吉田謙太郎
宅建士・不動産投資家・ライター|筑波大学卒業後、大手不動産会社にて投資用不動産の売買および賃貸営業・投資家へのコンサルティング・自社メディアでの記事執筆などを行う。自身でも社会人1年目(22歳)から不動産投資をしており、横浜市・大阪市・神戸市に区分マンションを4戸運用中(2021年11月現在)。保有資格は宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者。(I列)

まとまった資金がある富裕層や億単位に近い金額の融資を受けられる高所得者は、資産性の高いタワーマンション(以下、タワマン)への投資を検討することも多いのではないでしょうか。タワマン投資は、投資単価が高くなりやすいため、事前にタワマン投資をする目的やメリット・デメリットをしっかりと考えることが重要です。

本記事では、投資目的の観点からタワマン投資に向いている人と向いていない人の特徴をそれぞれ3つずつ紹介しつつタワマン投資のメリットとデメリットについても解説します。

タワマン投資に向いている3つの投資目的

タワマン投資に向いている主な投資目的は、以下3つです。相続税制度の活用や資産性の高さを重視した投資は、タワマンと相性が良いといえるでしょう。

・ 相続税対策を狙う
・ 安定的な現物資産を保有する
・ まとまった資産を集約する

相続税対策を狙う

タワマン投資で相続税対策ができる理由は、タワマンが他の資産よりも相続税評価額(国税庁が定める評価基準)と時価(実際の売買価格)の開きが大きい傾向だからです。相続税は、相続税評価額をもとに算出されるため、同評価額を低く抑えられれば税額も低くなります。一般的にタワマンの評価額は、時価よりも低く算出されるため、相続税を低く抑えることが期待できるということです。

例えば1億円分の資産を現金のまま相続する場合は、額面の1億円に対して相続税がかかります。しかし1億円でタワマンを購入して相続すれば相続税評価額を数千万円にまで圧縮することが期待できるため、相続税を大幅に削減できる可能性があるのです。ただしタワマン投資で節税ができたとしても節税金額以上に資産価値が下落してしまうとトータルで損をする結果となってしまいかねません。

そのためタワマンの物件選びは、慎重に行うことが必要です。

安定的な現物資産を保有する

東京カンテイの「三大都市圏・主要都市別/中古マンション70㎡価格月別推移」によると2021年4月時点でタワマンを含む都心の中古マンションの価格は、安定的に右肩上がりで推移しています。特に都心6区(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、渋谷区)においては、2015年1月~2021年4月の期間で価格水準が146.9%も上昇しているのです。

都心のマンションは、安定的な需要と人口に支えられて今後も資産価値が維持されることも十分想定できるでしょう。またマンションは、土地と建物という現物資産のため資産価値がゼロになる可能性は非常に低いです。株式のように倒産で資産価値がゼロになる可能性を心配せずに長期保有を継続できることがタワマンを含む都心マンションの強みの一つといえます。

まとまった資産を集約する

「不動産や株式、現金などの資産を小規模な単位で多数保有している」「管理の手間を削減すべく資産の一部を大規模な資産に集約したい」といった場合、1件あたりの投資単価が高くなりやすいタワマンは有効な投資先の一つです。タワマンは、1部屋で5億円以上の値が付く物件もあり資産を集約する効果は大きいといえます。

タワマン投資に向いていない3つの投資目的

タワマン投資に向いていない主な投資目的は、以下3つです。分散投資やパフォーマンスの高さを重視した投資は、タワマンと相性がよくありません。

・ ポートフォリオの分散
・ 高利回りを狙う
・ 固定費を抑えた投資をする

ポートフォリオの分散

「卵は一つのカゴに盛るな」という投資格言もあるように投資における鉄則の一つにポートフォリオの分散が挙げられます。タワマン投資では、投資単価が数千万ないし数億円の規模になるため、10億円以上の単位の資金がある投資家以外は、ポートフォリオの分散は見込めない結果となりかねません。

ポートフォリオの分散を目的とするのであれば小規模な不動産を複数購入したり不動産だけではなく株式や債券にも資金を配分したりするのが有効な選択肢といえます。

高利回りを狙う

タワマン投資における利回りは、価格が高い分5%以下になることが多いため、10%台以上の高利回りを狙った投資においては、タワマン投資は目的に沿わないでしょう。特に都心エリアでは、賃料の高さ以上に地価や建築コストが高い傾向です。また国内外からの購入ニーズがあるため、価格が高止まりしやすくなり利回りが低くなる傾向があります。

高利回りを目的とするのであれば築古マンションや地方の1棟アパート、新興国株式などへの投資が有効な選択肢の一つです。

固定費を抑えた投資をする

タワマンは、物件の規模や価格が大きいため、比例して以下3つのような賃貸経営上の主な固定費も高額になりやすい傾向です。

・ 管理費および修繕積立金
・ 税金(固定資産税、都市計画税)
・ ローン返済額

いずれの固定費も賃料収入で賄うことができれば問題はありません。しかし空室が発生して賃料収入が途絶えた場合、他の収入や貯蓄を切り崩して支払わなければならなくなります。固定費の抑制を目的とするのであれば以下のような投資を選択したほうが効果としては高いでしょう。

・ 現金で購入できる価格の不動産
・ 地方の1棟アパート
・ 地方の戸建て
・ 株式や債券などへの投資

タワマン投資のメリット2つ

投資対象としてのタワマンのメリットは、以下の2つです。タワマンには、実利面でのメリットもあるため、築年数が経過しても資産価値を維持しやすかったり借り手を見つけやすかったりする特徴があります。

