藤山優里
防衛大学校卒、元海上自衛官。現在まで4年間、FPならびに証券外務員として約300件の保険、資産運用、転職支援の面からの総合的なライフプラン作成を行うほか、20代、フリーランスや独立を目指す方が知っておいてほしい「1,000万円以上の損を防ぐ」お金の知識を発信している。

初任給が高く、安定している職業としても人気の「看護師」ですが、給与事情を把握しておかないと後悔するかもしれません。今回は、看護師の初任給と給与事情について見ていきます。

看護師の初任給

「看護師は初任給が高い」といわれています。「2020年病院看護実態調査」によると、新卒の看護師の初任給は、専門学校卒が平均26万2,277円、大卒が平均27万292円です。通常の大卒の初任給は平均22万6,000円なので、看護師の初任給はかなり高いといえます。

ここから社会保険料や所得税などが差し引かれるため、看護師の初任給は手取りで20~22万円程度になります。

看護師の給料は夜勤などの手当が大きい

初任給は高いものの、看護師の給料は高いまま推移するわけではありません。これは、看護師の給与体系の特殊性によるものです。

病院で勤務する看護師には基本的に夜勤があり、夜勤手当などが支給されますが、看護師の給料はこの「夜勤手当」に大きく左右されます。

初任給の内訳を紐解いてみましょう。専門学校卒の初任給の平均26万2,277円のうち基本給は20万2,289円、大卒の初任給の平均27万292円のうち基本給は20万8,918円です。

基本給だけで見ると一般企業の大卒の初任給よりも低く、基本給と初任給の差は「夜勤手当」によるところが大きいことがわかります。夜勤があってはじめて、看護師の給与は高いといえるのです。

また、最初から夜勤を任されることは少なく、仕事に慣れてきたら徐々に夜勤を任されるケースがほとんどでしょう。夜勤は人数が少ないため教育担当者が限られており、その意味でも新人の看護師にいきなり夜勤を任せるケースはまれです。

そのため、看護師として働き始めて初任給をたくさんもらえると思ったのに、あまりもらえなくて気を落とす看護師は少なくないでしょう。看護師を目指す方は、看護師の給料は夜勤に左右されることを覚えておきましょう。

実は看護師の昇給はあまり見込めない?

看護師は、昇給があまり見込めない職業でもあります。日本看護協会の「2020年病院看護実態調査」によると、勤続10年、31~32歳、非管理職の中堅看護師の給料は平均31万8,916円(うち基本給24万4,587円)で、10年で基本給が約4万円、手当も含めた全体の金額は約5万円上がっています。

もちろん給料は上がっていきますが、看護師は女性が多い職業であるため、勤続10年を待たずして結婚や出産などで離職・転職する人も少なくありません。

国税庁の「平成30年度民間給与実態統計調査」によると、一般企業の大卒(30~34歳)の平均年収は約410万円であり、賞与(給与の4ヵ月分)を考慮すると毎月の給与は約25万円です。職場環境の男女比の差があるとはいえ、一概に「看護師は給料が高い」とはいえないことがわかります。

女性看護師のみのデータですが、厚生労働省の「令和2年賃金構造基本統計調査」によると年収が最も高い年代は55~59歳の563万円であり、夜勤手当などを含めても一般企業で働く同世代のサラリーマンとほぼ変わらない水準です。

看護師も昇進によって基本給が上がりますが、それに伴って夜勤の回数が減るため夜勤手当が少なくなります。したがって、看護師は実質的な昇給があまり望めない職業といえます。

初任給だけで職場を選んではいけない

看護師は初任給が高い職業ですが、最終的には一般企業の同世代の給与とほとんど変わらない水準になります。また看護師は技術職であるため、出産や育児でキャリアに空白があると、なかなか昇給しません。

そのため、人間関係や職場環境を理由とする離職は、極力避けたほうがよいでしょう。看護師は初任給が高い職業であるため、それを理由に職業を決める人も少なくないでしょう。しかし、初任給だけで職場を選ぶことはおすすめしません。

特に看護師は、チームワークや人間関係が重要な仕事です。したがって、職場環境や人間関係を踏まえて、出産や育児を経て職場に復帰しやすい環境であることも、職場選びの際に押さえておきたいポイントです。

看護師に立ててほしいライフプランとは?

看護師の給与体系の特徴として、夜勤手当があるため若手の給与が高いことや、昇給率が低いことが挙げられます。そのため、看護師に立てていただきたいのは「さらに先を見越したライフプラン」です。今後給与が上がらない可能性を考えて、早めにまとまった資金を確保しておくことや、資産形成を早めに始めることが重要です。

現在の職場が復職しにくい場合は復職しやすい職場に転職したり、看護師資格を生かして他の職業に転職したりするのも手です。いずれにしても、早めに資金計画を含めたライフプランを立てておき、キャリアアップを図っていくことが大切です。看護師は比較的安定している職業なので、不動産投資をはじめとした資産運用を始めやすいこともメリットです。

早めの対策が看護師には重要

看護師の転職理由として、「人間関係」「夜勤をしたくない」「この先生と働きたい」などが挙げられます。また、最近はフリーランスとして働く看護師も増えました。そのため、看護師のライフプランやキャリアプランを立てる際は、看護師としてどのように働きたいか、それを実現するためにはどこで働くのがベストか、その職場では夜勤があるか、といったことも考慮しなければなりません。

いずれにしても、看護師の給与の仕組みを理解した上で、ライフプランやキャリアプランにおいて早めに対策を講じておくことが大切です。