資産として持つ土地にどのような相続税対策があるかわからない、という人も多いと思います。またどれくらいの相続税がかかるか、誰が相続税を負担するのかも非常にわかりにくいものです。そこで本記事では、土地に対する相続税の節税方法や相続後のトラブルを防ぐ方法を解説します。

土地の相続税をかんたんに試算

相続税はまず遺産の課税価格から基礎控除をした課税遺産総額を、民法に定める法定相続分で按分し速算表の税率をかけて算出します。

基礎控除の計算

課税価格の合計額-基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)=課税遺産総額

この基礎控除額は、法改正により2015年1月1日以降、縮小しました。今後も縮小される可能性はありますので、できるだけ早く相続対策をすることが賢明と考えられます。

法定相続分

相続を受ける人には民法によって順位が定められています。配偶者がいれば常に相続権があり、その他の人の順位は以下のようになります。

第1順位 被相続人の子(子が相続以前に亡くなっていたときは孫)
第2順位 子がいないときは被相続人の父母や祖父母(直系尊属)
第3順位 子も直系尊属もいないときは被相続人の兄妹姉妹

また民法では、同じ順位の相続人が複数人いるときの法定相続分も定めています。

1.配偶者と子が相続人のとき配偶者は1/2、子は残り1/2を人数で割ります。
2.配偶者と直系尊属が相続人のとき配偶者は2/3、直系尊属は残り1/3を人数で割ります。
3.配偶者と兄弟姉妹が相続人のとき配偶者は3/4、兄妹姉妹は残り1/4を人数で割ります。
4.兄妹姉妹が亡くなっているときは、甥姪が代襲相続できます。代襲相続人が複数いる場合は兄妹姉妹の相続分を人数で割ります。

相続税速算表

課税価格の区分 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15%
1,000万円以下 10% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

相続税の計算例

配偶者と子2人の家族で1億円の資産を相続する場合

基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:1億円-4,800万円=5,200万円

配偶者:2,600万円(1/2)
相続税:(2,600万円-50万円(控除))×15%=382.5万円

子:1,300万円(1人あたり1/4)
相続税:(1,300万円-50万円(控除))×15%=187.5万円

土地の相続税対策

現金はそのままの額が相続税の課税価格になりますが、土地は売買価格とは異なるそれぞれの評価額に対して課税されます。この評価額は土地の使い方を変えることで下げることが可能で、相続税対策にもなります。

賃貸建物を建て評価額を下げる

土地にアパートなどの賃貸建物を建てると貸家建付地になり、以下の式で算出される評価に変わります。

貸家建付地の価額=自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合

借地権割合は国税庁の路線価図にAからGのアルファベットで示されており、30?90%の割合に評価が下がります。また借家権割合として東京都であれば30%がかけられます。

路線価と借地権割合、借家権割合は国税庁「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」で調べることができます。

賃借割合は建物の床面積のうち、賃借されている部屋の床面積の合計が占める割合です。

貸家建付地で相続するときの注意

貸家建付地にすると相続税対策にはなりますが、次の2つの注意点があります。

十分な賃貸収益が見込めるか

賃貸物件を建築するには、十分な賃貸収益が見込めるかしっかり検討する必要があります。都心のように人口が多く賃貸需要が落ち込みにくいエリアであれば、家賃収入という付加価値のある土地として相続できます。

しかし収益が不安定な地方などであれば十分な家賃収入が得られず、相続税は減らせたものの固定資産税や維持管理などの負担を残してしまいます。しかも遺産として相続した土地は心情的になかなか売りにくいため、扱いに困ってしまう可能性もあります。

相続でもめる原因になる

貸家建付地にすると、遺産分割協議でもめてしまう可能性があります。不動産は現金と違って公平に分けることが難しいからです。土地・建物権利の持ち分を均等にする方法もありますが、貸家では誰が維持管理を行うか、その費用負担、家賃収入の分け方などで争いとなるケースもあります。

相続でもめないための3つの対策

相続でもめることを防ぐ方法として、代償分割と遺書、現金相続の3つが考えられます。

代償分割

代償分割とは相続財産に特定の相続人を決め、その人が他の相続しない相続人に債務を負う方法です。今回のケースで言えば土地を相続した人が、相続しなかった他の相続人に相当分の金銭を払う方法が考えられます。

これなら分けにくい不動産も特定の人の所有となり、維持管理などの不満が出にくくなるはずです。また相続しなかった人も金銭を受け取ることで、スムーズな相続が期待できます。しかしこの方法でも誰が相続するのか、という基本的なところでもめる可能性があります。

遺言書を残して万全に

さまざまな相続人同士の争いを防ぐため、誰に相続させるかなどを決めた遺言書を残す方法もあります。以前は元気なうちに遺言書を書くというと縁起でもないと考える時代もありました。しかし現在はこの世を去った後に波風を立てないため、終活の1つとして前向きにとらえる人も増えています。

一定の決まりに則って書かれた遺言書は、法定相続分の順位や割合より優先する効力を持ちます。例えば亡くなるまで介護などをしてくれた子に相続割合を多くしたり、特定の不動産を相続させたりできるのです。

正式な遺言書とするには本人が記したと確認できる必要があり、そのための方法として次の3つがあります。

自筆証書遺言 遺言者が自ら書き日付と署名押印する
公正証書遺言 公正証書として公証人のもとで遺言書を作成
証人2人以上の立会いで各人が署名押印する
秘密証書遺言 遺言を書いたものを署名押印して封印
公証人と証人2人に遺言者のものと証明してもらう

現金相続ならトラブルになりにくい

できるだけもめないように相続したいという考えなら、土地を売却し現金化して相続する方法もあります。相続税は増えますが現金なら分けやすく、不満を残しにくくなります。また相続税がかかる場合は現金納付となるため手持ち金が必要で、この点でも現金相続にはメリットがあります。

2つの土地売却後の贈与税対策

土地を売却し現金化するなら、次の節税方法を活かして課税されずに贈与する方法があります。

贈与税の基礎控除

贈与税には1年間に贈与された財産に課税する際に、毎年110万円までの基礎控除枠があります。これを活かして1年ごとに110万円ずつ贈与すれば課税されません。

住宅取得等資金贈与の非課税

期限のある措置ですが、父母や祖父母など直系尊属からの住宅資金贈与であれば、最大1,200万円までの非課税枠があります。

家族が安心して過ごせる選択を

土地に限りませんが相続は税金面だけでなく、その後の家族の生活も考えることが大切です。アパートを建てても十分な家賃収入が見込めなければ、受け取った家族の負担になりかねません。また場合によってはもめごとに発展してしまう可能性もあります。

このため土地を売却して現金で相続したり、収益性の高い賃貸不動産に買い替えたりする方法も考えてみましょう。例えば、堅調な賃貸需要が期待できる都心の不動産なら、生命保険代わりに安定した家賃収入を家族に残すこともできます。

節税も大切ですが、家族がその後の生活を安心して過ごせるように考え、より良い相続対策を準備しましょう。