新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFPR、一級FP技能士(資産運用)、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン住宅購入のアドバイス)の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

2020年に総務省が発表した「家計調査報告(貯蓄・負債編)」によると日本の貯蓄額および負債額は、40代まで貯蓄額よりも負債額のほうが多い傾向です。また50代に入ると負債額よりも貯蓄額のほうが上回り2,000万円近い金額となっています。つまり30~40代では、収入の多くが住宅の購入や子どもの教育費用などに使われる傾向のため、資産形成をするだけの資金的余裕がないということです。

とはいえ長寿および長寿に伴う介護が必要な時代を迎えるにあたり親からの相続資産をあてにすることは難しいでしょう。また公的年金だけでは老後の生活資金がすべてまかなえないため、早いうちからの資産形成が不可欠です。

薬剤師の実態

総務省が公表している「令和2年賃金構造基本統計調査」によると2020年の薬剤師の年収はきまって支給する現金給与額39万4200円×12ヵ月=473万400円に年間賞与その他特別給与額92万900円を加えた約565万円、平均年齢は41.2歳でした。また厚生労働省が公表している「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計」によると2018年時点で「薬局」に勤めている薬剤師が18万415人と最も多く次いで「病院」が5万4,150人、「医薬品関係企業」は4万1,303人となっています。

医療施設よりも薬局に勤めているほうが多い傾向です。これは、1997年以降医薬分業が急速に進んだことが背景にあるといわれています。近年は「フリーランス薬剤師」といわれる個人事業主としての働き方を選ぶ人も少なくありません。フリーランスのため、時間などは自由になるものの「収入が安定しない」「社会保険などへ加入ができない」といった点はデメリットといえます。

またセルフメディケーション税制の導入によりドラッグストアで「OTC専門薬剤師」として活躍の幅を広げようとしている人もいるかもしれません。

そもそも資産形成とは?

 

資産形成と資産運用は、混同されがちですが以下のように異なるものです。

・ 資産形成:資産を一から築いていくこと
・ 資産運用:現状ある資産を利用して資産を増やしていくこと

そのため資産形成において重要となるのは資産を今後いくらまで築いていくのかを考えることです。もし将来に向けてぼんやりとしたイメージしか持っていないのであれば以下についてしっかりと確認しておきましょう。

・ 今後自分がどのくらいまで働きたいのか
・ それによって得ることができる収入がいくらくらいなのか
・ リタイア後はどのような人生を送っていきたいのか
・ それにかかる費用はどのくらいか

これらを踏まえて老後の生活費を算出し、もし不足する可能性がある場合は、その部分について資産形成をしっかりと行う必要があります。資産形成を始めるうえでまずやらなければならないのは、家計の収支の見直しです。貯蓄できるだけの余裕がないのであれば、減らせる支出がないかどうかを洗い流すことから始めてみましょう。

それでもなお余裕がない場合は、何らかの形で収入を増やすことを考える必要があります。もし勤務先が副業を認めているのであれば本来の業務に無理のない範囲で仕事をし、収入を得る方法を考えることも大切です。

なぜ資産形成が必要なのか?

 

超低金利時代が続いている時代では、預貯金として資産を保有していてもほとんど増えません。しかも物価は上昇していくことから預貯金として資産を保有しているだけではお金の価値が下がっていくことになります。そのような中、政府は度重なる税制改正によって増税の方向を打ち出しているため、税負担は増すばかりです。

また社会保障の低下も懸念されています。医療費の自己負担額の増額が検討されていることもしかりです。実際に2021年6月4日には参院本会議で一定以上の所得のある75歳以上の方についての自己負担額が、現在の1割から2割に引き上げる内容の医療制度改革関連法案が成立しています。日本では、景気が後退していく中で物価の上昇が同時進行する「スタグフレーション」の状況が迫っているともいわれています。将来のインフレや年金、医療費負担の対策に備えるために資産形成によって自分たちが使えるお金を育て増やす必要があるといえるでしょう。

理想的な資産運用方法とは

 

資産形成に必要なことは、まずは貯蓄額を増やし余剰資金で資産運用を行うことがポイントとなります。

積立投資

資産運用の基本といわれるのが積立投資です。つみたてNISAなどを利用し運用を行っている人も多いのではないでしょうか。またiDeCoなどの確定拠出年金制度の活用も老後の資産形成という面でも効果的です。しかし資産形成は、老後のためだけではありません。現役時代でもライフイベントよっては、支出内容に応じた資産形成が必要となります。

