新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFPR、一級FP技能士(資産運用)、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン住宅購入のアドバイス)の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

仕組債は「一般的な債券と比較して高利回りが期待できる」ということから注目を集めている金融商品の一つです。しかし仕組債の仕組みは非常に複雑なため、投資を行う際には特徴やリスクなどについてしっかりと理解しておかなければ損失を被ることになりかねません。

仕組債の仕組みと構造?

仕組債とは、後述する「オプション」や「スワップ」などの金融派生商品(デリバティブ)を利用して満期までの期間や利子、満期の際に受け取る償還金などを比較的自由に設定して発行されるものを指します。オプションを売却することでオプション料を受け取ることができるため、このオプション料を金利に上乗せすることで一般的な債券よりも高利回りでの設定ができるのです。

また参照となる指標をあらかじめ定めておき価格がその指標となる水準を下回ったときには、オプションの権利が行使され償還金が減額する仕組みを持つ商品もあります。さらにはスワップを利用し金利が上昇すると受取利子が減少し逆に金利が低下すると受取利子が増加する仕組債などさまざまです。ちなみにここでいうスワップとは、同一通貨で固定金利と変動金利を交換することを指します。

例えば円と外貨など異なる通貨の元利金を交換する取引のことです。

オプション取引とは?

オプションとは「ある商品をある期日までにあらかじめ決められた価格で売り付けたり買い付けたりする権利」のことです。この権利に基づいた取引のことをオプション取引といいます。オプション取引は、大きく分けて「買う権利」「売る権利」の2つです。「買う権利」はコールオプション、「売る権利」はプットオプションと呼ばれています。

<コールオプションの場合>
Aの株価が1,000円のとき「A株を1,300円で買う権利」を100円で売買すると仮定します。その際、買い手は100円支払うことで「権利行使による(株価-1,300円)」「権利行使せず0円」のうち大きいほうを得ることから株価が1,400円を超えたときには利益が発生。逆に株価が1,400円を下回ったときには最大で100円の損失を被ることになります。

さらに売り手は、上記のうち買い手が選択したほうを失う代わりに100円を受け取ることが必要です。そのため株価が1,400円を超えた際には損失を被ることになり株価が1,400円を下回った際には、最大で100円の利益を得ることができます。

<プットオプションの場合>
Aの株価が1,000円のとき「A株を700円で売る権利」を100円で売買すると仮定します。その際、買い手は100円を支払って「権利行使による「600円-株価」「権利行使せず0円」のうち大きいほうを得ることから株価が600円を下回るときには利益を得ることが可能です。株価が600円以上のときは、最大で100円の損失となります。

また売り手は、上記ののうち買い手が選択したほうを失う代わりに100円を受け取ることが必要です。そのため株価が600円を下回る際には損失を被り逆に株価が600円以上のときには最大で100円の利益を得ることができます。

仕組債のリスクとは?

 

仕組債には、一般的な債券と共通するリスクと仕組債独自のリスクがあります。

一般的な債券と共通するリスク

・ 信用リスク:発行者の倒産などで債券の利払いや償還が不履行になるリスク
・ 価格変動リスク:金利の変動により、債券の価格が変動するリスク
・ 為替変動リスク:外貨建ての債券において、為替の変動により為替差損が発生するリスク
・ 流動性リスク:債券の流通市場がない場合や市場の環境の変化により流動性が著しく低下し、債券を売却することができないリスク

仕組債独自のリスク

株価や株価指数、金利、為替などの参照とする指標が変動することにより「受け取る償還金に差損が生じる」「利子が減少する」「償還金が支払われる代わりに株式が発行される」などのリスクがあります。また中途売却の際には、仕組債は償還(満期)までの保有を前提としていることから元本割れのリスクがあることも覚えておきましょう。

代表的な仕組債

 

仕組債は、対象とする参照指標ごとに「株式系」「為替系」「金利系」など種類があります。なかでも発行が比較的多いといわれているのが以下に紹介する「EB債」です。このEB債は数ある仕組債の中でも「株式系」に位置します。

EB債とは?

