武井利明
住宅メーカーに約20年営業職で勤務。現在は住宅専門ライターとして住まいの選び方、土地の選び方、ローンを含めた資金計画、プラン、メーカー比較、リフォームなど、幅広いテーマで多数のメディアに執筆。人気動画サイトの住宅系動画脚本なども手がける。営業マン時代に培った知識と経験を生かし、これから家を建てる方の悩みや疑問、不安を解決する記事を得意としている。

これまで政府が行ってきた投資促進のための税制優遇策となる「NISA」が見直され2024年から新NISAとしてリニューアルされます。本記事では、家庭の安定的な資産形成と老後の年金を補う役割の一つとして注目されるNISAが今後どのように変わるのか現行制度との違いを中心に解説します。

NISAとは

NISAとは、2014年からスタートした少額からの投資に対する非課税制度です。現在だけでなく老後の備えも含めて国民に積極的な資産形成の投資を促進するために始まりました。2021年3月時点の一般NISAは、年間120万円までの投資に対して配当金や分配金、譲渡益などが最長5年間非課税となるのが特徴です。

一般NISAのほかも、より安定性のある商品に絞り年間の上限額を40万円としつつ20年の長期非課税にした「つみたてNISA」、未成年者を対象に年間80万円の非課税枠を設け将来の資金準備を目的とした「ジュニアNISA」があります。

新NISAとは

新NISAは、一般NISAのリニューアル版という位置づけで2024年からスタートします。新NISAの積み立ては、2階建て構造になり1階部分はつみたてNISAと同様の積み立てや分散投資に適した一定の公募株式投資信託などに投資対象商品が絞られ年間投資額の上限が20万円です。2階部分の年間の投資上限額は、102万円で投資対象商品は上場株式・公募株式投資信託などとなっています。

ただしレバレッジを効かせている投資信託や上場株式のうち整理銘柄・監理銘柄は除外対象です。この1階と2階部分を合わせた年間122万円の投資運用益が5年間非課税となります。

1階部分からスタート

新NISAでは、原則として1階部分に投資しないと2階部分の幅広い投資商品を購入できない仕組みです。ただし1階部分の20万円分をすべて投資する必要はなく少額でも1階の枠で投資すれば2階部分を利用することができます。またこれまで一般NISAを利用していた人や株式投資の経験がある人は、届け出をすれば2階部分から投資することも可能です。

ただしその場合、年間の投資上限額は2階部分の102万円のみとなり投資対象も上場株式だけとなってしまいます。そのため投資信託やETF、REITなど幅広く商品を購入するには、先に1階部分の投資をすることが必要です。

NISAのロールオーバー制度

ロールオーバーとは、それまで一般NISAで運用した資産を翌年の非課税投資枠に移す制度です。2019年以降に従来の一般NISAで運用してきた資産も5年間の運用後は新NISAへロールオーバー可能で合計10年間非課税で運用できます。また現行の一般NISAで新NISAの年間上限122万円以上の運用をしていたとしてもすべてロールオーバーが可能です。

ただし一般NISAで購入した投資商品の中に対象外となるレバレッジを効かせた投資信託や上場株式の整理銘柄、監理銘柄などがある場合、その部分はロールオーバーできません。

ロールオーバーの注意点

ロールオーバーする金額が新NISAの年間上限122万円以内の場合、まず2階部分の102万円から埋められ余った額が1階部分の20万円へ割り振られます。もし1階部分の20万円に満たなければ追加で投資できますが購入できるのは新NISA1階部分の対象商品に限られてしまうため注意しましょう。気をつけたいのが2階部分の102万円に満たない金額をロールオーバーする場合です。

例えば一般NISAから70万円をロールオーバーすると2階部分には102万円から70万円を引いた32万円の枠が残ります。その状態で追加投資しようとすると先に1階部分に投資したうえで2階部分の32万円枠が利用可能です。この場合でも投資経験者として届け出をすれば2階部分から使えますが前述したように個別の上場株式だけが投資対象となってしまいます。

