新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFPR、一級FP技能士(資産運用)、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン住宅購入のアドバイス)の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

不動産投資にかかわらず事業を行ううえで大切なことは、支出の一部を経費として計上し利益を抑えることで節税効果につなげることです。では、不動産投資における経費の範囲はどこまで可能なのでしょうか。

一般的な不動産投資の経費とは?

不動産所得を計算するうえで必要経費とみなされるものの大前提として「不動産収入を得るために直接必要となる費用のうち家事上の経費と明確に区分できるもの」といった点が挙げられます。主なものとしては、以下のようなものを費用として計上することが可能です。

・ 固定資産税
・ 損害保険料
・ 減価償却費
・ 修繕費
・ 管理費
・ 広告宣伝費
・ 手数料
・ ローンの利息
・ 交通費や車両関係費

旅費も経費とすることができる

旅費については、単なる旅行であれば経費とはなりません。しかし旅行先で「不動産の物件視察を兼ねる」という形にして現地調査を行うことで、単なる旅行ではなく「視察旅行」「研修旅行」とすることが可能です。もちろんその際には「旅行先で視察をした物件の写真を撮っておく」「訪ねた先における不動産会社の担当者の名刺をいただいておく」など証拠を残すことが大切です。

第三者が客観的に物件視察と認識できるようにしておくことで、視察に費やした割合分を経費計上することが可能です。さらに「不動産会社から紹介された物件を見に行く」などの交通費については、全額経費計上ができる点も覚えておきましょう。不動産投資を行う際には、現地へ赴き物件の状態を見たり周辺の生活環境を観察したりする事前調査が大切です。

事前調査の際のチェックもさることながら費用についても忘れずに計上するようにしてください。

資本的支出と修繕費の違い

投資用の物件を購入した後に問題となってくるのが資本的支出と修繕費の判断方法です。判別方法としては、形式基準を用いて計算する方法が一般的ですが、形式基準を超える金額でも修繕費として費用計上できるケースがあります。

資本的支出とは?

資本的支出とは、対象物件の価値を高めたり耐久性を増すために使われたりした金額のことで、資産の一部として扱われます。用途変更のための模様替えなど改造または改装に直接要した費用については、原則として資本的支出となり経費計上することは認められません。修繕費とは、対象物件の維持管理もしくは原状回復のために使われた金額のことです。

修繕費については経費として計上することができます。

資本的支出と修繕費の見分け方

物件の修理や改修のために使った費用が「資本的支出」「修繕費」のどちらに該当するのかの判断は「形式基準」を用いて行われます。例えば以下のいずれかに該当した場合は、修繕費として経費計上が可能です。

・ 支出した金額が60万円に満たない場合
・ 支出した金額がその修理改良等にかかる固定資産の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下の場合

形式基準を超える額でも費用計上できる場合がある

形式基準によると、支出した金額が60万円以上であってもその資産の前期末における取得価額の約10%以下であれば修繕費として処理することができます。しかも原状回復工事であれば金額の高低にかかわらず修繕費として計上することが可能です。なぜなら上述の通り原状回復のために使われた金額については修繕費として費用計上できることとなっているからです。

そのため仮に60万円を超える修繕が発生したとしても原状回復工事であればかかった費用の全額を修繕費として経費計上することができます。金額に上限はないため「前期末における取得価額の約10%相当額以下」という要件を満たせば100万円以上の修繕工事であっても全額を費用計上することが可能です。

ただ「原状回復工事が物件の機能を回復させるものなのか」という点は注意が必要になります。一般的に機能回復と原状回復は、同じ意味合いにとられがちです。しかし機能回復とは、もともとあった材質や部材と同等のものを入れ替えたり壊れた箇所を回復させたりすることで機能を維持することを目的とした修繕のことを指します。

例えば屋根の葺き替えや外壁の張り替えなどといった工事を行う場合は、機能回復の意味合いになることからそれらの工事費用については全額修繕費として費用計上が可能です。そのため材質や部材について品質や性能を従来のものよりもハイグレードのものに取り替えた場合、その取り替え金額のうち通常の取り替え金額を超える部分については修繕費とはなりません。

この場合は、資本的支出として取り扱われることに注意が必要です。

リフォームも経費計上可能?

