植田英三郎
ウエダFPオフィス代表
CFPR、福祉住環境コーディネーター
家電メーカーに37年間勤務。2018年まで大阪府立職業訓練校でマーケティングの講師を担当。FPとしての専門領域はリタイアメントプラン、高齢者のマネープラン・資金運用、給与所得者の税務知識(副業・給与所得特定支出控除)、介護・福祉のしくみと利用法、高齢者の住まいと介護施設など。日本FP協会兵庫支部幹事を務める。

空前の運用難の時代と言われています。このような環境下でのリターン確保の運用について、市場の概況・運用資産の特性を整理し、ポートフォリオと運用方針の決め方を考えてみることにしましょう。

運用市場の状況

あまり金融知識がない人たちが、リスクを最小限にしながら利益を得るためにはどうすればよいのでしょうか。最初に資産運用の市場の状況を見てみましょう。運用資産の直近の主な利回り状況は、以下の通りです。

銀行預金 普通預金 0.001% 定期預金 0.002% 一部ネット銀行

 定期預金 0.02%

国債 10年物 0.029% 個人国債  

金利の下限0.05%

2020年12月2日現在
米国債 10年物 0.834% 2020年11月30日
日本株

配当利回り

東証1部 2.23% 東証2部1.68% 2020年11月現在
NY株 配当利回り約2.03% 2020年11月現在
J-REIT 分配金  4.32% 2020年11月現在

一方、株価の2020年の年初から11月末までの変動状況は以下の通りです

年初終値 2020年11月末終値 最高値 最安値
日経平均 2万3,204円 2万6,433円 2万6,817円 1万6,552円
NYダウ 2万8,868米ドル 2万9,638米ドル 3万46米ドル 2万9,638米ドル

この表の示すところは、ノーリスク資産の銀行預金・日本国債で単位となるリターンを得る可能性はなく、日本株・海外株・REIT・海外債券に資金配分をせざるを得ないことです。投資信託は、これらを組み込む資産の組み合わせであり、表には含めておりません。

資産運用対象となる金融商品の見方

運用資産市場の動きを見てきましたが、投資運用の対象は国内外の株式(ETFを含む)・REIT・海外債券・国内債券とこれらの金融資産を組み込む投資信託になります。ひと昔前の金融資産は、元本保証される資産が多い傾向でしたが、これらのほとんどは元本が保証されない“リスク商品”です。ここからは、リスクを少なくしつつリターンを得る方法について、それぞれの金融資産の特性を見ながら解説します。

株式

株式はリスク商品の典型です。しかしリスク軽減と、リスクヘッジを考えながら保有や運用をしていきます。リスク軽減とリスクヘッジには、主に以下の3段階です。

1. 銘柄を指標等で選択:PER、PBA、配当利回り、経営安定度(会社四季報)
2. 分散:個別銘柄を分散保有、ETFで保有
3. リスクヘッジ手法:先物、オプションなど専門テクニックを活用

1の観点は、安全度とともに将来性がポイントです。昨今はESG(環境・社会性・企業統治)への対応が必要な要素と見られています。3のリスクヘッジ手法は有効と言われていますが、アマチュアの運用では手の届かない領域になるため、ここでは項目として挙げるに留めます。

REIT

REITの中でもJ-REITは、投資家が各投資法人の保有する不動産物件を身近に確認することができ、先行きの可能性は個人としても見極めることが可能です。また投資法人への課税の有利さ(利益の90%の分配可能)は、REITの優位性の根本といえます。東証に上場しているJ-REITの銘柄数は62(2020年12月16日時点)です。

上場株と同じ手順で買うことができREITファンドの場合にかかる手数料などが不要なこともメリットといえます。

海外債券

海外債券の代表は米ドル建ての米国債ですが、他に「通貨別」「発行者別」「利払い区分別」「償還期間別」などがあり多種多様です。通貨別には、「米ドル」「豪ドル」「ユーロ」「南アフリカランド」「ブラジルレアル」などが中心ですが、他にも世界各国の通貨別債券があります。発行体は、「国」「金融機関」「公共事業体」「民間企業」などです。

市場には、米ドル建て米国国債の新発債の0.834%(2020年11月末)から、その他通貨建ての既発債の5~6%や10%を超えるものまで、幅広い利回りの銘柄があります。個人で購入や保有する場合は、なじみの通貨での国債や知名度の高い会社の社債が無難です。利回りと為替変動がポイントで信用格付けも確認する必要があります。

投資信託

投資信託は、上記の株式・REIT・債券などを組み込んだ金融資産です。日本国内で流通する2020年10月末の公募投信は5,985銘柄ありますが、時代に合わせて投資信託の位置づけも変わってきています。株式同様に基準価格上昇に伴う持ち高の高騰をねらった時代や、毎月分配で退職者の給料感覚をねらった時代などを経て、バランス型の安定資産形成の本来の方向に向かいつつあるのです。

一方で、多くの投資家に額面割れの被害を与えたことによる日本人の株式アレルギーの一因となった側面もあります。投資信託の最大のメリットは、少額からの積み立てで優良株や海外債券などを保有して運用ができることです。半面、銘柄選択・運用・保管・販売の各段階で手数料がかかります。このことが上記の個別保有可能な金融資産と比較した場合のデメリットです。

インデックス投信(ファンド)とETF(上場投資信託)

