美術工芸品・書画骨とうが富裕層の財産となった歴史は古く紀元前に遡ります。その中で絵画は、鑑賞・装飾・資産運用対象と幅広い価値が認められており価格も数万円~数億円以上までさまざまです。本記事では、絵画の趣味・実益と節税について学んでみましょう。

絵画流通市場の現況

「日本のアート産業に関する市場調査2020年」によると日本全体の美術品市場規模は、2,363億円でした。2019年と比較して217億円減少していますがコロナ禍で画廊やアートフェア、オークションへの参加が減ったことが予測されます。以下の表は、美術品の流通を扱う事業者などと流通しているジャンルを一覧にしたものです。

日本の美術品の流通市場(2019年)

流通業態別 金額 ジャンル別 金額
(単位:億円) (単位:億円)
国内の百貨店 567 22.00% 日本画 513 19.90%
画廊・ギャラリー 982 38.10% 洋画 434 16.80%
作家からの直接の購入 198 7.70% 陶芸 382 14.80%
国内のインターネットサイト 192 7.40% 現代美術(平面) 317 12.30%
国内のアートフェア 176 6.80% 版画 258 10.00%
国内の美術品のオークション 138 5.30% 工芸 175 6.80%
国内のミュージアムショップ 92 3.60% 掛軸・屏風 171 6.60%
その他の国内事業者 123 4.80% 現代美術 141 5.50%
国外での購入 86 3.30% 彫刻 92 3.60%
その他 27 1.00% その他 167 6.30%
合計 2580 100% 合計 2580 100.00%

※「一般社団法人 アート東京 日本のアート産業に関する市場調査2019年」を元に編集部作成

日本の美術品の流通市場(2020年)

流通業態別 金額 ジャンル別 金額
(単位:億円) (単位:億円)
国内の百貨店 673 28.50% 洋画 603 25.50%
画廊・ギャラリー 672 28.40% 陶芸 449 19.00%
国内のアートフェア 162 6.90% 日本画 358 15.20%
国内の美術品のオークション 121 5.10% 現代美術(平面) 264 11.20%
国内のインターネットサイト 107 4.50% 版画 186 7.90%
国内のミュージアムショップ 47 2.00% 掛軸・屏風 153 6.50%
その他の国内事業者 146 6.20% 工芸 140 5.90%
作家からの直接の購入 229 9.70% 写真 52 2.20%
国外での購入 160 6.80% 彫刻 51 2.20%
その他の国内事業者 45 1.90% その他 105 4.40%
合計 2363 100.00% 合計 2363 100.00%

※「一般社団法人 アート東京 日本のアート産業に関する市場調査2020年」を元に編集部作成

絵画を中心とする日本の美術品市場における構成比の上位は、以下の通りです。

・ 百貨店:28.5%
・ 画廊・ギャラリー:28.4%
・ 国内のアートフェア:6.9%
・ 国内の美術品オークション:5.1%

百貨店と画廊ギャラリーで56.9%を占めており、国外での購入は、6.8%と2019年の3.3%と比べて倍増しています。ジャンル別では、2020年に洋画が前年の16.8%から25.5%大きく伸びた半面、日本画が19.9%から15.2%と比率を下げています。また絵画以外の多様な美術品が流通していることがわかります。

資産運用としての絵画とその他資産

美術品の鑑賞用や装飾としての利用と共に資産としての保有は、時代を超えて継続しています。最初に美術品から少し離れて資産の運用について確認してみましょう。資産運用する場合の対象は、大きく分けると「金融資産」「実物資産」の2つです。2021年5月時点における金融資産の運用成果は、格差が大きく預貯金はほぼゼロ金利、公社債も低金利となっています。

ただリスク資産を運用している人にとっては、極めて好調な状況といえるでしょう。一方で実物資産には、不動産や貴金属、美術品、コレクションなどがあります。

・ 不動産:マンションやアパート、土地、一戸建てなど
・ 貴金属:金や銀、プラチナ、ダイヤモンド、その他宝石類
・ 美術品・コレクション:美術品やアンティークコイン、切手、酒類など

いずれも「住む」「貸す」「身に着ける」「楽しむ」などの実際的な価値に加えて資産としての価値があることが共通項です。実物資産と金融資産をメリットとデメリットに分けてと比較してみましょう。

対比 比較項目 実物資産 金融資産
メリット インフレ 強い 弱い
金融異変(危機) 強い 弱い
デメリット 物理的損傷 可能性あり ほぼなし
盗難 可能性あり 極めて少ない
保有コスト 高い ほぼなし
利益を生む 生まないものある 生む可能性が高い

