コロナ禍以前のホテルは、主に「泊まるための場所」でした。しかし近年は「仕事をする場所」の機能も備えたり「住む機能(サブスクサービス)」を打ち出したりするホテルなどさまざまです。その中には、帝国ホテルや東京ステーションホテルなど高級ホテルカテゴリも含まれます。本記事では、富裕層に住む高級ホテルの支持が集められるかについて考察します。

以前から高級ホテルに住む富裕層はたくさんいた

高級ホテルのサブスクサービスがリリースされる以前から「住む場所」として高級ホテルを利用してきた富裕層も少なくありません。一例では、元宝塚歌劇団の大和悠河さんの帝国ホテル暮らしは有名です。大和さんがこのホテルに長期滞在する理由は「帝国ホテルが(※大和さんが現役時代の職場だった)東京宝塚劇場の目の前にあるから」とメディア取材に答えています。

そのほか堀江貴文さんも自宅を持たずホテル暮らしをしている有名人の代表です。またひと昔前の世代だと映画評論家の淀川長治さんが晩年に全日空ホテルのスイートルーム暮らしをしていたこともよく知られています。海外では、ココ・シャネルがホテル リッツを自室のように使っていたエピソードも有名です。このように富裕層の一部は、ホテルを「住む場所」としても利用してきました。

さらにサブスクサービスが始まったことで今後「住む高級ホテル」というライフスタイルは富裕層の間で広まっていくのでしょうか。

主なホテルのサブスクサービス内容:帝国ホテル、JR東日本系、三井不動産系など

「住む高級ホテル」が浸透するか否かを考えるうえで押さえておきたいのは、住むホテルのサービスが次々に立ち上げられている背景です。これは、新型コロナ感染の影響でホテルの稼働率が大きく下がっているからです。どれくらい稼働率が下がっているかについては、そのホテルのカテゴリや立地などによって大きく異なります。

例えばオリエンタルホテルやホテル日航などを要する「ジャパン・ホテル・リート投資法人」の2021年1~3月の平均稼働率は、20~30%台です。新型コロナ感染が長引くほどホテルは客室の低稼働率をカバーするため、既存の宿泊サービス以外を模索しなければなりません。その一端が「ホテルに住むスタイルの提案」というわけです。なお主な「住むホテル」のサービスは、以下のようなものがあります。

ホテル・サービス名 料金の一例
消費税・サービス料込
備考
帝国ホテル
「サービスアパートメント」
(ハイフロア)
30泊42万円
消費税・サービス料込
標準カテゴリの料金
サービス例
・ジム、プールなど無料
・駐車場無料
・荷物預かり
JR東日本系
「PASSPORT30 ホテル定期券」
30泊20万円
消費税・サービス料込
32ホテルから選択可
選択可能ホテル例
・東京ステーションホテル
・ホテルメトロポリタン
・JR東日本ホテルメッツ
三井不動産系
「サブ住む」
(HOTELここだけパス)
30泊15万円+利用料
利用料は500円または2,000円
選択可能ホテル例
・ザ セレスティンホテルズ
・三井ガーデンホテルズ
・sequence

※2021年5月1日現在の内容(すでに定員締め切りに達したサービスもあります)

高級ホテルに住むメリットとデメリット

「今後高級ホテルに住むサービスが広がっていくのか」については、新型コロナ感染の先行きかつサービスを利用した富裕層の満足度が得られるかが大きいでしょう。実際にホテル暮らしをしている人の意見などを参考に高級ホテルに住むメリット・デメリットを整理してみましょう。

高級ホテルに住むメリット:1.時間の効率化 2.仕事に集中できる 3.手間がいらない

メリット1.時間を効率化できる
2018年9月9日付のNewsPicksのインタビュー記事でホテル暮らしについて堀江貴文さんは「スマホと服があれば、ほぼほぼ生活できます」と言及。堀江さんのコメント通りホテルには、日常的な生活に必要なランドリーサービスやルームサービス、ホテル内飲食、ジムなどのサービスがそろっています。特筆すべきは、これらが単にそろっているのではなく時間を効率化しながら利用できる点です。