物件のリフォーム代は、費用が高額となりがちなため、できれば経費計上したいところです。リフォーム費用は「用途変更のための模様替え」という目的から原則として資本的支出となり資産計上しなければなりません。しかしその資本的支出については、対象物件に該当する耐用年数を使用して減価償却することができます。

基本的にリフォームを行った際には、資本的支出となるため、かかった費用の全部を資産計上しないといけないと思いがちです。しかし減価償却を行うことにより減価償却費として経費計上することが重要なポイントとなります。

資本的支出の減価償却の重要性

不動産投資における減価償却の計算は、必要不可欠です。減価償却費の計算は、決算時に一括で行うことも多いため、忘れてしまうことも少なくありません。しかし経費計上で減価償却費の計上は大きな割合を占めるため、必ず確認しておきたいポイントです。減価償却費は、耐用年数を用いて計算し中古物件の耐用年数は、簡便法を用いて計算することができます。

簡便法とは「経過年数に20%を掛けて残存年数にプラスする」という方法で計算式は以下の通りです。

簡便法での耐用年数=(法定耐用年数-経過年数)+(経過年数×0.2)

ただし取得価額の50%超のリフォーム代がかかっている場合、簡便法は利用できません。また簡便法は「物件を取得した初年度でしか使えない」という決まりになっているため、物件を取得し賃貸物件として貸し出す前にリフォームを行うことが必要です。また物件の再取得価額における50%以下のリフォーム代であれば以下の算出方法を利用することが認められています。

さらにこの算出方法で求められた耐用年数に応じた減価償却を行うことが可能です。

<計算式>
物件の取得価額(資本的支出の価額を含む)÷{(物件の取得価額(資本的支出の価額を含まない)÷簡便法により算出した物件の耐用年数)+(物件の資本的支出の額÷物件の資産にかかる法定耐用年数)}

法人化した際にのみ認められる経費とは?

法人であれば経費となりそれを受け取った個人の収入にならないものが「出張費」です。出張費は、個人事業主本人には認められていませんが、個人事業主の従業員もしくは法人であれば役員であっても認められている経費です。「旅費規程の作成」という手間が必要ですが、規程の中で個別の出張費について規定しておき一般的な相場であればその額が経費として認められます。

交際費を有効に計上しよう!

交際費は、景気のバロメーターともいわれています。国税庁が発表している「会社標本調査結果(2019年度分統計表)」によると不動産業の交際費は、約2,682億円(1社あたり約114万円)でした。そのため1社あたりの交際費としてはそこまで多くありません。交際費として計上する金額の目安については「1人あたり5,000円超の食事代」とされていることは周知の通りです。

しかし領収書の裏に「取引先の会社名」「担当部署」「名前」「人数」といった項目を記載しておくことが要件となっています。また交際費として計上する際の注意点は「私的な接待ではない」ということです。私的な接待費とは、事業とは関係のない飲食代にもかかわらず経費として計上していることを指し、主に友人などとの飲食代がこれに該当します。

ただし自分が不動産投資を行っており友人となる相手方も不動産投資を行っている場合、情報交換を兼ねた飲食代として計上することは可能です。不動産投資を行っている者同士であれば不動産業者の有益情報を交換したり物件情報や良いリフォーム業者の情報などを提供し合ったりすることもあるでしょう。

そのような内容の飲食代であれば事業との関連性が認められることから経費計上できる可能性は高くなります。ポイントは「事業と関連しているかどうか」です。そのため情報交換の時間とそれにかかった費用については、最大限有効に活用するようにしましょう。

カギは減価償却費の最大化

支出の中で減価償却費は見えないことから、ついおろそかにしがちです。しかし高額な物件を購入し貸し出すことで収入を得る不動産投資の場合、「減価償却費をいかに大きくするか」がポイントとなります。まずは「費用計上できるものとできないものをきちんと把握すること」が重要となるため、失念しないようにしましょう。

また上述した簡便法などを活用し減価償却における費用計上可能な時期を確認しながら全体の収支を考えていくことが不動産投資を行ううえで大切です。