丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

日本の代表的なカルチャーである漫画は大衆娯楽として社会に浸透しています。現役東大生も漫画を読んでいることがテレビ番組でも話題になりました。東大生はどのような漫画を読んでいるのでしょうか。東大生が「勉強になる漫画」として薦めている作品を紹介します。

意外!東大生も漫画を読んでいる

東大生と聞くと難しい学術書や高尚な文学を読んでいそうなイメージがありますが、実は漫画も読んでいます。しかし、漫画を読むといってもそこは東大生、1つ1つの作品に勉強の糧になりそうなポイントをしっかり見出しているようです。テレビ番組「林修の今でしょ!講座」の「東大生が選んだ勉強になると思う漫画ベスト20」という企画にそれがよく表れています。東大生が勉強になると薦めている漫画には、どのような学ぶべきポイントがあるのでしょうか。代表的な作品を見てみましょう。

ズバリ!東大がテーマの「ドラゴン桜」

東大入試をテーマにした漫画「ドラゴン桜」(三田紀房著、講談社発行)は、2005年に阿部寛主演によりテレビドラマ化されたので、ご覧になった方も多いでしょう。漫画「ドラゴン桜」は現役東大生も勉強になると薦めています。自身の受験当時に重ね合わせて読んでいるためでしょう。原作漫画は単行本全21巻、194話で構成されていますが、その中にさまざまな受験テクニックや勉強法が紹介されており、受験ノウハウのベストセラー本と並ぶ高い評価を受けています。

本編に登場する勉強法の数々は実にユニークで、たとえば主人公桜木が最初に教えた勉強法は「古典は漫画で勉強しろ」というもの。古典で大変なのは現代文に訳すことなので、先に漫画で大筋を読んでから取り組めば理解が早くなるという考え方です。このような勉強法が次から次に登場するので、学生のみならず社会人が読んでも発想を養う勉強になりそうです。

本編の続編「ドラゴン桜2」も2021年に同じ阿部寛主演でドラマ化されています。

普遍的名作「ドラえもん」は東大生にも大人気

「ドラえもん」(藤子・F・不二雄著、小学館発行)は漫画史上に残る普遍的名作ですが、子ども向け漫画と侮るなかれ、東大生の間でも大人気なのです。「東大生が選んだ勉強になると思う漫画ベスト20」で堂々第1位に輝いています。「ドラえもん」の魅力といえば、キャラクターの面白さもさることながら、次々に出てくる奇抜な発明品にあります。東大生ならばこの発明品を実用化できないかと当然考えるでしょう。

たとえば頭に付けたプロペラ装置で空を飛べる「タケコプター」は、人間を浮き上がらせるだけの動力を小さなプロペラに搭載することができるのか、などと発想を膨らませることができます。人間はまだですが、荷物を空中で運ぶドローンはすでに実用化されています。また、「どこでもドア」は現実的には不可能ですが、今ではVR(仮想現実)技術を使って一瞬にして海外に行ったような体験をできるまでにはなりました。「そんなこと無理」と考えるのではなく、少しでも発明品に近いものを開発するヒントを学ぶことができるのが、東大生を惹きつけている理由かもしれません。

医学・生物学の知識が身につく「薬屋のひとりごと」

医療ミステリー漫画として人気を集めているのが「薬屋のひとりごと」(原作:日向夏、漫画:ねこクラゲ、発行:スクエア・エニックス)です。原作はヒーロー文庫から出ている人気小説で、中世の宮中で下働きする主人公の後宮下女・猫猫(マオマオ)が薬屋としての知識を基に難事件を解決する物語。たとえば第1話では、帝の乳幼児たちが次々に変死する事件が発生します。原因がわからず悲しみ嘆く帝の妃に対し、主人公は妃たちが身に着けているあるものが薬学的に死に至らしめていることを突き止め、伝えます。このようにきちんとした薬学の知識に基づいて事件を解決に導くのが作品の特徴です。

