植田英三郎
ウエダFPオフィス代表
CFPR、福祉住環境コーディネーター
家電メーカーに37年間勤務。2018年まで大阪府立職業訓練校でマーケティングの講師を担当。FPとしての専門領域はリタイアメントプラン、高齢者のマネープラン・資金運用、給与所得者の税務知識(副業・給与所得特定支出控除)、介護・福祉のしくみと利用法、高齢者の住まいと介護施設など。日本FP協会兵庫支部幹事を務める。

「いつまでも元気で自宅で過ごしたい」というのは高齢期を迎えた人たちが一様に考えることです。半面、自分で身の回りのことができなくなったときのことを考えると少し早めの決断が必要です。本記事では、介護施設の現状やケア付き分譲マンションと有料老人ホームの違いなどについて解説します。

介護施設の今

厚生労働省の「介護保険制度をめぐる状況について」によると、2017年10月審査分における介護保険の在宅サービスや居住系・介護施設のサービスを受ける人は、80歳から増え始めています。85~89歳になると50.4%が介護認定を受け介護保険を利用しているのが現状です。また85歳以上の高齢者全体では60.1%の人が介護認定を受けています。

<年齢階級別の要介護認定率>

年齢 要介護認定率
65~69歳

2.9%

70~74歳

6.0%

75~79歳

12.8%

80~84歳

28.1%

85~89歳

50.4%

90~94歳

71.4%

95~99歳

92.8%

65歳以上全体

18.2%

75歳以上全体

32.2%

85歳以上全体

60.1%

参考:厚生労働省「介護保険制度をめぐる状況について」をもとに編集部作成

厚生労働省が公表している「介護サービス基盤と高齢者向け住まい」によると、2017年度の介護施設や居住系サービス(有料老人ホームやグループホーム)を利用している人は約142万人です。今回は、介護施設利用者ではなく在宅介護の扱いになっているケア付き分譲マンションと居住系のサービス(特定施設有料老人ホーム)について見てみましょう。

介護施設・高齢者向けの主要な施設・住まいとしては、主に「特別養護老人ホーム(特養)」「有料老人ホーム」「サービス付き高齢者住宅(サ高住)」が挙げられます。これらの3施設の定員は、右肩上がりとなっており2018年時点で約136万人です。一時期話題となった介護施設の不足は解消されてきているといえるでしょう。

そのような状況の中で求められているのは、長い高齢期のそれぞれの人に合わせた住まいや施設ではないでしょうか。ほぼ健常な状態の高齢者にとっては、自立生活で世間との接触を続けながら万が一の状態には対応もできることが望ましいです。

類似した高齢者向け住まいと介護施設の比較

高齢者向けの住まいや介護施設は名称的に類似したものが多い傾向です。ここでは特に違いがある項目について一覧にしました。次章で詳細を見ていきましょう。

項目 ケア付き
分譲マンション
介護付き
有料老人ホーム
自立者向け
有料老人ホーム
住宅型
有料老人ホーム
所有形態 所有権 利用権 利用権 利用権
特定介護施設 × ×
共用施設
身元引受など 要もある

ケア付き分譲マンションとは

高齢期になったときに入居する施設などの入所一時金は問題の一つです。有料老人ホームの入居時一時金は償却方式に対して、ケア付き分譲マンションは買い取りの自己所有物件となることが最大の特徴です。そのためケア付き分譲マンションは退去時には売却することができます。また自立者が多いこともあり、有料老人ホームの要介護高齢者が多い施設環境と比較してある程度アクティブな人が多い傾向です。

その人たち向けの共用娯楽施設があり、活動的な高齢者のコミュニティーとなっていると言えるでしょう。共用娯楽施設としては以下のようなものがあります。

* ロビー
* カフェ
* レストラン
* パーティールーム
* カラオケルーム
* サウナ大浴場
* 麻雀や来客用宿泊施設
* 理美容室
* 健康管理
* 相談室など

部屋の面積は40~60平方メートルが多く、夫婦向けの70平方メートル超の部屋もあります。しかし戸数は少なく限定となっている場合があります。価格は立地によって異なりますが、1室(1戸)の金額は900万~2,400万円程度が多くなっています。購入伴う不動産取得税や登記費用・手数料は通常の分譲マンションの購入時と同等です。

修繕積立金は一般の分譲マンションと同等ですがフロント常駐や共用施設の維持の費用がかかるので管理費は、一般マンションの2~6倍の5万~15万円と考えれば良いのではないでしょうか。入居時の留意しておきたい事項は「身元引受人を求められるケースがある」「要介護状態の条件が付く場合がある」といった点です。

