ウエダFPオフィス代表
CFPR、福祉住環境コーディネーター
家電メーカーに37年間勤務。2018年まで大阪府立職業訓練校でマーケティングの講師を担当。FPとしての専門領域はリタイアメントプラン、高齢者のマネープラン・資金運用、給与所得者の税務知識(副業・給与所得特定支出控除)、介護・福祉のしくみと利用法、高齢者の住まいと介護施設など。日本FP協会兵庫支部幹事を務める。
「空前のお金余りの時代」といわれています。コロナ禍のため、世界中で財政支出として市場に出たお金の行き場がなく、株式市場へ集中している感がある人もいるのではないでしょうか。少し前までは、国内債券が安定運用の本命でしたが、今回は少しリスクのある外国債券を解説します。
運用資産としての債券
債券には「国債」「地方債」「公共債」「社債」といった種類があります。2012年ごろまでは10年物国債は、日本でも年利1%を上回っていました。2021年3月11日9時59分時点の10年物国債の利率は年0.131%、個人国債(固定5年・固定3年)は年率0.05%となっており金融機関のインセンティブが新規保有の動機になっている状況です。
民間企業の社債は多発行の傾向ですが、多くは株価連動の「仕組み債」のため、万が一の際はハイリスクとなります。これが投資信託を除いた個別銘柄の金融商品が株式・REIT以外で外国債券に向かわざるを得ない背景です。外国債券は、投資信託の組み込み資産として多くの投資家がすでに間接保有しています。ここでは、外国債券について学んで個別銘柄保有や投資信託選択の際の知識としましょう。
外国債券の種類
外国債券はさまざまな区分や種類がありますが、ここでは日常の資産運用に必要な範囲の分類に留めておきます。
発行通貨による分類
外貨建て債券 | 単一通貨建て債 | 払い込み、利払い、償還が同じ通貨 | |
---|---|---|---|
二重通貨建て債 | デュアルカレンシー債 | 償還時の通貨が異なる | |
リバースデュアルカレンシー債 | 利子の受取通貨が異なる | ||
円貨建て債券 | 国内発行 | サムライ債:元利がすべて円貨で行われる、為替リスクなし | |
海外発行 | 海外で発行される円建て債:ユーロ円債 |
発行通貨による分類は、外貨建てと円貨建てに分かれます。円貨建ては、為替リスクがないため安心と感じる人も多いかもしれません。しかし発行主体が外国の法人や国のため、信用情報の入手が十分できない懸念があります。コロナ禍で海外の債券利率も下がったこともあり、サムライ債やユーロ円債の発行は少なくなっている傾向です。
そのため個人が保有するのは、外貨建て債の単一通貨建債や二重通貨建債になります。
単一通貨債
最も一般的な外国債で「払い込み」「利払い」「償還」がすべて同一通貨で行われます。現在発行されている主要な単一通貨債の発行通貨です。
米ドル | ユーロ | ポンド | 豪ドル |
NZドル | ブラジル・レアル | 南アランド | トルコ・リラ |
インド・ルピー | メキシコ・ペソ | ロシア・ルーブル |
発行元によって国債・地方公共団体債・公共機関債・民間社債・金融機関による金融債などがあります。各国の経済・通貨状況により金利と格付けが違ってくるのが最大のポイントです。
二重通貨建債
二重通貨建て債は、「デュアルカレンシー債」と「リバースデュアルカレンシー債」があります。デュアルカレンシー債は「払い込み」「利払い」が同じ通貨で、償還通貨が違う債券です。例えば米ドルで払い込みをして償還時は豪ドルで受け取るようなケースです。払い込み後、為替変動があった場合は、償還時に思わぬ利益や損失が発生することもあります。
リバースデュアルカレンシー債は、「払い込み」「償還」が同じ通貨で、利払いが別の通貨となります。例えば「円で払い込みと償還を行い利払いは米ドル」といったケースです。
外貨決済と円貨決済
円貨建て債券を買う場合は、特に問題がありません。しかし外貨建債券を買う場合は「外貨で決済するか」「円貨で決済するか」によって為替手数料と為替の変動の影響があります。外貨建て決済の場合は、自分で円貨を外貨に交換して外貨建債券を買うことが必要です。常時外貨を保有している人にとっては、外貨決済はあまり苦にならないでしょう。
しかし多くの人にとってなじみやすいのは円貨決済といえます。円貨決済は、外貨建ての外国債の銘柄を決めた後、決済通貨の選択の際に円貨決済を選べば円貨での決済が可能です。取引日時の為替レートと所定の為替手数料が発生します。
新規発行債と既発債
債券には、新規発行債と既発債の2種類があります。新規発行債は、国内債も同じですが「発行体」「利率」「信用格付け」「払い込み年月日」「償還日」などが目論見書で明示され通常手数料はかかりません。ただし新規債の発行は経済・金融情勢の変化によって変わることも多く、発行体や条件によっては短期間に売り切れとなることもあります。
