理解しておこう!医師が受けることができる優遇税制について
(画像=makistock/stock.adobe.com)
新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント CFP®、一級FP技能士(資産運用)、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員 個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン住宅購入のアドバイス)の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

医師としての働き方には、勤務医や開業医(個人もしくは医療法人)などさまざまな形態があります。開業医であれば受けることができる優遇税制や医療法人における優遇制度について理解し今後自分がどのようなスタイルで医師業を続けていくのかを考える際の指標としておきましょう。

目次

  1. 1.医師が受けることができる優遇税制とは?
    1. 1-1.医師優遇税制とは?
    2. 1-2.優遇を受けるためには?
    3. 1-3.医師優遇税制の計算方法
    4. 1-4.優遇を受けることで受けるメリット
    5. 1-5.医師優遇税制の注意点
  2. 2.高額な医療機器を購入した際の優遇措置
  3. 3.地域における医療提供体制の確保に資する設備の特別償却制度
    1. 3-1.長時間労働の実態が指摘される医師の勤務時間短縮のため必要な器具及び備品、ソフトウェア
    2. 3-2.地域医療提供体制の確保のため地域医療構想で合意された病床の再編等の建物及びその附属設備
  4. 4.「社会保険診療報酬の所得計算の特例」と「特別償却」の併用はできる? 
  5. 5.社会診療報酬5,000万円以上の場合は医療法人化の検討を
  6. 6.医療法人の種類と優遇税制 
  7. 7.医師の優遇税制に関するQ&A
    1. Q1:医師優遇税制の仕組みとは?
    2. Q2:優遇税制を受ける際、注意する点は?
    3. Q3:報酬5,000万円以上の場合、優遇は受けられないの?

1.医師が受けることができる優遇税制とは?

医師が受けることができる優遇税制として有名なものが「租税特別措置法26条の適用」です。これは、所得税の特例の一つで正式には「社会保険診療報酬の所得計算の特例」と呼ばれています。

1-1.医師優遇税制とは?

租税特別措置法26条では「社会保険診療報酬の所得計算の特例」について以下のような記載がされています。

  • 医業または歯科医業を営む個人が、各年において社会保険診療につき支払いを受けるべき金額を有する場合、当該支払を受けるべき金額が5,000万円以下のとき
  • さらに当該個人が営む医業または歯科医業から生ずる事業所得に係る総収入金額に算入すべき金額の合計額が7,000万円以下のとき
  • 上記のときその年分における事業所得の金額の計算上、当該社会保険診療に係る費用として必要経費に算入することができる
    出典:e-Gov

経費算入金額は以下の通りです。

(経費算入金額)

社会保険診療報酬必要経費算入金額
2,500万円以下社会保険診療報酬の72%
2,500万円超~3,000万円以下社会保険診療報酬の70%+50万円
3,000万円超~4,000万円以下社会保険診療報酬の62%+290万円
4,000万円超~5,000万円以下社会保険診療報酬の57%+490万円

ここでいう「社会保険診療報酬」とは、保険診療に関する窓口収入と社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会から支払いを受ける診療報酬などを合算した金額をいいます。

1-2.優遇を受けるためには?

優遇税制を受けるためには、以下の要件をすべて満たすことが必要です。

  • 社会診療報酬が5,000万円以下
  • 事業所得にかかる全体の収入金額が7,000万円以下(自由診療報酬を含む)
  • 医業や歯科医業を営む個人(事業収入であること)

ただし「青色申告でなければならない」という決まりはありません。白色申告でもこの優遇税制を適用することは可能です。また上の要件に該当していなくても院外処方にすることで薬価分だけ診療報酬が下がりその結果社会保険診療報酬が5,000万円以内に収まった場合、年の途中に親子間の世代交代などを行いいずれか一方の社会診療報酬が5,000万円以下となる場合も優遇税制適用の対象となります。

