテーマで多数のメディアに執筆。人気動画サイトの住宅系動画脚本なども手がける。営業マン時代に培った知識と経験を生かし、これから家を建てる方の悩みや疑問、不安を解決する記事を得意としている。

不動産投資の賃貸物件でかかる諸費用を経費計上すれば、節税になることをご存じでしょうか。せっかく得た収益をできるだけ残すためにも、経費計上できる諸費用は丁寧にチェックして確実に計上できるようにおきましょう。

物件購入時にかかる諸費用

はじめに物件購入時にかかる諸費用を紹介します。聞き慣れない言葉も多いかもしれませんが、どれも基本的な費用のため、漏れがないように準備しましょう。

不動産仲介手数料

物件購入時に仲介してくれた不動産会社へ支払う手数料です。法定で上限額が決められています。

印紙税

売買契約書に貼り付けて納める税金です。

所有権移転登記費用

所有権を自分に移してもらうための費用です。主に登録免許税と手続きを司法書士へ依頼する場合は司法書士報酬がかかりすべて含めることができます。

固定資産税精算金

毎年1月1日時点で不動産を所有している売り主には、その年分の固定資産税が請求されています。そのため物件を引渡後の固定資産税を日割りで売主に支払うことが不動産業界の慣例です。都市部や住宅地ではインフラなどを整備するための都市計画税も加わります。

融資諸費用

融資を受けて物件を購入する際は、以下のような融資の諸費用がかかります。

・事務手数料

金融機関に支払う手数料で数万~数十万円と借入先によって金額に幅があります。

・印紙税

金融機関と締結する金銭消費貸借契約書に貼って支払う税金です。

・保証料

申込人が支払いをできなくなったときに立て替えをする保証会社へ支払う費用です。借入額や期間によって異なり大きな金額になることもあります。

・抵当権設定登記費用

購入した物件に融資の抵当権を設定するときの費用です。登録免許税や司法書士報酬を合わせた金額になります。

・団体信用生命保険料

申込人が亡くなったり高度障害を負ったりしたときに融資残金を保険金で相殺することができる団体信用生命保険の保険料です。借入時にまとめて現金で払う方法と借入金利に上乗せする方法があります。

火災保険料

物件の火災被害などを補償してもらうための保険料で融資を受けるには加入が必要です。基本的には、現金購入なら任意ですが融資を受ける場合、購入の条件としているものもあります。

不動産取得税

不動産の評価額に応じて購入時に1回だけ課税されます。

経費計上できる購入時の諸費用

以下の諸費用は、経費として計上することが可能です。賃貸収益から差し引くことで不動産所得にかかる所得税と住民税を軽減できます。

* 印紙税
* 所有権移転登記費用
* 融資の事務手数料
* 融資の保証料(借入期間分の保証料を一括払いした場合は、借入年数で分割し1年ごとに計上)
* 火災保険料(複数年分を一括払いした場合は、契約年数で分割し1年ごとに計上)
* 建物分の仲介手数料と固定資産税精算金(これらは土地と建物の両方にかかりますが建物分は建物金額に算入して毎年の減価償却費として経費計上可能)

物件所有中にかかる諸費用

賃貸物件を所有している間にかかる諸費用には、以下のようなものがあります。

管理費

物件の日常的な清掃や簡単な修理といった維持管理のために毎月集金される費用です。

修繕積立金

将来に建物共用部の劣化や破損を修繕するために積み立てる資金で各部屋の所有者から定期的に集めます。屋根や外壁、共用部の廊下や階段、エントランスなどの修繕に使われます。

