丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

持続可能な社会を実現するためのSDGsへの取り組みが世界的な流れになっています。SDGsに積極的な企業に投資する動きも広がっており、資産運用の有力なテーマの1つと考えられています。国内外有名企業の取り組みと、SDGs投資のリターンについて紹介します。

SDGsは持続可能な社会づくりへの指標

SDGsとはSustainable Development Goalsの略で、「持続可能な開発目標」という意味があります。全体で17の目標(ゴール)が設定されています。2015年9月の国連サミットで採択され、国連に加盟している193ヵ国が2016年から2030年の15年間に目標の達成を目指します。17の目標は以下のとおりです。

1. 貧困をなくそう
1. 飢餓をゼロに
1. すべての人に健康と福祉を
1. 質の高い教育をみんなに
1. ジェンダー平等を実現しよう
1. 安全な水とトイレを世界中に
1. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
1. 働きがいも経済成長も
1. 産業と技術革新の基盤をつくろう
1. 人や国の不平等をなくそう
1. 住み続けられるまちづくりを
1. つくる責任 つかう責任
1. 気候変動に具体的な対策を
1. 海の豊かさを守ろう
1. 陸の豊かさも守ろう
1. 平和と公正をすべての人に
1. パートナーシップで目標を達成しよう

かつては持続可能な社会を目指すことと、投資でリターンを得ることは相反するというのが一般的な認識でした。しかし、最近は機関投資家をはじめ世界の投資家が「企業がSDGsの目標を取り入れ、SDGsにどう取り組んでいるか」を投資の重要なファクターと考えるようになりました。上場企業のホームページには多くの企業がSDGsへの取り組みを掲載しています。

SDGsに積極的な企業の取り組み事例

ではSDGsに積極的に取り組んでいる代表的な企業の事例を見てみましょう。

トヨタ自動車

国内でも有数の大企業トヨタ自動車は、AI技術によって人々がより快適に移動するためのモビリティサービスを提供する「モビリティカンパニー」への変革を打ち出しています。気候変動対応と新しいエネルギーの利活用のために電動自動車の開発を進め、車椅子でも簡単にバス等に乗れる移動サービスの高度化も目指しています。

環境対策では「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げ、2050年にゼロエミッション(二酸化炭素ゼロ)を目指し、資源の循環・利活用を進めています。テレビCMでも流れている実験都市「ウーブンシティ」も話題になっており、日本最大の企業にふさわしいスケールの大きな取り組みが期待されます。トヨタは業績の悪化リスクが小さく、長期保有に適しています。

【株価】9,973円(2021年8月11日終値、以下同)
【1年前株価】7,150円(2020年8月11日終値、以下同)
【1年間リターン】+39.5%

イオン

流通最大手のイオンは、業界のなかでもとくにSDGsに熱心な企業として知られています。2021年6月8日には電気とガスの両方で二酸化炭素実質ゼロの大型商業施設「イオンモール川口」をオープンして話題になりました。

イオンが1991年から取り組んでいる「植樹活動」もよく知られています。全国各地、世界各地で顧客とともに進めてきた植樹は2020年2月末現在で約1,212万本に達しています。また、毎月11日に店舗で実施している「イオン幸せの黄色いレシートキャンペーン」では、顧客がレジで受け取った黄色いレシートを指定のボックスに投函することで、レシート合計1%分と同じ額の品物を各団体に寄贈しています。

イオンはここで紹介している5社のなかでは、唯一株主優待を実施しています。100株以上の保有で「イオンオーナーズカード」が贈呈され、株数によって決められている比率でキャッシュバックを受けることができます。店舗が近隣にある投資家にとってはリターンが大きな銘柄といえます。

【株価】3,024円
【1年前株価】2,636.5円
【1年間リターン】+14.7%

花王

トイレタリー最大手の花王は、化学メーカーとしてエコにつながるモノづくりを実践しています。環境に配慮しながら管理されている材料を選び、工場から出るごみゼロを目指しています。また、パッケージの小型化を進め、商品配送時の二酸化炭素排出量を減らしています。さらに、容器の材料も捨てるときのごみを減らすために、詰め替え・付け替えできる商品を開発し、使用する消費者と協力しながらエコの輪を広げています。