1-3.医師優遇税制の計算方法

医師で社会保険診療収入が4,000万円、実際にかかった経費は2,500万円の例で試算してみましょう。優遇税制の適用を受けなかった際の実際の事業所得金額は、以下の通りです。

  • 4,000万円-2,500万円=1,500万円

では、優遇税制の適用を受けた際にはどうなるのでしょうか。優遇税制の適用を受ける際の経費については、(4,000万円×62%)+290万円で計算されますので、2,770万円を経費計上することが可能です。その際の事業所得金額は、以下のようになっています。

  • 4,000万円-2,770万円=1,230万円

つまり事業所得金額を270万円(1,500万円-1,230万円)削減することが可能です。所得税の税率は、900万円を超え1,800万円以下の場合、33%のため、各種控除を考慮しないとしても差額分の約89万円(270万円×33%)の節税効果があることが分かります。

1-4.優遇を受けることで受けるメリット

例えば1年間の社会保険診療報酬が4,000万円で実際にかかった経費が2,500万円だったとします。この場合に社会保険診療報酬の所得計算の特例を利用することで必要経費算入金額は「4,000万円×62%+290万円」で計算されその金額は2,770万円です。実際にかかった経費よりも多く計上することができます。

1-5.医師優遇税制の注意点

自由診療報酬については、優遇税制を適用することはできないためその部分については分けて計算する必要があります。ただし同一の原価によって診療が行われた場合でも一般に自由診療のほうが社会保険診療よりも単価が高い傾向です。そのため自由診療収入による割合を用いる場合は、収入割合に以下の調整率を乗ずることにより自由診療割合を算出します。

(自由診療割合)

眼科・外科・整形外科80%
産婦人科・歯科75%
上記以外(美容整形を除く)85%

またその年の収入に社会保険診療報酬だけでなく自由診療報酬かつ共通した経費がある場合は、実際に計算を行う際に社会保険診療報酬分と自由診療報酬分とで按分することが必要です。

2.高額な医療機器を購入した際の優遇措置

高額な医療機器を取得した際には、一定の優遇措置があります。「医療用機器等の特別償却」といわれるもので青色申告を行っており医療保険業を営んでいる個人や法人であれば優遇措置を受けることが可能です。この優遇措置は、通常医療機器を購入した場合には減価償却により耐用年数に応じた費用計上が必要になります。

しかし厚生労働大臣により告示された取得価額500万円以上の高額医療機器であれば通常の減価償却費に加えて購入価格の12%を特別償却費として上乗せして計上することが可能です。対象となる高額医療機器の代表的なものとしては、CTやMRIなどが挙げられます。

3.地域における医療提供体制の確保に資する設備の特別償却制度

2019年の税制改正により以下の3点において特別償却制度の拡充・見直しが行われることとなりました。

  • 長時間労働の実態が指摘される医師の勤務時間短縮のため必要な器具および備品、ソフトウェア
  • 地域医療提供体制の確保のため地域医療構想で合意された病床の再編等の建物およびその附属設備
  • 共同利用の推進など効率的な配置の促進に向けた高額医療機器

3-1.長時間労働の実態が指摘される医師の勤務時間短縮のため必要な器具及び備品、ソフトウェア

医師・医療従事者の勤務時間短縮に資する一定の設備について取得価格の15%を特別償却費として計上できることとなりました。対象となる設備は以下のように定義されています。

「医療機関が、都道府県に設置された医療勤務環境改善支援センターの助言の下に作成した特に医師の労働時間短縮に向けた医師勤務時間短縮計画に基づき取得した器具・備品(医療用機器を含む)、ソフトウェアのうち一定の規模(30万円以上)のもの(未使用に限る)」
出典:厚生労働省

具体的には、以下の要件を満たすものが当てはまります。

(特別償却制度の対象となる勤務時間短縮用設備等の要件)

