八木チエ
株式会社エワルエージェント 代表取締役|宅地建物取引士・ファイナンシャルプランナーなどの資格を持ち、中立的な立場で不動産投資に関連する情報をお届けします。書籍、メディアなどに記事掲載の実績多数。

マンション経営では「人口が多くて賃貸需要が見込める東京がおすすめ」といわれていますが、一口に東京といってもさまざまなエリアがあります。東京は大きく「東京23区」と「東京市部(23区外)」に分けることができますが、どのような違いがあるでしょうか。今回は、東京23区と東京市部の市場動向とそれぞれのメリット・デメリットについて解説します。

1.マンション経営に東京が向いている3つの理由

なぜマンション経営は東京が向いているのでしょうか?その理由は主に以下の3つです。

■ 人口が増えている
■ 再開発が続いている
■ 単身世帯の増加が期待できる

それぞれについて説明していきます。

1-1.人口が増えている

東京がマンション経営に向いている1つ目の理由は、東京が他の地域と比べて現在人口が増加しており、今後も人口の増加が期待できるためです。2015年12月1日に1,353万4,071人だった人口が、2020年10月1日には、1,406万4,696人になっており、人口が約5年で53万898人増加しています。この増加が今後も続くと予測されているため、賃貸ニーズという観点では東京はマンション経営に向いていると言えます。

1-2.再開発が続いている

東京がマンション経営に向いている2つ目の理由は、再開発が今後も続いていくためです。例えば、虎ノ門ヒルズ駅や渋谷、品川のリニアなどが挙げられます。このように、都内ではさまざまな場所で再開発が続くため、東京の賃貸需要は増加する可能性が高く、マンション経営に向いていると言えます。

1-3. 単独世帯の増加が期待できる

東京がマンション経営に向いている3つ目の理由は、東京都の世帯数は今後も増加していくと予測されていることです。東京都が公表している世帯数予測を確認すると、中でも単独世帯と夫婦のみの世帯は大きく増加すると予測されています。区分マンションの需要は今後も高まる可能性が高いため、マンション経営に向いていると言えます。

2.東京23区と東京市部の市場動向

まずは、東京23区と東京市部の物件価格や利回りの推移、人口予測について確認していきましょう。

2-1.区分マンションの価格推移

2016~2020年の5年間について区分マンションの価格推移(築年数別)をまとめました。

地域・経過年数 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年
東京23区 築10年未満

2,343万円

2,521万円

2,810万円

3,101万円

3,490万円

築10年~

2,129万円

2,248万円

2,431万円

2,576万円

2,653万円

築20年~

1,318万円

1,461万円

1,546万円

1,558万円

1,522万円

東京都市部 築10年未満

1,850万円

1,795万円

2,019万円

2,326万円

2,560万円

築10年~

1,878万円

1,947万円

1,822万円

1,922万円

1,949万円

築20年~

753万円

753万円

855万円

949万円

946万円

区分マンションの価格は、東京23区と東京市部のどちらも上昇傾向にありますが、東京23区のほうが高値で取引されています。また東京23区のほうが築年数の経過に伴う下落率は低い傾向です。2020年の築10年未満の価格を100%とした場合、築20年以上の価格は東京23区の約44%に対し東京市部は約37%となっています。

実際の価格は各物件によって異なりますが、全体的には東京23区のほうが資産価値は下がりくいといえるでしょう。

2-2.利回りの推移

2016~2020年の5年間について区分マンションの利回りの推移(築年数別)をまとめました。

地域・経過年数 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年
東京23区 築10年未満 5.25% 4.98% 4.84% 4.58% 4.46%
築10年~ 5.56% 5.33% 5.18% 5.02% 4.94%
築20年~ 7.49% 6.70% 6.74% 6.78% 6.94%
東京都市部 築10年未満 5.64% 5.48% 5.19% 4.80% 4.70%
築10年~ 6.22% 5.70% 5.78% 5.39% 5.54%
築20年~ 10.41% 9.68% 10.18% 9.67% 9.70%

