田中タスク
エンジニアやWeb制作などIT系の職種を経験した後にFXと出会う。初心者として少額取引を実践しながらファンダメンタルやテクニカル分析を学び、自らの投資スタイルを確立。FXだけでなく日米のETFや現物株、商品などの投資に進出し、長期的な視野に立った資産運用のノウハウを伝える記事制作に取り組む。初心者向けの資産運用アドバイスにも注力、安心の老後を迎えるために必要なマネーリテラシー向上の必要性を発信中。

2020年の流行語年間大賞に「3密」が選ばれました。「3密」以外にも「アベノマスク」「アマビエ」「GOTOキャンペーン」など上位には新型コロナウイルスに関連する言葉が並びました。2020年はコロナウイルスに始まりコロナウイルスで終えた1年となった感があります。しかしいつまでもこの状況が続くわけではありません。

世界各国では、コロナ禍を克服した後の世界を想定した動きも始まっています。それを象徴するのがワクチン開発成功のニュースや接種開始の報道です。2020年11月9日に米製薬大手のファイザー社が開発したコロナワクチンの治験で「高い有用性が出た」と発表されたときには「ワクチン相場」とも呼べるような株価の高騰が起きました。

他にも米モデルナ社や英アストラゼネカ社からも相次いでワクチン開発進展が発表され、すでに市場は「コロナ後」を織り込み始めています。こうした時代の変化を受けて高所得者は何を考えどう行動するべきなのでしょうか。今回は、資産運用や投資の観点だけでなく資産防衛の観点からも「コロナ後」を展望していきます。

「コロナ後」を意識した相場が始まっている

コロナワクチン開発の進展に関連するニュースが報道された時期には、ちょうどアメリカの大統領選挙で民主党のバイデン氏が当選濃厚であるとの報道も流れました。「コロナ禍が収束に向かうのではないか」「アメリカの政治、経済における不確実性が薄らぐのではないか」との期待からアメリカの株価が高騰しました。それを受けて日本株も大きく上昇し、いわゆるリスクオン相場となりました。

この影響は、外国為替相場にも表れています。米ドルや日本円は、リスクオフ通貨としてリスクを嫌う投資マネーが流入していたため1米ドル103円半ば程度の局面が継続。しかしコロナワクチンなどのニュースを材料として様相が一変、1米ドル105円の円安へ進行する局面となりました。もう一つの顕著な動きとして注目したいのが安全資産の代表格である金(ゴールド)の価格下落です。

コロナ禍によるリスク要素の拡大で金への資金流入が活発になり、2020年8月に史上最高値をつける高騰を見せました。しかしコロナワクチン関連の報道を受けてからは下落。その後も下落基調が続いているのは、安全資産からリスク資産へのシフトが起きていると考えられます。安全資産からリスク資産へのマネーシフトが起きつつあることは明白です。

そのため今後も「コロナワクチンの効果が確認された」というニュースが続くとこの傾向は続くのではないでしょうか。

「コロナ収束」で考えられる金融市場への影響

次に「コロナ後」が現実になった場合に考えられる金融市場への影響を考察してみましょう。4つのポイントを整理しました。

1.株価の高止まり

アメリカをはじめ世界全体での株価高止まりが濃厚です。株は、リスク資産の代表格のため、リスクオンの相場が続けば続くほど株高も続きます。すでにニューヨークダウ平均やS&P500といったアメリカの主要な株価指数が史上最高値をつけておりコロナ禍の収束を待たずして強気相場の定着をしていくことが予測できるでしょう。

2.外国為替相場では米ドルの上値が重く、他の通貨に上昇圧力

リスクオン相場になると円高ドル安の傾向になりやすいため、アメリカが経済対策として大規模な金融緩和を続けているうちは米ドルの上値は重くなることが予想されます。しかし円高ドル安方向に進むにも材料が乏しいのが現状です。もしバイデン政権が発足後に採用する経済政策によっては金利上昇も予測されるため、現実になると円安ドル高を誘発しかねません。

