植田英三郎
ウエダFPオフィス代表
CFPR、福祉住環境コーディネーター
家電メーカーに37年間勤務。2018年まで大阪府立職業訓練校でマーケティングの講師を担当。FPとしての専門領域はリタイアメントプラン、高齢者のマネープラン・資金運用、給与所得者の税務知識(副業・給与所得特定支出控除)、介護・福祉のしくみと利用法、高齢者の住まいと介護施設など。日本FP協会兵庫支部幹事を務める。

会員制のリゾートホテルが富裕層の間で静かなブームとなっています。インバウンド需要の急増で一般のホテルが海外旅行者に席巻され、会員制リゾートホテルや会員権が見直されたようですが、コロナ禍の現状はどうなのでしょうか。

会員制リゾートホテルの今

会員制リゾートホテルを運営する会社・施設の中で知名度の高いブランドの施設は、主に12社です。一部提携施設を含めた運営施設は後述で一覧の表にしましたが291施設あります。会員制リゾートホテルは、米国や欧州で広まっているタイムシェア型住宅を参考に国内でも始まりました。しかし法的な制度や余暇に対する日本人と欧米人との感覚の違いもあり本家とは異なった形式で広まっているといえます。

インバウンド需要とコロナ禍で一般のリゾートホテルが大変厳しい状況の中、会員制リゾートホテルは多少の優位性を発揮している傾向です。ただ会員権を選ぶ側から見るとブランドごとに仕組みが異なるため、良く見えない部分があります。本記事では、そのあたりにスポットを当てて見ましょう。

リゾートホテル会員権の仕組み

会員制のリゾートホテルは、欧米のタイムシェア型住宅制度を参考にしてスタートしたケースが多い傾向です。一般的に欧米のタイムシェア型住宅は、キッチンなどの設備がありますが日本の部屋はホテル仕様になっておりレストランで食事ができるところが多いといえます。これは、休暇期間の長さや生活習慣の違いによるものといえるでしょう。

以下では、日本型会員制リゾートホテルの会員権の仕組みを解説します。

権利や入会の手続きによる分類

入会に際して一括金を支払うことは、すべての施設での入会・利用条件です。その権利は、会社・施設によって用語も異なりますが主に共有制と利用権方式に分かれます。

共有制

1室の不動産所有権(土地分も含む)の共有持分を所有する人が会員となる方式で共有持分の不動産登記がなされ会員が固定資産税を負担するものです。実際の運営方法は各種ありますが会員権の権利としては最も明確な方式といえます。共有制と似た形態ですべての施設を会員が共有する合有性をとっている施設もあります。

利用権方式

預託金制、入会保証金制、入会金制があります。各ホテルの会員権の方式には、この分類に当てはまらない併用のケースもありますが、ここでは利用権の形を整理するために分類しました。

・預託金制

入会時に預託金をクラブに預けて運営の原資に充て預託金は退会時に返却されるものです。

・入会保証金制

入会時に入会保証金をクラブに預けることが必要です。保証金は、会員期間内で定額償却され期間終了時にはゼロになります。途中退会すると、償却残額は返還される方式です。

・入会金制

入会時に入会金または登録料のみを支払う方式です。

ポイント制の保有ポイントに見合う金額を入会時に一括支払う方式もあります。しかし権利としては預託金制や入会保証金制と実質は同じといえるでしょう。会員権の権利方式は、このように共有制と利用権方式に分かれますが実際の共有制においては、利用権を組み合わせた形が多くなっています。

運営方式による分類

運営会社(リゾートホテル)が共有制や利用権方式によって利用する権利を持つ会員に「どのような仕組みで利用してもらうか」をマネージメントするのが運営方式です。会社・施設ごとに運営方式がありタイムシェア制、ポイント制、チケット制、記名カード式などがあります。

・タイムシェア制

1室の特定期間の利用権を購入する仕組みです。期間中は、予約なしで優先利用できることになっています。年間12、24回程度の利用指定日を決め公平性を期するため年ごとに指定日をずらすとともに指定日以外の日を交換調整する仕組みです。

・ポイント制

購入した年間ポイント数を使い、希望の部屋を先着順で利用することが可能です。部屋や時期により利用ポイント数は異なります。例えば5年分のポイントを一括先に払い込み、毎年取り崩すような方式です。

・チケット制

年間一定枚数の利用チケットなどが会員に配布され利用ごとにチケットを使用する方式です。チケットは年間12回、16回が多い傾向です。

・記名カード式

記名したカードを提示して、優待料金で複数施設を利用できる方式です。

このように会員の権利と運用の方式は分類されます。しかし実際の主要な会員制リゾートホテル12社の施設の会員権利や運営方式は、折衷型での運営や併用されているのが実態です。そのためこれらの分類の知識をもとにして施設ごと会員権の権利や運営内容を個別に説明を受けて確認することが大切といえるでしょう。

法人向けと個人向け

会員制リゾートホテル運営事業会社の多くは、対象顧客を個人客と法人および法人の従業員を対象会員としている傾向です。個人を中心とするところと法人のウエイトの高い施設など多岐にわたります。かつては、大企業は福利厚生施設として保養所を全国各地に所有していました。現在は一部の例外を除いてほとんどの企業は、それら施設は閉鎖して大手会員制リゾートホテルの法人会員となり従業員に利用特典を提供しています。