  1. 労働時間管理の省力化・充実に資する勤務時間短縮用設備
    勤怠管理を行うための設備等(ICカード、タイムカード、勤怠管理ソフトウェア等、客観的に医師の在院時間等の管理が行えるもの)医師の行う作業の省力化に資する勤務時間短縮用設備
  2. 書類作成時間の削減のための設備等(AIによる音声認識ソフトウェア、それら周辺機器など、医師が記載(入力)する内容のテキスト文書入力が行えるもの)
  3. 医師の診療行為を補助又は代行する勤務時間短縮用設備
    医師の診療を補助する設備等(手術支援ロボット手術ユニット、コンピュータ診断支援装置、画像診断装置、在宅診療用小型診断装置など、医師の診療行為の一部を補助又は代行するもの)
  4. 遠隔医療を可能とする勤務時間短縮用設備
    医師が遠隔で診断するために必要な設備等(遠隔診療システム、遠隔画像診断迅速病理検査システム、医療画像情報システム、見守り支援システムなど、医師が遠隔で診断することに資するもの
  5. チーム医療の推進等に資する勤務時間短縮用設備
    医師以外の医療従事者の業務量の削減に資する設備等(院内搬送用ロボット、患者の離床センサーなど、医師以外の医療従事者の業務を補助するもの)
    出典;厚生労働省

またこの適用を受ける際には「医師等勤務時間短縮計画」を作成および都道府県の医療勤務環境改善支援センターに提出して確認を受けることが条件です。

3-2.地域医療提供体制の確保のため地域医療構想で合意された病床の再編等の建物及びその附属設備

青色申告書を提出する法人または個人で医療保健業を営む人が対象です。以下の場合、取得価額の8%の特別償却ができます。

  • 新築・改築、増築、転換に該当する工事(すなわち、減築、廃止(単なる解体撤去)の場合を除く。)により取得または建設をした病院用、診療所用の建物およびその附属設備を取得(所有権移転外リース取引による取得を除く)、建設をして医療保健業の用に供した場合

4.「社会保険診療報酬の所得計算の特例」と「特別償却」の併用はできる? 

上で述べた「社会保険診療報酬の所得計算の特例」と青色申告書を提出する法人または個人で医療保健業を営む者が受けることができる「特別償却」の制度は、併用することができません。そのため「社会保険診療報酬の所得計算の特例」で計上できる経費と「特別償却」の制度を用いて計算した減価償却費を含む実際の経費額を比較したうえでどちらの制度を利用するかについて最終判断を行いましょう。

5.社会診療報酬5,000万円以上の場合は医療法人化の検討を

社会保険診療報酬が5,000万円以上の場合は、上述の特例を利用することはできません。そのため法人化するほうが、節税できるケースもあります。なぜなら所得税と法人税の課税の違いがあるからです。所得税は、所得が高くなるにつれ税率も高くなる「累進課税制度」を採用しています。一方で法人は、800万円以下の部分と800万円超の部分で分けて課税される仕組みです。

例えば開業医でその年の社会保険診療報酬が6,000万円、かかった経費が3,500万円だった場合、特例を利用することができません。所得税は以下のように算出します。

  • 2,500万円(事業所得6,000万円-経費3,500万円)×税率40%=課税所得1,000万円

しかし法人化して特定の医療法人の認定を受けることで課税所得の800万円以下の部分に対する税率が15%、800万円を超える部分については19%の税率となります。これを踏まえた法人税の計算式は以下の通りです。

  • (800万円×15%)+{(2,500万円-800万円)×19%}=443万円

このように医療法人化することで大きな節税額になることが分かります。

6.医療法人の種類と優遇税制 

法人格を持たない開業医は、個人事業主となり所得税法の対象です。また医療法人には、医療法を根拠とする「社会医療法人」と租税特別措置法を根拠とする「特定医療法人」という特別な型があります。「特定医療法人」の場合、国税庁長官の承認を得られれば通常23.2%の法人税が19%になる軽減税率が適用されるなど税制上の優遇措置を受けることが可能です。

