不動産投資

(画像=gorodenkoff/stock.adobe.com)
新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFPR、一級FP技能士(資産運用)、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン住宅購入のアドバイス)の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちの社会生活に甚大な影響を及ぼしており不動産市場もそのあおりを受けています。2020年10月時点でも依然として新型コロナウイルス感染拡大の収束の見通しが立っていません。そのため市場の先行きに対する不安の声も上がってきています。今回は、新型コロナウイルス感染症の拡大が「今後の不動産市場にどのような影響を及ぼすのか」についてさまざまな角度から解説していきます。

## 今後の金融市場はどうなる?

今後の不動産市場を考えるにあたり金融市場の見通しについて避けて通ることはできません。新型コロナウイルスの影響で2020年3月19日には日経平均株価は場中に1万6,358円19銭の年初最安値を付けました。株価や通貨だけでなくREIT(不動産投資信託)についても世界中で売りの局面が見られ東証REIT指数は2013年以降に形成された価格上昇を一気に消失させる事態に陥ったのです。

しかしその後は各国の金融当局などによる政策が功をなし2020年10月時点で市場はある程度の落ち着きを取り戻しています。また多くの金融機関が3月決算において貸倒引当金を積み増して減益決算としました。これは今後増加すると見込まれるコロナ関連倒産に対応するための会計上の手当を行ったことの裏付けです。

「将来にわたって金融機関の健全性を確保するために行った」という意味も踏まえ今後の経済対策の一環として評価すべき点と言えるでしょう。この状況下では不動産投資においても「新規投資は控えて所有物件を売却する動きが大きくなる」と考えるのが無難です。しかし「新規投資を積極的に行う」という考えを持つ投資家がたくさんいることは注目すべきポイントでしょう。

たしかにコロナショックから現在に至るまで金融機関が不動産融資の貸し渋りや貸しはがしを行っている状況は見られていません。もちろんホテル業界や商業店舗が存続の危機に直面していることは疑いようのない事実です。またこれらの業種を対象とする不動産投資は今後抑えられる傾向になると予想されます。

しかし不動産市場全般を考えた場合、投資環境が変わっていく可能性は今のところ低いといえるでしょう。

## 法人企業景気補足調査から見る不動産需要の見通し

「外国人観光客の激減」「国内の移動や外出の自粛」「飲食業界の営業自粛」などに伴いホテル業界や商業店舗などが危機に局面しています。またそれらの業種は不動産を賃借して営業しているケースが多い傾向です。売り上げが下がることは単純に考えれば賃料の支払い能力を失うことに直結します。しかし売り上げの減退がそのまま貸主の賃料収入の減少につながるわけではありません。

なぜなら商業店舗と一口に言ってもエンターテインメントやアパレルなどを主としている店舗は大きな痛手を受けていますが食品スーパーやドラッグストアなどは巣ごもり消費の恩恵を受けているからです。また不動産賃貸市場において経済の下押しの影響を無視することはできません。日本経済は、2020年の第2四半期が底となり年の後半からは回復に向かう見方もあります。

それでも2020年前半のマイナス成長は歴史的なものとなる可能性が高いです。ここで企業活動や雇用情勢に取り返しのつかないような変化が生じた場合、オフィスや住宅の賃貸市場にも悪影響が及ぶことになるでしょう。ただ幸いにもこれまでのところ企業が前向きな姿勢を完全に失っているわけではありません。

内閣府・財務省が発表している「法人企業景気予測調査(令和2年7~9月期)」によると設備投資における判断指数の「生産・販売などのための設備判断」の基準となるBSIを見ても大企業、中堅企業、中小企業いずれも「過大」です。また先行きについても同様の見方をしています。これは現在保有している設備を持て余すほどに企業活動が停滞していることを大きく表していると言えるでしょう。

新型コロナウイルス感染症が収束に向かい景気が回復し始めれば企業の需要に支えられるオフィスや物流施設の賃貸需要に対する大きなダメージは回避できます。

## 中長期で見る不動産の需要の変化について

今後のオフィス市場は「中長期的な観点で不動産の使い方そのものが構造的に変化する可能性がある」ということをしっかりと理解しておく必要があります。緊急事態宣言が発表され多くのオフィス労働者が在宅勤務などのリモートワークを強いられることになり新しい働き方が若干定着しつつあることを感じている人も多いのではないでしょうか。

しかしこの考え方には慎重な意見もあります。コロナ禍における在宅勤務を含むリモートワークは、あくまでの非常対策の一つです。また非常時における対策の一つだからこそ「組織のまとまり」「信頼性」という価値観が暗黙のうちに共有されています。その結果「勤務実態の不透明性」「コミュニケーションの希薄化」といったテレワークの弊害が表面化せずに済んでいるのです。

特にアメリカでは、過去にリモートワークを導入したにもかかわらず期待通りの効果を得られないことからリモートワークの縮小を余儀なくされた例が多く報告されています。現在では、ビデオ会議システムなどの新技術が劇的に進化していますがリモートワークに存在する「経営上そして組織マネジメント上の課題を解決できない」という問題を抱えたまま定着させるのは早急と言わざるを得ません。

一方でオフィスの機能を見直す行動が高まっていることも事実です。具体的には以下のようなものになります。

* 「作業スペース」としてのオフィス
* 「コミュニケーションとイノベーションの場」としてのオフィス
* 「顧客との接点や顧客への情報発信拠点」としてのオフィス

オフィスの位置付けが細分化されそれぞれの位置付けに適した立地や設備のオフィスの需要が増えることが予想されているのです。

## 不動産業界における問題点と解決策

住宅の賃料が景気の動向に沿って調整されるわけではありませんが住宅市場においてはこれまで雇用や所得環境の改善によって支えられてきました。しかし2020年3月国土交通省住宅局が発表した「令和元年度 住宅市場動向調査報告書」によるとこれまで上昇を続けていた公示地価が2020年8月には横ばいに転じておりマンション価格も若干下落傾向を見せています。

これは今後の雇用に対する不安の表れとも言えるでしょう。雇用や所得環境が改善されない限り上昇傾向に転じるまでには時間がかかると予測されるため、この点は今後の国の政策に期待したいところです。またオフィス需要に関しては、供給する側の不動産業界が上述したオフィスの位置付けの細分化を理解しそれぞれに適した物件を提供できるかどうかが今後の最大の課題となるでしょう。

新型コロナウイルスに伴う影響を「オフィスの床需要の減少」「都心のオフィスの空室率が増加する」といった不安だけで捉えることは危険です。例えば「オフィスの位置付けに沿ったワーケーション」「各地域でのコミュニティ型コワーキングスペース」などの新しいサービスの確立と定着をいかに早く進めていくことも大切になるでしょう。

国による雇用環境や所得環境の改善、不動産業界の意識改革と変化に対するすばやい対応こそが今後の不動産市場の見通しを明るくする足がかりになるのではないでしょうか。

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