2021年7月は、値上げの夏といわれています。この時期はさまざまな物の値段が上がることが決まっています。例えば家庭用小麦粉メーカーの日清フーズは、7月1日納入分より最大4%の値上げを行うと発表。マヨネーズで有名なキユーピーは、7月1日出荷分から2~10%の値上げです。このような物価の上昇は、これからも続くのでしょうか。

これからの資産運用の必要性

物価の上昇は、冒頭で紹介した2社だけではありません。他にも以下のような企業が値上げに舵を切っています。

日清オイリオグループ
2021年8月1日納入分より家庭用食用油の価格を50円(1キログラムあたり)引き上げると発表しました。

大手電力7社
原油や発電用の燃料である石炭などの価格が値上がりしたため、2021年8月分の電気料金から値上げを行う予定です。

このような物価の上昇は、一時的であれば問題ありません。しかし上昇が継続していくいわゆるインフレ状態になってくるとお金の価値は目減りすることになります。そのため資産形成では、単に現金や預金を積み上げるのではなく投資を活用してお金に働いてもらうことが必要なのです。

これから注目される投資方法とは?

投資における運用先は、多岐にわたります。そのなかでも世界で注目されているのがESG投資です。日本でも新聞やテレビ、インターネットのニュースなどでESG投資が取り上げられる機会が増えたことから名前を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。

ESG投資とは?

ESG投資とは、投資を行う際、以下の3つの非財務情報における投資価値を測る評価項目として考慮する投資手法のことです。

・ Environment(環境)
・ Social(社会)
・ Governance(企業統治)

従来から用いられている投資尺度となる財務情報に加えて、ESG要素を企業の選定材料とすることが特徴でESG投資は、SRI投資(社会的責任投資、 Socially Responsible Investment )とあわせてサステナブル投資(持続可能な投資、SI:Sustainable Investment)のひとつです。ESGの要素の例は以下の通りです。

内容
Environment(環境) 気候変動、温室効果ガス排出量、水資源、廃棄物汚染、森林伐採など
Social(社会) 労働環境、人権、紛争、健康、安全、ダイバーシティなど
Governance(企業統治) 役員報酬、贈収賄・汚職、取締役会の構成など

年金基金など大きな資金を超長期で運用する機関投資家を中心に企業経営のサステナビリティ(持続可能性)を評価する概念が普及しています。そのため気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや企業の新たな収益創造の機会を評価することも増えました。投資価値を計るための項目として国際連合の国際目標となるSDGs(Sustainable Development Goals)とともに注目されています。

SDGsとの関係

「SDGs(Sustainable Development Goals)」とは、2015年9月の国連サミットにおいて全会一致で採択された国際目標のことです。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた17の目標と169のターゲットから構成されています。「誰一人取り残さない(leave no one behind)」を基本コンセプトに各国ともに2030年に向けて取り組んでいる目標です。

あらゆる形態の貧困に終止符を打つため「経済成長」「社会的包摂」「環境保護」という3要素を調和させて持続可能、包摂的かつ公平な経済成長を推進させることが狙い。またSDGsは、これらの課題解決を担う主体として民間企業を位置付けている点が大きな特徴です。企業が17の目標から自社に適するものを選び事業として取り組むことで企業と社会との「共通価値の創造(CSV)」が実現されます。

それは、企業価値の持続的向上につながり投資家にとっては投資パフォーマンス向上や安定につながることが期待できるのです。したがって企業がSDGsに取り組むこととESG投資とは、密接な関係にあるといえます。

ESGの投資手法とは?

ESG投資の手法は、主に7つありますが上場企業を対象にすると大きく以下の3つに分類することができます。

ポジティブ・スクリーニング

ポジティブ・スクリーニングとは、ESGの視点から企業を評価する手法。例えばESGレーティング(格付け)が高い企業の中から投資先を選定するといった具合です。ちなみに投資先を選定する際に財務情報だけではなく非財務情報(ESG要素)をも考慮することをESGインテグレーションと呼びます。

規範に基づくスクリーニング(SRI投資)

ESGの基準を満たしていない企業を投資先から除外することです。具体的には、非道徳的企業(酒、たばこなど)や非人道兵器(対人地雷、クラスター爆弾)に関わる企業を投資先から除くことを意味します。またESGの視点から長期的にリスクとなる企業を売却することを特に「ダイベストメント」と呼びます。

例えば脱炭素社会という視点から将来的にリスクになると推測される企業の資産は、油田や石炭火力発電所などがあるでしょう。財務諸表上は資産であっても「いずれ行き場を失う資産」という意味でこのような資産を「座礁資産」と呼びます。そのため以下のようなものは座礁資産を保有するリスクが将来的に顕在化する見通しから売却圧力がかかる傾向です。

・ 石炭や石油などの化石燃料に関わる株式
・ 石炭から売上を得る電力会社など

ただし長期的には、次に紹介するエンゲージメントによる働きかけが不可欠といえます。

エンゲージメント・議決権行使型

エンゲージメントとは、株主の立場から経営に関与することを指します。エンゲージメントを通じてESGに関する課題の改善を図るものです。ESG投資は、上場株式に限った投資方法ではありません。例えば債券の分野では、環境改善事業の資金調達のために発行される債券となる「グリーンボンド」や「社会的インパクト投資」などがあります。

ESG投資が企業に与える影響

ESG投資の拡大は、企業にどのような影響を与えるのでしょうか。将来的にESGへの取り組みに積極的でない企業は、機関投資家から相手にされなくなる可能性があります。日本でも世界最大の機関投資家と呼ばれる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年9月にPRIに署名し2017年10月には投資原則を改めました。

さらにWebサイトの「ESG投資」のページでは、株式や債券などすべての資産でESGの要素を考慮して投資を進めていることを紹介しています。

ESG投資の留意点とは?

ESG投資を行うにあたり長期運用で安定した収益を得るためには、それぞれの投資先の企業価値が高まり続け資本市場全体が持続的かつ安定的に成長することが重要です。資本市場は、環境問題や社会問題の影響から逃れることはできません。持続的に投資によるリターンを追求するには、投資先の企業が資本市場に与えるマイナスの影響を低減することが不可欠です。

またESG投資が他の投資と比べてより大きなリターンを得ることができるか否かについては、長期的な分析を行う必要があります。しかしそれらのデータがまだ取れていないことから断定するには時期尚早です。とはいえESG投資の対象となる企業は、環境問題や社会問題などの改善、解決に取り組んでいるため、ESG投資を行うことで投資先企業を通じて間接的に社会貢献をすることは可能です。

ESG投資のこれから

ESGは、新たなビジネス創造や現在において市場の評価に反映されていない収益の機会にもつながるでしょう。例えばESGローンのように銀行が資金融資の際、「ESG関連指標に応じて金利が安くなる」といったサービスも出てきています。ESG投資が注目されている理由には、気候変動問題に対する関心が高まっていることも関係しています。

2021年4月に米国のバイデン大統領が主催する「気候変動サミット」がオンラインで開催された際に米国は、自国の温室効果ガスの排出量を2030年までに2005年と比較して50~52%削減する目標を提言。一方日本は、2013年と比較して46%減少する目標を表明しています。人々の安全の保障だけでなく平和への取り組みやジェンダー政策への取り組みも課題の一つです。

看護師であれば「すべての人に健康と福祉を」という課題は共感できる方が多いのではないでしょうか。今後生きていくうえでの環境問題や働きがいに向けて努力する企業に対する投資は、看護師を含めすべての投資家における今後の自分への取り組みといえるかもしれません。