法人にすることで得られるメリットは大きく見えるかもしれません。しかし個人事業主であれば一定の収入まで「社会保険診療報酬の所得計算の特例」を受けることができます。またiDeCoや小規模企業共済に加入することで受けることができる「小規模企業共済等掛金控除」、ふるさと納税を行った際の「寄付金控除」などの所得控除を使うことも可能です。

「自分が患者にとってどのような医師でありたいか」「どのような形で地域への貢献を行いたいか」などまずは自分の医師としてのあり方を確立することが大切でしょう。そのうえで収入に応じた形態を選んでいくことが優遇税制を受けるうえでの重要なポイントです。

7.医師の優遇税制に関するQ&A

Q1:医師優遇税制の仕組みとは?

租税特別措置法26条では、以下の内容が規定されています。

「医業又は歯科医業を営む個人が、各年において社会保険診療につき支払を受けるべき金額を有する場合において、当該支払を受けるべき金額が五千万円以下であり、かつ、当該個人が営む医業又は歯科医業から生ずる事業所得に係る総収入金額に算入すべき金額の合計額が七千万円以下であるときは、その年分の事業所得の金額の計算上、当該社会保険診療に係る費用として必要経費に算入する金額は、所得税法第三十七条第一項及び第二編第二章第二節第四款の規定にかかわらず、当該支払を受けるべき金額を次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる率を乗じて計算した金額の合計額とする」
出典:e-Gov

具体的には、金額によって以下の率で計算することが可能です。

社会保険診療報酬 概算経費額
加算額
2,500万円以下 72%
2,500万円超3,000万円以下 70% 50万円
3,000万円超4,000万円以下 62% 290万円
4,000万円超5,000万円以下 57% 490万円
5,000万円超 適用なし 適用なし

出典:国税庁

この優遇税制によって実際にかかった金額よりも多くの経費額を計上することができるため、最終的な節税効果につなげることができます。

Q2:優遇税制を受ける際、注意する点は?

優遇税制を受ける際には、実際の経費のほか青色申告の際に認められる事業専従者給与や退職給与などが経費として計上できなくなり青色申告特別控除の対象外となる点も注意が必要です。通常事業所得における青色申告特別控除は55万円です。しかし以下のどちらかの条件を満たせば65万円の適用を受けることができます。

  • その年分の事業に係る仕訳帳及び総勘定元帳を電子帳簿保存する
  • その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表及び損益計算書等の提出を確定申告書の提出期限までにe-Taxで行う

優遇税制を受けたい場合は、実際の経費以外に青色申告の際に認められる経費や特別控除などを考慮したうえで節税効果の高いほうを選択するようにしてください。また確定申告の際には、第二表の特例適用条文欄に「措法26」と記載することが必要です。さらに付表の医師および歯科医師用の収支内訳書の記載および添付についても忘れないようにしましょう。

Q3:報酬5,000万円以上の場合、優遇は受けられないの?

医業もしくは歯科医業によって得られる収入は、社会保険診療報酬だけではありません。特に歯科医師の場合は、自由診療を行うケースもあるのではないでしょうか。優遇税制を受けることができるのは、あくまでも、「社会保険診療報酬が年間5,000万円以下」かつ「医業もしくは歯科医業の総収入が年間7,000万円以下」の場合です。

そのため以下のように対象となるケースとならないケースがある点に注意が必要です。

  • 対象となるケース
    →収入の内訳が、社会保険診療報酬:4,000万円+自由診療報酬+2,500万円の場合(社会保険診療報酬が5,000万円以下かつ総収入が7,000万円以下であるため)

  • 対象とならないケース
    →収入の内訳が社会保険診療報酬:4,000万円+自由診療報酬3,500万円の場合(総収入が7,000万円を超えるため)
    →収入の内訳が社会保険診療報酬:6,000万円+自由診療報酬600万円の場合(総収入は7,000万円以下となっているが社会保険診療報酬が5,000万円を超えるため)

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