このほかにも食物アレルギー、粉塵爆発など理系の学生なら初歩的ともいえるテーマが謎解きのキーワードになっており、主人公と一緒に謎解きをできるのが人気の秘密です。理系の勉強が楽しくなる1冊といえます。

古文の勉強にいざなう少女漫画の傑作「あさきゆめみし」

学生時代、古文が苦手だったという方は多いでしょう。圧倒的な画力で読者を古典の世界にいざなう「あさきゆめみし」(大和和紀著、講談社発行)は少女漫画の傑作として名高い作品です。実は先に紹介した「ドラゴン桜」で古典を攻略するために読むべき漫画として登場するのが「あさきゆめみし」なのです。

「あさきゆめみし」は、古典の「源氏物語」を54帖にわたりほぼ忠実に漫画化しています。当時の衣装だけでなく生活様式や家財道具も作者が丹念な研究を重ね、リアリティを持たせています。「源氏物語」に視覚的効果を加え、漫画という読みやすい形で読者に古典への興味を持たせた功績は大きいでしょう。

宇宙飛行士も絶賛のリアル漫画「宇宙兄弟」

「宇宙兄弟」(小山宙哉著、講談社発行)は、単なるSFではなくJAXA(宇宙航空研究開発機構)を細かく取材しており、JAXAの仕組みやロケットをどのように打ち上げているのかがリアルに追体験できる漫画です。その完成度は宇宙飛行士の野口聡一氏、山崎直子氏も物語のリアル感に太鼓判を押しているほどです。

物語は2006年にUFOを目撃した主人公の兄弟2人(南波六太、日々人)が、出来事をきっかけに宇宙飛行士になることを誓い合って歩んでいく姿を描きます。19年後の2025年には兄弟の境遇は明暗が分かれ……。壮大なスケールの中に兄弟愛というヒューマンドラマの要素もあり、2人を応援しながら宇宙の知識も学べる点が人気の要因です。宇宙に興味を持つきっかけにするには最適な作品といえます。

ほかにもある、こんな名作・話題作

ほかにも東大生おすすめの漫画はたくさんあります。漫画界のレジェンド手塚治虫の「ブラック・ジャック」(秋田書店発行)は、医療漫画の名作として東大生にも読み継がれています。素性のわからない天才外科医ブラック・ジャックが、神業といわれる医療技術を駆使して数々の難病を治していきます。1話完結形式なので、どの話から読んでも楽しめるのが特徴で、全242話が連載されました。「鉄腕アトム」と並ぶ著者の代表作です。

「はたらく細胞」(清水茜著、講談社発行)は、生物の勉強になると話題の作品です。第1巻では肺炎球菌、スギ花粉症、インフルエンザなど次々に体を襲う脅威に対して、白血球、赤血球、血小板、B細胞などが対抗する攻防戦を描く「細胞擬人化漫画」です。東大の医学部で教授が例に挙げることがあるということからも、完成度の高さがうかがえます。

「ちはやふる」(末次由紀著、講談社発行)は、百人一首を覚えられると評判の作品です。主人公の千早(ちはや)が同級生とともに「小倉百人一首競技かるた」の団体戦に挑戦する姿を生き生きと描きます。ストーリーを楽しみながら百人一首を覚えられるのが人気の秘密と思われます。

また、「東大生が選んだ勉強になると思う漫画ベスト20」のランキングには「鬼滅の刃」「名探偵コナン」「ワンピース」「進撃の巨人」などメガヒットといえる話題作も入っており、東大生はトレンドもしっかり取り入れています。

昭和30年に「悪書追放運動」が起きたほど、漫画は悪書の代表といわれた時代がありました。それがいまではすっかり市民権を得た形です。そして、面白いだけでなく、勉強に生かせる作品もたくさんあります。漫画を読むことさえ勉強の糧にしてしまう東大生の発想はさすがと言わざるを得ないでしょう。