不動産投資で収益を上げるためには「好立地な物件を購入する」「入居率を維持する」といった方法以外にも「耐用年数」についても意識することが必要です。本稿では、耐用年数に関する基礎知識から不動産投資で節税につながる耐用年数をもとにした減価償却費の計算方法まで紹介します。「不動産投資を行う予定があるが耐用年数について詳しく把握してない」という人はぜひ参考にしてください。

不動産投資における耐用年数とは?

不動産物件の耐用年数は、物件の経年による劣化具合を鑑みて定められた安全に使用可能な期間の指標です。法的拘束力を持つ耐用年数を「法定耐用年数」と呼びここから築年数を差し引いた年数が「残存耐用年数」となり不動産の価値を決めるための基準の一つとなります。法定耐用年数は、物件の構造ごとに定められており代表的なものは、以下の通りです。

<構造ごとの法定耐用年数>

【木造】

* 住宅用:22年
* 店舗用:22年
* 事務所用:24年
* 飲食店用:20年

【厚さ3ミリメートル以下の鉄骨構造】

* 住宅用:19年
* 店舗用:19年
* 事務所用:22年
* 飲食店用:19年

【厚さ3ミリメートル以上4ミリメートル以下の鉄骨構造】

* 住宅用:27年
* 店舗用:27年
* 事務所用:30年
* 飲食店用:25年

【厚さ4ミリメートル以上の鉄骨構造】

* 住宅用:34年
* 店舗用:34年
* 事務所用:38年
* 飲食店用:31年

【RC造】

* 住宅用:47年
* 店舗用:39年
* 事務所用:50年
* 飲食店用:34年もしくは41年

RC造の飲食店用の建築物のみ法定耐用年数が2種類定められています。RC構造で建造された飲食転用の建物は、延べ面積のうち木造内装部分の面積が3割を超える物件は法定耐用年数が34年、3割以内の物件は41年の設定です。比較的劣化が早い木造建築、鉄骨構造であっても厚みの薄い素材を使っている物件は法定耐用年数もそれだけ短くなっています。

法定耐用年数の長い物件は、それだけ不動産投資においても好条件の物件となりやすいため、法定耐用年数を踏まえたうえで投資活動を行いましょう。

法定耐用年数と経済耐用年数の違い

ここまで紹介した法定耐用年数は、あくまでも法的に便宜上定められたものにすぎません。法定耐用年数は、基本的に不動産を所有することで課せられる税金を計算ために制定された基準です。そもそも日本で最初に耐用年数が定められた「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」は、1965年に発表されました。

それ以降耐震基準・防対火基準は非常に厳しくなり建物のメンテナンスノウハウも格段に発展しました。そのため耐用年数を超えた物件であっても適切なメンテナンスを行ってリノベーションなどを実施すれば収益物件とすることも不可能ではありません。「残存耐用年数が残り少ない物件=利益が見込めない物件」というわけではないため、幅広い視野を持って不動産投資を行っていきましょう。

金融機関がローンの審査を行う際にも残存耐用年数のみを基準にして不動産の資産価値を決定するわけではありません。物件の収益性などから「市場でどの程度価値を保ち続けるのか」をもとに物件の価値を算出することが一般的です。物件が市場において価値を有すると予想される期間は、別名「経済的耐用年数」とも呼ばれ算出方法は金融機関ごとに異なります。

そのため所有している物件の経済的耐用年数の大まかな数値を知るためには、複数の金融機関でローンの仮審査を行うしかありません。

不動産投資で耐用年数が重要な3つの理由

不動産投資において耐用年数の把握が重要となるポイントとしては、以下の3つがあります。

<不動産投資で耐用年数が重要な理由>

* 減価償却の金額が変わるため
* 住宅ローンの組む際の借入期間が変わるため
* 売却時に発生する所得税に影響するため

減価償却の金額が変わるため

不動産投資では、不動産購入にかかった費用の一定割合を次年度以降も経費として計上かつ収益と相殺して所得税を軽減できる減価償却が可能です。この際、経費として計上する減価償却費を算出するために用いる償却率に耐用年数がかかわってきます。前述の通り物件には、設計方法ごとに耐用年数が定められているため、それに伴い償却率も変化するのです。

減価償却費の計算方法は、償却率に加えて物件の取得価格も用います。計算方法には「定額法」「定率法」の2種類がありますが定率法を用いる場合は行政への届け出が必要です。そのため「基本的には定額法を用いる」と認識しておきましょう。定額を用いた場合、減価償却費の計算式は以下のようになります。

<定額法を用いた減価償却費の計算方法>

『取得価格×償却率=不動産の減価償却費』

住宅ローンの組む際の借入期間が変わるため

金融機関は、ローンの審査の際に経済的耐用年数で不動産の資産価値を算出すると説明しました。しかしもちろん法定耐用年数が多く残っているほど有利です。ローンを組む際には、返済が滞ったときのために物件に抵当権を設定します。残存耐用年数がゼロになった物件は、資産価値が著しく落ちる可能性があるため、融資期間を物件の法定耐用年数以内に設定する金融機関が多い傾向です。

つまり、残存耐用年数が長い物件であればそれだけローンを組む際に長期間の返済スケジュールを設定できる可能性が高まります。同じ金額を借り入れするのであればローンの融資期間の長いほうが毎月の返済額としては少ない傾向です。返済期間が長くなると途中で収支が悪化するリスクも大きくなりますが毎月の支出は抑えられるため、キャッシュフローの改善につながります。

売却時に発生する所得税に影響するため

所有している不動産を売却した場合、譲渡所得に応じた所得税を納めることが必要です。納税額を算出する際には、以下のように物件入手時の取得費用を用います。

<物件売却時の譲渡所得税の計算方法>

* 譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除=課税譲渡所得額
* 課税譲渡所得額×税率=納税額

不動産の取得費は、購入時の金額から減価償却費を引いた金額が適用することが可能です。前述の通り減価償却費を算出するための償却率には法定耐用年数がかかわってきます。このように不動産投資の出口戦略として売却時の所得税をなるべく抑えるためには、法定耐用年数から導き出される減価償却費についても考慮することが必要になるのです。

耐用年数で入退去時における大家の負担費用も変わる

耐用年数は、物件そのものだけでなく壁紙・カーペット・フローリングなどの内装設備にも設定されています。賃貸物件の場合「入居者が退去時に設備の原状回復に必要な負担額をどの程度まで支払うのか」がこの耐用年数によって決められます。例えば賃貸物件の壁紙の耐用年数は6年に設定されているため、入居から6年以上経過した借主が退去する部屋の壁紙の残存価値は1円です。

しかし張り替えが発生した場合、どのようなケースでもオーナーが全額負担しなければいけないわけではなく借主が故意に傷つけた箇所は借主負担となります。賃貸物件の入退去時には、退去費用に関するトラブルが非常に発生しやすいため、マンション経営などを検討されている人は、以下の国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を一読しておくのがおすすめです。

まとめ

不動産投資における耐用年数について説明してきました。建造物の構造ごとに定められた法定耐用年数は、便宜上決められた側面もあるため、法定耐用年数が残っていない物件でも資産価値はあります。もちろん定耐用年数が残っている物件ほど「住宅ローンの借入期間を長く設定しやすい」などのメリットがあるため、物件選びの際には物件の残存耐用年数に注目しましょう。