田中タスク
エンジニアやWeb制作などIT系の職種を経験した後にFXと出会う。初心者として少額取引を実践しながらファンダメンタルやテクニカル分析を学び、自らの投資スタイルを確立。FXだけでなく日米のETFや現物株、商品などの投資に進出し、長期的な視野に立った資産運用のノウハウを伝える記事制作に取り組む。初心者向けの資産運用アドバイスにも注力、安心の老後を迎えるために必要なマネーリテラシー向上の必要性を発信中。

街で「ウーバーイーツ」の配達人を見かけることが多くなったと感じる人は多いのではないでしょうか。またコロナ禍の影響であまり聞かれなくなったものの、民泊が新しい産業として注目されていたことも記憶に新しいところです。これらはいずれも「シェアリングエコノミー」に分類される新しい形態のサービスです。シェアリングエコノミーには、ほかにも「駐車場シェア」「空間シェア」などがあります。

このように空いたスペースを対象としたものも登場しており、シェアリングエコノミーは確実に私たちの生活に浸透しつつあるといえるでしょう。「スペースを貸し借りする」という意味では、不動産投資と似ている部分もあります。シェアリングエコノミーの隆盛は、不動産投資と競合する部分があると考える人もいるようですが、実際のところはどうなのでしょうか。

今回は、今後さらに大きく伸びると予想されるシェアリングエコノミーについて、その基本と不動産投資との関係を考察していきます。

シェアリングエコノミーの最新事情

インターネットを介して遊休資産を個人間で貸し借りするサービスのことを「シェアリングエコノミー」といいます。ここでいう遊休資産とは、モノや場所、技能などのことです。余っているスペースや労力を必要としている人にネット経由で貸し出すことで対価を得ることができるため、副業としても人気を集めています。

シェアリングエコノミーを知るうえで重要になるのがその成長性です。矢野経済研究所の「シェアリングエコノミー(共有経済)サービス市場に関する調査を実施(2020年)」によると、国内のシェアリングエコノミー市場規模は2021年以降右肩上がりの成長を続けると予測されています。

コロナ禍によって巣ごもり需要が増大したことで「ウーバーイーツ」が大きな伸びを見せたことも一つの象徴的な流れです。しかしコロナ禍がなくても民泊や駐車場シェアなどシェアリングエコノミーはすでに高い成長力を示していました。手軽さや副業収入への需要が今後さらに高まっていくことを考えると、シェアリングエコノミーが今後さらに伸びていくことは明らかです。

シェアリングエコノミーと不動産投資の関係

駐車場シェアや空間シェアなどは空きスペースを貸し出すサービスなので「アパートやマンションを経営する不動産投資と同じベクトルにあるのではないか」と考える人がいます。つまり「不動産投資もいずれシェアリングエコノミーに取って代わるようになるのではないか」というわけです。しかしこれについて両者は本質的に真逆の存在と考えるべきでしょう。

不動産投資が月極契約で住居やオフィスなどを貸し出すサービスに対して、シェアリングエコノミーではスポット的な利用を前提としているものが大半のため、そもそも利用者の目的が異なります。例えばシェアリングエコノミーの一種となる空間シェアの大手「スペースマーケット」では、空きスペースのオーナーが1時間単位で貸し出しをしています。

室内での写真・動画撮影やホームパーティ、リモートワークなどスポット的な利用を想定しています。シェアリングエコノミーを利用して部屋などを月単位で借りるととても割高になるため、居住を目的としている人がシェアリングエコノミーを選択することはないでしょう。

不動産投資家が知っておくべきシェアリングエコノミーのサービス

先ほどから少し紹介していますが、シェアリングエコノミーではどんなものが「シェア」されているのでしょうか。代表的なジャンルとサービスを紹介します。

・ 民泊(Airbnbが最も有名)
・ 駐車場シェア(akippaなど)
・ 空間シェア(スペースマーケット、スペイシーなど)
・ 物置シェア(モノオクなど)
・ ライドシェア(移動の相乗り仲介、nottecoなど)
・ 自動車シェア(カフェオレなど)
・ 高級ハンドバッグシェア(ラクシスなど)

このほかにも世の中のありとあらゆる遊休資産がシェアされているといっても過言ではないほど、多彩なジャンルのシェアリングエコノミーがあります。

シェアリングエコノミーを味方につけて不動産投資を安定化

不動産投資家としてシェアリングエコノミーの隆盛をどのようにとらえるべきなのでしょうか。最も現実的なのは「空室対策」です。所有物件が空室になりがちで入居者を安定的に確保する有効な手段が見当たらない場合は、シェアリングエコノミーに供するのも一つの方法といえるでしょう。先ほど紹介した空間シェアでは、ワンルームマンションの1室をシェアしているケースも多くあります。

これは、マンションのオーナーが空室対策の一環で行っている可能性もあります。「スペースマーケット」をはじめさまざまな空間シェアサイトを利用して、時間貸しで所有物件を有効活用することが可能です。月極だとなかなか入居者がつかないような物件でも、時間貸しであれば新たなニーズを掘り起こせるかもしれません。

しかしシェアリングエコノミーでの活用を前提として新規に物件を購入するのは、時期尚早です。当面は、既存物件の有効活用の手段としてシェアリングエコノミーを検討するべきでしょう。そこでのノウハウが蓄積され勝算があると見込めるのであれば、格安物件を購入するのは有効かもしれません。

シェアリングエコノミーと不動産投資の関係のこれから

シェアリングエコノミーの人気が高まっているのは、一時的な現象ではありません。そこには若年層を中心とした意識の変化が大きくかかわっています。シェアリングエコノミーを積極的に利用する人たちには「モノを所有する」ことへの執着が少ない傾向です。そのため「必要なときだけ借りて使えばよい」という考え方が主流となっています。

自動車シェアや高級ハンドバッグシェアなどのサービスで貸し借りされているのは、本来「所有する」ことに価値を見出す人が多かったものです。しかしこれらのサービスを利用する人たちは必要なときだけ借りれば十分と考えているため、こうした意識変革が社会のさまざまな場所で起きていると考えるべきでしょう。

「所有物件に空きが出たら次の入居者を探す」というのが従来の不動産投資の考え方です。しかしそれだけだと次の入居者が見つからずに空室状態が長引くリスクがあります。同時にシェアリングエコノミーを利用したい人たちのニーズを取りこぼすことになりかねません。不動産投資家には、現在起きているシェアリングエコノミーの大きな潮流をしっかりと理解してどう味方につけていくかの発想が求められています。

コロナ禍の影響で訪日外国人が激減したため民泊は需要が冷え込んでしまっていますが、それまでは遊休不動産の活用法として高い注目を集めていました。コロナ禍によりホテルや民泊の廃業が相次ぎましたが、これが収束したあとには需要の急回復が見込まれます。そのときに需要に応えられるビジネスとして民泊が再び脚光を浴びる可能性は高いでしょう。

こうした動きも不動産投資家は認識しておくことが必要です。今後さらにシェアリングエコノミーの市場規模が拡大していくと不動産投資家のビジネスチャンスも同時に拡大していくことは必至といえるでしょう。重要なのは、シェアリングエコノミーを競合相手と見るのではなく、いかに不動産投資の味方につけるかという発想です。