収入が多い人ほど健康管理において合理的な選択をしている傾向にあります。この記事の前半では、所得と年収の相関データをもとに「高収入の人ほどよく歩くこと」を解説。それを踏まえたうえで後半は、1日の平均歩数が増えるほど心疾患・脳卒中・がんなどの有病率が大きく下がる研究について紹介します。
2つのデータで「高収入の人ほどよく歩く」傾向を確認
はじめに所得と年収の相関データをもとに「高収入の人ほどよく歩く傾向がある」ということを解説します。紹介する以下2つのデータ結果から所得が増えるほど歩数が増えるのは明らかです。
厚生労働省の調査:「年収600万円以上」は「年収200万円未満」より平均歩数が約1,700歩多い
厚生労働省が公表している「平成30年国民健康・栄養調査結果の概要」によると、「人は年収が多くなるほどよく歩く」という結果が理解できるでしょう。この調査では、所得別に4つのグループに分け以下の8つの項目について「どれくらいの人数や割合がいるか」を調べています。
・ 運動(運動習慣や平均歩数)
・ 喫煙(習慣的に喫煙している割合)
・ 飲酒(生活習慣病のリスクを高める量の飲酒をしている割合)
・ 睡眠(睡眠で休養が十分とれていない割合)
・ 健診(末受診者の割合)
・ 体型(肥満体ややせ型の割合)
・ 歯の本数(歯が20本未満の割合)
これらのうち多くの項目は、所得によって多少の差はあるものの圧倒的に違うとまではいえない結果でした。例えば「年収200万円未満」と「年収600万円以上」の2つのグループを比較した場合、割合の差が10%以下の項目がほとんどでした。一例としては以下の通りです。
「年収200万円未満」と「年収600万円以上」の比較(男性)
項目 | 年収200万円未満 | 年収600万円以上 |
---|---|---|
運動習慣のない人の割合 | 66.4% | 61.7% |
現在、喫煙をしている人の割合 | 34.3% | 27.3% |
生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している人の割合 | 12.1% | 19.2% |
出所:厚生労働省「平成30年国民健康・栄養調査結果の概要」
ただし所得の違いによって結果が大きく変わる項目もいくつかありました。具体的には「歩数の平均値(1日)」「健診の末受診者の割合」「歯が20本未満の割合」の3項目です。「年収200万円未満」と「年収600万円以上」の2つのグループを比較した場合、3項目で以下のような差がありました。
「年収200万円未満」と「年収600万円以上」の比較(男性)
年収200万円未満 | 年収600万円以上 | |
---|---|---|
歩数の平均値(1日) | 5,327歩 | 7,015歩 |
末受診者の割合 | 40.7% | 16.7% |
歯が20本未満の割合 | 30.2% | 18.9% |
出所:厚生労働省「平成30年国民健康・栄養調査結果の概要」
「歩く」「健診」「歯」といった内容は、健康的な生活するために大事な要素です。高収入の人ほど3要素に気をつけている様子がうかがえます。
ドコモ・ヘルスケアの調査:「年収1,000万円以上」は「年収200万~300万円以上」より平均歩数が約1,400歩多い
2016年にドコモ・ヘルスケアが行ったウェアラブル活動量計「ムーヴバンド3」のユーザー1,229人を対象にした調査では、年収別の歩数を比較すると以下のような差がありました。
年収別の歩数の比較
200万~300万円未満 | 600万~700万円未満 | 1,000万円以上 |
---|---|---|
6,808歩 | 7,392歩 | 8,168歩 |
出所:ドコモ・ヘルスケア「早歩き歩数に関するからだデータ調査」
「年収200万円以上300万円未満」と「年収1,000万円以上」の平均歩数の差は、1,360歩でした。
高所得になると歩数が増える理由は、健康を意識する人が多いから?