2階部分で投資信託やETFリートなど幅広い商品から選ぶならまず1階部分に投資することが必要です。

つみたてNISAへのロールオーバーも可能

新NISAの1階部分の20万円は、5年経過後につみたてNISAへロールオーバーすることが可能です。しかもロールオーバーの際は、時価評価額にかかわらず20万円で移管されつみたてNISAの年間投資上限額の40万円まで残り20万円分を追加投資できます。ロールオーバーにより新NISAの5年間とつみたてNISAの20年間を合わせて合計25年間の非課税枠を使った投資が可能です。

つみたてNISAは新規に投資できる期間が5年間延長され2042年までとなっています。

おすすめの運用方法

現行の一般NISAは、2023年まで口座開設ができるため、それまでに始めておけば5年間の非課税期間を利用することができます。さらにその5年の運用後に新NISAへロールオーバーすれば合わせて10年間の非課税運用が可能です。あくまで新NISAの施行前のため、正式なルールが決定してからの判断となりますができるだけ長期に非課税枠を活用したい場合は、選択肢の一つではないでしょうか。

また「新NISA」「つみたてNISA」のどちらを選べばいいか分からない人もいるかもしれません。選定する一つの目安は以下の通りです。

・新NISAに向いている人
「より多く投資して収益を増やしたい」「短期的に積極投資をしたい」という人には、新NISAのほうが投資商品の選択肢が広く年間上限額も多いためおすすめです。

・つみたてNISAに向いている人
「少しずつ将来の備えをしておきたいけど60歳までは引き出せないiDeCoでは不自由」と感じる人には、つみたてNISAがおすすめです。

ジュニアNISAについて

子どものための長期的な資産形成を目的としたジュニアNISAは、新規口座開設が2023年で終了です。制度としては、年間80万円の投資が非課税で最長5年間の非課税期間が設けられています。従来は5年経過後、子どもが18歳になるまで途中解約ができませんでした。しかし2024年以降は保有する上場株式などが払い出しできます。

また2023年末までに投資した分を子どもが20歳になるまで非課税口座で保有し続けることも可能です。払い出し制限が解除されることにより従前のジュニアNISAよりも使い勝手がよくなる点はメリットといえます。子どもの教育資金を準備しながら節税もできる制度のため、終了まで期間は少ないですが利用を検討してみるのも良いのではないでしょうか。

iDeCoとの違い

NISAとよく比較されるiDeCoは「老後の年金を補う資金準備」という意味合いが強い税制優遇制度です。公的年金などの加入状況によって掛け金の上限額が決まり原則60歳までは資金を引き出せません。iDeCoの年間の掛け金上限は、自営業者が81万6,000円、会社員や主婦は最大27万6,000円です。上限金額が120万円のNISAと大きな違いがあります。

この点から「老後に備えて少額でも長期的に積み立てる」という目的がうかがえるでしょう。
短期的な資金を形成するNISAと年金的に将来に備えるiDeCoと区別できそうです。

一般NISA・新NISA・つみたてNISAの比較

一般NISA 新NISA つみたてNISA iDeCo(参考)
優遇内容 ・運用益が非課税 ・掛け金の所得税・住民税が控除
・運用益が非課税
・受取金が控除対象
運用期間 5年間 5年間 20年間 60歳まで
年間掛け金上限 120万円 1階部分:20万円
2階部分:102万円
40万円 ・自営業者:81万6,000円
・会社員や公務員:14万4,000~27万6,000円
・専業主婦など:27万6,000円
非課税保有上限額 600万円 610万円 800万円 なし
対象商品 ・投資信託
・国内外の株式
・ETF(上場投資信託)
・ETN(上場投資証券)
・REITなど
・1階部分はつみたてNISAと同様
・2階部分は、現行の一般NISAから、高レバレッジ投資信託などを除外したもの
・積立・分散投資に適した一定の公募株式投資信託など ・投資信託
・定期預金
・保険商品
換金時期 いつでも可能 原則60歳以降

NISAはじめての資産運用におすすめ

老後も含めた将来の資産形成をさらに促進したい政府の方針からNISAは2024年にリニューアルされ5年間継続されることになりました。税制優遇の恩恵を受けられるだけでなく初心者が投資に取り組むきっかけとしやすい制度といえるでしょう。投資未経験の人は、ぜひNISA口座の開設を検討することをおすすめします。