・ 希少性の高さ
・ 生活利便性の高さ

希少性の高さ

タワマンにおける希少性の高さには、眺望の良さや駅直結の立地といった無形の価値が挙げられるでしょう。築年数の経過によって建物は経年劣化しても眺望の良さや駅直結の立地といった価値は劣化しにくい傾向です。また駅直結の物件は、そう多く建てられないため、希少性の高さから資産価値を維持しやすいといえます。

2016年10月にアットホームが実施した「【首都圏版】タワーマンションに住んでみてココがよかった!トップ5」によるとタワマンに住んでみてよかったと思うことトップ5(複数回答)は、以下の通りです。

1位:眺望(57.9%)
2位:立地(51.1%)
3位:アクセス(39.8%)
4位:資産価値(32.6%)
5位:耐震性(23.3%)

第1位は「眺望」(57.9%)、第2位は「立地」(51.1%)でした。同アンケートにおいては「夜景がきれいであきない」「毎朝、富士山が見える」「駅に近く、通勤のアクセスが良い」といった声が上がっています。そのためタワマンにおける眺望や立地の良さには普遍的な無形の価値と希少性があるといえそうです。

生活利便性の高さ

タワマンにおける生活利便性の高さには、「共用施設およびサービスが充実している複合型マンション」といった価値が挙げられるでしょう。タワマンには、以下のような物件も多くあります。

* ゲストルームやラウンジといった共用施設がマンション内に設置されている
* クリーニングやタクシーの手配をしてくれるコンシェルジュがいる
* 下階にスーパーやクリニックが併設されている

マンション内で生活を完結させられる生活利便性の高さは、複合施設としての規模を有するタワマン特有のメリットの一つといえるでしょう。

タワマン投資のデメリット3つ

投資対象としてのタワマンのデメリットは、以下の2つです。タワマンは、建物自体の運営や維持のためのコストがかさんだり今後の長期的な賃貸需要の変化に対応できない懸念があったりするという特徴があります。

・ 管理費および修繕積立金が高い
・ 賃貸需要が先細りするリスク
・ 国税庁がタワマン節税への監視強化に動いている

管理費および修繕積立金が高い

タワマンは、以下のような費用がかさむため、管理費および修繕積立金が割高になりやすい傾向があります。

・ 大規模修繕工事の際に足場を組む費用
・ コンシェルジュや24時間勤務の管理員等への人件費
・ 機械式駐車場、エレベーター、ゲストルーム等の維持費

「物件の規模が大きい」「日常的なメンテナンスが必要な箇所が多い」「多種多様なサービスを提供するための人的資源が必要」など維持費がかさみやすい点は、デメリットです。

賃貸需要が先細りするリスク

タワマン投資を検討する際は、今後の賃貸需要の変化に備えるため物件の間取りも注視するべきでしょう。2019年3月に東京都が発表した「東京都世帯数の予測」によると東京都における一般世帯数は、2035年にかけて緩やかな増加傾向の半面、1世帯あたり人員は緩やかな減少が見込まれています。特に東京23区では、葛飾区と江戸川区の2区を除く21区で2040年には1世帯あたり人員が2人未満になる予測です。

「一般世帯数が増え1世帯あたり人員が減る=単身者の割合が長期的に増加する」ということが考察できます。そのため賃貸住宅市場では、ファミリーやDINKs(子どものいない共働き夫婦)向け物件の賃貸需要が長期的に先細りすることが予測できるでしょう。タワマンの多くは、ファミリーやDINKs向けの間取りが多い傾向のため、タワマンの賃貸需要も先細りするリスクがある点はデメリットです。

国税庁がタワマン節税への監視強化に動いている

富裕層を中心に節税目的でタワマンを購入する動きが広がっていることを受け、国税庁は「富裕層にしか活用できない節税方法であり、税負担の公平を著しく害する恐れがある」としてタワマン節税への監視強化に動いています。

具体的には、以下のようなケースにおいては過度な節税行為であるとして、相続税が追徴課税されることがあり得ます。

・ 相続発生の数ヶ月前にタワマンを購入した
・ 認知症の疑いがあった被相続人の名義で購入した
・ 相続発生の数ヶ月後に売却した

実際にあった事例として、父親(認知症の疑いあり)が亡くなる一ヶ月前にその親族が父親名義で3億円のタワマンを購入し、相続税評価額を6,000万円として申告したうえで、相続開始から四ヶ月後に購入額とほぼ同額で売却するという方法で節税を図りました。

本事例のような節税方法は、「判断能力のない父親の名義を無断で使って契約したこと」「相続前後の短期間だけ所有したマンションを通達で評価するのは不公平である」という理由から認められず、親族は追徴課税の支払いを命じられました。

相続税対策のみを目的としたタワマン投資は、国税庁からの規制対象になる可能性があるため注意が必要です。

投資目的に適した物件に投資しよう

タワマンは、希少性や生活利便性の高さから高い資産価値を維持しやすいことが大きな特徴です。しかし保有コストが高くつくリスクや長期的に賃貸需要が先細りするリスクも併存しています。自分の投資目的から逆算してタワマン投資が適切な投資手法か否かを今一度再考し他の投資対象も検討してみるのも選択肢の一つです。