花王は2020年12月期現在で31年連続増配の国内企業最高記録を更新中です。1回花王株式を購入すれば、あとは毎年配当が増え続けるので、インカムゲイン狙いの投資には最適の銘柄といえます。

【株価】6,725円
【1年前株価】7,897円
【1年間リターン】-14.8%

ファーストリテイリング

「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、子会社のジーユーと共同で「全商品リサイクル活動」を行っています。顧客が不要となった服を店舗で回収し、難民・避難民など服を必要としている人々に届ける人道的な活動です。また、着られない服は高カロリー固形燃料や自動車用防音材として再利用するなど、服の価値を最後まで活かす取り組みを実施しています。

環境対策では、商品を企画する段階で温室効果ガス排出量が少ない原材料を利用することで、温室効果ガス削減を目指しています。店舗運営では2014年から店舗の照明にLEDを導入。2020年8月時点で国内では763店(全店舗の93.8%)まで拡大しています。海外では中国のユニクロで屋上に860枚の太陽光発電パネルを設置するなど、再生可能エネルギーの活用にも積極的です。

【株価】7万5,600円
【1年前株価】5万9,630円
【1年間リターン】+26.8%

Amazon

米国5大IT企業GAFAMの一角Amazonでは、同社ブログ「dayone」(2021年5月11日付)によると全世界で206件の再生可能エネルギー・プロジェクトを行っています。206件の内訳は、71の実用規模の風力および太陽光プロジェクト、135基の世界各地の施設や店舗の屋上に設置されている太陽光発電システムです。全世界での電力生産は8.5ギガワットに達しています。

これによりAmazonは当初の目標であった2030年より5年早い2025年までに自社事業に必要な電力を100%再生可能エネルギーで賄うとしています。同ブログによるとAmazonは2021年4月19日に発表した新しいエネルギー・プロジェクトによって、欧州最大の再生可能エネルギー調達企業になっています。SDGsの分野でも世界のトップリーダーといってよいでしょう。ただし、Amazonは無配なので、配当収入を目的とした投資には向いていません。

【株価】3,320.68ドル(36万5,275円、2021年8月10日終値)※1ドル110円で計算
【1年前株価】3,148.16ドル(34万6,297円、2020年8月10日終値)
【1年間リターン】+5.5%

SDGs投資のリターンはどれくらい?

SDGsに積極的な企業に投資すると、どの程度のリターンが得られるのでしょうか。投資信託を運用するニッセイアセットマネジメントは、SDGs達成に関連した製品・サービスを提供する400銘柄の累積株価パフォーマンスを調査しています。それによると、2008年12月末~2020年12月末の世界株式のパフォーマンスが353%であったのに対し、SDGs関連銘柄は794%と2倍以上上昇しています。

個別ファンドのリターンはどうでしょうか。ニッセイアセットマネジメントが運用する「ニッセイSDGsグローバルセレクトファンド(資産成長型・為替ヘッジあり)」は1年間のリターンで+29.19%、3年間で+19.15%のパフォーマンスをあげています。十分な成果といってよいでしょう。

個別株のリターンは銘柄によってまちまちですが、事例にあげた5銘柄中4銘柄がプラスのパフォーマンスを記録しています。唯一マイナスの花王も連続増配株ですので、長期的に見ればいずれプラスに転じることが予想されます。

社会貢献とリターンを両立できるSDGs投資

ESG投資やSDGs投資が世界の潮流になっています。機関投資家だけでなく個人でもSDGsに積極的な企業を投資という形で支援することで、SDGsに貢献することが可能です。SDGsに積極的な企業の株価や業績が向上することで、追随する企業が増えれば持続可能な社会の実現に、より一歩近づくことができます。

社会貢献といえば、これまで寄付やボランティアなど見返りを得ない方法で行うのが一般的でした。SDGs投資はその常識を破り、社会貢献とリターンを両立できる投資としてこれからも株式投資の主要テーマとして注目されるでしょう。

※本記事はSDGsの概要と、取り組んでいる企業の事例を紹介するものであり、当該企業への投資を推奨するものではありません。