積立投資のメリットは、毎月一定額で購入することから価格が変動する運用商品を購入するうえでリスクを分散する買い方ができることです。運用方法としては、つみたてNISAなどの非課税の恩恵を受けることができる制度を利用しながら行う方法もあります。しかし購入できる銘柄が決められていること、そして、つみたてNISAの対象商品は一定の投資信託に限られ、株式などへの投資ができないことから自分が思ったような運用ができない点はデメリットです。

頻繁に売買せず長期保有目的の場合は、あえてつみたてNISAにこだわらず上場株式など自分の好きな金融商品を積立購入するほうが、値上がり益が期待でき、最終的にメリットとしては出る可能性があることを知っておきましょう。

安定資産

安定資産の代表的なものが債券です。債券は、購入時に額面と利回りが決まっており満期まで保有した場合に額面と利息を得ることができます。そのため投資信託の商品を選ぶ際には、債券の割合が大きいものを選ぶとよいでしょう。また運用商品は「国内債券」「海外債券」があり海外の商品を選ぶと為替の影響を受けることになります。また、海外債券にはその国における急激なインフレや通貨価値の下落などによって、手持ちの債券に対して損失が発生する可能性、いわゆるカントリーリスクが存在することも覚えておきましょう。

「為替の影響はできるだけ受けたくない」という場合は、国内の債券に特化した投資信託や個人向け国債、社債などで運用を行う方法を検討しましょう。

成長資産

積立投資や安定資産で運用に慣れてきた後は、次のステップとして今後成長が期待できる分野への投資を組み入れた運用を考えましょう。成長資産の代表的なものは株式です。しかし価格変動が大きいため、なかなか購入に踏み切れない人もいるかもしれません。ただ積立投資や安定資産で運用を行っていると次第に高いリターン(収益)を得たいと考える人も出てくるでしょう。

高いリターンを得るには、リスク(値動きの幅)を許容する気持ちが大切です。そのためはじめは、投資信託の中でも株式の割合の多いものを複数選び様子を見ながら続けていくとよいでしょう。特に外国株式メインの投資信託商品には、優れた運用チームによって構成されたものもたくさんあります。また国連が掲げているSDGs(持続可能な開発目標)に関連した分野への投資も注目度が高い傾向です。

「個別銘柄の株を買うのは自信がない」と感じている人にはおすすめといえるでしょう。

他にもある資産運用方法と注意点

資産運用の方法には、投資信託や債券、株式以外にも不動産投資や暗号資産(仮想通貨)、FXや金投資などさまざまなものがあります。暗号資産は、少額から取引できることから注目を集めていますが法的に認められた通貨ではなかったり価格が大きく変動したりする点もしっかりと理解したうえで投資することが必要です。

不動産投資は、賃貸収入となる運用益がメインとなるため、入居者がいる間は安定した収入を得ることが期待できます。しかし安定した収入源となる入居者をどのように確保するかを考えておくことは非常に重要です。投資対象とする物件を選び間違えると空室で賃料が入ってこず持ち出しが増えたり負債だけが残ってしまったりする事態に陥る可能性もあります。

また2020年に史上最高値を付けた金投資も注目されている商品の一つです。しかし金投資にも証券取引所に上場する「ETF(上場投資信託)」や証券会社などを通じて積立購入する「純金積立」などさまざまな投資方法があります。資産運用を行う際には、まずは自分の生活スタイルを考え自分に合った購入方法を決めることが大切です。

運用をある程度プロに任せたい場合は、証券会社などの金融機関に口座を作り投資信託商品から始めるとよいでしょう。また非課税制度の内容もきちんと理解しておくことが必要です。例えばiDeCoは、加入できる年齢が決まっています。一方NISAは、期間こそ決まっているものの20歳以上であれば年齢に上限はありません。もちろん併用してもいいでしょう。

そのため「iDeCoが利用できる期間はiDeCoを利用しその後はNISAの制度を活用する」という考えもあります。特にiDeCoの場合は、掛け金が全額所得控除の対象となり節税効果が高いため、現役時代であればぜひ活用したいところです。一方でNISAは所得控除の対象外のため、iDeCoとは利用する期間を分けてもいいでしょう。

まず「自分が何歳までにどのくらいの資産を形成する必要があるのか」について目標をしっかりと立てることが大切です。運用対象商品の特徴や自分のリスク許容度を確認し長期の視点で行うことから始めていきましょう。