吉田謙太郎
宅建士・不動産投資家・ライター|筑波大学卒業後、大手不動産会社にて投資用不動産の売買および賃貸営業・投資家へのコンサルティング・自社メディアでの記事執筆などを行う。自身でも社会人1年目(22歳)から不動産投資をしており、横浜市・大阪市・神戸市に区分マンションを4戸運用中(2021年11月現在)。保有資格は宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者。(I列)

不動産投資は、投資規模が数千万円以上になるため、物件購入の段階で金融機関からの融資を受けることがほとんどです。融資を受ける際に、物件価格の一部を自己資金として入れることを金融機関から求められることもあります。例えば「自己資金が100万円以下」といった投資家が不動産投資を始める場合は、どのような物件を購入できるのでしょうか。

本記事では、自己資金100万円以下で始められる不動産投資について、求められる自己資金の決まり方という背景を踏まえてシミュレーションします。

求められる自己資金はどのようにして決まるか?

求められる自己資金は、金融機関の融資方針や各投資家の年収・金融資産・職業といった個人属性、投資物件の担保評価などを総合的に勘案して決められる傾向にあります。一般的な自己資金の目安としては、物件価格の15%程度でしょう。自己資金が一切不要な融資(オーバーローン)もごくまれにあるかもしれません。

しかし2019年3月に金融庁から公表された「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」によると、自己資金を一切求めていない金融機関の割合は、銀行で5%、信用金庫・信用組合は13%にとどまっています。自己資金として求められるのは以下の通りです。

・ 頭金
・ 諸費用

頭金

頭金とは、不動産を融資で購入する際に物件価格の一部を前払いする形で支払う金銭のことです。頭金として求められる目安は、物件価格の10%程度が一般的な水準です。個人属性等の要因によって物件価格の満額融資(フルローン)を受けることができる場合、頭金は不要になります。

諸費用

諸費用とは、以下のような費用の合計のことです。

・ 売買仲介業者への仲介手数料
・ 融資にかかる諸費用(融資事務手数料および融資保証料)
・ 司法書士への報酬・各種税金(印紙税・登録免許税・不動産取得税)
・ 各種保険料(火災保険、地震保険等)

必要な諸費用の割合は、「売買仲介業者を通すか通さないか」によっても異なります。例えば「新築物件を購入する」「物件を所有する不動産業者から購入する」といった場合など売主から直接物件を購入する場合は仲介手数料がかかりません。その場合は、仲介手数料分の諸費用(物件価格の約3%)が安くなります。

諸費用としてかかる金額の目安は、仲介手数料が必要な場合は物件価格の5%程度、不要な場合は物件価格の2%程度が一般的な水準といえるでしょう。

自己資金100万円以下で買える物件シミュレーション

一定程度の自己資金が求められることを前提として、100万円以下の自己資金で始められる不動産投資についてシミュレーションしていきます。「年収が高い」「担保にできる金融資産が多い」といった場合は、個人の属性によって融資金額の上限および必要な自己資金の金額が変動するため、本シミュレーションは一般的なモデルケースとして参照ください。

・ 自己資金100万円、頭金割合0%(フルローン)、諸費用2%の場合
・ 自己資金100万円、頭金割合10%、諸費用5%の場合
・ 自己資金50万円、頭金割合0%(フルローン)、諸費用2%の場合

自己資金100万円、頭金割合0%(フルローン)、諸費用2%の場合

購入できる物件価格は、5,000万円前後(100万円÷2%)が上限の目安になるでしょう。5,000万円以下の物件で不動産投資を行う場合、以下のようなポートフォリオになりそうです。

・ 都心の中古ワンルームマンションや地方の築古アパートなどを2~3件購入する
・ 数百万円ないし1,000万円前後の物件(郊外または地方の狭小中古ワンルームマンション、地方の築古戸建等)を複数購入する