一般的に認知症の場合「入所を断られるケースがある」「施設によっては要介護3までの基準の施設がある」など対応は多岐にわたります。

自立者向け有料老人ホームと住宅型有料老人ホームと介護付き有料老人ホーム

自立者向け有料老人ホームの案内は時々見かけますが、自立者だけの有料老人ホームは原則ないといえるでしょう。有料老人ホームは、自立者~要介護5の高齢者までを受け入れる施設が一般的です。なかには、自立者棟を要介護者棟と別にすることにより自立者が気分的に落ち着く環境を考慮する施設もあります。

なかには「住宅型有料老人ホーム」という名称でPRをする施設もあります。住宅型有料老人ホームは、居住環境が住宅型となっていると思いがちですがそうではありません。住宅型有料老人ホームは、介護付き有料老人ホームに対する施設の区分です。そのため施設の共用部分や個室設備は基本的に介護付き老人ホームと変わりません。

また介護スタッフも配置されていますが「介護スタッフが外部委託」「介護スタッフの配置人数が経営上の判断もあり特定介護施設の基準に達していない」といったケースもあります。介護付き有料老人ホームは、文字通り介護スタッフを施設の自前で配置し「特定介護基準施設」の基準をクリアしている施設のことです。

「特定介護施設」は、都道府県知事から指定を受けた施設で「人員基準」「設備基準」「運営基準」があり行政のお墨付きを得た施設といえます。そのため施設の名称で判断せずに実際の施設の設備や運営状況を自分の目で見て説明を受けることが大切です。

有料老人ホームの費用

有料老人ホームに入所する場合は、入所一時金と毎月費用が発生します。入所一時金は、300万円程度からもありますが立地やケア体制・設備によって1,000万~2,000万円以上になることも少なくありません。毎月の費用は、入所時一時金との兼ね合いで増減はありますが30万円(食事代含み)程度が多い傾向です。

要介護状態になると1~3割の介護サービス費に自己負担が発生しますがこの部分は在宅とケア付き分譲マンションのどちらでも同程度の金額になります。ケア付き分譲マンションは、原則キッチンが付いていることが多い一方で有料老人ホームはキッチンや自炊はあまり想定されていません。食事代は毎食となるため費用が多くなる背景の一つといえるでしょう。

有料老人ホームの一時金の償却について

有料老人ホームは、入所時に相当額の入所一時金を支払います。一時期短期間で退所するに際して一時金の返還についてトラブルが発生したため、その後厚生労働省が規制を明確にしました。その内容は「3ヵ月以内の退所はクーリングオフで全額返還される」といったものです。また契約期間中の退所についても契約期間に応じて返還をするよう求めています。

現在各事業者は、初期償却(20%程度)を差し引きした一時金の償却期間(5~8年)を定め月単位で未償却金の一時金を返還するようになっています。例えば1,000万円の一時金を支払った場合は、20%の償却で200万円を控除した後の800万円を8年償却の場合は、年100万円となり、5年で退所の場合は300万円の返還になるような計算です。

高級有料老人ホームの場合は、入所一時金が2,000万円を超えるような施設も多くケア付き分譲マンションと比較してよく検討することが求められるでしょう。

どう選ぶ有料老人ホーム

ケア付き分譲マンションは、入所者が自立して生活できているとき部屋の広さが一般マンションに比べると狭いと感じるかもしれません。しかし居住環境としては、良い場所にあり同程度の高齢者が多いので住みやすいのではないでしょうか。

ただし再度の引っ越しが求められる点はデメリットです。要介護状態が軽度のうちに介護付き有料老人ホームへ移ることになる可能性が高くなります。ケア付き分譲マンションによっては、併設の老人ホームがある場合もありその場合は運よく近くか別棟で入所できることもあるでしょう。例えば最初から7~8年程度と期間を決めておいて次の有料老人ホームを予定しておくのも良い選択かもしれません。

有料老人ホーム(介護付き)には、自立の時点から入所ができる自立棟と介護棟が分かれた施設もあり高額な一時金を有効に活かすには長く住めるとよいので賢明です。一時期の介護施設の不足時代からニーズや暮らしに合わせた施設が選べる時代になりました。充実した穏やかな老後を過ごすためには、それぞれの経済事情と価値観に合った施設を探す努力を少し早めから始めてみるのはいかがでしょうか。