物件価格の上昇に伴い東京23区と東京市部ともに利回りは低下傾向にあります。マンション価格が高い東京23区に比べると東京市部のほうが利回りは高めです。実際の利回りは各物件によって変わってきますが、全体的には東京市部のほうが高い利回りが期待できるでしょう。

2-3.人口予測について

東京都の総人口は、2025年に1,398万人でピークを迎え以後は減少に転じて2040年には1,346万人になる見込みです。2025年までは自然減の減少幅よりも社会増の増加幅のほうが大きく以後は逆転して人口減少に転じると考えられています。東京23区と東京市部(多摩・島しょ)の人口推移の予測は、以下の通りです。

地域 2020年 2025年 2030年 2035年 2040年
東京都

1,384万9,942人

1,397万9,158人

1,393万8,408人

1,375万4,388人

1,345万8,482人

東京23区

959万3,732人

976万341人

978万8,126人

970万1,415人

952万3,662人

東京都市部

425万6,210人

421万8,817人

415万282人

405万2,973人

393万4,820人

東京23区の総人口は、2030年の約979万人でピークを迎えたのちに減少に転じ、2040年には約952万人となる見込みです。一方、東京市部は2020年の約426万人がピークで2040年には約393万人になると予測されています。市区町村別にみると2040年まで人口が増加傾向で推移するのは「千代田区」「中央区」「港区」の都心3区です。

2035年に江東区、2030年に文京区、台東区、品川区、渋谷区、板橋区の5区がピークを迎え他の区市町村はすべて2025年までにピークを迎える見込みです。この人口推移の予測からは、東京市部よりも東京23区のほうが長期にわたって賃貸需要が期待できるといえるでしょう。特に今後も人口増加が続く都心3区は、マンション経営においては有力なエリアと考えられます。

3.東京23区でマンション経営を行うメリット・デメリット

東京23区は、資産価値が下落しにくく長期にわたって賃貸需要が期待できることがメリットです。東京市部に比べると築年数の経過による価格の下落率が低い傾向にあります。立地や設備、管理状況などによって変わってくるものの資産価値は下落しにくいといえるでしょう。また東京23区は今後もしばらくは人口増加が続く見込みです。

なかでも「千代田区」「中央区」「港区」の都心3区は、長期にわたって安定した賃貸需要が期待できます。一方で東京23区は物件価格が高く利回りが低い傾向にあるのがデメリットです。エリアによって差はありますが、築浅の中古ワンルームマンションで物件価格は2,000万~3,000万円程度になります。金融機関の融資を利用すればまとまった資金を用意しなくても購入は可能です。

しかし初心者にとっては投資金額が大きくハードルが高いと感じるかもしれません。

3-1.千代田区の賃貸需要

千代田区は東京の中央に位置しており、6万7,216人(2021年1月1日現在)が住んでいます。国会議事堂や皇居など日本を代表する施設が多くあるうえに、大規模なビルがある丸の内や大手町といったオフィス街があるのが特徴です。また、日本大学や明治大学といった大学もあるため、学生から会社員まで幅広い層の賃貸需要が高い地域と言えます。

しかも、丸の内や御茶ノ水とエリアでは再開発が行われているため、今後はさらに賃貸需要が増していくことが予想される地域です。

上記のような理由から、千代田区は長期的に安定した賃貸需要を期待することができる地域と言えます。

なお、千代田区のマンションに関する具体的なデータは以下です。

家賃相場(1R/1K/1DK) 11万8,000円
物件価格(中古マンション1R?1K) 2,845万9,600円
利回り(区分マンション) 4.50%
現在人口(2021年1月1日現在) 6万7,216人(前年+1,274人)

3-2.中央区の賃貸需要

中央区の人口は17万583人(2021年1月1日現在)で人口は増加傾向にあり、今後も人口の増加が期待されています。また、中央区は銀座や日本橋といった日本有数のオフィス街や商業エリアがあるため、こういったエリアで働く人の賃貸需要があることは間違いありません。