一方で既発債は、流通している外国債をネット上や証券会社の担当を介して探して買うことが必要です。購入可能な債券の銘柄や利回り、格付けなどは、確認することができます。しかし為替手数料や債券の購入手数料はあまり明示されず、手探りでの払い込みになることも少なくありません。そのため、新規債から始めるのが無難でしょう。
ただし新規債は少ないので既発債を小単位から始めることも選択肢の一つです。
外国債発行国の国債金利状況
外国債の最大のメリットは、国内金利と比べて利率が高いことです。各国の利率の基準になる10年物国債の利率を見てみましょう。
国名 | 通貨 | 利率 | 国 名 | 通貨 | 利率 |
---|---|---|---|---|---|
日本 | 円 | 0.12% | オーストラリア | 豪ドル | 1.67% |
米国 | 米ドル | 1.53% | ニュージーランド | NZドル | 1.71% |
カナダ | カナダドル | 1.41% | メキシコ | ペソ | 6.22% |
イギリス | ポンド | 0.71% | トルコ | リラ | 14.005% |
ドイツ | ユーロ | -0.32% | ブラジル | レアル | 8.58% |
※2021年3月10日時点
西欧先進国の低金利と発展途上の新興国の高金利が際立って比較できるのではないでしょうか。米国やオーストラリア、ニュージーランドの程良い利回りと安全性からの人気がうかがわれます。
外国債券のメリットとデメリット
外国債券のメリットは、国内金利と比較した場合の高金利であることは明らかです。しかし以下のようなデメリットもあります。
・ カントリーリスクがあること(高金利国は経済・政情ともに不安定な国も多く、思わぬ混乱から国債相場の激変もあり得る)
・ 個別銘柄として保有する場合の購入手順の煩雑さ
運用金融資産の中での位置づけ(ポートフォリオ)
外国債券は、先述の通りさまざまなリスクがある点がデメリットです。しかしGPIF(年金積立金管理運用独立法人)のポートフォリオにおける外国債券への資産配分は増加傾向となっています。個人投資家の運用分を含めたデータは入手不能ですが、公開されているGPIFのポートフォリオの推移を見てみましょう。
GPIFにおける外国債券の比率推移
期 間 | 外国債券 | 国内債券 | 国内株式 | 国外株式 |
---|---|---|---|---|
2020年~ | 25% | 25% | 25% | 25% |
2015年~2019年 | 15% | 35% | 25% | 25% |
2014年~2015年 | 15% | 35% | 25% | 25% |
2010年~2014年 | 11% | 60% | 12% | 12% |
2006年~2009年 | 8% | 67% | 11% | 9% |
2006~2014年は、国内債券(国債)の比率が60%以上と圧倒的に高いことが分かります。しかし2014年以降は国内債券の割合が35%と大きく低下。徐々に外国債券・国内株式・海外株式の比率が高まっている傾向です。2020年の見直しでは25%ずつとなりました。投資信託は、それぞれにテーマがあるため、外国債のウエイトがさらに高いファンドや低いファンドもあります。
しかしバランス型などでは、GPIF同様外国債券のウエイトが上がっているといえるでしょう。一方で個人投資家の外国債券の保有は、一部の専門知識の高い人に留まっている可能性があります。
外国債券の持ち方
投資信託
外国債券のインデックスファンドが各投信運用会社―金融機関(証券会社・銀行)から販売されているため、最も手軽な持ち方といえます。バランス型投資信託においても外国債券は相当の比率で組み込まれており、国別や通貨を見る際の参考になるのではないでしょうか。
個別銘柄保有
ネット証券に口座を持つ人は、新規債や既発債のどちらもネットで購入は可能です。手順は、やや面倒ですが、利払いと為替利益(損もありますが)の双方を得る楽しみもあるため、ぜひ一度挑戦してみてはいかがでしょうか。
まとめ
今後、日本の低金利はいつまで続くのか先行きはまったく分かりません。しかし物価は目に見えない形や統計をすり抜けて上昇していることは、実感できるケースも多いのではないでしょうか。本記事では、外国債券を保有する場合に最低限知っておいたほうが良いと思われることについて、いくつかまとめてみました。
外国債券の持つ方法は「インデックスファンド」「バランス型投信」「個別銘柄」など保有の仕方はさまざまです。資産運用において適切なポートフォリオを組みリスクヘッジしていくためには、外国債券は選択肢の一つといえるでしょう。