吉田謙太郎
宅建士・不動産投資家・ライター|筑波大学卒業後、大手不動産会社にて投資用不動産の売買および賃貸営業・投資家へのコンサルティング・自社メディアでの記事執筆などを行う。自身でも社会人1年目(22歳)から不動産投資をしており、横浜市・大阪市・神戸市に区分マンションを4戸運用中(2021年11月現在)。保有資格は宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者。(I列)

生産緑地における「2022年問題」というキーワードが三大都市圏を中心に話題となっています。

一見すると専ら農地に関する問題であることから、賃貸マンションやアパート等の不動産投資とは関係が希薄であるようにも考えられますが、生産緑地における「2022年問題」は住宅市場にも派生的な影響をもたらすことが予測されています。そのため、不動産投資家にとっても注視すべき問題の1つといえるでしょう。

本記事では、生産緑地における「2022年問題」とはどのようなものか、不動産投資家にどのような影響を与え得るかという点について3つの観点から解説します。

生産緑地とは?

生産緑地とは、1992年に生産緑地法によって定められた土地制度の1つで、良好な生活環境の確保に効用があり、公共施設等の敷地に適しているとして各地方自治体から指定を受けた農地のことです。

全国で12,332ヘクタールある生産緑地地区のうち、約57.4%に当たる7,075ヘクタールが関東に集中しており、都府県ごとの面積の大きさは大きい順に東京都・大阪府・埼玉県となっています。

生産緑地地区に指定された農地は、都市農地の計画的な保全を図るために30年間の営農義務が生じますが、都市計画の告示から30年が経過した後は市町村長に対していつでも買取り申出が可能になります(生産緑地法第10条)。

生産緑地地区内における建築物その他の工作物の新築・改築または増築、宅地の造成等は市町村長の許可を受けなければできないことが法律で定められているため(生産緑地法第8条)、農営義務期間中は生産緑地上にアパートや戸建等の建築が原則としてできません。

2022年、生産緑地はどうなる?

1992年に生産緑地として指定を受けた農地において、30年間に渡る農営義務期間が2022年に終了します。

生産緑地における農営義務期間が終了すると、首都圏で大量の生産緑地が宅地転用されることによって乱開発が起こることが懸念されており、これが「2022年問題」として注視されている問題です。

生産緑地における農営義務期間の終了によって農地の乱開発が起こるのは、生産緑地所有者に対する以下2つの税制優遇措置が終了する結果として土地所有に係るコストが増大し、土地を手放す所有者の増加が考えられることが理由の1つでしょう。

・ 固定資産税が農地課税となる(納税額が安くなる)
・ 相続税の納税猶予制度が適用

2022年に農営義務期間の終了を迎える生産緑地では上記2つのメリットを享受できなくなり、固定資産税等の土地所有コストが増大するということです。

生産緑地が不動産投資家に与える3つの影響

2022年以降、生産緑地が不動産投資家に対して与え得る影響として以下の3つが想定されます。

・ 投資機会の増加
・ 土地の大量供給による地価下落の可能性
・ 賃貸マーケット環境の変化

農営義務期間の終了を迎えた生産緑地が宅地として市場に流通し、エリアによっては賃貸住宅や戸建の開発が広範囲にわたって大量に行われる可能性があるでしょう。

投資機会の増加

生産緑地として農地利用されてきた土地が宅地として市場に出回る可能性があるということは、未開発だった優良な土地への投資機会を得られるかもしれないということです。

賃貸住宅の敷地としてポテンシャルの高い土地に投資することができれば、安定的な賃貸需要を見込めるうえに資産価値を維持しやすい良質な賃貸住宅への投資機会につながることも想定できます。