管理委託手数料

入居者の契約や家賃の集金、クレーム対応などを委託する管理会社へ払う手数料です。

入居者募集費

物件が空室になったら新たな入居者を募集するため、管理会社や不動産会社に宣伝広告などをしてもらうための費用です。

融資金利

融資の支払いに含まれる金利も諸費用になります。

建物修繕費

物件の専有部分の修繕や交換をするための費用で、内装の張り替え、水回りや電気設備の修理交換などが考えられます。

火災保険料

購入時に保険料の年払いを選択している場合は、毎年支払うことになります。

減価償却費

建物は、年々劣化し価値が減少していくため、その減損分を減価償却費として毎年経費計上できます。

固定資産税・都市計画税

不動産を所有すると毎年固定資産税と地域によっては都市計画税が課税されます。建物分は、劣化により年々評価が下がるため、3年ごとに減額するのが一般的です。

所得税・住民税

不動産投資で収益が発生した場合は、所得税と住民税が課税されます。

経費計上できる所有中の諸費用

所有中に経費計上できる諸費用は、以下の通りです。減価償却費は、実際に現金が出費されるわけではありませんが忘れないように計上しましょう。

* 管理費
* 修繕積立金
* 管理委託手数料
* 入居者募集費
* 融資金利
* 建物修繕費
* 火災保険料(保険料が複数年一括払いの場合、契約年数で分割した当該年分が計上可能)
* 減価償却費
* 固定資産税

物件売却時にかかる諸費用

所有している物件を売却するときは、以下のような諸費用がかかります。

不動産仲介手数料

売却を仲介した不動産業者に支払う手数料でこの場合も法定の上限額が決まっています。

印紙税

売買契約書に貼って納める税金です。

抵当権抹消登記費用

売却時、物件に抵当権が設定されている場合は抹消するための登記費用が必要です。

金融機関への一括返済手数料

売却時点で融資を一括返済するために金融機関でかかる手数料です。

所得税・住民税

売却額から購入金額や諸費用を差し引き売却益が発生すると所得税と住民税が課税されます。物件の所有期間が5年を超えると長期譲渡所得、5年以下だと短期譲渡所得の税率になります。

経費計上できる物件売却時の諸費用

物件売却時の諸費用では、以下のものが経費計上できます。

・不動産仲介手数料
物件購入時の手数料と異なり分割せず売却益から差し引くことができます。
・印紙税

注意点

購入時は、所有権移転登記費用が経費計上できましたが売却時の抵当権抹消登記費用は経費計上できません。抵当権抹消は、あくまで融資完済の手続きとなり「直接売却にかかる費用ではない」と判断されるからです。

利益を最大化させるための諸費用ポイント

いくら経費計上できる諸費用があったとしても結局は出費のため、はじめから諸費用がかからないに越したことはありません。そこで諸費用を抑えるためのポイントを紹介します。

税金と融資利息の対策

諸費用の中で金額が大きいものは融資利息と税金です。これらは、何年もかかり続けるため累積すると非常に大きな金額になります。所得税や住民税に関しては、今回解説している経費計上によって軽減が可能です。また融資利息は借入額が大きいほど多くを支払うため、借入時にわずかでも金利の低い金融機関を選ぶと良いでしょう。

状態が良ければ修繕費が抑えられる

修繕費も所有中の諸費用で大きな金額になりがちです。建物の状態によっては、大がかりな修繕やリフォームが必要なこともあります。そのため購入の際はしっかりと劣化状態を確かめてできるだけ程度の良い物件を選ぶようにしましょう。

空室になりにくい物件を選ぶ

物件が空室になると新たな入居者を集めるため、管理会社や不動産会社へ入居者募集費用を支払うことになります。例えば「チラシを作り配布する費用」「情報サイトや情報誌に掲載する費用」「入居者が見つかったら支払う仲介手数料」などです。しかしこれらの費用を削ってしまうと入居者が見つかりにくくなり、家賃収入が長く途絶えてしまうことになりかねません。

そのためできるだけ空室になりにくい物件を選ぶことが入居者募集費用を抑えることにつながります。都心のような賃貸需要の落ちにくいエリアの物件を選んだり中古ならあまりにも状態が悪い物件を避けたりすると良いでしょう。

諸費用は漏れがないように

はじめて投資物件を購入する人にとって諸費用は複雑で分かりにくく感じるものかもしれません。しかし一度経験してしまえばすぐに覚えられるものがほとんどです。大切なのは予算を立てるときに漏れがないようにし経費として扱えるものは確実に計上すること。諸費用は、不動産会社や管理会社から言われるがままに支払うのではなく自分自身でも理解し収益をしっかりと確保するようにしましょう。