吉田謙太郎
宅建士・不動産投資家・ライター|筑波大学卒業後、大手不動産会社にて投資用不動産の売買および賃貸営業・投資家へのコンサルティング・自社メディアでの記事執筆などを行う。自身でも社会人1年目(22歳)から不動産投資をしており、横浜市・大阪市・神戸市に区分マンションを4戸運用中(2021年11月現在)。保有資格は宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者。(I列)

私たちが労働者として提供できる労働力は、潜在的に有している資産の一つといえます。預金の少ない若い会社員でも家や車を買う際のローン審査に通りやすいのは「長期的に継続して提供できる労働力」という資産があるからです。労働力は、体力とともに低下していくことが自然で提供できる期間にも限りがあるため、自分の労働力のみに依存することは危険といえるかもしれません。

本記事では、労働力に関する「人的資本」という概念と資産運用の関係性について述べたうえで資産運用は早く始めるほど有利になりやすい理由を3つの観点から解説します。

自分自身を資産と考える!人的資本とは?

2001年にOECD(経済協力開発機構)が定義した内容によると人的資本とは「個人的、社会的、経済的厚生の創出に寄与する知識、技能、能力及び属性で、個々人に具わったもの」です。人的資本を言い換えれば「各人がそれぞれのスキルでお金を稼ぐ力」といえるでしょう。人的資本の考え方は、自分自身を一つの資産として捉えているのが特徴です。

そのため自分が稼ぐ給与収入や事業収入は、投資のインカムゲインと同義と解されています。60歳または65歳で引退を迎えるまで会社で働いて給与をもらい続ける会社員は「引退時までの利付債券を保有していると考えられる」ということです。

人的資本は加齢とともに低下する

先述したように人的資本の考え方で自分自身は一つの資産となるため、不動産などの現物資産のように減価償却していくと考えられています。「人的資本で減価償却が起こる」ということは、「人的資本の価値は高齢化によって低下し退職や死亡によって使用期間の短縮が起こる」ということ。年齢を重ねることで働いて給与をもらい続けられる期間が短くなっていくということです。

そのため自分自身という資産から将来的に受け取れると見込まれるインカムゲインが少なくなっていくと解釈することもできるでしょう。

資産運用によって人的資本の低下リスクをヘッジしよう

人的資本は、加齢とともに低下すると考えられているため、人的資本の低下を他の資本で補うことが必要です。人的資本の低下を補うための有効な手段の一つとして資産運用が挙げられます。資産運用とは、株式や債券、不動産、現金といった金融資本を保有したり運用したりすることでインカムゲイン(配当や利息、賃料収入など)やキャピタルゲイン(売却益)を得ることです。

人的資本の低下とともに金融資本が増えていけば資本および資本が生むインカムゲインの総量を維持したり上昇させたりすることが期待できます。そのため資産運用は、人的資本の低下リスクをヘッジするために有効な手段の一つといえるでしょう。

資産運用は早く始めるほど有利になりやすい3つの理由

人的資本の減価償却という考え方においては、18歳や22歳で社会に出た時点をピークに人的資本は低下を続けると解されます。そのため人的資本の低下を補うための資産運用は、社会に出たときから少しずつでも始めておくのが理想的です。資産運用を早くから始めることは、人的資本の低下に対して早期に備えられるメリットだけでなく以下の3つの点において有利になります。

・ 複利効果を得られる
・ 損失をリカバリーしやすい
・ リスクをとってチャレンジできる

複利効果を得られる

複利効果とは、運用で得た収益を当初の元本にプラスして再び投資することです。複利効果の利用により金融資本が生んだ収益を再投資することで元本を膨らませ加速度的に金融資本を増加させることが期待できます。複利の対概念は単利です。単利運用においては、金融資本が生んだ収益は再投資されません。

複利効果の大きさを示すために1,000万円の元本を年利3%で運用する場合の複利運用と単利運用のパフォーマンスを比較してみましょう。5年間にわたり運用を続けた場合、複利運用時は金融資本の総量が約1,159万円となるのに対し単利運用時は1,150万円となり約9万2,741円の差が生まれます。運用が長期間になればなるほど両者のパフォーマンスの差はより顕著になるのが特徴です。

