新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFPR、一級FP技能士(資産運用)、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン住宅購入のアドバイス)の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

海外になんらかの資産を保有している人もいるのではないでしょうか。近年は、海外資産に対する課税の強化が見られるため、課税方式や納税猶予制度などを熟知しておくことは重要です。そこで本記事では、海外資産が「どのような課税方式で課税されるのか」「課税に対する特例や納税猶予の制度にはどのようなものがあるのか」について解説していきます。

外貨預金

まず外貨預金の利息および為替差損益の課税方法について解説します。

国内の銀行(外国銀行の日本支店を含む)に預け入れている場合の課税

・利息

利息については、国内資産(円資産)と同様に源泉分離課税の利子所得とされ所得税および住民税が源泉徴収されます。この際の確定申告は必要ありません。

・為替差損益

同通貨で預け入れが行われる限り元本部分における為替差損益については加味しません。ただし保有している外貨預金を払い出して円預金や他の国の通貨に交換したり外貨預金を解約して外国株式の購入資金に充当したりした場合は別です。元本部分における為替差益については、総合課税における雑所得となるため注意しましょう。

所得税、復興特別所得税および住民税を確定申告により納めることが必要です。なお為替差損が発生した場合は、他の総合課税の雑所得と損益通算することができます。もし損益通算するほかの雑所得がない場合は、マイナスとなり雑所得は0円となるため、課税の対象外となり確定申告の必要もありません。

海外の銀行に預け入れている場合の課税

・利息

海外の銀行に預け入れている場合の利息については、総合課税における利子所得として扱い原則確定申告を行う必要があります。なぜなら海外の銀行は、日本の所得税などが源泉徴収されないからです。計算する為替レートは、利払い期日のTTS(銀行が外貨を販売するときの売りレート)とTTB(銀行が外貨を買う際の買いレート)の中間値(TTM)で計算します。

ちなみに海外の銀行に預け入れている場合の為替差損益における課税の取り扱いは、国内の銀行に預け入れている場合と同様です。

外国上場株式

ここでいう外国上場株式とは「外国企業が発行し外国市場で上場している株式のことです。また外国上場株式の配当および譲渡損益は「国内の証券会社を経由した取引か」「海外の証券会社と直接取引したものか」によって税務上の取り扱いが異なります。

国内の証券会社を経由した取引の場合

・配当

国内の上場株式と同様に配当所得として扱われいったん源泉徴収されたうえで「総合課税」「申告分離課税」「申告不要」のいずれかを選択することになります。ただし総合課税を選択した場合であっても配当控除の適用を受けることはできない点は注意しましょう。また国によっては法令に基づいて源泉徴収される場合もありその際は後に述べる外国税額控除を受けることにより還付することができます。

・譲渡損益

譲渡益は、国内の上場株式と同様に申告分離課税の譲渡所得です。その際の為替レートは、譲渡価額についてはTTBを用い取得価額および譲渡の際に発生した費用はTTSを用いることとなっています。また譲渡損失が発生した場合は「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けることが可能です。

海外の証券会社と直接取引した場合

・配当

海外の証券会社と直接取引を行った場合の配当は配当所得とみなされ「総合課税」「申告分離課税」のいずれかを選択することが必要です。この場合も国内の証券会社を経由した取引と同様に総合課税を選択しても配当控除の適用を受けることはできません。なおこのケースでは、日本の所得税などが源泉徴収されませんが証券会社が存在する国の法令に基づいて源泉徴収が行われることが多い傾向です。

・譲渡損益

譲渡益の取り扱いは、国内の証券会社を経由した取引と同じです。ただし譲渡損が発生した場合、国内の証券会社を経由した取引であれば「損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けることができますが海外の証券会社と直接取引した場合は適用を受けることはできません。また外国上場株式を売却した場合の為替差損益は、譲渡価額のレートが譲渡所得の収入とみなされます。

