新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFPR、一級FP技能士(資産運用)、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン住宅購入のアドバイス)の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

不動産投資を行う際には、物件選びが非常に大切となるため「物件選びが投資結果を左右する」といっても過言ではありません。投資初心者であればあるほど物件選びについては業者に任せてしまうことが多い傾向です。しかし業者へ任せっぱなしにするのではなく、あくまでも助言をもらう程度に留め「最終的な判断は自分で行うこと」が大切になります。

今回は、投資物件を選ぶ際に使用する書類の種類とチェックポイントについて解説します。

物件概要書の見方

 

物件概要書とは、対象不動産についての重要な情報が記載されたものです。具体的には以下のような内容が記載されています。

* 物件価格
* 築年数
* 構造の種類
* 土地面積
* 建物面積
* 設備状況など

物件概要書に記載されている項目の中で見逃してはならないのは「利回り」です。しかし物件概要書に記載されている利回りの多くは、満室を想定した表面利回りの可能性が高いため注意しましょう。物件概要書を確認することは、不動産投資における物件を選ぶうえでの最低条件ですが、記載されていることすべてを鵜呑みにするのは危険です。

また物件選択の際には複数の物件概要書に目を通す必要もあります。時間を有効活用するためにもチェックポイントは事前に絞っておくことが大切です。最初に確認したい主なチェックポイントは、構造と築年数です。例えば木造であったり築年数が35年を超えていたりするような場合、金融機関の融資対象外となる可能性もあります。

また利回りの確認も重要です。利回りが10%未満の物件は収益性が低いとみなして投資対象外とすることをおすすめします。

レントロールとは?

「レントロール」とは、マンションやアパートを一棟買いする際に対象物件の賃貸借条件が一覧できる書類のことです。各戸に「どんな人が」「いくらの家賃で入居しているか」などが記載されています。レントロールを見る際は、特に以下の4つついてチェックすることが大切です。

1.日付

対象物件のレントロールは、必ず最新情報を参照することが大切です。そのためレントロールが作成された日付を確認し「古い情報のものでないか」を確認しましょう。売れ残ったままの物件であればレントロールについても更新されていないケースもあります。日付を確認しないと最悪1年以上前ということもあり得るため、確認が必要です。

2.入居偽装

レントロールは、基本的に売主から提供される資料や情報を基に不動産業者が作成します。しかし売主の中には稼働率を上げる目的で入居偽装工作をすることも少なくありません。なぜなら稼働率が高い物件ほど「買主の目に留まりやすい」「金融機関からの融資がつきやすい」など結果的に売却しやすい物件となるからです。

ただし入居偽装工作については、以下の点に注意することで見抜くことができます。まず賃貸借契約書を入手し契約締結日を確認しましょう。もし契約日が直近の場合は要注意です。また管理会社経由でなくオーナーとの直接契約になっていないかのチェックもあわせて行います。最後にオーナーと同姓の入居者がいないかをチェックしましょう。

同姓の入居者や同法人が多い場合は、親族などを入居させた入居偽装の可能性があります。

3.現家賃

中古物件の場合、各戸の家賃にばらつきがあることは否めません。以前から長く住んでいる人と直近で入居した人との家賃や空き室における募集家賃が大きく異なることもあり得ます。一般的に以前から長く住んでいる長期入居者のほうが割高な家賃で入居しているケースが多い傾向です。しかし割高な家賃の場合は、現在募集している家賃の水準に引き直して収支計算を行うことが大切になります。

長期入居者が退去した場合は、リフォーム費用も通常よりもかかりがちです。また新規で募集する家賃を下げる必要も出てきます。そのため現家賃と長期入居者の家賃については、必ず確認しておくようにしましょう。

4.募集家賃

上述したように「空室の募集家賃が適正か」といったチェックも大切です。なぜなら売主は物件を少しでも高く売りたいために空室の募集家賃を相場よりも高く設定していることがあるからです。万が一割高な家賃設定となっている場合は「購入したとしても入居者が見つからない」という状況になる可能性もあります。

そのため現家賃と同様に空室の募集家賃についても現在の水準に引き直してから収支計算を行うことが重要です。

違法物件の見分け方

物件概要書やレントロールを閲覧している際に条件の別のいい物件を目にすることもあります。ただし条件のいい物件であればあるほど「それが違法ではないか」というチェックが必要です。そもそも違法物件の物件概要書やレントロールなどの書類をチェックするのは時間の無駄となります。そのため早い段階で違法物件かどうかを見極めることが大切です。

例えば容積率がオーバーしている物件や建築時には違法ではなかったもののその後の法令改正などによって現在の基準に合わなくなった「既存不適格建築物」などには注意しましょう。もちろん指定容積率や建ぺい率をオーバーしているなどの違法物件は絶対に購入してはいけません。違法物件は、金融機関からの融資を受けられない可能性が高いです。

仮にノンバンクなどの金融機関で融資を受けることができても今度は売却が難しくなる可能性が高く将来的に不利益を被るリスクが高くなります。既存不適格建築物は、本来「この物件は建ぺい率もしくは容積率を超えています」と物件概要書に記載されているはずです。しかしよくある契約条項のように備考欄に小さく記載されていることも少なくありません。

また記載がない場合もあるため、その際には数字を基に推測するようにしましょう。例えば指定容積率が200%のエリアなのに「延べ床面積1,000平方メートル、敷地面積400平方メートル」と記載されていた場合、対象物件は容積率オーバーとなり違法建築物と判断できます。具体的な計算方法は以下の通りです。

容積率:延べ床面積1,000平方メートル÷敷地面積400平方メートル=250%>200%

違法物件を見極めるためには、このような知識を持ち合わせておくことも最低限必要と自覚しておきましょう。

物件の良し悪しはこう見分ける!

 

物件選びの最重要ポイントは、以下の2つです。

* その物件が満室経営できるものかどうか
* 金融機関から融資を受けることができ物件かどうか

満室経営については、物件要素だけでなく家賃を下げたりリフォームで設備を充実させたりすることで稼働率を上げることが可能です。しかし「そもそも賃貸の需要がない」「物件そのものに問題があり入居者が得られない」というケースもあります。購入してから後悔しないように「物件が満室経営できるか」について事前に物件所在地の不動産業者にヒアリングを行うことが重要です。

思いつきや主観的な発想ではなく必ず客観的な視点で判断するようにしましょう。また条件が良くても金融機関からの融資を受けることができない物件では意味がありません。不動産投資の初心者の場合、どうしても物件情報だけに目がいきがちですが「対象物件が金融機関から融資を受けられるのか」は必ず確認するようにしてください。

物件概要書やレントロールに記載されている項目がすべて正確なものであるとは限りません。特に支出項目については、重点的にチェックすることが必要です。記載内容に納得できなければ実際に物件を管理している管理会社に確認してみましょう。投資物件を選ぶ際には、これらのチェックポイントを自身できちんと把握しておき書類を確認する際に見落としがないようにしておくことが大切です。

そのうえで金融機関の融資を受け物件概要書の内容通り満室経営での利回りを得られる方法を考えて行動しましょう。これらを丁寧に行うことが不動産投資を成功へと導く近道になるといえます。