武井利明
住宅メーカーに約20年営業職で勤務。現在は住宅専門ライターとして住まいの選び方、土地の選び方、ローンを含めた資金計画、プラン、メーカー比較、リフォームなど、幅広いテーマで多数のメディアに執筆。人気動画サイトの住宅系動画脚本なども手がける。営業マン時代に培った知識と経験を生かし、これから家を建てる方の悩みや疑問、不安を解決する記事を得意としている。

賃貸物件の外観をきれいに修繕したいと思いながら、費用相場がわからず工事を後回しにしてしまう方も多いのではないでしょうか。特に外観の修繕は高額なこともあり、相場と比べてから判断したいと考えるのは当然です。

しかし外観の修繕は物件の見た目が良くなり、空室解消が期待できるため積極的に行うべき工事です。この記事では国土交通省が発行するガイドブックを参考に、外観修繕の費用相場を工事箇所ごとに解説します。今後の修繕計画を立てるためにぜひ役立ててください。

外観劣化を放置するリスク

投資物件の外観劣化を放置すると収益は安定しません。外観は入居を検討する人に大きな影響を与え、あまりにも汚れていると敬遠されるからです。

外壁は定期的に塗装や修繕をする必要がありますが、何もせずにいると汚れが広がります。さらにひび割れや剥がれも起きるようになり、築11?15年あたりから外観は一気に悪化します。また屋根や屋上も修繕しないままでいると、見た目が悪くなるだけでなく雨漏りの危険性も高まります。

当然こうした物件は、入居しようかと考えている人に選ばれにくくなります。またあまりにも外観が悪ければ、すでに入居している人が転居してしまうことも考えられます。外観を適切な時期に修繕することは、投資物件の収益を安定させるために非常に重要なのです。

外観の工事箇所と費用相場

外観修繕の費用相場は、国土交通省が発行する「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック 事例編」(以下、「ガイドブック」)で知ることができます。外観を維持するために大切な「屋根・屋上」「外壁」「鉄部・非鉄部塗装」の3つについて、それぞれの費用相場と修繕周期を解説します。

屋根・屋上

「ガイドブック」では、屋根・屋上の費用相場と修繕周期は次のように示されています。

* 建物条件 木造2階建て 戸数:6戸 延べ床面積:288平方メートル 住戸タイプ:2LDK
(以下同じ)

(単位:万円)
修繕周期
(目安)
1~10年目 11~15年目 16~20年目 21~25年目 26~30年目 31~35年目 36~40年目
10年 0 35 0 35 0 35 0

屋根や屋上の修繕は主に防水塗装になりますが、実際は既存材料の種類や新たに塗る塗料によって変わります。

既存の屋根がスレートのような耐久性が低い材料を使っていると、2回目の21~25年目の修繕で葺き替えが必要になる可能性があります。葺き替えでは200万円前後の費用がかかるため、予算をしっかり確保しておきましょう。

外壁

「ガイドブック」では、外壁の費用相場と修繕周期は次のように示されています。

(単位:万円)
修繕周期
(目安)
1~10年目 11~15年目 16~20年目 21~25年目 26~30年目 31~35年目 36~40年目
10年 0 173 0 207 0 207 0

外壁の主な修繕は、再塗装と各材料の継ぎ目を防水しているシーリングの修繕や打替です。塗装は見た目だけでなく、外壁材の保護膜の役割も担っています。このため再塗装をすることで美観だけでなく、外壁材の寿命を伸ばすことができます。

鉄部・非鉄部

鉄部・非鉄部とは外部廊下や屋上、階段にある手すりなどの部分です。「ガイドブック」では、費用相場と修繕周期が次のように示されています。

(単位:万円)
修繕周期
(目安)
1~10年目 11~15年目 16~20年目 21~25年目 26~30年目 31~35年目 36~40年目
10年 0 14 0 14 0 14 0

築年数が経つと鉄部はサビ、非鉄部である樹脂などはひび割れを起こします。手すりは外から見える部分も多く、修繕せずにいれば外観に悪影響を及ぼすため塗装による修繕を定期的に行うようにしましょう。

また劣化した手すりなどは折れたり外れたりして、使用者に大けがを負わせる恐れもあります。安全性の面からも鉄部・非鉄部は十分に修繕すべきです。

全体の修繕費用目安

屋根・屋上、外壁、鉄部・非鉄部に加え、工事で必要な足場仮設、さらに日常的な修理や消防点検などの日常修繕、そして経費と消費税を加えた全体の費用目安は以下のようになります。