強弱が入り混じっているため、どちらにも行きづらい展開が予想されます。外国為替については、他の先進国通貨(英ポンド、カナダドル、豪ドル、NZドルなど)が上昇しやすい地合いにあるため、円高ドル安が進行するとシーソーのようにこれらの通貨が上昇するかもしれません。

3.安全資産の低迷

すでに解説したようにリスクオン相場になると安全資産の金や債券などの価格が下落します。なぜなら安全資産は資産の防衛に役立つものであり資産を増やすことには不向きだからです。さらに株価上昇など相場が強気になるとこれらの安全資産はもう一段の下落もあり得ます。

4.不動産の復調

コロナショックと呼ばれる経済へのダメージは、不動産市場にも大きな影響を及ぼしました。住宅や物流施設が堅調であったのに対して商業施設や観光関連などが打撃を受け不動産市場の中でも明暗が分かれました。不動産投資信託であるJ-REITの値動きにもその傾向が見られます。しかしこの傾向が永久に続くわけではありません。

観光や外食などの産業も「コロナ後」が現実になっていくにつれて復調することが期待できるでしょう。こうした業種の復調に伴って「不動産の復調が見られるのではないか」という意見も出てきています。

高所得者が取るべき「これからの行動」

「コロナ後」に考えられる経済や金融市場の動きを踏まえて、高所得者やすでに多くの資産を運用している人はどのような行動を取っていったほうがよいのでしょうか。コロナ禍の前と完全に同じ状態に戻ることは考えにくいため、そうではない前提で「コロナ後」にふさわしい行動を考察してみました。例えばリスク資産と呼ばれるハイリスクハイリターンな商品への関心が今後も高くなることが考えられます。

そのためどうしてもハイリスクハイリターン資産への投資を検討したくなる人もいるのではないでしょうか。なかにはファイザー社のコロナワクチン報道を受けた株高に触発されて株式市場に資金を投じた人もいるかもしれません。しかしそこに集中して投資をするのは危険です。これはコロナ禍に限ったことではなく、集中投資はリスクが高いため資産防衛の観点からも推奨されていません。

「コロナショック」で起きたことをしっかりと踏まえ相場がそこまで暴落することがある事実を認識することが必要です。そのうえで今後同様のクラッシュがあっても全財産を失ってしまうことがないようにポートフォリオを組み立てる必要があります。以下のような資産運用方針で最適な比率を維持するのが理想的なポートフォリオです。

* 長期的な資産防衛は安全資産を中心に運用する
* 短期的な利益の追求にはリスク資産を組み込む

自分の余剰資金規模やリスク許容度を検討したうえで比率を決めましょう。まだ年齢が若く今後も多くの収入が見込める人の場合は、リスク資産での運用比率を高めて「攻撃型シフト」を組むことも戦略の一つです。逆に高齢者やリタイアが近い人の場合は、リスク資産の運用比率を減らして守り重視のポートフォリオが無難でしょう。

いずれにしても重要なのは、特定の金融商品に集中投資をしてその商品と「心中」するのではなく幅広い金融資産に分散をしてリスク軽減を図ることです。また金融商品の種類を分散するだけでなく投資をするタイミングを分散するのも有効でしょう。手持ちの資金をすべて一度に投資してしまうのではなく、あえて時期をずらして定期的に買い増しすることにより価格変動リスクを平均化することができます。

この手法は、ドル・コスト平均法といって時間軸によるリスク分散を可能にする有効な方法論です。毎週、毎月といったようにある程度の時間を空けて定期的に買い増しをしていくと、長期間になるほど価格の平均化が進むため、資産の運用だけでなく防衛も両立することが期待できます。

「預貯金は最も安全」に潜むリスク

預貯金だけで資産を保有することは、最も安全だと思いがちです。実は日本円という単一の資産に集中投資している状態と変わりません。この場合「円の相対的な価値が下がった」「インフレになった」といったときに資産を目減りさせてしまうため、「何もしない」という行動にも実はリスクがあることは押さえておきましょう。