インデックスファンドとは、市場の動きを表す指標(日経平均株価、Topics、東証REIT指数)と同じ動きをするように設計されたファンドのことで、そのうち上場されているのがETFです。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の個別株式、日銀のETFの2つが日本の現在の株式市場に大きな影響を与えていることもあり、ETFへの注目度は高まっています。

ETFも投資信託のため、手数料はかかっているものの最低限になっている点もあり、分散でリスクを減らしたい投資家には向いている金融資産といえるでしょう。

仕組み債券

債券のカテゴリーとしてウエイトが高くなっている「仕組み債券」については、従来債券の安全性の概念とは少し異なる金融資産です。株価リンクが基本ですが、デリバティブを取り入れた商品でもあるため、ここでは運用資産の一つとして挙げるに留めます。

運用と税金対策

金融資産における運用の巧拙に税金対策が入ることになったのは、譲渡所得と配当・利子所得への20%課税(2014年以降)になったことが大きいでしょう。「金融資産の積み立て」「運用時の税務対策」は、NISAとiDeCoに集約されます。NISAは、2020年現在一般NISA(120万円)とつみたてNISA(40万円)に分かれていますが、2024年には集約され2階建てになる予定です。

一般NISAの使い方は、NISA口座に入れる銘柄と特定口座に入れる銘柄の選択の問題が最も悩ましいところではないでしょうか。答えはあっても絶対の正解はありません。iDeCoは「長期にわたって非課税」「掛け金はすべて所得控除」といったメリットがあるため、安心して活用できる制度です。ただし途中で現金化する予定の資金の場合は、iDeCoでなくつみたてNISAを選択しましょう。

年代別・リスク許容度別のポートフォリオ

ポートフォリオは、リスクの取り方とリターンを求める攻めの考えを反映するもの。リスク資産とノーリスク資産の持ち方は年齢によって変わってくるものですが、以下は一つの例です。個人の考え方次第ですが、特に40代以上では以下の数値に5%前後のプラス・マイナスがあるのではないでしょうか。

20代:リスク資産80%、ノーリスク資産20%
30代:リスク資産70%、ノーリスク資産30%
40代:リスク資産60%、ノーリスク資産40%
50代:リスク資産50%、ノーリスク資産50%
60代:リスク資産40%、ノーリスク資産60%
70代:リスク資産30%、ノーリスク資産70%

リスク資産をどのような比率で保有するかは、一人ひとりの来歴や仕事での接点、情報源なども影響します。例えば40代でリスク資産60%の具体的な資産の配分比率の例は以下の通りです。

国内株式・海外株式:30~40%     
海外債券:10%    
J-REIT・海外REIT:10~20% 
預金・国内債券:40%

投資信託については、上記の資産が組み込まれるもののため、保有資産全体で決めたポートフォリオに合うよう、マトリクスの表にするのが分かりやすいでしょう。

誰が運用を決める

お金の運用について多くの人は誰に運用の相談をしているのでしょうか。金融広報中央員会(事務局日銀内)の2019年調査によると、下表の通りです。

家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査] 令和元年調査結果

金融知識・情報に関する情報相談先 入手先 入手希望先
金融機関(窓口、パンフレット類、広告、HP) 43.4% 30.8%
家族・友人 21.7% 7.5%
金融の専門家(書籍、セミナー、HP、テレビ番 組等) 15.4% 20.5%
特定の業界に属さない中立公正な団体 5.5% 21.9%
学校 0.3% 2.1%
よくわからない 0.0% 13.5%
その他 13.7% 3.8%
合計 100.0% 100.0%
参照:金融広報中央員会の2019年調査に基づき編集部作成
https://www.shiruporuto.jp/public/data/survey/yoron/futari/2019/ P41

この調査によると、全体の43.4%が金融機関、21.7%が家族友人になっています。やはり問題なのは、顧客本位の基本から外れているとの指摘もある金融機関の営業担当が、推奨する商品の額面割れではないでしょうか。予期しない経済変動によることも多いのですが、金融機関の経営事情による多頻度売買などの問題があったことも事実です。

日本の株や投資信託などリスク商品への根強いアレルギーはこの辺りにありそうです。アンケート結果では、金融の専門家や中立な団体への希望は大きくなって来そうですが、具体的にはファイナンシャルプランナー(FP)や独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)が該当します。FP・IFAともに金融機関に所属して資格を呼称するケースが多く、独立系のフィービジネス(個人向け金融アドバイザー)に特化する専門職の増加が求められるところです。

資産運用は、金融商品への知識とともに危機を予知する感性や相場の勘や決断力もまた必要であり、自らをよく知って運用にあたることが大切なのではないでしょうか。

運用難時代の資産運用のポイント

最後に運用難の時代にリターンを得るためのポイントをまとめてみました。

1. 金融資産運用でリターンを得たいならば、損失発生のリスクを事前に受け入れる
2. リスクを軽減する方法はあり、リスク度に応じた金融資産を選ぶこと
3. リスクは年代に応じた目安があり、リスク度に応じたポートフォリオアを考えること
4. 運用の意思決定、銘柄選択や売買の最終決断は自己判断で

FPやIFAの力を借りながら自己判断できるように日ごろから金融商品や経済・社会問題に関心を持つことが大切です。一方で金融資産の市場は過去の数々の試練を乗り越えて長期トレンドでは上昇を続けているのも事実といえます。よく学びながら前進しましょう。

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