武井利明
住宅メーカーに約20年営業職で勤務。現在は住宅専門ライターとして住まいの選び方、土地の選び方、ローンを含めた資金計画、プラン、メーカー比較、リフォームなど、幅広いテーマで多数のメディアに執筆。人気動画サイトの住宅系動画脚本なども手がける。営業マン時代に培った知識と経験を生かし、これから家を建てる方の悩みや疑問、不安を解決する記事を得意としている。

最近、投資の話題で「ESG投資」という言葉をよく目にします。しかし「実はまだ意味がよく分かっていない」という人もいるのではないでしょうか。ESG投資は、世界の流れや時代の要請を映し出しています。そこで本記事では、ESG投資が注目される理由や実際に私たちが行える投資方法などについて紹介します。

ESGとは企業姿勢を表す

ESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字をとった言葉です。2006年に国連がPRI(責任投資原則)の中で、財務情報以外に投資先を決める要素としてESGを重視するように提唱したことから広まりました。これはESGの3つの分野に力を注ぐ企業へ積極的に投資しようとの呼びかけです。

具体的には、環境問題や人権問題、ダイバーシティへの対応、企業のリスク管理などに熱心な企業への投資を指します。その後世界の機関投資家がPRIに署名し長期的な収益を生み出す投資先の評価基準としてESGを扱うようになりました。2015年には、世界最大級の投資機関として知られる日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もPRIに署名したことで国内でもESGが注目されることになったのです。

長期安定が期待できるESG投資

ESGへの取り組みは、これから世界が向かおうとしている社会や企業のあり方です。そうした企業は、今後も成長を続け安定して生き残れると考えられています。このようなESGに積極的な企業への投資がESG投資です。地球温暖化を抑えるために二酸化炭素の排出を減らし化石燃料を使わない社会への転換は、世界的な課題の一つとなっています。

また性別や国籍、年齢などにとらわれない平等な社会の実現は、今後ますます進んでいくでしょう。さらに透明性のある経営で不正や腐敗を防ぎ、さまざまなリスク対策をとっている企業が重視される時代です。こうした世界の流れに沿うことは、企業として長く安定して利益を生み出し続けることが期待でき、ESG投資の狙いもまさにそこにあります。

ESG投資の背景にあるSDGs

2015年に国連サミットで採択され加盟193ヵ国が2030年までに達成すると掲げたのがSDGs(持続可能な開発目標)です。貧困や飢餓の解消、教育の普及など17の目標があり、各国が目標達成に取り組んでいます。日本でも政府主導でさまざまな支援や活動が行われ、例えばSDGsに取り組む団体や企業を表彰する「ジャパンSDGsアワード」が毎年行われています。

SDGsには、環境保護や平等な社会の実現などESGとリンクする目標もあり、ESGに取り組むことへの世界的な後押しにもなっているのです。実際に欧米ではESGに取り組む企業は、社会的評価も高くより多くの投資を集めやすくなっています。

日本のESG投資額は急増

日本では、まだESGに対する認知度が低く企業の環境や平等などへの取り組みはイメージアップの一環と見えるかもしれません。しかし現実には、世界的なESG投資の流れを受け国内のESG投資額は急速に増えています。2020年9月10日の日本経済新聞の記事で小泉進次郎環境大臣は以下のように発言しました

「日本のESG投資は2016年以降の3年間で約6倍、約280兆円増えた。驚くべき数字だ」

出典:日本経済新聞

政府としてもその急増ぶりを注視していることがうかがえます。今後もこのESG投資増加の流れは続くと予想され、すでに日本の投資トレンドの一つになったといえるでしょう。

GPIFがESG投資に積極的な理由

日本の公的年金を管理運用しているGPIFは、2020年12月時点で運用額が約179兆円を超える世界最大級の年金基金です。GPIFは、ESG投資を積極的に行うことを表明し実際に多額の積立金をESG投資に投じています。なぜなら「絶対的に元本を減らせずリスクの高い投資は行えない」という年金運用の持つ性質があるからです。

そのため短期的に大きな利益を得るより、たとえ少なくても将来安全に利益が確保できることを重視しています。GPIFが考えるESG投資の持続性と安定性は、投資に年金的な役割を期待する人にとっておおいに注目すべき特徴です。

なぜ企業はESG活動に積極的なのか

企業がESG活動に積極的なのは「企業の存続につながる」という理由もあります。同時に海外の多くの投資機関がESG投資に積極的なことから「資金を呼び込みたい」という思惑もあるでしょう。もちろんESGへの取り組みを公表することでSDGsへの貢献も含めクリーンな企業イメージをアピールする狙いもあります。

海外企業において脱炭素など環境保護の取り組みは必須です。特に海外市場をターゲットとする日本企業にとってESGは、必要な備えとなっています。

ESG投資のデメリット

ここまでESG投資の長期的安定性というメリットを紹介してきましたが、一方で理解しておきたいデメリットもあります。

すぐに利益が発生しない

ESG投資は、将来の成長性と企業存続の安定性を期待しての投資のため、短期間で価値が上昇し利益を得えられるかは評価していません。もちろんESGに取り組んでいる企業の開発した商品やサービスが急速に普及し価値が一気に上昇することはあるかもしれません。しかしあくまで結果として将来に利益が積み上がることを評価するもののため、すぐに利益が発生する投資にはなっていないのです。

ESGの評価がしにくい

財務評価などは、数字で表れるため第三者が見ても客観的に評価しやすくなっています。しかしESGは活動を伝えることはできても企業の安定や成長に効果があったかを客観的に判断するのが難しいものです。現状では、企業を個別に分析してESGへの取り組みを評価するよりも、金融情報サービスなどで提供される指数をもとにした投資が現実的です。

ESG投資指数の一例

ESG投資指数の一例としては、金融情報サービス会社のMSCI(モルガンスタンレーキャピタルインターナショナル)が提供する指数があり、その中には日本企業を評価するMSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数もあります。2020年6月時点では以下のような企業がAAAの最も高い格付けを受けています。

国際石油開発帝石<1605>
住友化学<4005>
イビデン<4062>
積水化学工業<4204>
ダスキン<4665>
オムロン<6645>
ソニー<6758>

ESG投資は投資信託でもできる

前述のような指数をもとに個別企業へESG投資をすることもできますが、株式投資に不慣れなら投資信託を選ぶことも方法の一つです。投資信託ならESGへの取り組みによる銘柄選定やその後の運用をプロのファンドマネージャーが行ってくれます。また複数の銘柄を組み合わせて投資するためリスク分散にもつながるでしょう。

ESG関連の投資信託は、徐々に増え2020年12月30日の日本経済新聞の記事では「ESG関連投資信託の新規設定数が過去最多になった」と報じています。同年7月には資産運用会社のアセットマネジメントoneが設定した投資信託が歴代2位の3,830億円もの当初設定額を集めたことも伝えており、今後さらにESG関連の投資信託が増えると予想されます。

ESG投資は世界と時代を反映

ESG投資は日本でまだなじみが薄いかもしれません。しかしESGやSDGsへの取り組みは世界的な流れとなっているため、長期的な資産運用を考えるなら十分に検討する価値がありそうです。またコロナウイルス感染拡大によって企業のリスク管理能力や事業継続の備えが大切なことが分かってきました。ESGは、環境や平等など「E」「S」にスポットが当たってきましたが、今後は「G」企業統治もクローズアップされるでしょう。

世界と時代の流れを映し出すESG投資に注目することは、今後の資産運用において大切な視点といえそうです。