主要12社の施設と権利・運営方式・施設数

施設名称 法人名 対象 権利方式 運営方式 施設数
エクシブ リゾートトラスト株式会社 個人

中心

区分所有権 タイムシェア 46
東急ハーヴェストクラブ 東急不動産株式会社 法人

個人

区分所有権

利用権

チケット制 28
ザ グラン リゾート 株式会社大倉 個人
法人
共有と利用権の併用 カード制 19
ジャパン・トータル・クラブ 株式会社ジャパン・トータル・クラブ 個人 合有性 カード+チケット 7
東急バケーションズ 株式会社東急シェアリング 法人
個人
利用権 ポイント制 66
リロバケーションズ 株式会社リロバケーションズ 法人
個人
利用権 ポイント制 39
セラヴィーリゾート泉郷 株式会社セラヴィーリゾート泉郷 個人
中心
利用権 カード+チケット 36
ダイヤモンドソサエティ 株式会社ダイヤモンドソサエティ 法人
個人
利用権 カード+チケット 12
ラフォーレ倶楽部 森トラストグループ 法人 法人会員制 年会費・預託金 10
みやび倶楽部 株式会社日本ハウス・ホテル
   &リゾート倶楽部
個人
法人
利用権 チケット制 7
エピナールリゾート 株式会社マイステイズ・ホテル・マネジメント 個人
法人
利用権
入会金
タイムシェア 3
紀州鉄道 株式会社紀州鉄道 個人
中心
利用権
入会金
チケット制 18
合計 291

表は各ホテルホームページデータ*3(文末)に基づき筆者が作成

会員権の価格と年会費

会員権価格は、共有制の場合は400万円程度から超高額物件ですと2,000万円を超えるものまで多様です。利用権方式の場合は、100万円弱~200万円近い価格まであります。それらが運営方式のポイント制やチケット制になっており年会費との関係もあるため、単純な比較は難しいです。入会時に会員権(共有・利用権)代金のほかに入会金や登録料が必要なケースもあり入会時の確認が必要になります。

年会費(年間運営費)はすべての施設で必要になっており2万円程度~20万円を超す施設などさまざまです。

ホテルの宿泊費・利用費用について

ホテルの利用費は、1泊5,000円強の実費(アメニティーと清掃費)程度の仕組みと1人1泊2食付き宿泊料金(1万円程度~)の2方式があります。タイムシェア型では、ルームチャージ方式でスイート仕様の部屋の3万円を超すケースもありますが2万円弱が多い傾向です。ポイント制の施設の場合は、例えば5年分の払込ポイントで宿泊費に充当できます。

そのため最低限の実費相当分を利用時に支払う仕組みです。会員制リゾートホテルは、総じて標準以上の部屋等の設備になっているうえ1室単位のチャージ費用は、一般ホテルの宿泊人数単位料金と比べて割安といえるのではないでしょうか。それが高いかどうかは、オンシーズンにベストなリゾート地で良い部屋を使えるメリットと合わせて考えれば良いでしょう。

提携施設の利用

各会員制リゾートホテルは、直営施設のほかに提携施設があり提携施設を含めると利用可能な施設数は、直営施設を相当上回る施設数で案内していることもあります。上記の表の会員制リゾートホテルでグループを結成して相互利用を可能にしている場合もあるので確認しておきましょう。

会員権購入者の保護について

会員制リゾートホテルを管掌するのは国土交通省です。2008年ごろにタイムシェア型住宅研究会として積極的に育成強化しようとした時期がありました。しかしその後は会員権販売の適正化を意図する規制面でのかかわりが中心です。最近では、2020年に「共有会員制のリゾートクラブ会員権の取引に関する説明事項について」という通達が出ています。

共有会員制リゾートクラブの会員権の売買に関して「説明内容が不統一で、購入者が不測の損害を被るおそれがある」と指摘しています。具体的には、以下の事項が入っています。

* 共有制会員権の取引に関する諸契約(宅地建物売買契約・クラブ入会契約・クラブ規約・施設利用契約等)を表示すること
* 物件の表示については、対象物件の概要、譲渡する権利の種類、1室あたりに換算した会員口数を説明すること
* 計画修繕積立金、管理費用等について説明する際には、クラブ年会費との関係を明示すること
* 会意見の譲渡や契約の解除に関する事項

主として共有制会員権についてのことが多いのですが以上のような項目について列記しておりその他の項目も含めて全部で10項目が挙げられています。このことは、会員権の購入者と施設運営法人との間にトラブルがあったことを示すものです。そのため購入に際しては、疑問点についてよく説明を受けることが必要といえるでしょう。

経済性や別荘・リゾートマンションとの比較から考えた場合は?

単に経済性を中心に考えた場合は、計画性を持って少し早めに希望するリゾート地のホテルを予約するのがベターといえます。しかし旅行や休暇の度に利用先のホテルを選ぶ場合は、当日チェックインして指定された部屋のドアを開けて入室、窓を開けて外を見るまでは期待と満足と失望の繰り返しになのではないでしょうか。

ホテルのグレードによっても異なりますが当たりはずれは約50%と見て良いかもしれません。会員制リゾートホテルを利用する場合は、同じホテルの再利用でなくても同じ会員制リゾートホテルであればある程度安心して利用できることは大きなメリットです。別荘やリゾートマンションの初期費用や管理費、固定資産税を考えると会員制リゾートホテルの優位性が出てきます。

最後に共有制は「資産価値が確実」「相続・譲渡ができる」というメリットと「初期支払い額が高額になる」という点がデメリットです。利用権制は、初期支払い額が比較的少ない一方でオンシーズンの部屋の確保について早期が優先されたり権利の継承などで弱点があったりするなど一長一短といえます。この項で基礎知識を得て候補とする施設の説明を受けお試し泊などで体験してから決断するのが賢明です。