韓国には、年間200万人以上の日本人が訪れています。以前から不動産投資が活発だったこの国は、近年再び活況を呈しているのです。今回は、「韓国の不動産市場」について見てみましょう。

注目が集まる韓国の不動産

2019年に日本で公開された映画『パラサイト 半地下の家族』は、アカデミー賞作品賞などを受賞したこともあり、大きな話題となりました。この映画では、低収入家族が住む半地下生活が題材となっていましたが、世界のGDPランキングでも日本と大差がなくなっている韓国で、なぜ住環境がここまで悪くなっているのか不思議な面もあります。一方で、韓国の不動産価格はここ数年のうちに50%近く上昇したエリアもあり、目が離せないのが現状です。

韓国不動産市場の独特な入居形態と慣習

韓国には、日本と違った不動産の商慣習があります。ひとつは、不動産の大部分が日本で言う「マンション」に偏っていること、もう一つは「チョンセ」という制度です。

入居形態は「アパート」と「単独住宅」

韓国の住まいには大きく分けてアパートと一軒家があり、日本のマンションのことを韓国ではアパートと呼んでいます。首都ソウル市だけでなく地方都市でも、数十階建ての高層アパートが人気です。入居形態は分譲と賃貸があります。韓国での単独住宅とは、日本の一軒家を指します。ソウル市の郊外などに高級住宅地として残っていますが、戸数としては多くはありません。

韓国ではこの他にも、「ヴィラ」という低層のマンションや、そして映画にもなった「半地下」も居住形態の一つです。ちなみに半地下は、朝鮮戦争後に万が一のための防空壕として作られたものであり、最近では居住だけでなくおしゃれなカフェなどにも活用されています。

韓国ならではの不動産賃貸慣習「チョンセ」と「ウォルセ」

韓国の不動産市場を見る際には、この国独特の不動産賃貸に関する慣習を知る必要があります。それがチョンセとウォルセです。

チョンセとは、賃貸契約時にあらかじめ大家との間で賃貸期間を決め、まとまった保証金を支払うことで月々の家賃を支払う必要がないシステムのことです。家賃の先払いですね。ユニークなのは、契約満了時に保証金が全額返金されることです。

もう一つの慣習がウォルセです。ウォルセも入居時保証金を支払いますが、同時に月々の家賃も発生します。月々の支払いがある分、保証金が安く設定されているのです。ウォルセも保証金は退去時全額返金されます。

どちらの商慣習も保証金が全額返金されるのですが、これではどうやって大家は収入を確保するのでしょうか。それは、契約期間中に預かった保証金を運用しているのです。運用の方法はさまざまですが、銀行に預けておいても年利5~10%の利子がついていたため、この制度は成り立っていました。

韓国不動産市場のいま

じつは韓国の不動産は、ムン・ジェイン政権になって以来、高騰が続いています。政権もどうにか沈静化させようと必死ですが、なかなか収まる気配がありません。

東京 ソウル
オフィス価格変動率 0.0% 2.8%
オフィス賃料変動率 0.2%
マンション価格変動率 2.3%
マンション賃料変動率 0.3%

※変動率は2020年4月?10月までの数値
参照:一般社団法人 日本不動産研究所「第15回「国際不動産価格賃料指数」(2020年10月現在)調査結果」をもとに編集部作成

止まらない価格高騰

韓国の『毎日経済新聞』に、2020年9月には、ついにアパート価格が10億ウォンを突破したとの報道がありました。2017年のアパート平均売買価格は5億9,000万ウォン(NAAアジア経済ニュース調べ)だったので、3年間で40%以上上昇したことになります。チョンセという商慣習のせいで少ない元手で不動産投資に参加できることもあり、世代を問わず個人投資家の参入が絶えないのだといいます。

数打っても当たらないムン・ジェイン政権の不動産政策

ムン・ジェイン政権は、2017年から4年間に、不動産価格の高騰を抑えるために20回以上の政策を打ち出してきましたが、いずれも効果は限定的でした。2020年9月にも政府は新しい法律を作り、不動産価格の高騰を抑えようとしたのですが、いまだ上昇は止まっていないのが現状です。税の負担増よりも不動産価格の上昇幅が大きく、所有者は不動産を手放したがらないのです。一方で、大統領府の高官や国会議員などが、禁じられている複数の不動産所有をしていることが判明し、国民の批判が高まる事態にまでなっています。

韓国不動産への投資はすべきか?

基本的に、韓国での不動産投資は投資リスクが低いほうだと言われています。また韓国の商業用不動産の場合、需要に比べて供給が少なく空室率が低いため、投資価値が高いと考える人が多くいます。そのため韓国の不動産投資に興味をもつ外国人が増えているのです。

一方で、高騰する不動産価格に耐えきれないこともあり、ソウルに住む30代人口が減少しています。新居が欲しい新婚夫婦のソウル離れが加速しているとも言われています。また、長引く経済低迷で銀行金利が下がっており、預かったチョンセがうまく運用できない環境になり始めているのです。

外国人が韓国の不動産に投資するときの注意点

韓国の不動産の場合、日本に住みながらでも韓国人同様な環境で不動産売買を行うことができます。それは、1998年に制定された「外国人投資促進法」のおかげと言われています。法律的には自由な売買環境が整っていますが、韓国で不動産投資をする際に頭に入れておくべきポイントとして、前述した「賃貸は分譲マンション」「独特の慣習のチョンセ」の2つは忘れてはいけません。

韓国の国土面積は日本の25%ですが、人口が日本の40%程度あるため、そもそも人口密度が高い国です。先述したように、そのなかでソウルなど首都圏に人口が密集しているため、韓国不動産投資のほとんどがアパートということになっているのです。

また、韓国独特の商習慣「チョンセ」についても注意が必要です。このシステムは高金利だからこそ成り立つものなので、銀行金利の低下リスクも考えておく必要があります。

外国人が投資をするメリット

ソウルなどの地方自治体には、「グローバル不動産仲介事務所」が設置されています。英語や日本語といった外国語の語学力を備えた仲介業者がいるため、実際の取引実務はここを利用するとスムーズに運ぶでしょう。

不動産投資環境を見ても、2020年は外国人による不動産取引が過去5年で最高を記録しており、まだまだ不動産熱が覚める様子はありません。

外国人が投資をするデメリット

外国人にも広く門戸が開かれている韓国不動産投資ですが、税金だけは韓国人と同様というわけにはいきません。

不動産の購入時や維持にかかる税金は、基本的には取得税・固定資産税・譲渡所得税など韓国人と同じです。減免措置も韓国人同様、譲渡所得税・長期保有特別控除などで適用されます。また、投資目的で購入した不動産の公示価格が合計6億ウォン以上を超えた場合、総合不動産税がさらに課税される場合もあります。

また、売却にあたっては、次の2つの税金についても注意が必要です。1つ目は譲渡所得税がかかること。2つ目は外国人投資家には所得税法、法人税法に基づく源泉徴収税の納付義務があることです。

韓国不動産への投資はリスクか?チャンスか?

2022年は韓国大統領選挙の年であり、大統領の任期は1期と決められており、ムン・ジェイン政権が終了することは決まっています。新たな大統領によって不動産政策も変わっていくことが予想されます。しかしながら、韓国独自のチョンセという慣習や物件不足などの現状から、オーナーが強いことはなかなか変わらないでしょう。また、最近では金利が下がっていることからチョンセによるトラブルが発生しており、堅実な投資が求められていくことになりそうです。