そのため保有期間における為替差損益については雑所得と区分することなくそのまま譲渡所得として計上する点は押さえておきましょう。

海外不動産

海外不動産の課税取り扱いについては「賃貸収入か」「売却の譲渡損益か」によって異なります。ここでは各内容について以下に詳しく解説します。

賃貸収入

海外に不動産を保有して賃貸収入を得ている場合、賃料収入は国内の不動産と同様に不動産所得として扱われ総合課税の対象です。その際の換算レートは、原則収入金額や必要経費が計上される日のTTMとなります。そのため海外不動産の賃料収入があった際には、賃料の入金時や経費の支払いのタイミングで金額をきちんと日本円にレート換算しておくことが重要です。

これをおろそかにしてしまうと確定申告時の計算に影響が出るため、管理を怠らないようにしましょう。

譲渡損益

海外の不動産を売却して得た譲渡益は、日本国内における不動産の譲渡益の扱いと同じとされます。所得の種類は、申告分離課税の譲渡所得です。また計算の際の換算レートは、譲渡価額や取得費、譲渡費用のいずれにおいてもそれぞれの取引日のTTMとなります。そのため譲渡を行う際にも取引日のレートをしっかりと確認しておくことが大切です。

譲渡損が発生した場合、損益通算不可の取り扱いは上記の外国上場株式と変わりません。また海外不動産を売却した際の為替差損益についても上述の外国上場株式の取り扱いと同じく譲渡価額のレートが譲渡所得の収入とみなされます。そのため保有期間における為替差損益については、雑所得と区分することなくそのまま譲渡所得として計上します。

相続や贈与における取得と財産評価

日本国内に住んでいる人が相続や贈与などで海外財産を取得した場合は、国内の財産と同様に相続税および贈与税の対象となります。これは、海外不動産に限らず外貨預金や外国上場株式にも共通していえることです。ここで問題となるのは財産の評価額。特に不動産を取得した際の評価額は、国内の路線価などを用いて計算します。

しかし海外の不動産の場合は、路線価を用いることができません。そのため売買実例価額や鑑定評価額を基に算出するほか取得価額または相続や贈与があった後の譲渡価額を基にして実際に課税される時期の価額へ修正した金額で評価する方法を用いることもできるとされています。その際の換算レートは、課税のタイミングにおける納税義務者(相続もしくは贈与によって財産を取得した人)の取引金融機関が公表するTTBとなることも覚えておきましょう。

各控除制度や特例など

海外の資産の取引は、その特色から二重課税となる場合や逆に非課税となる場合があります。そのような不公平を取り除くために以下のような控除制度や特例が設けられているのです。

外国税額控除制度

海外の資産を売却したり取得したりした際の所得税や相続税、贈与税は、その国の法令に基づき税金が徴収されます。そのため国内と海外における二重課税となる可能性があるのです。二重課税を解決する目的で国内における税額から一定額を控除する外国税額控除制度が設けられています。この制度を利用することで以下を限度として所得税額から外国で課税された金額を差し引くことが可能です。

対象年分の所得税額×(対象年分の調整国外所得金額÷対象年分の所得総額)

所得税額から外国で課税された金額を差し引くことができます。外国税額控除制度を利用するには「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」を提出したり計算自体が複雑であったりする手間がかかる可能性があるため、ある程度の準備期間をもって申告を行うようにしてください。

国外転出時課税制度

日本国内で1億円以上の有価証券などを保有している人が海外に転出する際、その人が海外に転出するタイミングで譲渡があったとみなし所得税が課税されます。

・国外転出をする場合の譲渡所得等の特例

この特例は、以下のような条件を満たしている場合に5年間納税が猶予されます。

* 国外転出時課税制度の対象になっている
* 原則課税対象者が海外に転出する日前10年以内に日本国内に5年を超えて居住している
* 海外に転出するまでに「納税管理人の届出書」を税務署に提出している

なお猶予の特例を受けるためには確定申告期限までに確定申告書の提出することが必要です。また納税猶予分の所得税および利子税の額に相当する担保を提供することが義務付けられています。5,000万円以上海外の資産の保有や100万円を超える一定の取引については、国外財産調書制度や国外送金等調書など税務署で管理されることが特徴です。

国税庁が発表している「『国際戦略トータルプラン』に基づく取組状況」などを定期的にチェックし自身の資産の保有や課税方法に問題がないかどうか確認しておくようにしましょう。また控除制度や特例については漏れのないようにきちんと確定申告および活用することが大切です。