未開発の生産緑地という新しい市場が形成されつつある中において、不動産投資家にとっては投資機会の増加というチャンスが期待できる状況といえるかもしれません。

土地の大量供給による地価下落の可能性

2022年に大量の生産緑地が一斉に農営義務期間の終了を迎え、土地所有者が生産緑地だった土地を手放すということになると、局地的に大量の土地が売りに出され、同エリアの不動産市場に影響を及ぼすことも想定されます。

具体的な例として、特に土地所有コストの増大によって経済的に逼迫した所有者が、土地を早く手放したいと考えて相場価格よりも安値で売りに出した場合、同様に早く土地を売りたいと考える所有者の間で価格の叩き合いが生じる可能性もあるでしょう。

旧生産緑地の所有者間で行われている価格の叩き合いが同エリアの市場全体にまで影響を及ぼすと、エリア全体の地価が下落するという事態にまで発展することもあり得ない話ではありません。

賃貸マーケット環境の変化

生産緑地だった土地が2022年に宅地としてハウスメーカーやマンション・アパートデベロッパー等によって乱開発されると、同じエリア内で新築の賃貸住宅が大量供給されることも想定されます。

賃貸住宅の大量供給の結果、賃貸マーケット環境の変化として以下2パターンのシナリオが考えられるでしょう。

・ 供給過多による賃料下落
・ 人口流入による賃料上昇

供給過多による賃料下落とは、賃貸需要に対して過剰な量の賃貸住宅が一斉に供給されることで空室率が上昇し、オーナー間での賃料競争が激化した結果としてマーケットの相場賃料が押し下げられるというシナリオです。

人口流入による賃料上昇とは、良質な賃貸住宅が大量に供給されることで局地的に人口が流入し、賃料を上げても借り手が付くという状況がマーケットの総意として継続した結果、マーケットの賃料相場が押し上げられるというシナリオです。

賃料相場が下落するか上昇するか、または現状と変わらないかは供給される賃貸住宅の量や成約賃料、人口がどのように変動するかといった複合的な要素によって決まるため、1つのシナリオを盲信せずに多面的な視点を持って投資判断をするのが得策でしょう。

2022年問題は本当に起きるのか?

不動産投資市場にも影響を及ぼし得る2022年問題ですが、起きる確度はどの程度なのでしょうか。

2022年に生産緑地が一斉に宅地に転用されて大量に市場に出回るという見解がある一方で、実際に宅地化されるのは一部にとどまる見通しであるという見解もあります。

新たな法制度の整備により、所有者が自ら営農をしなくても農地として第三者に貸したり、特定生産緑地という新法上の制度を活用して買取りの申出が可能となる期日を10年延期したりして生産緑地の指定を更新することが可能になったためです。

生産緑地の指定を更新する具体的な手段の一つに、市民農園という農地として第三者に貸し出す方法が挙げられます。

市民農園とは、「サラリーマン家庭や都市の住民の方々のレクリエーション、高齢者の生きがいづくり、生徒・児童の体験学習などの多様な目的で、 農家でない方々が小さな面積の農地を利用して自家用の野菜や花を栽培する農園」を指します(農林水産省による定義を引用)。

生産緑地の所有者が税制優遇のメリットを享受しながら農地活用を継続する方法の一つとして市民農園という制度の利用があるということです。

実際に、東京都23区内で最も広い面積(175ヘクタール)の生産緑地がある練馬区においては、生産緑地の指定解除の対象となる農地の9割強が指定を延長する見通しであり、それらの一部は区民農園になっています。

164ヘクタールの生産緑地を抱える千葉県柏市が、2018から2019年にかけて実施した生産緑地の所有者へのアンケート調査においては、土地の売却希望は回答者の1割であり、5割は農地を残す考えを示したという結果が出ています。

生産緑地における2022年問題は、局地的には不動産投資市場に影響を及ぼす可能性も考えられますが、市民農園という生産緑地の新たな活用方法や生産緑地の所有者の意向に鑑みれば、不動産投資の市場全体を揺るがすレベルの大きな影響は起こらないと考えることもできるでしょう。