東京23区においては、ワンルームマンションの建築に関して条例や指導要綱(いわゆる「ワンルームマンション条例」)を設けるなどして規制をしています。今回は、ワンルームマンション条例が制定された背景、どのような条例や指導要綱が定められているか、不動産オーナーへの影響について解説します。

ワンルームマンション条例が制定された背景

ワンルームマンションが増えた背景

2020年度は、新型コロナウイルスの影響からか東京都内からの人口流出があり都内の人口が減少傾向です。しかし数年前までは、都外から都内への人口の流入が多く都内の人口は増加傾向でした。さらに比較的安価で借りることのできるワンルームマンションの需要も増加。マンションを建築する不動産オーナーにとっても住戸の広すぎず戸数の多いワンルームマンションを建築する動きがありました。

このようなワンルームマンションには、若年単身者が入居することが多い傾向です。若年単身者は、比較的短期で転居していく傾向のため、ワンルームマンションが増えることによってさまざまな問題が生じてきました。

ワンルームマンションが増えることによる問題

ワンルームマンションに入居する単身者は、若い人が多いため、家族を持つ世代の人たちに比べれば収入が低い傾向です。そのため住民税など自治体に納める税金は、あまり多くを望めません。自治体からすれば人口が増えて税収が増えることが望ましいでしょう。つまり税収という観点からワンルームマンションの建築は、自治体の利益にはそぐわないという見方もできます。

これがワンルームマンション条例制定の理由の一つです。ワンルームマンションに入居する若年単身者は、比較的短期で転居することが多いため、「あまり地域の活動などに熱心ではない」といわれることがあります。ただしこれは、人それぞれともいえるでしょう。しかしワンルームマンションが増えるにつれて地域住民との間で以下のような問題も少なくありません。

・ ごみの出し方
・ 地域住民との関り方の問題
・ 騒音の問題など

ちなみに東京都千代田区の定める『千代田区 ワンルームマンション等建築物等に関する指導要綱』には、最初に以下のような記載があります。

「ワンルームマンション等建築物は、これまでの地域の環境になじまない形で建築が進められ、地域環境の変化や入居者の生活様式の相違により、近隣住民に不安をもたらしたり、紛争に発展することがあります」
出典:千代田区

少なくとも千代田区は「ワンルームマンションが多かれ少なかれトラブルの発生の原因となっている」と認識しているようです。税収の観点や近隣住民とのトラブルの観点などからワンルームマンション条例の制定が進められてきたことがよく理解できるのではないでしょうか。

23区におけるワンルームマンション条例の状況

では、東京23区においては、どのような形でワンルームマンションの建築に対する規制がなされているのでしょうか。例えば先ほど例に出した千代田区では、条例ではなく「指導要綱」という形で事実上ワンルームマンションの建築を規制しています。その主な内容は、千代田区のホームページも記載されており、同ホームページを参照すると、概ね以下の通りです。

・ 専用面積が30平方メートル以下の住戸が10戸以上、かつ階数(地下も含む)が4以上の建物が対象
・ 建築計画届出書による指導及び標識の設置届、説明会等の報告書の受理、工事完了後の現地調査、適合証の発行
・ 建築確認申請等を行う前に、建築計画・管理等について協議し、「建築計画届出書」を提出。その届出時期は、確認申請等の前の標識設置届出前とする
・ 隣接関係住民及び近隣関係住民に周知を図るため、標識を設置し、「標識設置届」を提出する。隣接関係住民に計画・管理等の説明をし、「説明確答報告書」を提出
・ 設計上の留意事項として、地域の環境、住宅の環境、建物の管理に関する留意事項がある
・ 維持管理上の留意点として、所有者等の責務、入居者の責務、建物の使用細則等の作成、管理会社等の定期報告をする

(引用:千代田区ホームページ「ワンルームマンション等建築物に関する指導要綱」より抜粋)

千代田区では、ワンルームマンションの建築にしては、かなり厳しい要件を課しています。事実上「規制対象となるようなワンルームマンションは建築しない」という意思が伝わってくるのではないでしょうか。次に豊島区の状況を見てみましょう。豊島区では「狭小住戸集合住宅税(通称:ワンルームマンション税)」というものを設けています。

つまり一定程度の要件を満たす狭小集合住宅を建築した建築主に対して税金を課すというものです。千代田区の指導要綱は、ワンルームマンションの建築を間接的に抑制するものでした。しかし豊島区では、より直接的に税金を徴収してワンルームマンションの建築を抑制する方法をとっています。具体的には、以下のような内容です。

課税客体
集合住宅における1住戸の専用面積が30平方メートル未満のもの(以下「狭小住戸」といいます。)で、新築、増築、大規模修繕、大規模模様替、用途変更等をする場合に課税。

納税義務者
狭小住戸を有する集合住宅の建築等を行う建築主。建築にかかる請負契約の注文者、または所有者自ら建築する場合の工事を行う者。

税率
狭小住戸1戸につき50万円。

非課税事項
狭小住戸の数が8戸以下の建築等の行為に関しては、課税を全額免除。

不動産オーナーは、できるかぎり利益を得たいと思うでしょう。しかしワンルームマンションを建築したら課税されてしまうのであれば、ワンルームマンションの建築をためらわざるをえません。さらにいえば新築のみならず増築や大規模修繕、大規模模様替、用途変更などの際にも課税されます。

そのため豊島区では、課税対象のワンルームマンションを保有し続けるかぎり狭小住戸集合住宅税が課されるというわけです。当然不動産オーナーからすれば豊島区以外の場所でワンルームマンションを建築することを検討するでしょう。

ワンルームマンション条例が不動産オーナーに与える影響

東京23区のワンルームマンション条例は、古くは1985年ごろから制定されているものがあります。しかし近年はワンルームマンション条例の規制がさらに厳しくなったといえるでしょう。当然、ワンルームマンション条例の規制が厳しくなれば対象地域でのワンルームマンションの建築は抑制されてしまいます。

不動産オーナーも規制の対象となるようなワンルームマンションを建築するよりは、「他地域でワンルームマンションを建築する」「規制対象とならないようなマンションを建築する」といった選択をするでしょう。2020年以降は、新型コロナウイルスの影響もあり都内から人口が流出傾向です。ただ新型コロナの影響がなくても2025年をピークに人口が減少するといわれていました。

そのため今後人口の減少傾向に伴いワンルームマンション条例の規制が緩くなる可能性があるかもしれません。他方で東京都内での人口減少の傾向が進めば住居の選択肢が広がるため、わざわざワンルームマンションに居住する人自体が減る可能性もあります。この傾向が進んだ場合は、ワンルームマンション自体の需要が大きく低下するでしょう。

不動産オーナーは、自身が建築するアパートやマンションの立地にかかる条例などの規制や需給状況にも着目して建築を進めることが必要です。