例えばランドリーサービスは、所定の位置に置いておけばやってくれますしジムは館内を移動するだけで利用できます。時間を効率化して最大のパフォーマンスを目指す富裕層にとってホテル暮らしは理想的なライフスタイルなのです。

メリット2.仕事に集中できる理想的な環境
近年は、ホテルをテレワーク・スペースとして貸し出すサービスも目立ちます。とはいえホテルのつくりによっては上下階や隣室の部屋の音、屋外の道路の音などが気になって仕事に集中できないケースも少なくありません。高級ホテルであれば構造がしっかりしていることが多いため、仕事に集中しやすい静寂な環境が期待できるでしょう。

大和悠河さんは「仕事に集中できる環境が得られたり、気分転換ができることも、私が帝国ホテルを利用する大きな理由のひとつですね」と語っています。
出典:SmartFLASH

メリット3.契約や引っ越し手続きの手間がない
一般の賃貸物件の場合、入居時・更新時・退去時の契約手続きの手間や引っ越しの準備、申し込みの負担などを避けることはできません。こういった煩雑な手続きから解放されることをホテル暮らしのメリットに挙げる人もいます。

高級ホテルに住むデメリット:1.費用がかかる 2.荷物が限定される 3.子どもがいると難しい

デメリット1.費用がかかる
高級ホテルに住めば当然高額な費用がかかります。一例では、帝国ホテルのサブスクサービスの場合、滞在費だけで部屋のランクによって1ヵ月42万~84万円程度です。そのほかランドリーサービスやルームサービス、ホテル内飲食などを利用すればかなりの費用負担になるでしょう。ただ高級ホテルの長期滞在費用は、一般人の場合は、負担に感じる人が多いでしょうが富裕層にとってはそれほど重い負担ではないようです。

例えば堀江貴文さんは、2018年9月9日付のNewsPicksのインタビュー記事で「ホテルに住むと、月々数百万円はかかりますよね」という問いに対して「結局、僕がマンションに住むと、それくらいの家賃はかかってきます」と回答しています。
出典:NewsPicks

デメリット2. 持ち込む荷物が限定される
高級ホテルといえども部屋の広さは決まっているため、持ち込むモノの量が限られます。モノを持たない主義のミニマムな富裕層とホテル暮らしは相性がよいですがモノ持ちの富裕層にとっては荷物を置くための別の住居やトランクルームなどが必要でしょう。

デメリット3.子どもがいると難しい
高級ホテルに住むライフスタイルは、基本的に単身者向け、対象を広げても2人暮らしが限界でしょう。なぜなら居住スペースが限られていたり子ども向けのサービス(子どもの遊び場や子ども向けの飲食店)が館内にほぼなかったりするからです。家族がいる人がホテル暮らしをしたいなら単身赴任のような形で家族を自宅に置いて自身だけホテルに行くスタイルになるでしょう。

実際に落合陽一さんが子どものころ父親であるジャーナリストの落合信彦さんは、ホテル暮らしをしていたそうです。

高級ホテルに住めるのは「独身でミニマムな人」などごく一部

上記のデメリットをもとに考えると高級ホテルに住むことができるのはごく一部の富裕層だけです。デメリット1の「費用がかかる」は、富裕層にとっては障壁になりませんが残りの「持ち込む荷物が限定される」「子どもがいると難しい」は大きな問題となります。これらを総合的に勘案すると、住む高級ホテルに向いているのは富裕層の中でも「独身でミニマムなライフスタイルの人」に限定されるでしょう。

ただ今回の高級ホテルに住むサービス立ち上げで大きいのは、コロナ禍をきっかけにホテルが時代のニーズに即したサービスを模索しはじめたことではないでしょうか。違う視点を手に入れた高級ホテルからこれまでなかったサービスが次々にリリースされることを期待しましょう。