中には、月島や勝どきといったエリアでは再開発が続いており、2024年?2025年に竣工予定のタワーマンションが建設される計画もあります。

このことから、中央区も千代田区と同様に今後も再開発などで賃貸需要の増加を期待することができるため、長期的に賃貸需要が安定している地域と言えます。

なお、中央区のマンションに関する具体的データは以下です。

家賃相場(1R/1K/1DK) 10万7,000円
物件価格(中古マンション1R?1K) 3,020万1,000円
利回り(区分マンション) 4.70%
現在人口(2021年1月1日現在) 17万583人(前年+2,222人)

3-3.港区の賃貸需要

港区は青山や六本木、品川、新橋、虎ノ門など日本有数の繁華街やオフィス街がある地域です。人口は25万9,036人(2021年1日1日現在)で増加が続いており、今後も人口が増加していき2026年には約28万5,000人でピークになると予測されています。

さらに、高輪ゲートウェイ駅の開業や品川駅には品川から名古屋まで約40分で行くことができる「リニア」の開業も控えており、さまざまな再開発が続いているという状況です。

上記の理由から港区も他の地域と同様に賃貸需要の増加が期待できるため、長期的に安定した賃貸需要がある地域と言えます。

なお、港区のマンションに関する具体的データは以下です。

家賃相場(1R/1K/1DK) 12万4,000円
物件価格(中古マンション1R?1K) 3,507万5,900円
利回り(区分マンション) 4.40%
現在人口(2021年1月1日現在) 25万9,036人(前年△1,343人)

4.東京市部・首都圏都市部でマンション経営を行うメリット・デメリット

東京市部は、物件価格が手ごろで利回りが比較的高いことがメリットです。東京23区よりも価格が安い傾向にあるため、初めてマンション経営を行う人でも購入しやすいでしょう。期待できる利回りも高く、収益性の高い物件に出会える可能性があります。一方で東京市部は東京23区よりも人口減少ペースが早く2025年にはすべての市町村が人口のピークを迎えその後は減少に転じます。

そのためエリアによっては空室リスクが高まる可能性があるでしょう。また東京23区に比べると築年数の経過による価格の下落率も高い傾向にあり、資産価値下落リスクにも注意が必要です。

4-1.武蔵野市(主に吉祥寺)の賃貸需要

東京23区の西側にある武蔵野市の人口は14万7,643人(2021年1月1日現在)で、さらに今後も人口の増加が予測されています。

また、武蔵野市で特に賃貸需要が高い吉祥寺エリアには、JR中央線をはじめとするJR総武線、東京メトロ東西線、京王井の頭線などが通っており、都内の主要駅へのアクセスが非常に良いため人気のエリアです。

しかも、自然が多いことも特徴で、四季を楽しむことができるため、ファミリー層から人気のエリアでもあります。

このことから武蔵野市の吉祥寺エリアは、今後も高い賃貸需要が期待できるエリアと言えます。

なお、武蔵野市のマンションに関する具体的データは以下です。

家賃相場(1R/1K/1DK) 8万1,000円
物件価格(中古マンション1R?1K) 1,558万7,100万円
利回り(区分マンション) 6.2%
現在人口(2021年1月1日現在) 14万7,643人(前年+772人)

4-2.横浜市の賃貸需要

東京市部のほか、首都圏の都市部についても見てみよう。

神奈川県の横浜市にある横浜駅からは東京都内への利便性が高く、新横浜駅には東海道新幹線が通っているため、全国各地によく行くビジネスパーソンなどに人気です。

また、横浜市には377万7,113人(2021年1月1日現在)の人口がいますが、2025年には人口のピークを迎えてそれ以降は減少していくと予測されています。ただし、港北区や西区、鶴見区といった地域は2036年?2042年まで人口が増加すると予測されているので、エリアを選ぶことで長期的な賃貸需要が期待可能です。

そのため、横浜市はエリアによって期待できる賃貸需要が変わるため、エリアの人口予測と交通利便性を確認することが重要になります。

なお、横浜市のマンションに関する具体的データは以下です。

家賃相場(1R/1K/1DK) 9.94万円
物件価格(中古マンション1R?1K) 1,193.51万円
利回り(区分マンション) 7.33%
現在人口(2021年1月1日現在) 377万9,890人(前年+19,733人)