<外観修繕工事全体の目安>

(単位:万円)
修繕箇所 修繕周期(目安) 1~10年目 11~15年目 16~20年目 21~25年目 26~30年目 31~35年目 36~40年目
屋根・屋上 10年 0 35 0 35 0 35 0
外壁 10年 0 173 0 207 0 207 0
鉄部・非鉄部 10年 0 14 0 14 0 14 0
足場仮設 0 92 0 92 0 92 0
日常修繕 毎年 104 52 52 52 52 52 52
経費・消費税 0 56 0 56 0 56 0
合計 104 422 52 457 52 457 52

修繕費用を抑える方法

外観の修繕費は、建物規模や劣化の具合によって大きな費用になることがあります。そこでできるだけ出費を抑えるための2つの方法を紹介します。

まとめて工事をする

外観にかかわる工事は、できるだけまとめて行うと費用を抑えられます。例えば屋根や外壁の修繕工事では、安全と作業品質を確保するため足場を設置します。このため屋根と外壁の工事を同時に行えば、足場の費用が1回で済みます。

また鉄部・非鉄部の実際の修繕は塗装であり、屋根・屋上や外壁の修繕と同じ塗装業者に依頼します。このためこれらの工事をまとめて依頼すれば、諸経費を抑えられたり大きな金額になるため値引き交渉がしやすくなったりします。

さらにまとめて工事すれば、別々に依頼するよりも連絡や打ち合わせの時間が少なくて済むというメリットもあります。修繕工事はできるだけまとめて行ったほうが、費用などを抑えやすくなるのです。

適切な時期に修繕する

建物の修繕は、適切な時期に行うことで費用を抑えられます。劣化が進んでしまうと傷む範囲が広がり、修繕費用が増えてしまうからです。

例えば屋上の床は、表面の塗装の下に防水層が施工してあります。適切な時期に表面塗装を塗り直せば、下の防水層は傷まずに済みます。ところが修繕時期が遅れると、表面の塗装が剥がれ下の防水層までひび割れなどが発生し修繕費用が余計にかかります。

また外壁は表面の塗装が防水の役割をしていますが、10年を超えると徐々にその防水性が失われます。そのままにしておくと外壁材に雨水が染みこむようになり、ひび割れや剥がれが起きて修繕や張り直しの費用がかかる恐れがあります。これも適切な時期に外壁を塗装することで未然に防げます。

建物修繕は、後回しにするほど劣化が広がり余計に費用がかかります。ガイドブックなどの修繕時期は早めに感じるかもしれませんが、それは劣化の広がりが進む前の予防の時期だからです。適切な時期に修繕したほうが、長い目で見た出費を抑えられることを理解しておきましょう。

建物を維持する計画修繕のすすめ

建物は外観だけでなく、各部屋に設けられた水回りや電気関係の設備、給排水管なども修繕が必要です。これらも適切な時期に修繕をしなければ、入居者の住み心地が悪くなり物件から出て行かれてしまいます。

こうした建物全体の修繕を、長期的なスパンで予定しておくのが計画修繕です。冒頭で紹介した「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」の本編では、下のような計画修繕のタイミングと修繕箇所が紹介されています。

5~10年目 ベランダ・階段・廊下(塗装)
室内設備(修理)
排水管(高圧洗浄等)
11~15年目 屋根・外壁(塗装)
ベランダ・階段・廊下
(塗装・防水)
給湯器等(修理・交換)
排水管(高圧洗浄等)
16~20年目 ベランダ・階段・廊下(塗装)
室内設備(修理)
給排水管(高圧洗浄等・交換)
外構等(修繕)
21~25年目 屋根・外壁(塗装・葺替)
ベランダ・階段・廊下
(塗装・防水)
浴室設備等(修理・交換)
排水管(高圧洗浄)
26~30年目 ベランダ・階段・廊下(塗装)
室内設備(修理)
給排水管(高圧洗浄等・交換)
外構等(修繕)

これらの工事はまとまると大きな金額になりますが、前項でお伝えしているように一括して行えばトータルの金額を抑えやすくなります。ぜひ物件を管理している不動産会社と相談しながら、外観を含めた長期的な計画を立て、適切な時期に修繕するようにしましょう。

将来を見通して修繕を検討

建物外観の修繕は、空室を回避するために必要な工事です。費用相場を早めに知り、予算を確保して計画的に実行することをおすすめします。

ただし古い物件ほど修繕費用は高額になる傾向があります。このため残債や入居率によっては、物件の売却や買い換えを視野に入れても良いでしょう。あくまで投資であることを忘れずに、将来の出口戦略も考えながら修繕を検討するようにしてください。