EB債とは「Exchangeable Bond:エクスチェンジャブル・ボンド」の略称で他社株転換債といわれています。当該債券と異なる会社の株式(以下、対象株式)の値動きによっては、償還日に償還金が支払われず対象株式の現物が交付される可能性のある債券です。一般的な債券と比べると相対的に高利回りが期待できる点が魅力となっています。

しかし「対象株式の株価」が一定価格を下回るとノックインといわれる状態となる点には、注意が必要です。償還日に償還金の代わりに株式が現物交付されることからその株価の下落度合いによっては、多大な損失を被る可能性があります。この際の「ノックイン」とは、あらかじめ決められた価格以下になることであらかじめ決められた水準が「ノックイン価格」です。

ノックイン状態にならなければ償還日の株価が当初の価格よりも下回っていても一定価格を上回っているため、償還日には投資資金満額が現金で償還されます。またEB債によっては、早期償還条項が付いているものもあるため注意が必要です。早期償還とは、株価が一定水準以上となった場合に債券が早期償還となることを指します。

早期に償還される(満期となる)ため、それ以降の利子を受け取ることができない代わりにノックイン状態に陥るリスクを回避することが可能です。

EB債の魅力

定期預金や国債などに比べて高利回りが期待できるところがEB債の最大の魅力です。ただし早期償還条項が付いている場合「償還日が早まりその後の利息受け取りの機会をなくす可能性がある」「ノックイン状態となった際には現金ではなく株式で現物交付される可能性がある」という点は、注意しておきましょう。

EB債には公募と私募がある

 

EB債には「公募」「私募」の2つがあります。公募とは「広く公に一般を対象に投資を募集すること」と定義されており対象となる有価証券の届出書の作成や提出などが必要です。発行までの手続きに時間がかかります。

私募債とは?

金融商品取引法上では、新たに発行される有価証券の取得申し込みにおける勧誘のうち以下の2つが「有価証券の募集」に該当するとしています。

・ 多数の者を相手方として行う場合
・ 勧誘対象者が適格機関投資家や特定投資家のみに限定されていない場合

また私募債を発行するには「有価証券の募集」に当たらないことが要件です。具体的には「発行対象の投資家が50人に満たない」「金融機関所属のプロに限って発行する」「一定要件を満たした特定投資家」といったことが条件となります。さらに発行できるのは、会社のみで個人事業主は発行することはできません。

売出しと私売出しの違い

売出しとは、すでに発行された有価証券の売り付けの申し込みまたは買い付けの申し込みの勧誘において不特定多数(50名以上)の相手方を対象として行うことを指します。一方私売出しとは、すでに発行された有価証券の売り付けの申し込みまたはその買い付けの申込みで49名以下を相手方として行うものです。「少人数私売出し」「適格機関投資家私売出し」などがあります。

<売出しと私売出しの比較>

投資家 投資金額 特徴 金利
公募
(売出し)
不特定多数 100万円以上100万円単位の少額投資が可能 画一的な設計の商品について、決められた期間内で投資を行う 市中金利と比較して高めに設定
私募
(私売出し)
少人数
(勧誘人数が49名まで)
500万円以上100万円単位など比較的高額な投資金額が設定 自由な設計の商品をお客様の資金計画に合わせて投資を行う 公募と比べさらに高めに設定

その他の代表的な仕組債

 

仕組債には、上で紹介したEB債以外にも「日経平均リンク債」というものもあります。内容的には、EB債と同じ仕組みです。しかし「対象となる資産の価格が基準価格を上回ったか、下回ったか」によって利率が決まるデジタル・クーポン型の場合は異なります。例えば当初の株価が2万円で基準価額が当初株価の80%の場合、基準価額は1万6,000円です。

利率決定日の株価が1万6,000円以上であれば高クーポン(例えば5%)、逆に1万6,000円を下回った場合は低クーポン(例えば1%)が適用されます。仕組債(特にEB債)を投資対象とする際には、以下の3つを確認することが大切です。

・ 発行や償還条件など
・ 他社株式への転換に関わる事項
・ 投資判断時における対象株式の価格水準

公募であれば利回りは3~5%程度のものが主流です。しかし私募であれば20%程度の利回りとなることもあります。さらにノックイン判定水準についても40%以上で設定できるため公募・私募ともに50%前後となっている商品が多い傾向です。

仕組債に投資する際の注意点

仕組債への投資は、高い利回りを得られる点は大きな魅力です。しかし投資する際は「償還(満期)が早まる可能性」「対象株式で現物交付される可能性」といった点についても十分に理解しておくことが重要となります。もし対象株式で現物交付された際には、損失が出ている場合が多いため「損失をどのように回復させるか」という手法も考えることが必要です。

例えば「その株式を売却し値上がりが期待できる別の株式を購入する」「その株式の価格が戻ることを期待し保有し続ける」などです。特に私募債であれば最低投資金額も高額なため、ノックイン状態になった際、投資金額が最終的に半分となる可能性もある点は、十分に理解しておきましょう。運用において損失が発生した場合は、「何とかその損失を取り戻したい」という心理が働きがちです。

その際に取った行動によってその後の損失回復までの時間も変わるため、仕組債への投資を行う際には、あらかじめ自分が「どのような運用スタイルで行うのか」について明確にしておくことが大切といえるでしょう。