武井利明
住宅メーカーに約20年営業職で勤務。現在は住宅専門ライターとして住まいの選び方、土地の選び方、ローンを含めた資金計画、プラン、メーカー比較、リフォームなど、幅広いテーマで多数のメディアに執筆。人気動画サイトの住宅系動画脚本なども手がける。営業マン時代に培った知識と経験を生かし、これから家を建てる方の悩みや疑問、不安を解決する記事を得意としている。

不動産投資物件のリノベーションを考えているものの、「どんな工事をすればいいかわからない」と困っていませんか?建築やインテリアの仕事をしていない限り、リノベーションのトレンドを知る機会はあまりないでしょう。

しかし、コロナ禍の影響で、賃貸に求められるトレンドが以前から変わってきています。そのため、今の時代に合ったリノベーションにしないと、せっかく工事をしても投資効果が出ない可能性があります。そこで、コロナ後のリノベーショントレンドや工事の種類について詳しく解説します。

リノベーションは価値を加える工事

リノベーションとは物件に新たな価値を加える工事であり、部屋を以前の新しい状態に戻そうとするリフォームとは根本的に異なります。トレンドを知る前にこの違いをしっかり理解しないと、リノベーションをしても入居者が絶えない人気物件にはできません。

例えば内装を他の賃貸にない斬新なデザインにしたり、新しい設備を導入して個性的な生活ができるようにしたりするのがリノベーションです。具体例はこのあとトレンドとともに紹介しますが、リフォームのように見た目をきれいにして、少し目立つ色の壁紙を使った程度では人気の物件になりません。

単にきれいな部屋にするだけでは、より築年数の新しい物件に負けてしまいます。入居者はその物件に住むことで、他では味わえない満足感や楽しさ、便利さなどが手に入ると思うからこそリノベーション物件を選びます。

リノベーションは、この価値が加わるという点をしっかり理解したうえで行う必要があります。そして今の入居者はどんな価値を求めているか、つまりレンドに合ったリノベーションをすることが非常に大切なのです。

部屋タイプごとのリノベーショントレンド

賃貸に求められる具体的なトレンドは、ワンルームタイプとファミリータイプの2つに分けて考えます。これは単身者と家族では部屋に求める価値が異なるからです。ここではそれぞれのタイプのトレンドを紹介します。

ワンルームタイプのトレンド

コロナ以降の単身者が住むワンルームタイプでは、部屋で楽しんだりリラックスできたりすることが求められています。これは外出自粛やテレワークの広がりにより、自宅で過ごす時間が増えたためと考えられます。

例えば大画面テレビやホームシアターのスクリーンが設置できる広い壁があったり、一人暮らしでも料理をじっくり作れる大きめなキッチンが付いていたりする物件です。他にも間取りができるだけ広く、リラックスして過ごせる物件も人気を集めています。

また以前から人気のある、個性的でスタイリッシュなデザインの物件というトレンドも続いています。このため、自宅で過ごす時間の充実とデザイン性の高さを兼ねそなえたリノベーションが、コロナ後のワンルームタイプのトレンドと考えられます。

ファミリータイプのトレンド

家族で住むファミリータイプのコロナ後のトレンドは、自宅でテレワークをしやすくするリノベーションです。以前は自宅のダイニングテーブルやキッチンカウンターでテレワークができると思われていました。しかし実際には、同じ空間に家族がいるため仕事に集中しにくいことがわかってきたのです。

このため現在は、独立したワークスペースのある物件が人気を集めています。例えば主寝室や和室など、LDKとは別の部屋にカウンターなどを取り付けてワークスペースを作ると、集中して仕事をしやすくなります。

ワークスペースは、現在増えている子どもの塾や大人の習い事をオンラインで受けることにも使えます。そうしたコロナ後のニーズに応える物件としてアピールするのも良いでしょう。こうした入居者の生活上の悩みを解決するリノベーションが、ファミリータイプの現在のトレンドになっています。

リノベーションの種類によって投資効果を高める

一口にリノベーションと言っても、間取りやデザインだけでなく打ち合わせ方法や工事などの種類にもトレンドがあります。最近特に注目を集めるリノベーションの種類を紹介します。

多忙な人に人気のセレクトオーダーリノベーション

セレクトオーダーリノベーションとは、不動産会社が用意したいくつかのプランの中から選んで工事する方法です。打ち合わせ時間が少なく不動産会社の人件費を抑えられるため、細かく打ち合わせする通常のリノベーションに比べ割安な工事費が設定されています。

オーナーの考えをリノベーションに反映しにくい方法ですが、プロの考えた間取りやデザインで工事するため失敗はしにくいと言えます。また副業で不動産投資をしていて、なかなか打ち合わせの時間が取れないというオーナーにもおすすめの方法です。

将来の補修コストを抑えるフルリノベーション

フルリノベーションとは、壁や床を剥がし給排水管などが見えるスケルトン状態にしてから行うリノベーションです。給排水管などの劣化や損傷を確かめ、必要なら交換や修理をすることで将来の補修コストを抑えられます。

築年数の経った建物では、床下や壁の中にある給排水管などが傷んでいる可能性があります。しかし通常のリノベーションは、目に見える内装や設備を工事するだけのため給排水管などの傷みに気付かないことがあります。

もし給排水管から水漏れを起こせば、所有する部屋だけでなく下の部屋の補修費も負担する可能性があります。被害額によっては投資の収益を大きく失う可能性もあります。

フルリノベーションはそうした将来の損失を未然に防げるため、初期費用はかかりますが保険の意味で行われるケースが増えています。不動産投資は長期的な視点で収支を考える必要があるため、古い物件では検討する価値のあるリノベーション方法です。

売却価値も高まるインスペクション

マンションや一戸建ての壁の中や床下には、給排水管や電気配線、ガス配管など重要なライフライン設備があります。インスペクションはこれを売主や工事業者から離れた立場で点検し、劣化状態や補修が必要かを判断してくれます。

実際には建築士事務所などに依頼し、リノベーションはもちろん売買、新築のときにも行えます。物件の工事や購入した後に、見落とされていた劣化で予想外の補修費が発生するのを避けたいという方におすすめです。

また点検を受け提案された補修工事を行うと、その後の建物保証をするインスペクションもあります。さらに点検や補修内容を記録した書類や図面などが作成されるため、将来の物件売却時に添付すれば有利な条件で売却できる可能性もあります。

このようにインスペクションは、長期的な資産価値を物件に加えてくれます。不動産投資で利益を生むには、売却までの長期的な収支を考えることが大切です。その点でインスペクションは、費用はかかりますがトータル収支のプラス化が期待できる先行投資なのです。

リノベーションするべきか判断するポイント

残念ながらリノベーションすれば、入居者が自然に集まるわけではありません。都心など賃貸需要の高い地域では、すでにリノベーション物件はいくつも存在しています。このため単に目をひくデザインや間取りというだけでは、競合物件の中から選んでもらえないからです。

リノベーションを成功させるには、入居者が求めるトレンドを読み取りそれを的確に満たす工事をすることが大切です。もちろん賃貸の需要が少なかったり、安く住めれば良いという人が多かったりする地域ではリノベーション以前に賃貸投資自体が難しいことも忘れてはいけません。

そのためリノベーションする前に必ず不動産会社へ相談し、地域のリノベーション需要やニーズを聞きながらどのような工事をするか判断するようにしましょう。