菊原浩司
一種証券外務員資格保有、管理業務主任者
お金の不安のない生活をおくるにはマネープランを作ることが有効です。マイホームの取得や養育費の準備、老後資金の確保といった大きなお金の問題に対処するには、資産運用の導入や各種保険を利用したリスクへの備えが必要となっています。日常生活では知る機会の少ないこれらの知識・情報について、分かりやすく解説していきます。

賃貸経営において、どんなに人気の立地でも満室経営を続けることは難しく、空室の発生は避けては通れません。

安定した賃料収入を得るため、空室リスクに備える方法として「サブリース契約」を利用することも一つの手ですが、契約に関する知識格差などから問題に至るケースも散見されます。

本記事では、サブリース契約についての概要と取り巻く状況について解説していきます。

サブリース契約の仕組みは?

サブリース契約は転貸借契約とも呼ばれ、通常の賃貸契約がオーナーと入居者として契約を結ぶ賃借人の2者間の契約となるのに対し、サブリース契約はオーナーと契約を結ぶ賃借人と、実際に居住を行う入居者(転借人)の3者間での契約になります。

サブリース契約では、賃借人の地位を不動産管理会社などが占め、賃料の直接の支払義務を負いますが、この際の賃料は相場の80~90%程度に抑えられます。

割安の賃料で物件を借り上げた賃借人は、自身の裁量によって相場価格で入居を行う転借人を探すこととなるため、サブリース契約は賃借人が賃貸経営を代わりに行う仕組みとなります。

賃借人と転借人の義務について

契約上賃貸住宅を借りている賃借人と、賃借人からの又貸しによって物件を使用している転借人には権利・義務においていくつかの違いがあります。

賃貸契約における入居者の義務として、まず物件の原状回復義務がありますが、サブリース契約では原状回復の義務は直接賃貸契約を結んでいる賃借人と、又貸しによって物件を使用している転借人の双方が負うことになります。

また、賃料の支払い義務においても相違点があります。

転貸借契約では入居者である転借人が賃料をオーナーと賃貸借契約を結んでいる賃借人に支払い、その後に賃借人からオーナーへと賃料が支払われます。

オーナーに対する賃料の支払いが滞った場合、オーナーは転借人と賃借人双方に直接賃料の請求を行うことができますが、賃料の額に関しては、転借料と賃借料のどちらか低いほうの金額までしか請求を行うことができません。

この際、転借人は賃借人に対し賃料を支払っていた場合でも、オーナーへの賃料支払いの義務を負うことになるため、いったん賃料を2重に支払ったうえで賃借人に対し賃料の返還請求を行うこととなります。

サブリース契約におけるオーナーのメリットは?

サブリース契約は、空室の発生による賃料収入の低下を抑制することができ、キャッシュフローの安定化に繋がります。

そのため、アパートローンなどの融資を利用し賃貸経営を行っている場合は、返済計画などの定期的な経費への備えを行いやすく、賃貸経営に関わる多くの業務を賃借人に移転することができるため、簡単に賃貸経営が行えるメリットがあります。

また、相続税対策としてもサブリース契約は有効に働きます。

不動産投資物件の相続発生時の評価額は、固定資産税評価額に「賃貸割合」を加味して算出しますが、この際、物件を賃貸に供している場合などは、入居者との賃貸借契約によって相続したオーナーはその土地や建物の利用に制限がかかるため、相続税評価額が減少することになります。

しかし、相続発生時に賃貸に供していない場合、こうした制限は生じないため、賃貸割合が減少してしまう恐れがありますので、相続税対策のためにサブリース契約を利用し、一括借上げにより空室の発生を避けられるといったメリットがあります。

サブリース契約のトラブルについて

しかし、サブリース契約では賃借人である不動産管理会社などは借地借家法の規定によって立場が強く保護されており、これがもとでオーナーとの知識差によって問題に至る場合があります。

たとえば、サブリース契約では仮に契約書に賃料を減額しない旨の記述があったとしても、借地借家法の強行規定により賃借人はオーナーに対して賃料の減額を請求することが可能です。

また、賃貸契約の解除についてもオーナー側からの申し入れの場合は正当事由が必要ですが、賃借人からは無条件で申し入れが可能となっているため、一定期間契約を解除しない旨の表示があっても契約が解除されることがあります。

このことから、一括借上げにより一定期間家賃保証が続くというサブリース事業者の広告を信じ、不動産投資物件を多額の融資を利用して建設・購入したものの、賃借人からの賃料減額請求や、受け入れない場合は契約解除などの要求が行われ、最終的は賃料の不払いを経て賃借人である不動産会社が破産したことによってオーナーは賃料収入のほとんどを喪失してしまうという問題も生じてしまいました。

サブリース事業適正化への法整備について

サブリース契約におけるこうしたトラブルの発生を受けて、2020年6月より「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(サブリース新法)」が交付されました。

この法律により、不動産管理会社や建築会社などのサブリース事業者との契約を行う際は、重要事項説明などに一定の規制が導入され、賃料の減額や契約が解除される可能性のある旨の説明や、収益性や修繕・管理費用の負担などが優良であると誤認させるなどの誇大・虚偽広告の禁止がされることになります。

また管理戸数が200戸以上の法人は賃貸住宅管理業への登録が義務付けられ、今後は悪徳業者の淘汰が進むことと予想されます。

今後は選択肢のひとつとして、賃料条件や原状回復費・修繕費の負担割合、敷金・礼金の配分などの諸条件を比較・検討のうえサブリース契約を利用してみてはいかがでしょう。

サブリース新法によって賃貸経営の健全化に期待

近年は単身者の増加などにより、現役世代の持ち家比率が徐々に低下していることや外国人の増加によって賃貸住宅の需要が増してきています。

それを受けてサラリーマンや地主による相続税対策など、不動産投資の知識・経験が少ない方が、賃貸住宅のオーナーとして賃貸経営に携わるケースが生じていました。

本来サブリース契約には、相続税の節税や賃貸経営に関わるオーナーの労働負担の軽減や、所有戸数が少なくなると相対的に賃貸経営に与える影響が大きくなる空室リスクを抑えるといったメリットがあります。

しかし賃借人となるサブリース事業者には、契約に際してガイドラインが存在していません。一部の悪徳業者はオーナーとの賃料の減額や契約解除についての借地借家法に基づく知識差や、絶対に損をしないなどの虚偽・誇大広告による優良誤認などを利用し、多額の融資を含む契約が行われていました。

そうした契約を結ぶと、賃料の減額や契約解除などに直面し、当初想定していた賃料収入が得られずに賃貸経営に行き詰まる問題が表面化していきました。

こうした問題を受けて、オーナーに対し書面をもって賃料や契約期間に関する重要事項説明を行うことや、誇大・虚偽広告の禁止に加え、一定以上の管理戸数を持つサブリース事業者の登録義務を盛り込んだサブリース新法が2020年6月に公布されました。

今まで大きな規制が行われていなかったサブリース事業ですが、本法律の公布・施行により悪徳業者が淘汰されることで投資環境が整備され、賃貸住宅市場の健全な育成・拡大が期待できるため、今後注目の投資先のひとつといえるでしょう。