阿部栄一郎
弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所 弁護士|賃料未払いや明渡し、敷金返還など賃貸借契約の問題から騒音、悪臭の問題まで、幅広く相談や問題解決にあたっています。また、マンション管理組合からの管理費滞納やペットの問題なども対応しております。 相談や問題解決では「なぜそのようになるのか」「なぜそのように解決した方がいいのか」を丁寧に説明をするよう心がけております。

不動産オーナーであれば賃貸物件や賃貸管理に関連するトラブルが発生したことは、1度や2度ではきかないのではないでしょうか。さまざまなトラブルが発生した際は「どのような専門家に相談すれば良いのか分からない」など焦ったこともあるかもしれません。そこで本稿は「不動産に関連する専門家がどのような業務をしているのか」「どういったことを相談すれば良いのか」などについて解説します。

土地家屋調査士にはどのようなことを依頼すれば良いのか

土地家屋調査士の業務

日本土地家屋調査士会連合会のサイトによると土地家屋調査士の業務は、以下の5つです。

1. 不動産の表示に関する登記につき必要な土地又は家屋に関する調査及び測量をすること
2. 不動産の表示に関する登記の申請手続について代理すること
3. 不動産の表示に関する登記に関する審査請求の手続について代理すること
4. 筆界特定の手続について代理すること
5. 土地の筆界が明らかでないことを原因とする民事に関する紛争に係る民間紛争解決手続について代理すること

出典:日本土地家屋調査士会連合会ホームページ「土地家屋調査士とは」

土地家屋調査士は、基本的に表題登記や測量、筆界特定といった手続きを行う専門家です。

表題登記
不動産の特定のために必要な事項で土地については、所在や地番、地目、地積が登記されています。建物の場合は、所在や家屋番号、種類、構造、床面積などです。

測量
その名の通り分筆(土地を分ける)の際などに土地の面積などを測る作業です。

筆界(ひっかい)
聞きなれない言葉ですが土地の境界とほぼ同じ意味です。また筆界特定制度という制度があります。同制度は、土地の所有者の申請に基づいて筆界特定登記官が民間の専門家となる筆界調査委員の意見を踏まえて隣地との境界を特定する制度です。

土地家屋調査士の業務のうち、紛争性のある業務は?

上記の通り土地家屋調査士は、5つの業務をする専門家ですが一部を除いては業務に紛争性がほとんどありません。つまりトラブルが起きたときに土地家屋調査士に直接依頼することは、あまりないということです。ただし筆界の特定に関しては、隣地との間の境界が定まっていない際に必要となり紛争性があるといえます。

トラブルが発生した際に土地家屋調査士に相談することは?

土地家屋調査士は、普段あまり紛争性のある業務を行っていません。そのため賃貸物件や賃貸管理に関連するトラブルが発生した場合、トラブルに関して土地家屋調査士に依頼することはあまりないでしょう。隣地の土地の境界などで紛争になりそうな場合は、相談してみるのも選択肢の一つです。

司法書士にはどのようなことを依頼すれば良いのか

司法書士の業務

日本司法書士会連合会のサイトによると司法書士の主な業務は、以下の8つです。

1. 登記又は供託手続の代理
2. (地方)法務局に提出する書類の作成
3. (地方)法務局長に対する登記、供託の審査請求手続の代理
4. 裁判所または検察庁に提出する書類の作成、(地方)法務局に対する筆界特定手続書類の作成
5. 上記1~4に関する相談
6. 法務大臣の認定を受けた司法書士については、簡易裁判所における訴額140万円以下の訴訟、民事調停、仲裁事件、裁判外和解等の代理及びこれらに関する相談
7. 対象土地の価格が5,600万円以下の筆界特定手続の代理及びこれに関する相談
8. 家庭裁判所から選任される成年後見人、不在者財産管理人、破産管財人などの業務

出典:日本司法書士会連合会ホームページ「司法書士の業務」

司法書士の業務は多岐にわたりますが、大きく分けると「登記関係」「裁判関係」の業務の2つです。基本的に登記は、登記義務者と登記権利者が一緒に申請するもののため、あまり紛争性はありません。しかし上記の裁判関係業務の一部には、紛争性のある業務が入っています。

司法書士の業務のうち、紛争性のある業務は?