4-3.さいたま市(主に大宮)の賃貸需要

埼玉県の県庁所在地であるさいたま市は、2001年に浦和市と大宮市、与野市が合併してできた市で、人口は132万4,589人(2021年1月1日現在)です。人口は増加傾向で推移しており、今後の人口も増加が期待されていますが、さいたま市の人口の増加は2025年をピークに減少していくという予測もされているので注意が必要です。

ただし、大宮などの一部の人気エリアは東京へのアクセスが非常に良く、大宮駅周辺で大規模な再開発が続いていることからも、賃貸需要の増加が引き続き期待できるエリアになっています。

ちなみに、さいたま市のマンションに関する具体的データは以下です。

家賃相場(1R/1K/1DK) 8万9,400円
物件価格(中古マンション1R?1K) 1,193万800円
利回り(区分マンション) 7.92%
現在人口(2021年1月1日現在) 132万4,589人(前年+10,443人)

5.東京23区と東京市部 マンション経営を始めるならどっち?

ここまで東京23区と東京市部の特徴を確認してきましたが、マンション経営を始めるならどちらがよいのでしょうか。唯一の正解はありませんが、用意できる資金や考え方によって向き不向きはあります。

5-1.東京23区が向いている人

安定した収入がある高所得者で高価格の物件への投資が可能であれば、東京23区が向いているでしょう。東京23区は、今後も賃貸需要が見込めるため、長期にわたって安定した家賃収入が期待できます。資産価値も下落しにくく物件を長期所有しやすいのも魅力です。ただしエリアや築年数によっては、東京23区内でも価格が手ごろな物件もあります。

「最初は少ない金額から投資を始めたい」という人も東京23区の物件を購入することは可能です。

5-2.東京市部が向いている人

「比較的少額からマンション経営をはじめたい」「高い利回りを求めている」といった人の場合は、東京市部が向いているでしょう。東京23区に比べると価格が安く利回りも高い傾向です。東京23区より人口減少ペースは早いものの地方に比べると人口は多く一定の賃貸需要は見込めるでしょう。好立地で管理状況に問題がない物件を選ぶことで長期にわたって安定収入を得ることが期待できます。

5-3.両方に物件を所有する選択肢も

区分所有でマンション経営を行う場合は、購入時期や築年数、エリアを分散することでリスクの低減が期待できます。そのため東京23区と東京市部の両方に物件を所有するのも一つの方法です。例えば「最初は東京都市部の手ごろな物件を購入し、その後に東京23区の物件に挑戦する」というやり方が考えられます。

東京23区と東京市部は、それぞれにメリット・デメリットがあるため、どちらか一方に絞らずに物件を探してもよいかもしれません。

6.東京23区と東京市部の違いを知って物件選びに生かそう

東京23区は物件価格が高いものの今後も人口が増加すると見込まれており資産価値が下落しにくいのが魅力です。一方で東京市部は、物件価格が手ごろで購入しやすく利回りが高い傾向にあります。東京23区と東京市部の違いを理解して今後のマンション経営に生かしましょう。

7.都心のマンション経営に関するQ&A

ここまで東京23区や東京市部のエリアのマンション経営について解説してきました。最後によくある質問に回答していきます。

Q1:都心の区分マンションの利回りはどれくらいですか?

都心の区分マンションの利回りは、「不動産投資と収益物件の情報サイト健美家(けんびや)の「収益物件市場四半期レポート(2021年1月?3月)」によると、東京23区内の平均は6.03%になります。

Q2:東京23区の区分マンションで一番利回りのいい区は?

東京23区内の区内マンションで最も良い利回りの区は、葛飾区の6.2%になります。次に高い利回りは杉並区の6.1%です。これらの地区は東京23区の利回りよりも高い水準になっています。(LIFULL HOME’Sの賃貸経営調べ)

Q3:港区の区分マンションの平均利回りは?

東京港区の区分マンションの平均利回りは4.4%です。地価が高いエリアが多いため、東京で最も利回りが低いエリアになります。ただし、不動産自体の資産価値が落ちにくい、大規模な再開発が行われているエリアもあり、今後も安定した賃貸需要が見込めます。