実物資産は、インフレや金融危機などの経済現象に大きな変化が起きたときは、資産価値が維持される点がメリットです。しかし物理的な損傷や盗難などが起きる可能性がある点はデメリットとなります。これを防ぐには、保険や警備などコストをかけることが必要です。また利益ついては、本体価値の値上がり以外の利益(貸出や節税)を生み出すことがあるでしょう。

しかし資産によっては可能性のないものもあるため注意が必要です。比較対比してみると実物資産と金融資産のメリットとデメリットが反対になっている点が多く相互補完が見えてくるでしょう。

絵画の特性

実物資産のメリットとデメリットが分かったところで「絵画」の特性を確認してみましょう。絵画の特性は、実物資産のメリットとデメリットにほぼ該当しますがそれ以外の特性もあります。絵画は、趣味鑑賞時の情緒的な満足感や保有時の優越、満足感、資産価値などに加えて装飾としての使用価値といったものがあるのです。

美術品・コレクションとしての実物資産は、アンティークやコイン、切手などもあります。しかし装飾品として実用的な価値があるのは、絵画ではないでしょうか。例えば来客の多い待合室や会議室、執務室、食堂レストラン、喫茶などへの絵画の展示は、装飾としての効果が大きい傾向です。また絵画によっては、事業のステイタスや評価を高める効果も期待できるでしょう。

絵画は、運用資産としての償却資産としての側面があります。

償却資産としての絵画:100万円未満は原価償却可能

絵画などは、20万円未満であれば減価償却資産として認められていましたが2015年(平成27年)に法人税の基本通達が改正。それに伴い100万円未満の絵画は「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」という条件付きですが原価償却資産として認められるようになりました。償却期間は、8年間で定率法および定額法で償却が可能です。

また100万円以上の絵画についても以下の条件の場合は、償却資産と認められます。

1. 会館のロビーや葬祭場のホールのような不特定多数の者が利用する場所の装飾展示用
2. 移設することが困難で当該用途にのみ使用
3. 他の用途に転用する場合に美術品等としての市場価値が見込まれないもの

1~3については、法令文書の要約のため、実際の適用に際しては、税理士など専門家への確認が望ましいでしょう。例えば良い絵画を99万円で入手できた場合、8年償却で年間約12万円(定額法の場合)の減価償却ができるため、8年後の簿価はゼロです。時には値上がりによって節税をしながらさらに資産を増やすことも期待できます。

例えば100万円の絵画を5年間、毎年購入した場合を想定してみましょう。年間900~1800万円の所得のある人の税金は、住民税と合わせると以下のように試算できます。

毎年の減価償却費12万円×43%(所得税33%、住民税10%)×8年×5枚=206万円

ただし展示場所があることや購入を数年に分けることが必要かもしれません。

絵画保有のあれこれ

画家と絵画選び
「評価の定まった画家を選ぶのが無難」という意見がある一方で「無名作家作品の青田買いを目指すと良い」という意見もあるようです。いつまでも残る1枚という選択がキーワードかもしれません。

アートビジネスという選択
手持ちの絵画を貸し出す「収益ビジネス」という選択肢もあります。一定規模の投資で絵画を保有することが必要ですが、減価償却しながら貸し出すことにより、収益と資産を残すことも可能です。貸出先を探す努力が必要ですが、先行モデルの事業者もあるかもしれないため、検討の余地があるでしょう。

リスク対応
実物資産と金融資産の比較をしましたが絵画も物理的な損失のリスクはあります。そのため建物全体の防犯などと共に盗難や自然災害時の保険の加入が不可欠です。絵画を含む書画骨とうは、一定の審美眼やアートに対する知識も必要となります。成功例に惑わされない冷静さも必要です。

趣味だけでなく、節税や実益の創造に絵画への投資を

2020年時点の絵画を含む美術品の日本国内の市場規模は、美術品で約2,363億円、関連市場を含めると約3,197億円と推計されていますが全世界では約7兆円規模といわれています。実物資産の中では、節税や利益を生み出す特性も大きなメリットです。また金融資産と比較した場合は、相互補完の点が多いため、金融資産と絵画保有の組み合わせが良い選択肢の一つともいえるでしょう。

絵画への関心と投資は、趣味・実益のほかに美術品を創り出すアーティストへの支援や社会への貢献という幅広い視点もあるのではないでしょうか。