上記6に記載のある通り司法書士(ただし法務大臣の認定が必要)は、紛争の金額が140万円までは、裁判所において代理人として活動できます。例えば未払賃料や原状回復費用の請求といった事案であれば140万円以下となることも多いため、司法書士が業務を受けることも可能です。

トラブルが発生した際に司法書士に相談することは?

法務大臣の認定を受けた司法書士の場合、一部ですが裁判業務を行うことができます。また上記の通り請求額が140万円以下のトラブルに関しては、司法書士に相談および依頼することも可能です。ただし不動産そのものに関する紛争など140万円を超える紛争については、司法書士は扱えません。その場合は、弁護士へ再度依頼が必要となるため注意しましょう。

弁護士にはどのようなことを依頼すれば良いのか

弁護士の業務

弁護士の業務は多岐にわたります。大きく分けると以下の3つになりますがこれらに限られません。

・ 1民事に関する業務
・ 2刑事に関する業務
・ 3行政に関する業務

上記の刑事に関する業務は、端的にいえば刑事事件に関する弁護人です。行政に関する代表的な業務は、国や地方公共団体との行政訴訟といえます。民事に関する業務は、個人から法人、一般的な民事業務(賃貸借、相続、交通事故、離婚等)からビジネスに関する業務まで非常に幅広い傾向です。また不動産に関する業務も民事に関する業務に入ります。

具体的には、司法書士業務の紹介の際にも述べた未払賃料や原状回復費用の請求も可能です。さらに賃借人に対する建物の明け渡し請求や不動産の売買に関与すること(代理人としての交渉や契約書のチェックなど)、登記申請の代理といったこともできます。

弁護士の業務のうち、紛争性のある業務は?

弁護士の業務のうち、紛争性のある業務は、非常に多くあります。例えば不動産オーナーの代理人となって賃借人に対して未払賃料を請求したり建物の明け渡しを求めたりするなど紛争性の高い業務を常日ごろから行っています。土地家屋調査士の業務や司法書士の業務と比較するとトラブルに巻き込まれた際の紛争性の高い業務に慣れているのは、当然弁護士です。

トラブルが発生した際に弁護士に相談することは?

不動産オーナーが抱えるトラブルは、多くの場合、弁護士の業務の範疇であることが多い傾向です。そのため賃借人をはじめとする対立当事者との間のトラブルが発生した場合には、まず弁護士に相談してみると良いでしょう。弁護士も事案の最終的な解決のために他の専門家にさまざまな業務をお願いするケースがあります。

例えば弁護士が紛争性の高い事案を解決した後の測量を土地家屋調査士に依頼したり登記手続きを司法書士に依頼したりするといったことがあります。

賃貸管理でトラブルに遭ったときにどのような専門家に相談するか

土地家屋調査士や司法書士、弁護士の業務を見てきましたが抱えているトラブルの紛争性が高い場合には、まず弁護士に相談するのが賢明でしょう。なぜなら不動産オーナーの法的なトラブルに関しては、弁護士の業務の範疇となっていることが多いからです。請求金額が140万円以下となる場合には、司法書士(ただし法務大臣の認定が必要)に相談することも選択肢の一つといえるでしょう。

最も紛争と縁遠いのが土地家屋調査士です。普段、紛争性の高い事案を扱っているわけではないため、賃貸管理に関してトラブルが発生した際に最初に相談するのはあまり適していません。ただ隣地との境界に関するトラブルであれば土地家屋調査士の業務の範疇となるため、相談をしてみても良いかもしれません。