ここまで見てきた厚生労働省とドコモ・ヘルスケアのデータから「人は収入が多くなるほどよく歩く」傾向があるのは明らかです。では、なぜ高所得の人は平均歩数が多いのでしょうか。これについては、以下のような理由が考えられます。
・ 忙しい人は移動距離が多いから(仕事の時間が長い)
・ 高所得の人は好奇心が強いから(ショッピングや会食)など
ここでは「健康を意識する人が多いから」という理由についてフォーカスしていきます。厚生労働省のデータから健康と深くかかわるといわれる「健診の割合」と「歯の本数」の項目も高所得になるほど割合が高い傾向です。このことから「健康を意識してたくさん歩いている高所得の人が多いのでは?」と想像できるでしょう。
具体的には「ウォーキングを日課にする」「移動のときになるべく歩く」などの行動により歩数を稼いでいることが考えられます。
歩数が増えると病気にかかる割合が減ることを立証した研究
ここから先は、たくさん歩くことで「どのような健康効果があるのか」について見ていきます。歩行と健康については、数多くの情報がありますがなかでも東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利氏の研究がとても参考になるでしょう。
専門家が推奨する歩数と運動は「1日8,000歩、中強度の活動時間20分以上」
青柳氏の調査によると「歩数が多い人は少ない人に比べて以下に挙げる病気のリスクが低い」ということが分かりました。
* 認知症
* 心疾患
* 脳卒中
* がん
* 骨そしょう症
* 高血圧症
* 糖尿病
この研究は、約5,000人の高齢者(65歳以上)を対象に約13年間の長期にわたって実施した内容のため、かなり確度が高いといえるでしょう。青柳氏は、ヤクルトが発行する健康情報誌『ヘルシスト』の中で「1日の歩数」と「中強度の活動(安静時の3~5倍の消費カロリーの活動)」を組み合わせると有病率が大きく下がると述べています。
具体的には、高齢者に限らず若いころから「1日8,000歩、中強度の活動時間20分以上」を推奨しているのです。
歩数と有病率の関係:歩数が増えると心疾患・脳卒中・がんの有病率が大幅に低下
青柳氏は『ヘルシスト』内で歩数と有病率に関する詳しい以下のようなデータを紹介しています。
高齢者5,000人(65歳以上)の歩数と有病率の関係
歩数と中強度の運動時間(1日) | 心疾患 | 脳卒中 | がん |
---|---|---|---|
2,000歩未満 | 12% | 15% | 8% |
2,000~5,000歩 7.5 分未満 | 7% | 9% | 6% |
5,000~7,000歩 7.5~15分未満 | 2% | 3% | 4% |
7,000~9,000歩 15~25分未満 | 1% | 1% | 2% |
9,000歩以上 25分以上 | 1% | 1% | 1% |
引用:青柳幸利氏による群馬県中之条町調査/一部抜粋
歩数が増えるにつれて日本人の死因の上位となる「心疾患」「脳卒中」「がん」といった3大疾病の有病率が大きく下がることが確認できます。なお歩数が7,000~9,000歩程度になると有病率が大幅に下がるのは、ほかの病気も同様です。例えばうつ病は1日の歩数が2,000歩未満だと有病率が6%ですが7,000~9,000歩になると1%になります。
また糖尿病は、2,000歩未満だと有病率が16%ですが7,000~9,000歩だと4%です。ただしやみくもにダラダラと歩いても効果的ではありません。青柳氏によれば中強度の運動として「早歩き(大股で速く)を取り入れるのがよい」とのことです。「どれくらいの早歩きが適切か」については、体力や年齢によっても大きく変わります。実行する場合は、くれぐれもムリのない範囲にとどめましょう。
歩くということは、お金がかからない合理的な健康管理方法
本稿では、いくつかのデータをもとに「高所得な人ほどよく歩く」「平均歩数が増えると有病率が下がる」という2つの事実を確認してきました。「歩く」ことは、経費がウェアとシューズ代くらいしかかからないにもかかわらず健康に大きく貢献してくれる非常に合理的な健康管理方法の一つです。なかには、ふだんから歩数が少ないだけでなく健康に不安がある人もいるのではないでしょうか。
通わないフィットネスジムや効果があいまいな健康食品などに投資をする前にまずは「歩くことからはじめる」のが賢い選択かもしれません。