自己資金100万円、頭金割合10%、諸費用5%の場合

購入できる物件価格は、670万円前後(100万円÷(10%+5%))が上限の目安になるでしょう。670万円前後の物件で不動産投資を行う場合のポートフォリオ例は以下の通りです。

・ 郊外または地方の狭小中古ワンルームマンション
・ 地方の築古戸建等を1件購入する

自己資金50万円、頭金割合0%(フルローン)、諸費用2%の場合

購入できる物件価格は、2,500万円前後(50万円÷2%)が上限の目安になるでしょう。2,500万円以下の物件で不動産投資を行う場合は、以下のようなポートフォリオが想定できます。

・ 都心の中古ワンルームマンション、地方の築古アパート等を1~2件購入するか
・ 数百万円の物件(郊外または地方の狭小中古ワンルームマンション、地方の築古戸建等)を複数購入する

ただし自己資金が100万円以下であっても個人属性や金融機関の融資方針、物件紹介を受ける不動産業者などによっては本シミュレーションよりも高額な物件を購入できる可能性はおおいにあります。

自己資金の多寡によるメリット・デメリット

自己資金の多寡についての考え方は「多く入れるほど良い」「少ないと悪い」という画一的なものではありません。多い場合にも少ない場合にもそれぞれにメリットとデメリットがあります。自分の投資方針や目指すゴールから逆算して「どの程度の自己資金を投下するか」について検討するのが得策です。

自己資金を多く入れることのメリット

自己資金を多く入れることのメリットは、以下の3点です。

・ 完済までの期間を短くできる
・ キャッシュフローを確保しやすい
・ 購入できる物件の規模が大きくなる

自己資金を多くすれば融資金額を少なくすることができるため、短期間で完済したりキャッシュフローにゆとりを持たせたりすることができます。そのため資金計画の選択肢が増えるでしょう。自己資金を多くすれば融資金額の上限よりも高額な物件を購入できる可能性もあります。

自己資金を多く入れることのデメリット

自己資金を多く入れることのデメリットは、以下の2点です。

・ 突発的な出費に対応できなくなる可能性がある
・ 投資効率が落ちる

自己資金を多くすると手元キャッシュをたくさん投下することになるため、突発的な出費に対応できなくなる可能性があります。不動産投資には経費がつきもので、設備の修繕費や入居者の入退去にかかる費用など突発的な出費に備えて手元のキャッシュは常に一定金額以上は確保しておいたほうが得策です。

投資効率とは「いくらのお金でいくらの利益を生んだか」という考え方で、少ないお金で大きな利益を生むことでハイパフォーマンスを出すことができます。自己資金を多くすると利益に対するもとのお金の割合が高くなるため、投資効率が落ちることになりかねません。

自己資金を抑えることのメリット

自己資金を抑えることのメリットは、以下の2点です。

・ 手元資金を確保しておける
・ 投資効率が上がる

自己資金を抑えることで手元のキャッシュを確保することができます。そのため物件運営中の突発的な出費に備えることができるだけでなく、余剰のキャッシュを他の投資に回すことで資産形成のスピードを加速させることも可能です。自己資金を抑えることで少ないお金で大きな利益を生んでいる状態を作りやすくなるため、投資効率を上げることが期待できるでしょう。

自己資金を抑えることのデメリット

自己資金を抑えることのデメリットは、以下の2点です。

・ 完済までの期間が長くなる可能性がある
・ キャッシュフローを確保しにくい

自己資金を抑えると融資金額が大きくなりやすくなります。そのため長期間で返済計画を組まざるを得なくなったりキャッシュフローにゆとりがなくなったりする可能性も否めません。

不動産投資に必ずしも多額の自己資金が必要ではない

不動産投資においては、融資という手段を活用することで100万円以下の自己資金でも物件を購入することは十分に可能です。年収や金融資産といった個人属性によって融資金額の上限および必要な自己資金の金額を有利な条件にすることもできるため、自己資金の多寡を問わず不動産投資を検討する価値はおおいにあるといえるでしょう。