10年後:約44万円
20年後:約206万円
30年後:約527万円
40年後:約1,062万円

このように複利運用のほうが圧倒的なハイパフォーマンスが期待できます。同じ元本かつ同じ利回りでも資産運用を早く始めるほど複利効果を利用しながらより長い時間を味方につけることができるため、有利になるといえるでしょう。

損失をリカバリーしやすい

資産運用には、価格変動リスクがつきものです。そのため相場の変動により損失を出してしまうこともあるでしょう。しかし「損失が出てしまった場合のリカバリーのしやすさ」という点でも以下2つの理由から資産運用を早く始めることが有利に働くと考えられます。

・ 人的資本からの補てんがしやすい
・ 相場の回復を待てる時間的猶予がある

資産運用において損失が出たとしても早いうちから資産運用を始めていれば当該損失を人的資本から補填できる可能性が高いでしょう。年齢が若い時期に出た損失であれば人的資本に余力があるため、給与収入などから金融資本上の損失を補てんしやすいということです。人的資本に余力がある若い時期ほど資産運用で一時的に大きな含み損を抱えたとしても相場の回復を待てる時間的な猶予があります。

そのため焦らず腰を据えた資産運用がしやすくなるでしょう。人的資本から金融資本上の損失を補てんきたり焦らず相場の回復を待てたりすることは、引退が近くなったタイミングや引退後に損失が出た場合も同様です。早いうちから給与収入などを運用しておくことで引退を迎えるころには、大きな金融資本を築くことが期待できるでしょう。

引退後に損失が出たとしても十分な絶対量の金融資本を確保することができます。引退時に1億円の金融資本があればその後に相場の暴落によって価値が半減したとしても5,000万円という十分な絶対量の金融資本が確保できるのです。価格変動による損失が何歳のときに出たとしても資産運用を早く始めておくことでリカバリーがしやすくなるといえます。

リスクをとってチャレンジできる

若いときほど人的資本の余力が大きいため、金融資本の運用で失敗した場合のリカバリーもしやすいことからリスクをとった資産運用にチャレンジすることができます。ハイリスクをとってハイリターンを狙う資産運用の具体例は、主に以下の2つです。

・ レバレッジをかける
・ ハイボラティリティーな資産に投資する

レバレッジとは、外部資本を活用することで自己資本に対する利益率を高めることです。レバレッジをかけられる資産運用には、FXや株式投資の信用取引、融資を活用した不動産投資などが挙げられます。レバレッジをかけることで自己資本より大きい金額の投資ができるため、少ない自己資本でも大きな利益を期待できる点がメリットです。

一方で自己資本以上の損失を出してしまい借金が残るリスクがある点はデメリット。つまりハイリスク・ハイリターンな資産運用を行うことになります。各金融商品の最大レバレッジは、以下の通りです。

・ 株式投資の信用取引:証拠金の最大約3.3倍
・ 国内FX会社:証拠金の最大25倍(法人の場合は100倍)
・ 海外FX会社:証拠金の最大5,000倍
・ 不動産投資:3~6倍程度(一般的な自己資金の目安水準)

ボラティリティーとは、価格変動の大きさのことです。値動きが激しい資産はハイボラティリティー、値動きが少ない資産はローボラティリティーと呼ばれます。ボラティリティーの高さとリスクの大きさは、比例関係にあり仮想通貨や新興株のようにハイボラティリティーな資産はハイリスク資産、国債のようにローボラティリティーな資産はローリスク資産とされています。

ハイボラティリティーな資産ほど値動きが激しいため、期待できるリターンも大きくなるのが一般的です。失敗してもリカバリーが十分にできる間は、ハイボラティリティーな資産にレバレッジをかけて投資するなどのハイリスクをとってハイリターンを狙うスタイルの資産運用も選択肢の一つです。