武岡太朗
T.S.MarketingLAB
不動産ポータルサイト運営企業でマーケティングを担当していた経験を活かし、不動産市況・業界動向・エンドユーザーのトレンドについて、各種メディアでライターとして情報発信を行うほか、不動産会社のコンサル・業務課題ソリューションなども手掛ける。

2020年6月に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(サブリース新法)が交付され、同年12月に同法が施行されました。サブリースとは、不動産会社などがオーナーから不動産物件を借り上げオーナーへの一定の家賃収入を保証する仕組みです。空室でも家賃収入が保証されることに加えて建物や入居者などに関する煩雑な賃貸管理業務を委託できるため、賃貸オーナーに広く利用されています。

一方でサブリースに対する法律の規制が十分ではない部分もあり、オーナー(消費者)に不利な契約を結ばされることで不利益を被るケースが散見され「かぼちゃの馬車」のように社会問題化することもありました。この記事では、そういった背景を受けて制定されたサブリース新法について不動産オーナーが押さえておくべきポイント、特に新法制定の背景や変更点について解説します。

サブリースとは?

サブリース業を営む不動産会社などがオーナー所有の不動産を借り上げ、その物件を入居希望者に転貸することで得た賃料収入をオーナーとシェアするスキームがサブリースです。サブリース契約をした物件の賃料収入は、仮に全室が空室になった場合でも保証されるため、オーナーからすると空室による収入減のリスクを軽減することができます。

またサブリース業者に賃貸管理を委託するため、入居者対応や建物管理、家賃の徴収などの煩雑な業務をオーナー自らが行わずに済む点もメリットです。

サブリース契約におけるリスク

サブリース契約にはメリットがある一方でオーナーが不利になる条項が契約の中に盛り込まれてしまうことで不利益を被るリスクがあることが長年問題視されていました。そのことが顕在化したのが2018年にマスコミで大々的に取り上げられた「かぼちゃの馬車」問題です。「かぼちゃの馬車」とは、株式会社スマートデイズが運営していた女性専用シェアハウスのこと。

同社は、頭金不要・高利回りといった訴求でオーナー・物件数を増加させていました。しかし実際は、高利回りの前提となる入居者の集客が計画通りに進まずシェアハウスの経営が行き詰まった結果、株式会社スマートデイズは経営破綻。投資家が多額の負債を負うこととなったのです。以前から告知義務を果たさない悪質なサブリース業者によってオーナーが想定外の不利益を被るケースはありました。

そのため「かぼちゃの馬車」事件をきっかけに法律によるオーナー(消費者)保護を求める声がさらに高まることとなったわけです。

法整備によるサブリース業者への規制強化

2020年6月に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が制定され同年12月には「サブリース業者とオーナーとの間の賃貸借契約の適正化に関する措置」(サブリース新法)が施行されました。ここでは、サブリース新法によって何が変わるのかについて以下のポイントについて解説していきます。

① 規制対象の明記
② 誇大広告の禁止
③ 不当な勧誘の禁止
④ 重要事項説明の義務化

①規制対象の明記

同法の施行にあわせて国交省が策定した「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」では、同法によって規制を受ける対象を具体的に明示しました。同ガイドラインでは「サブリース業者がマスターリース契約の提携について勧誘を行わせる者」を勧誘者と規定し規制の対象としています。この場合の勧誘者とは、サブリース業者自身だけではありません。

勧誘することを委託された個人なども該当する場合がありその個人が法令に反した場合は依頼者も罰則の対象となる可能性があります。

②誇大広告の禁止

「高利回り」をうたう「誇大広告」や内容を偽った「虚偽広告」は禁止となりました。オーナー(消費者)に誤認させる可能性がある文言については、その文言に隣接する箇所に注意書きを表記するなどの対応を求めています。例えばオーナーに支払われる家賃額とその条件、物件管理の内容・費用分担、事業者側が契約を解除できる場合の条件などには注意が必要です。

誇大広告になる可能性が特に高いため、検討する際は注意書きまで含めてしっかりと確認するようにしましょう。

③不当な勧誘の禁止

不当な勧誘とは、サブリース契約の勧誘にあたってオーナーに対して「事実と異なることを伝える」「重要事項に関する説明を行わない」といったことを指します。例えば契約期間中に家賃が減額になるリスク、サブリース業者側からの契約解除が可能なケースなどについての説明を行わなかったり事実と違う内容を伝えたりするといったケースが該当します。

サブリース業者が自分たちに都合の良いことだけを伝えて契約させようとすることを防ぐことが目的です。

④重要事項説明の義務化

サブリース業者に対して、契約締結前にオーナーに対して書面を交付し、契約に関する重要事項を説明することを義務付けました。重要事項として説明が求められる主な項目は以下の通りです。

・オーナーに支払われる家賃収入に関する事項

サブリース業者がオーナーに対して支払う毎月の家賃収入に関すること(支払日・支払額等)

・契約に関する事項

契約開始・終了の期日、契約の更新や解除の方法や条件に関すること

・賃貸管理に関する事項

サブリース業者が行う物件管理の内容に関すること

オーナーが賃貸住宅を経営する目的・意向をサブリース業者が確認・把握し、その内容に沿ってリスク・注意点などを説明することが求められています。オーナーが契約内容を十分に理解したうえで意思決定をできるように配慮した内容といえるでしょう。

戦略的にサブリースに関する情報を収集すべき

サブリース新法についてのポイントを以下にまとめます。

■ 2020年6月に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が制定され、サブリースに関連する措置(サブリース業者とオーナーとの間の賃貸借契約の適正化に関する措置)が2020年12月15日に先行して施行された
■ サブリース新法は、悪質なサブリース業者がオーナーとの情報・経験・専門知識の差を利用し内容を誤認させて契約を締結させることを防ぐことを目的に制定・施行された
■ サブリース新法では新たに同法の規制・罰則の対象になる「勧誘者」が定義されたほか「誇大広告・不当な勧誘の禁止」「重要事項説明の義務化」などが盛り込まれた

サブリースに関する法整備が進んだことで悪質なサブリース業者によってオーナーが不利益を被る可能性が減少するでしょう。今後サブリースを検討される場合は、サブリース新法の内容の理解・把握を深めることで業者の対応や契約内容が新法に沿ったものであるかをチェックしトラブルを未然に回避するようにしましょう。

一方でサブリース業者が法律に則って対応したとしてもオーナーが不動産や賃貸経営に関する十分な知識を持っていなければリスクやデメリットを正確に理解することは難しいことに変わりはありません。オーナー自身が主体的・戦略的に賃貸経営を考え不動産会社からの幅広い情報収集や第三者からの意見なども聞きながら適切な判断を行っていくことが引き続き求められます。