本間貴志
ビジネス書に特化した編集会社のサラリーマン・ライターを経て、資産運用や税務の分野を専門とするライターとして活動。自主管理で賃貸経営をする不動産投資家の顔も持つ。

「管理委託費」は、不動産投資をはじめると毎月かかるランニングコストの一つです。安定経営の鍵を握るコストですがなんとなく払っていて重要性に気付いていないケースも少なくありません。そこで本記事では、管理委託費の基本や相場、内訳などについて解説します。

管理委託費とは よくある勘違い!管理料とは違う

不動産投資の初心者は「管理費」と「管理委託費」を混同しやすい傾向です。まずは、この部分の違いを整理しましょう。※この記事では、区分マンションのオーナー向けの内容になっています。

管理費とは:マンション共用部の維持・管理のための手数料

管理費は「共益費」とも呼ばれておりマンションの共用部を維持・管理するためのコストです。区分マンションのオーナーが負担義務を負います。具体的に管理費でまかなうものは、共用部の清掃や修繕、エレベーターのメンテナンス費などです。一般的な管理費の目安は、1戸あたり毎月1万5,000円前後でマンションの共用部が充実するほど高くなる傾向があります。

なお「管理費はオーナーと入居者どちらが負担するものか」についてネット上でしばしば議論になりますが、これは賃貸借契約などの内容によってケースバイケースです。いずれにしても負担義務があるのは、物件のオーナーになります。

管理委託費とは:「入居者管理」と「建物管理」に対する手数料

管理委託費とは、管理会社に毎月支払う「入居者管理」と「建物管理」という2つの業務に対する手数料です。これらの業務をオーナー自身で行うこともできますが(自主管理)ビジネスパーソンなどが不動産投資をする場合、専門の管理会社に委託する傾向にあります。「入居者管理」と「建物管理」の主な業務は以下の通りです。※区分マンションの場合

入居者管理 建物管理
・家賃集金代行
・家賃滞納への対応
・家賃保証サービス提供
・クレーム対応
・契約更新業務など
・入居者退去後のクリーニング
・リフォーム
・修繕、入退去時の手続き対応など

なお不動産流通近代化センターが行った不動産会社を対象にした調査によると、管理委託手数料の目安は家賃の4~10%とのことです。

管理委託費は実際にどれくらいかかる?

管理委託費は、業務が発生してもしなくても管理会社に毎月支払うものです。極端にいうとしばらくの間ほとんど業務が発生しなくても毎月同じ管理委託費を支払います。逆にクレーム対応で相当な負担が発生しても管理委託費が上がることはありません。実際に家賃や設定されたパーセンテージの違いで管理委託費が「1年間でどれくらい発生するか」については以下の通りです。

・1年間にかかる管理委託費の目安※税抜き

管理委託費の割合 4% 5% 6%
家賃7万円(年間84万円) 3万3,600円 4万2,000円 5万400円
家賃10万円(年間120万円) 4万8,000円 6万円 7万2,000円
家賃13万円(年間156万円) 6万2,400円 7万8,000円 9万3,600円

表を見て分かる通り、家賃が高くなるほど管理委託費のパーセンテージによる差額は大きくなります。例えば家賃7万円の管理委託費で見ると4%と6%の差額は1万6,800円ですが、家賃13万円の4%と6%の差は3万1,200円と大きくなります。

管理委託費は安さよりもサービスとのバランスが重要

「管理委託費におけるパーセンテージの高低」という表面的な部分だけで管理会社を選ぶことは避けたほうがよいでしょう。なぜなら管理委託費の範囲で提供している標準サービスは、それぞれの管理会社で違うからです。例えば管理委託費がいくら割安でも標準サービスが少なく、オプションが多くなれば結果的に管理コストは膨らみます。

反対に管理委託費が割高でも幅広いサービスが含まれていることもあります。そのため管理会社を選ぶときは管理委託費のパーセンテージだけでなく「そこにどのようなサービスが含まれるか」を確認するべきでしょう。

管理会社は比較して取捨選択をしてもいい

「そもそも管理会社をどのように選べばよいのか」これも不動産投資の初心者が迷いやすいテーマでしょう。投資用マンションを購入したとき仲介した不動産会社の社内(または子会社)に管理部門があるケースも多い傾向です。なんとなくの流れで管理会社に委託するケースもあります。しかしその際でも以下の内容はチェックしたほうがよいでしょう。

・管理委託費のパーセンテージはどれくらいか
・管理委託費にどんなサービスが含まれるか
・オプションの内容とそれぞれの料金はどれくらいか
・管理戸数やどんな社内体制で管理業務をしているかなど

また管理会社は必ずしも仲介した不動産会社の管理部門・グループ会社に委託しなくても構いません。オーナー自身で他の管理会社を見つけてそこに頼むことも可能です。

管理会社に払う手数料には「広告料(AD)」もある

不動産投資をしていて管理会社に支払う費用は、管理委託費の他に「広告料(AD)」もあります。

広告料(AD)は客付け業務に対する手数料

前半で紹介した管理委託費が「入居者満足度(=間接的な稼働率)」へ影響を及ぼすのに対して、広告料(AD)は「直接的な稼働率」に影響があります。広告料(AD)は、以下のようないわゆる「客付け業務」に対して支払われる手数料です。

* 空室発生時の業界サイトへの物件情報の登録
* 賃貸物件サイトへの広告出稿(掲載料はオーナー負担)
* 物件への問い合わせや内見希望者の対応
* 賃貸借契約締結までのサポート など

この客付けは、管理会社が担当したり管理会社と客付け会社を分けたりすることもあります。前者の場合は「入居者管理」「建物管理」「客付け力」の3つの要素によるトータルの評価で管理会社を選ぶのが賢明です。

広告料(AD)は原則、成功報酬で支払われる

客付けのコストは、基本的に「成功報酬」「管理業務の手数料」に含まれると考えるのが一般的でしょう。成功報酬の場合、入居者が決まれば「広告費(AD)」を支払うのが通例です。広告費(AD)の相場は家賃の1ヵ月程度といわれていますが、競合が激しいエリアなどでは家賃の数カ月程度のケースもあるようです。

管理会社の客付け力を確認するためのヒアリング項目とは

管理会社選びが難しいのは「管理業務(入居者管理・物件管理)」と「客付け」の両方が得意な業者が少数ということ。なぜなら管理業務と客付けには、まったく異なるノウハウやリソースが必要だからです。管理会社のリソースが足りない場合は、管理会社経由で他の不動産会社に客付け業務を委託しているケースもあります。

オーナーからすれば、客付けを管理会社が自社でしていても他の不動産会社にアウトソースしていても、稼働率さえよければ問題ありません。そのため管理会社を選ぶ際には、管理業務と同様、客付け部分のヒアリングもするのが無難です。具体的なヒアリング項目としては、以下のような内容が挙げられます。

・広告費(AD)の設定は家賃の何ヵ月分か
・客付けは自社と他社どちらが主体か
・自社で行っている場合、体制や実績はどのような内容か
・外部に委託している場合、どのような不動産会社かなど

管理委託費は、「コストと効果のバランス」が大事

ここでは、不動産投資の管理にかかわるランニングコスト「管理委託費」「広告費(AD)」について解説してきました。これらのコストはなんとなく払ってしまいがちですが、オーナーがその中身と効果を考えていくことが大切です。いずれにしても管理委託費は、コストを抑えることだけにとらわれず「コストと効果のバランス」を考えていきましょう。